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賢者の孫  作者: 吉岡剛
44/311

実はまた色々創ってました

 身内だけの婚約披露パーティが終わった後、俺とシシリーは各々の部屋に戻った。


 本当だぞ!


 彼女の実家で、両親もいるのに……そんな事をする勇気は無い!


「おはようございます、シン君」


 翌日、朝食を取る為にダイニングに向かう途中でシシリーと会う。


 昨日とはまたちょっと違う、なんだか艶っぽい笑顔で挨拶された。


「おはようシシリー、今日はまた……何だかキレイだね」

「フフ……ありがとうございます」


 お、シシリーがあたふたしなくなった。


「シシリー……あんた……」


 マリアが何かに感付いたようだ。


「はあ……まさかシシリーの方が先に大人の階段を昇るとは……」

「ちょっ! 何言ってるのよマリア!」

「その様子じゃ、昨夜シンと何かあったんでしょ?」

「な、何かって……」


 あたふたしなくなったと思ったらやっぱりあたふたしてた。


 そんな様子をニヨニヨしながら見ていたらオーグから突っ込みが入った。


「シン……お前、気持ち悪いぞ……」

「そんな事よりお兄様! シシリーさんの様子が変です!」

「ああ、あれは……シン、お前何かしたか?」

「な、何って……?」

「ヘタレのくせに、こういうのは手が早いな」

「何を言ってるのかな……」

「やれやれ……」


 オーグは溜息を吐くと俺の耳に口を寄せこう呟いた。


「避妊はちゃんとしろよ?」

「バ! バカヤロウ! そこまでの事はしてねえよ!!」

「成る程、それまでの事はしたのか」

「はっ! 謀られた!」


 おのれ……さすが腹黒王子……ここまで巧みに証言を引き出すとは!


「いや……シン殿分り易過ぎですよ……」


 え? そうなの?


「あぅ……もう、シン君!」

「わ、ごめんシシリー」


 昨夜の事は二人の秘密にしときたかったのかな?


 あっという間にバレちゃったけどね!


「はわわ、大人の情事です!」


 だからメイちゃん!十歳の子が情事なんて言っちゃいけません!


「お前達、こんな所で何を騒いでいる?」

「早く行かないと朝ご飯が冷めてしまうよ?」


 廊下で騒いでると大人組が現れた。


 そうだ、ディスおじさんとセシルさんを王城に送って行かなきゃいけなかったんだ。


「おはようございます陛下、みんな」


 既にダイニングにはアイリーンさんがいた。


 ダイニングは昨日のパーティ会場からすっかり元の様子に戻っていた。


 やっぱりクロード家の使用人さんレベル高いな!


「あら? どうしたのシシリー真っ赤な顔して」

「い、いえ! 何でもないです!」

「ふーん、そう? それよりホラ、みんな早く食べちゃいなさい」


 そうしていつもの面々プラス保護者追加での朝食が始まった。


 そしてその席で、オーグから以前言われていた事に対しての話があった。


「そういえばシン、前に言っていた立太子の儀式の件なんだがな」

「ああ、そういえばそんな事言ってたな」

「その儀式が一週間後にあるのだ」

「へえ、そうなのか」

「でな、悪いんだがそれまでにお前達の婚約披露パーティをしてもらいたいのだ」

「え? なんで?」

「立太子の儀式が終わったらしばらく王都は祝祭が行われる事になっている。そうなると、お前達の婚約披露パーティを行うタイミングが遅くなるのだ」

「ああ、そういう事か」

「クロード夫妻、時間が無くて申し訳無いがそういう事なので準備のほど宜しくお願いしたい」

「かしこまりました殿下」

「そういう事ならクロード、暫くはその準備に掛かるが良い。部署には私の方から言っておこう」

「本当で御座いますか!? ありがとうございます!」

「御配慮痛み入ります。アナタ、パーティの準備は私でしておきますから、招待客などの選定、宜しくお願いしますよ」

「わ、分かっているよ、任せたまえ」


 アイリーンさんの眼力にセシルさんが気圧されてる……この人がお義母さんになるのか……。


「シン君……何か失礼な事考えてない?」

「いえ! なんでもありません!」


 怖い! アイリーンさん超怖い!


「シシリー、これから婚約披露パーティまで、合宿の訓練が終わったらドレスやアクセサリーの選定等やることが山積みですからね。頑張りなさい」

「はい、お母様」

「それと、セシリアやシルビアより先に婚約するのですから……覚悟はしておきなさいよ」

「あぅ……はい……」


 セシリア? シルビア?


「長女と次女だよ」


 不思議そうな顔をしていたのが分かったのだろう、セシルさんが教えてくれた。


「そういえば、シン君はシシリー以外のウチの子達に会った事は無かったっけ?」

「はい、話だけは聞いていましたけど……家には住んでないんですか?」

「三人共もう独立してるからね、家を出て寮に入っていたり、自分で家を借りたりしてしるんだ」


 三人? ……ああ! お義兄さん!


「お義兄さんの名前はなんて言うんですか?」

「ん? ああ、ロイスだよ。ロイス=フォン=クロード、一応今のところクロード家の跡取りになる予定なんだけど……」

「どうしたんですか?」

「いや……ウチの子供達なんだけどね、女の子はシシリーも含めて三人とも高等魔法学院に入っていてね、セシリアとシルビアも魔法師団に入っているんだけど……ロイスだけは経法学院出身の官僚でね、何と言うか……頭は良いんだが腕力で妹達に負けているというか……とにかく自信無さげでね」


 そ、そうなのか……クロード家の女子怖いな!


「シン君?」

「アナタ?」

「はい!」

「いや、何でもないよ! うん!」


 シシリーまで妙な迫力が出てきてる気がする!


「へ、陛下! そろそろ登城する御時間では!?」

「おお、そうだな、それではシン君宜しく頼むよ」

「う、うん。分かった」

「ああ、そういえば」

「何?」

「この前シン君に貰った通信用の魔道具、あれもう二三個用意出来ないかい?」

「いいよ。今持ってるから渡そうか?」

「おお、助かるよ! 帝国に国境を接するいくつかの国から緊急連絡用に用立て出来ないかと打診されていたんだよ。我が国でシン君の道具を独占していると思われてもいけないからね」


 俺は以前ディスおじさんに渡した事のある魔道具を三つ取りだし手渡した。


「ちょいとお待ち……シンそれは何だい?」

「え? いや、帝国で諜報活動するのが大変だって聞いたからさ、遠距離で通信出来る道具があれば便利だなあと思って……」

『遠距離通信!?』


 あ、皆には言ってなかったっけ。


 説明する為にその通信用魔道具を皆に見せた。


 形はまんま糸電話だ。


 コップの部分に『音声送受信』と付与したら、有線だけど通信が出来た。


 こんな簡単でいいのかと思ったが、糸電話も構造自体は単純だ。声のやり取りをするだけならこれで十分なんだろう。


「これを持って……誰かダイニングの外に行ってくれない?」

「はい! 私が行きたいです!」


 元気よく手を挙げたのはメイちゃんだ。


「あ! 出遅れた!」

 

 アリスは大人気ないな、お姉さんは年下に譲ってやんなさい。


「そうだね、魔道具を使う練習にもなるし、メイちゃんにお願いしようかな?」

「やったです!」

「ばあちゃん、メイちゃんに付いてあげてくれる?」

「ああ……構わないけど……」


 ばあちゃんは複雑な表情をしながらメイちゃんと一緒にダイニングを出て行った。


「アリス、こっち側お願いできるか?」

「やった! 任せてよ!」

「じゃあ、魔道具を起動するのと同じように魔力を流して」

「オッケー」

『わ! 声が聞こえたです!』

「え? メイ姫様?」

『あれ? アリスお姉ちゃんですか?」

「そうですよ、え? メイ姫様今どこにいらっしゃるんですか?」

『私の部屋です』


 随分遠いところまで行ったな!


「そんな所から!?」

「じゃあメイちゃん、こっちの魔力切るから今度はメイちゃんが起動してみな。ばあちゃん教えてあげてね」

『あ、ああ。分かったよ』

「じゃあアリス魔力切って」

「ほーい」


 そしてしばらくすると。


『あの、聞こえるですか?』

「ああ、大丈夫聞こえてるよメイちゃん」

『やったです! 初めて魔道具を使ったです」


 喜んでるメイちゃんにホッコリしてると、周りから色々と質問が飛んできた。


「ちょっとシン! これ何! メイ姫様の部屋って結構離れてるんだけど!?」

「これはまたとんでもないものを創りましたね、シン殿」

「これがあれば情報収集が容易になるねえ。こりゃ凄い」

「ええ~? もうウォルフォード君、本当に意味わかんないよぉ!」


 騎士学院との合同訓練の終わりに近い頃かな? オーグから旧帝国での諜報活動が大変だと聞いていたので何とか出来ないかと思い創ったのだ。


 そんな経緯を説明していると、ばあちゃんが血相を変えて飛び込んできた。


「シン! アンタはまたとんでもないもの創って!」

「ば、ばあちゃ……苦し……」

「お、お婆様! 落ち着いて下さい!」

「ふぅ~! ふぅ~! シン! これは一体なんだい!」

「見ての通りだよ……お互いの声を遠くに送る魔道具だよ」

「こんな……付与魔法師の夢がこんなにアッサリ……」


 あ、そうだったのね……。


「これ、この送受信機に『音声送受信』って付与付けて……この糸で繋いだら成功したんだけど……」

「これは……魔物化した大蜘蛛の糸だね?」

「あ、さすがばあちゃん、大当たりだよ」


 そう、送受信機を繋ぐ糸は魔物化した蜘蛛の糸を使っている。


 制服の付与をした時に予想したけど、予想通り魔物化した蜘蛛の糸は魔道具に使われていた。


 魔物化した蜘蛛と言っても、二メートルも三メートルもあるような怪物ではなく、精々二十センチ位の大きさで、殺さずに捕獲すると魔力の籠った糸を吐き出し続ける。


 その魔力糸で造った服は付与文字数が多く高級服となるのだが……。


「まさか、魔力糸をそのまま使うとは……魔力糸は服にするものっていう固定観念がこの発想を妨げていたのかねえ……」


 そう、基本的に魔力糸は生地にして服にするものと皆思い込んでる。


 魔力糸が欲しいと服屋に言った時、怪訝な顔をされたので皆そう思っていると知ったのだ。


「でもこれがあれば、態々シン君と殿下が毎日王城へ行かなくても済むんじゃ……」


 シシリーの疑問は尤もだがこれには大きな問題がある。


「これ、線が繋がってないと意味無いんだよね。だから諜報部隊の人達にも、線を伸ばしていく人とそれを後ろから付いていって線を地中に埋めていく人との合同作業が必要なんだ」

「そうなんですね、でもそれだと……」

「そう、時間が掛かるんだ。そうなると旧帝国領内での作業は危険だからね、今は周辺国との連絡用に時間を掛けて線を繋いで貰ってるんだ」


 これを長距離で使用するとなると、線を地中に埋めていく大規模なインフラ整備が必要になる。


 いずれは各街と王都を繋ぐように整備すれば色々と便利になるが、今はまだ緊急連絡用にしか使えないな。


「凄いですね……これ、一財産作れますよ」

「一財産どころじゃないよ……これの利権を巡って争いが起きても不思議じゃない」

「その心配にはおよびませんよメリダ師、この技術は既にシン君の物として登録してあります。王家公認ですからな、争いも起こらんでしょう」

「ディセウム! アンタがシンの暴走を助長してどうすんだい!」

「え? あ、すいません!」


 ばあちゃんすげえな、国王様まで一喝かよ。


「ディスおじさんさあ、なんでそんなにじいちゃんやばあちゃんに弱いの? 国王様なのに」

「なんだシン知らなかったのか?」

「何が?」

「私は父上の第一子だ、その割に父上は歳をとっているとは思わんか?」

「そういえば確かに」


 王族や貴族は結婚が早いと聞いていたのに、ディスおじさんはオーグの父親にしては歳をとってる。それは中々子供が出来なかったのかと思っていたけど……。


「ディセウムはのう……高等魔法学院を卒業した後、ワシらに付いて放浪生活をしとったんじゃよ」

「その時に弟子というか小間使い扱いしてたからねえ……今更畏まるのもどうかと思ってね」

「はは……散々こき使われましたなあ……」


 ディスおじさんが遠い目をしてる……よっぽどこき使われたんだな……。


 っていうか、王太子になってたって言ってたよな? 何やってんだディスおじさん!


「当時婚約者だった母上も、王太子の立場も全て放置して行ったらしいからな、そのせいで未だに母上に頭が上がらないのだ」

「うん、自業自得だね」

「はは……耳が痛いな。それはそうとメリダ師、これは世界にとって必要な技術なのだと私は思っています。我が国だけでなく各国にも広めていく必要があるし、その予定でおります。申し訳御座いませんが御了承下さい」


 その言葉に渋い顔をしていたばあちゃんだったが、やがて了承してくれた。


「王国軍の制式装備に通信機かい……こんな若いうちから大金を持たせるべきじゃないと思うんだけどねえ」

「別にエエじゃろ、シンはもう成人しとるんじゃ、自分でこれだけ稼げるのは立派なもんじゃと思うてやろう」


 爺さんナイスフォロー! シシリーと婚約もしたし、稼ぎがあるのは良いことだよ、うん!


「額が問題なんだよ額が……」


 確かに、最近王立銀行の口座残高が怖いことになってきてるのは確かだけど……。


「陛下、あの……御時間……」

「む? ああ! 大変だ! シン君頼むよ!」

「あ、うん。分かった」


 話し込んでる間に本当に時間が迫って来ており、慌てて王城へゲートを繋ぐ。


 バタバタとディスおじさんとセシルさんを送り出してから本日の訓練である。


 実は今日辺りから実践ではなく実戦での訓練をしようと思っていた。


 その事を皆に伝えると、騎士学院との合同訓練で魔物に慣れたのか皆快諾してくれた。

 

 訓練に赴く前に皆には渡しておくものがある。


 それは、防御魔法が付与された皆の戦闘服だ。ずっと制服って訳にもいかないからな。


 ビーン工房の親父さんに男子と女子の服と靴、それにマントのデザインを渡していたのだが、昨日指輪を急遽買いに行った時に、完成していたので持って帰って来ていたのだ。


 そして婚約披露パーティの後、自分の部屋で防御魔法を付与した。


 この新しい戦闘服が用意できたので今日から魔物相手の実戦訓練に移ろうと思ったのだ。


 服に付与した魔法は以前に制服に付与したものと同じもの。


 マントには光学迷彩とエアコンを付与した。


 『快適温度』って付与したら、マントの中で温度調整し始めたので、エアコン付与と呼んでる。


 光学迷彩は身体全体を覆うように展開するように付与。


 そうしないと、首が浮いてるホラー映像になったからな……。


 周りにはどんな付与がされているのか内緒だけどね。


 ちなみに資金は口座に怖いくらい貯まり始めた俺の口座から出した。


 いつまでも国に資金を出してもらうのも悪いし、人のお金だと思うと思い切った事がやりにくいからね。


 ちなみにブーツは……俺のブーツはジェットブーツになってるけど、他の皆のは普通のブーツのままだ。


 あれは練習が必要だし、皆の意見を聞いてからにしないとな。


 という付与された魔法を皆に教えるとまた呆れた顔をされた。


 うん……そういう顔されるのは分かってたさ……。


「この戦闘服にアクセサリーで防御に関しては無敵になったな」

「はあ……ついに国家機密満載の服を着る事になるのか……」

「諦めましょうマリア殿、慣れると素晴らしい物ですよ」

「制服より付与されてる魔法が増えてんじゃないのよ!」

「……諦めましょう」

「あ、ブーツは何もしてないよ。俺のと同じジェットブーツにする事も出来るけど」

「僕はそれ付与してほしいね、それシュトロームと戦った時に使ってたヤツだろう? 懐に飛び込み易くなるからね」

「あれ? トニー近接戦やるの?」

「騎士学院との合同訓練で疼いちゃってね。シン程じゃないけど僕も近接と魔法の併用をしてみようかと思ってね」

「いいんじゃない? けどその付与は今日の訓練が終わった後でね。練習が必要だから」

「分かった、楽しみにしてるよ」


 他にジェットブーツの付与をしてほしいと言う者はいなかった。


 詳細を知らない者もいるし、実際見た者は使うのが怖いという理由だった。


 戦闘服の説明が終わったら皆に一式を渡していき着替えて来てもらう。


 着替えが終わって出てきた皆は、何だかんだ言って新しい服にテンションが上がっていた。


 男子は、長めの上着にズボン、ブーツの組み合わせ。


 色は黒にした。


 女子は、同じデザインで短めの上着に、下はキュロットに膝上のニーソ、ロングブーツの組み合わせにした。


 スカートで戦闘とか、気になって動きが鈍くなったら本末転倒だし。


 色は濃い青。


 赤にしようかとも思ったのだが、戦場で赤は目立つのであり得ないと親父さんに却下されていた。

 

 デザインはおおよそ好評で、女子はお互いの姿を誉め合ってる。


 それを見ていたメイちゃんが羨ましそうな声を挙げた。


「皆さん格好良いです! 私も欲しいです……」


 これ注文した時はまだメイちゃんの存在を知らなかったからなあ……。


「そうだね、メイちゃんにも作ってあげようか?」

「本当ですか!? シンお兄ちゃん!」

「ああ、どんなのがいい?皆と同じにするか?」

「皆さんのも格好いいですけど……可愛いのがいいです!」


 そうか、可愛い魔法服か。じゃあ、ちょっと張り切ってデザインしちゃおうかな?


「シン、あんまり甘やかすな」

「いいじゃんこれ位」

「はあ、お前子供が出来たら溺愛しそうだな……」

「ああ……そうかも……」


 オーグの言葉に否定ができない。本当に溺愛してしまいそうだ。


「子煩悩なシン君……」


 シシリーが何か妄想しながらクネクネしてる。


「まあ、それも帰ってからな。じゃあ、昔の俺んちの近くにゲート開くから、今日はメイちゃんとエリーは留守番な」

「私達は討伐の邪魔になりますものね、分かりましたわ」

「気を付けて行ってらっしゃいです!」


 こうして二人に見送られ、いつもの荒野ではなく、昔爺さんと暮らしていた家の近くに向かった。


 このあたりも、旧帝国から流れてきた魔物が増えたな。以前より魔物の数が多い。


「じゃあ、大型の魔物は討伐出来るだろうから、今回は災害級を狙ってみようか」

「……さらっととんでもない事を言うなお前は……」

「そう? 大型の熊の魔物も、本当なら魔法だけで倒せそうだったじゃん」

「私は魔法だけで倒したよ!」

「ああ、アリス暴走事件か」

「ちょっと! リンみたいに言うの止めて!」

「アリス、それは失礼」

「だって、暴走っていうとリンのイメージが……」

「まあ、暴走魔法少女だしな」

「そうだった、私は暴走魔法少女」

「いや……誉めてないからな……」

「そう?」


 いつもながらリンと話してると調子狂うな……


「小型や中型は……一応討伐しとこうか。討伐数や素材でお金になるし」


 皆で索敵魔法を使いながら魔物を探していく。


 そしてしばらくすると……


「あ……これ……」


 シシリーが初めに気付いた。


 回復魔法や防御魔法なんかの支援系と呼ばれる魔法が得意なだけあって、索敵魔法も研究会のメンバーの中では一番上手い。


 シシリーが気付いた先に意識を集中した他の皆も、次々と気付いていく。


「本当ですね……今までの魔物と魔力の大きさが全然違います。シシリーさん、こんなに遠いのによく気付きましたね」


 オリビアが感心したように訊ねる。


「合同訓練の時に遭遇しましたからね。あの時はシン君があっという間に討伐しちゃいましたけど……」

「大丈夫だって、皆もそれ位出来るようになってるから」


 どこか心配そうな皆を励ますように言葉を掛ける。


「それに防御力万全の新しい戦闘服があるんだからそうそう怪我なんかしないって」


 それでも不安そうだな。まあ初めての災害級討伐だし無理もないか。


 そんなやり取りをしてる内に魔物を目視で捉えられる距離まで近付いた。


「獅子か……シシリー、俺が前に言った事覚えてる?」

「はい、虎は力は弱いけど素早くて、獅子は力は強いけど動きが鈍い」

「よくできました」

「はう……」


 あ、つい頭を撫でてしまった。皆の視線が痛い!


「オホン! え~という訳なので、力が強いので近付く事はあまりお薦めしません。となると?」

「遠くから魔法攻撃ッスか?」

「正解」


 という訳で皆に討伐して貰おう。


 俺と爺さんばあちゃんは参加しないとして、他の十一人全員で攻撃すると流石にオーバーキルになるので、半分の人員で行ってもらう事にする。


 まずは放出系が苦手だと言っていたユリウス、支援系が得意なシシリー、付与魔法が得意なユーリ、鍛冶屋のマークに食堂のオリビアだ。


「これまた……支援系が得意な者ばかりじゃないか。大丈夫なのか?」

「多分……これでもオーバーキルになると思うよ」


 その言葉に半信半疑の様子だが、まずは試して貰おう。


「じゃあ、五人で一斉に魔法を放ってね」


 あまり考える時間を与えずに魔法を撃たせる。


「用意できた? それでは……撃て!」


 俺の合図と共に、ユリウスが炎の矢を、シシリーが水の槍を、ユーリは風の刃を、マークは炎の槍を、オリビアは水の矢多数を一斉に放った。


 ドオオオオオオオオオン!!!


 一箇所に集中して着弾した魔法は大音量を巻き上げながら炸裂した。


 そして……その跡に残っていたのは……


「あー……やっぱりオーバーキルだったか……」


 分類で言うと災害級に指定される、獅子の魔物の残骸が残されていた。


 魔法を放った当人達は、自分の放った魔法の威力に驚いている。


 荒野で魔法の練習してると、威力が分かり難いんだよな。荒れ地に魔法ぶっ放してるだけだから。


「な、本来攻撃魔法が得意でない人達でこれだからね。他の六人は攻撃魔法得意でしょ? 単独で討伐出来るんじゃない?」


 その言葉に戸惑いを隠せない面々。


「いくらなんでも単独は無理でしょ」

「いや……正直そう難しい事ではないように感じるな」

「多分できる」

「僕もできそうだねえ」

「なんか私達まで人外になっていってる気がする!」

「自分もそんな気がしてきました……」

「あれ? いつの間に人外にグレードアップしたの? 俺」

「元々!」

「非道い!」


 アリスの暴言に凹み、シシリーに慰めてもらいつつ、次の災害級を探す。


「隙あらばイチャイチャしてんじゃないわよ!」


 マリアから怒られつつも索敵を進める。


 災害級なんて本当は滅多に出ないのに、俺の索敵魔法には結構な数の獅子か虎か、超大型の熊かが反応してる。


 本当に迷惑な事してくれんな、あの野郎。


 という訳で次の魔物はすぐに見付かった。


「さて、この反応は虎だね、という事は?」

「魔法で牽制しつつ、物理攻撃だな」

「そう。で、誰が行く」

「じゃあ、僕が行こうかな」


 そう言うとトニーはバイブレーションソードを異空間収納から取り出しながら前に出た。


 トニーは元々剣の扱いが上手いから、バイブレーションソードをあげていたのだ。


「じゃあ、行ってくるよ。危なくなったらフォローよろしく」

「オッケー、頑張ってな」

「よし……行くよ!」


 トニーは風の魔法を身に纏い、高速で虎の魔物に突っ込んで行った。


 それに気付いた虎の魔物が回避行動を取るがトニーの方が早い。


 逃げ遅れた虎の魔物の足を一本切り落とした。


 その攻撃でバランスを崩した虎の魔物は上手く着地できずに倒れ、そこにトニーが炎の魔法で追撃を掛ける。


 倒れたまま炎を魔法を喰らった虎の魔物は動きが止まった。


 その隙を逃さず残った足をもう一本切り取り、そのまま首に向かってバイブレーションソードを振り下ろした。


「……凄いわね……」

「ああ、全く危なげなく単独討伐してしまったな……シン以外が」

「でもあれくらいなら私も出来そう」

「そう思えてしまう事が異常なんですけどね……自分も出来そうです」

「あれが普通に見えちゃう不思議!」


 他の皆も自分のレベルアップをようやく実感したようだ。


 まあ、荒野での魔法訓練でこれ位出来そうなのは分かってたけどね。


 だから連れて来たんだし。


「本当にアンタ達……とんでもない集団になったもんだね……」

「ほっほ、良いことじゃ」


 非常識な集団に頭を抱えるばあちゃんと皆の実力アップが嬉しい様子の爺さん。


 ばあちゃんには悪いけど、まだレベルアップしてもらう予定だからね。


 そして、残りの面々も、単独での災害級の討伐を経験して、午前中の訓練が終わった。


 ちなみに、魔物ハンター協会で換金したところ、エクスチェンジソードのアイデア料が入って来ているトニー以外の平民組が小躍りしながら喜ぶ位の金額が手に入っていた。


「お兄様、討伐の成果はどうだったですか?」

「ああ、私は虎二頭と熊一頭だな」

「虎!? 熊!?」


 エリーが大声で叫んだ、使用人さん達もザワついてる。


「アウグスト様! 大丈夫でしたの!?」

「ん? ああ……そうか、これが普通の反応だったな……」

「どういう事ですの?」

「いや……初めは戸惑っていたんだが、全て単独で討伐してな。最後の方は誰が先に仕留めるか競争してしまった……」

「結局、僕が一番でしたね」

「トニー君はズルいよ! 剣も使えるんだもん!」

「あの……何を仰ってますの? 災害級の魔物なんて、軍隊が出動する案件じゃありませんか」

「そうです! 私でも知ってます! 軍のトラウマ製造機だって言ってたです!」

「それを単独討伐とか競争とか……」

「事実なんだからしょうがない。大分私達もシンに毒されてしまったな」

「アウグスト様がいつの間にか人外に……」

「そのシンと同じ扱いは止めろ!」

「非道くね!?」


 皆もいい感じで力を受け入れて来てるな。この調子なら魔人に遅れを取る事はなさそうだ。


 そんな皆の訓練の成果を実感しながら本日の訓練を終えた。


 ちなみに本日の魔法実験は浮遊魔法続編だった。


 皆で空を飛びました。

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魔法少女と呼ばないで
― 新着の感想 ―
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[良い点] ものスゴい速度で、じいちゃんの魔法師の質が落ちたという嘆きが払拭どころか塗り替えられてますね、極一部でw ばあちゃんもいい加減アキラメロン♪
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