祝福してもらいました
浮遊魔法で空を飛ぶのはまた明日という事でメイちゃんには納得してもらった。
「明日はズボンを履いてくるです!」
明日も荒野での訓練に参加する気満々だ。
「それは良いけど、折角温泉街に来たのに街を散策したりしなくていいの?」
「うーん、温泉より皆さんといる方が楽しいから良いです!」
まあ、子供ならそうか。メイちゃんにとっては皆といる方がいいのだろう。
「今日見て分かっただろうが、私達は真剣に魔法の練習をしているんだ。本当に邪魔だけはするなよ?」
「分かってるです! 私もメリダ様に魔法を教えて貰うから大丈夫です!」
「メリダ殿の迷惑だろうが」
「ああ、アタシは気にしないでいいよ。どうせマーリンの講義中は暇なんだ。メイちゃんの面倒位見るさね」
「すいません、メリダ殿」
「それに、シンは世話という面ではあまり手を焼かせなかったからねえ。女の子だし、世話を焼けるのは嬉しいもんさ」
「確かに、シンには手を焼いた記憶は無いのう」
爺さんとばあちゃんが、懐かしそうに俺の小さい頃の話をしてる。
「シン君の小さい頃って、どんな子だったんですか?」
その話が気になったのか、シシリーが俺の子供の頃の話を聞いてきた。
「そうさねえ……その話をするのもいいけど、シン、殿下。先に用事を済ませておいで。シシリーの両親にも聞いといて貰わないといけない話がある」
そう言って、一旦この話を打ち切った。
「ウチの両親にですか?」
「ああ、アンタの家は貴族だろう? そうなると、今回の話は婚約にまでいくはずさ。その前にどうしても聞いておいて貰わないといけない事があるのさ」
「はあ……分かりました」
それってあれかな? 俺が爺さんとばあちゃんの本当の孫じゃないって話かな?
そういえば、まだ皆にその話はした事無かったな。
ばあちゃんは今回の祝いの席で皆に聞かせるつもりらしい。
「そのつもりだったの? じいちゃん」
「ほっほ、初めて聞いたのう……」
爺さんには話が通ってなかったみたいだ。
ばあちゃんに全部主導権を握られてる。
……結婚してた当時の状況が目に見えるようで涙を誘うな……。
皆を屋敷に送ってから王城にゲートを開く。
「お疲れ様です殿下、ウォルフォードさん」
朝も会った警備兵さんが迎えてくれた。
「やあ、待ってたよシン君」
するとそこには案の定ディスおじさんが待っていた。
「やっぱりいた」
「やっぱり?」
「アイリーンさんが言ってたんだよ、セシルさんが職場で皆に言いふらすからディスおじさんの耳にも入るって」
「確かに……職場で皆に自慢したけども……」
「で、多分ディスおじさんも来るだろうから準備しとけって」
「……シン君、私は王都の家に帰っても?」
「駄目ですよ! そんな事したら……」
「いや! みなまで言うな! はあ……素直に怒られるか……」
「が、頑張って下さい……」
俺の周りは奥さんが強い人が多いな。
ひょっとして皆そうなのか?
「何かな? シン君」
「いや……」
「父上も母上には頭が上がらないな」
「やっぱりそうなのか」
「ちょっ! 何暴露してるんだ!?」
「ああ、すいません。シンといるとつい素が……」
「息子がようやく素で話してくれたと思ったら……」
「黒くてビックリでしょ」
「おい、黒いとはなんだ」
「真っ黒じゃん」
「……凄いね、陛下や殿下とこんなやり取りが出来るのかい?」
セシルさんと警備兵さんが驚いてる。普段こんな姿は見ないだろうからな。
「そういえばジークにーちゃんとクリスねーちゃんは?」
「ああ、ゲートで行くんだろう? それに賢者殿に導師殿、シン君に研究会の面々がいるなら護衛なんて必要無いじゃないか」
「それもそうか」
「それに、王都で正式な婚約披露パーティがあるだろうから、その時に参加させればいいさ」
「大々的にやるの?」
「当たり前だな。相手は貴族だし、君は新しい英雄だ。婚約披露パーティをしないと世間が納得しないよ」
「はあ、マジか……」
「マジだよ。それよりそろそろ移動しようか。遅くなってしまうとマーリン殿に心配を掛けてしまう」
「ああ、うん分かった」
「じゃあ、多分向こうで泊まってくると思うから、言っといてくれ」
「は! かしこまりました!」
ようやくクロードの街の屋敷に行く事になったのだが……。
「あ、ゴメンディスおじさん、ちょっと寄りたいところがあるから待ってて」
「なんだ? 一緒に行けばいいだろう」
「いいから! すぐ戻るから待ってて!」
そう言って、思い付いた用事を済ませに行き、王城に戻ってきた。
「ゴメン、お待たせ。じゃあ行こう」
そして今度こそクロードの街の屋敷に向かった。
「本当に便利だなあ」
「今度領地に行く時も送って行きましょうか?」
「ああ……魅力的な提案だけどねえ、それは出来ないんだよ」
「え? どうしてですか?」
「それはなシン君、貴族が王都から領地に行く。領地から王都に行く。そのどちらの場合も途中にある街に立ち寄るからさ」
俺の質問にディスおじさんが答える。
「貴族の移動ともなればそこそこの規模の集団になるからな。途中の街で発生する経済効果を無視する事が出来ないのだ」
「へえ、そういうもんか」
「うん、それに街にいる貴族、もしくは代官との交流も大事だからね」
「そういう事だったんですね」
貴族は大変だな。
「だからシン君がくれたこの魔道具には本当に助けられているよ。ありがとう」
「いえ、そんな事で良ければいくらでも提供しますよ」
「本当かい? それはありがたい。もちろん代価は支払うからね」
「そんな、別にいいですよ」
「そういう訳にはいかないよ。それに代価を支払わないと……」
「支払わないと?」
「魔道具欲しさに娘を売ったと言われるな」
「はあ!?」
ディスおじさんの言葉に耳を疑う。
「残念だけど陛下の言う通りなんだよ。この世は善人ばかりでは無いからね、特に今は財務局の事務次官の席が空いた。その席を狙っている者は多いからね」
そうか、セシルさんは財務局の管理官だったな。事務次官の席が狙える位置にいるんだろう。官僚のポスト争いか……世界が変わってもそういうのは変わらないな。
「分かりました。でも提供はします、格安で。それは譲れません」
「そうか……ありがとう」
屋敷の玄関ホールで話し込んでいると、使用人さんが気付いた。
「へ、陛下! 旦那様!」
その声を聞いた使用人さん達がホールに集まり、一斉に膝をついた。
そしてアイリーンさんが奥から出てきて優雅に一礼した。
「ようこそおいでくださいました陛下。お待ちしておりましたわ」
「今日はシン君のお祝いだからな、私人として来ている。歓待は無用に願う」
「はい、心得ております。それと……アナタ」
「は、はい!」
「後でお話しがあります」
「……はい」
ごめんなさいセシルさん……俺には……俺には助けられません……。
「丁度準備も整いましたのでダイニングへどうぞ。あ、シン君はこっちね」
「なんでです?」
「そりゃあもちろん着替えてもらうのと、シシリーと一緒に登場してもらう為よ」
どんどん大事になってる気がする!
「じゃあこの部屋で着替えて待っててね。すぐにシシリーを呼んでくるから」
そう言って、アイリーンさんは俺を空き部屋に押し込んだ後、シシリーを呼びに行ってしまった。
置いてあった白いシャツに白いズボン、青い軍服みたいな服に着替えると途端に落ち着かなくなった。
そわそわしながら待っているとドアがノックされた。
「は、はい!」
俺の返事でドアが開けられ、そこにいたのは……。
水色のふんわりしたドレスを着て髪をアップにしたシシリーが立っていた。
ドレスはフリルがふんだんに使われていて可愛らしく、アップにした髪とアクセサリーは少し大人っぽく、そのアンバランスさがシシリーをより一層可愛く見せていた。
「あ、あの……シン君?」
見蕩れてぼんやりしていた俺にシシリーから声が掛かる。
「あ、ああごめん、可愛いから見蕩れてた」
「えぅ……あ、ありがとうございます。シン君も格好いいですよ」
「本当に?」
「本当です。私の方こそ本当ですか?」
「ああ、可愛い過ぎてドキドキするよ」
「シン君……」
「シシリー……」
「オッホン!」
アイリーンさんがいたのを忘れてた!
「仲がいいのは分かりましたから、もう少ししたらダイニングにいらっしゃいね」
微笑みながらそう言うとアイリーンさんは先に行ってしまった。
人がいるのに……何か想いが通じ合ってから歯止めが効かなくなってる気がする。
お互いに顔を見合わせ、苦笑いをしながら気になっていた事を聞いてみた。
「シシリー、付き合いだしてすぐに婚約する事になっちゃってるけど、シシリーに異論は無いの?」
「はい。さっきは取り乱しちゃいましたけど、私は貴族家の娘ですから、元々覚悟はしてました。それが大好きな人と婚約出来る事になったんです。嬉しくてどうにかなりそうです」
そう言って目を潤ませニッコリ笑ってくれた。
「シシリー……」
「シン君……」
「あの……そういう事は後程ごゆっくりと……」
案内係のメイドさんが残ってた!
「あ、すいません」
「あぅ、またやっちゃいました……」
だから歯止め! 人いるから!
「それでは参りましょう」
メイドさんに案内されて行った先は、いつも食事をしているダイニングだった。
そこはいつもと違い椅子やテーブルが撤去され、立食パーティの準備が整っていた。
クロード家の使用人さんもレベル高いな!
ダイニングに入ると皆が拍手で迎えてくれた。
「皆グラスは行き渡っているか? それでは、我が友マーリン殿とメリダ殿の孫シン君とクロード子爵家のシシリーさんの恋人になったお祝いと婚約披露のパーティを始めよう」
「ディセウム、ちょいとお待ち」
「はい? なんでしょう、メリダ師」
「アンタが宣言すると正式にこの子達が婚約者になっちまう。それは大変喜ばしい事なんだけど……クロード夫妻」
「はい!」
「なんでしょうかメリダ様」
「アンタ達に話しておかないといけない事がある」
例のアレか。
「これを話しておかないとアンタ達を騙している事になる。それは心苦しいからね、聞いとくれ」
「わ、分かりました」
ばあちゃんの真剣な様子にセシルさんが気圧されたように返事する。
そしてばあちゃんは俺の生い立ちを話し始めた。
「シンはね……アタシ達の本当の孫じゃない」
その言葉に皆は意表を突かれ、パーティ会場が静寂に包まれる。
「あれは十五年近く前になる。ワシは魔物に襲われ全滅した馬車を発見した」
爺さんが俺を拾った時の様子を話し出した。
「生きている者はいないと……そう思わせる程の惨状じゃった。ワシはせめて弔ってやろうと思っての、馬車の残骸に近付いた。その時……奇跡的にこの子だけ生き残っておったのじゃ」
衝撃的な内容の話に皆言葉が出ないようだ。黙って爺さんの話を聞いている。
「この子を拾ったワシは……まあ色々あっての、これを天命じゃと思ってこの子を育てる決意をしたのじゃ」
「シン君の御両親は……どなたか分からなかったのですか?」
セシルさんが質問をしてきた。
「身元を示す物は何も無かった。というよりそれすら分からん程メチャメチャになっとったのじゃよ」
「それでよく……」
「ああ、アタシも話を聞いたとき奇跡だと思ったね。最初は正直孤児院に預けるべきだと思った。けどその話を聞いて……そして、この子がアタシに笑い掛けてくれた時……決意したのさ。マーリンがこの子を育てるというなら全力でサポートしようと、アタシもこの子の祖母になろうとね」
その話は初めて聞いた。
……昔何かあったのかな?
「アンタ達がシンを認めたのは、こう言っちゃ何だけどアタシ達の孫だからっていうのも大きいだろう。でもこの子に血の繋がりは無い。それでもシンをシシリーの婚約者と認めてくれるかい?」
それを聞いたセシルさんとアイリーンさんは顔を見合わせて頷いた。
どんな結論を出したんだろう……。
「メリダ様、マーリン様、私は正直ガッカリしました」
「やっぱりそうかい……」
「しょうがないのう……」
セシルさんのその返事に二人はしょんぼりしてしまった。
俺も……爺さん、ばあちゃんの表情とセシルさんの返事に心臓を握り潰される思いがした……。
「御二人とも私達を見くびらないで頂きたい!」
「「え……」」
「私達がシン君を認めたのは御二人の御孫さんだからではありません! シシリーの事を何より大事に考えてくれて、その家族である私達まで守ろうとしてくれる。そんな優しく強いシン君だからこそシシリーとの付き合いを……婚約を認めたのです! 馬鹿にしないで下さい!」
セシルさんがそう言い切った。
その言葉に、俺は本当にセシルさんに認めて貰ったのだなと嬉しくなり、ちょっと涙が浮かんだ。
「主人の言う通りですわ。私達はシン君がシン君だからこそシシリーの相手にと願ったのです。どこの誰かは関係ありませんわ」
アイリーンさんもそう言ってくれた。
「そうかい……そうかい……」
「ありがとうのう……」
爺さんとばあちゃんが揃って涙を流してる。
それを見て、俺は本当に大事にされているんだなと改めて実感し、浮かんでいた涙が溢れてきた。
「シン君……」
シシリーがハンカチでそっと涙を拭いてくれた。
そして、微笑みながら言ってくれた。
「私も同じですよ。シン君だから好きなんです。そもそも初めて会った時は御二人の御孫さんだなんて知りませんでしたし」
「そっか、そういえばそうだったね」
シシリーからハンカチを受け取り自分で涙を拭いた後、セシルさんとアイリーンさんに向かった。
「セシルさん、アイリーンさん、ありがとうございます。期待を裏切らないよう全力でシシリーの事を守ります」
「うん、よろしく頼むよ」
「フフ、よろしくねシン君」
「それと、じいちゃん、ばあちゃん」
「なんだい?」
「ほ、なにかの?」
ハンカチで涙を拭いていた二人に、改めてお礼を言う。
「じいちゃん、俺を拾ってくれてありがとう。前にも言ったけど、もう一回言わせて。俺、じいちゃんの孫になれて幸せだよ」
「シン……」
「ばあちゃん、俺のばあちゃんになってくれてありがとう。いっつも怒られてるけど、俺……ばあちゃんの孫で幸せだよ」
「なに……言ってんだい……」
二人とも拭いた涙がまた溢れてきてしまった。
会場がしんみりした雰囲気になっちゃったな。
でもこれはどうしても今言わなきゃいけなかったんだ。
「それでは両家ともに納得した事だし、しんみりしてないでそろそろ始めようか」
ディスおじさんがタイミングを見計らって声を掛けた。
「シン=ウォルフォード、シシリー=フォン=クロード、二人の婚約を私が見届け人となり認めるものとする。これはアールスハイド王国国王としての宣言である」
国王様からのお墨付きを頂いてしまった。
っていうか、さっき私人として来てるって言ってた気が……
方便か?
「前途ある若者の素晴らしい門出に……乾杯!」
『乾杯!』
私人か公人かは分からないけどディスおじさんが認めた事は間違い無い訳で、正式に俺とシシリーは婚約者になった。
付き合いだしてすぐに婚約とか、前世では中々考えにくいけど郷に入れば郷に従えっていうし、特に異論も無い。
貴族って大変だし面倒だなとは思うけど。
「そういえば、貴族って子供を沢山産まないといけないんですよね? 跡目争いとか大変じゃないんですか?」
「ああその事か……」
セシルさんにディスおじさんまで苦笑いをしてる。
「シン君、この国の王族や貴族はね、国民や領民の生活に対しての責任が非常に重いんだよ」
「そうですね……領地経営などで実入りは多いですけどそれ以上に責任が重い」
「領地経営の状態の査察もあるしな」
「査察まですんの?」
「もしそれで、不条理な重税などで民を苦しめていたら……」
「ど、どうなるの?」
「領地没収、爵位剥奪の上に罰が下る」
「マジで?」
「ああ、だから普段は代官であるカミーユに任せているけど、定期的に領地を訪れないといけないんだ。領民達の直の声を聞かないといけないからね」
「多分この国で一二を争うキツい仕事だな」
「……こないだ誰か過労で倒れたって聞きましたよ……」
「マジか?」
「マジです……お互い気を付けましょう」
「全くだな……」
別のしんみりが発生した!
「そんな訳でな……貴族の当主は非常に大変だから皆なりたがらないんだ」
「私も父から爵位を譲ると言われた時、他の兄弟や親戚達が歓声を挙げたのが忘れられませんよ……」
「そ、そうなんですか」
爵位を継げなくて歓声を挙げるとか……貴族の当主はどんだけ辛いんだ?
「まあシシリーは三女だし、ウォルフォード家に嫁入りするから、あまり爵位継承とか気にする必要は無いよ。ただ、二人の子供はクロード家の血を引いてるから万が一があるかもしれない。その事は覚えておいてほしい」
「シン君の子供……」
シシリーが真っ赤になってクネクネしてる。
「そういえばメリダ様! さっきシン君の子供の頃の話が途中でした!」
「ああ、そういえばそうだったねえ」
アリスが子供という単語で思い出したのだろう、さっき聞けなかった俺の子供の頃の話が聞きたいと言い、ばあちゃんは懐かしそうに話をし出した。
「赤ん坊の頃だけど、あんまり泣いたりグズったりしない子だったねえ」
「そうじゃのう、あんまり泣かないもんじゃから心配した事もあったのう……」
「……そうだったねえ。魔物に襲われたショックでそういった感情が出せなくなったんじゃないかと思ったりしたね」
一歳の頃から自我があったもんで……心配掛けてすいません。
「それから大きくなっていって、喋り出すのが遅くて心配もしたねえ……」
「確かにそうでしたが……喋り出してからが早かったですな」
「そうじゃのう、あれは何? これは何? と何にでも興味を持ってのう」
「答えが曖昧だと追求が凄いんだよ、答えられなかった事を王城に戻ってから調べたりしたなあ」
「シンの『なぜなに』には本当に苦労したよ……」
三人共ちょっと疲れた顔してる。
ご、ご免なさい……全く別の世界に来たから全てが珍しくて……。
「魔法を使えるようになったのも早かったねえ」
「あれには驚きましたな。確か……三歳位でしたか?」
「ほっほ、そうじゃ」
『三歳!?』
皆が揃って声を挙げた。
「え? 普通何歳位なの?」
「初等学院在学中に魔力制御出来たら優秀な方だ」
「という事は?」
「十二歳位だな」
「へえ、じゃあメイちゃん超優秀じゃん」
「えへへ、ありがとうですシンお兄ちゃん」
「いや……お前は三歳って……」
「あーじいちゃんが魔法使ってんのよく見てたからなあ、見よう見まねで試してみたら出来た」
「……というか、三歳の頃の話を覚えているのか?」
「覚えてるよ」
その言葉にも驚いてる。そりゃそうか。俺のは反則だけどね!
「それから魔法を教えてやったら、ほとんど一度で覚えよってな」
「アンタはそれが楽しかったんだろう、次から次へと魔法を教えて」
「ほっほ……本当に何でもすぐ覚えよったからのう……楽しゅうて仕方がなかったんじゃ」
「そのせいでシンは……」
ばあちゃんが爺さんに文句を言おうとしたが、何とか踏み留まった。
ホッとしてる爺さんが悲しかった……。
「我が儘も言わないし、こちらの言う事は素直に聞くし……思い付いた事をすぐに実行しようとする癖さえなけりゃ本当に育てるのに手間の掛からない子だったね」
「そうじゃなあ、家の手伝いもよくしてくれたのう」
「だからこの子には暴走しないように監視しとく必要はあったけど、育てる上での手間は掛けられて無いのさ」
「へえ、そうだったんですか。シン君がいい子だったなんて……何か意外!」
アリスが失礼な事言った。
「意外ってなんだよ!」
「だって、シン君って小さい頃からメリダ様達に色々迷惑掛けてそうだもん!」
「だから何でだよ!」
「今の現状見てるとねえ……」
「意外に思ったのは否定出来ないで御座る」
皆がアリスの発言に同意してる。
やっぱり問題児扱いなのね……。
「で、でも! お爺様、お婆様想いで優しい所は今も同じですよ!」
シシリーが必死にフォローしてくれる。
やっぱり優しいなあ……こういう所、大好きだなあ……。
「ほっほ、シシリーさんにお爺様と呼んでもらえるのは嬉しいのお」
「そうだねえ、シシリーこれからはアタシ達の事をそう呼ぶんだよ」
「はい! 分かりましたお婆様」
その返事にニヨニヨしてるばあちゃん。そんな顔初めて見たよ……。
そんなこんなで、しんみり始まったパーティは俺の子供の頃の話をネタに盛り上がり、やがてお開きになった。
パーティが終わった後、俺とシシリーは二人でバルコニーにいた。
「はあ……終わったあ……」
「お疲れ様ですシン君。でも王都に戻ったら正式な婚約披露パーティがありますから、頑張って下さいね」
「マジかあ……」
シシリーはそんな俺の様子をクスクス笑って見てる。
これは……やっぱり言っとくべきだよな。
「シシリー」
「はい、なんですか?」
「順番が後先になっちゃったけど……」
俺は、さっき王都に行った際に手に入れたあるものをシシリーに差し出した。
「え? これは……」
「もう婚約披露パーティは終わっちゃったけど……」
俺は……小さな箱に入ったダイヤの指輪を見せた。
「シシリー」
「は、はい」
そして改めて言った。
「俺の……お嫁さんになって下さい」
指輪と俺の言葉にしばらく固まっていたシシリーは、ゆっくりと微笑んで応えてくれた。
「はい、私をシン君のお嫁さんにして下さい」
その返事を聞いて、俺はシシリーの左手の薬指に指輪を嵌めた。
シシリーはその指輪を見て幸せそうにしてる。
その姿だけで、こちらも幸せな気持ちになった。
「昨日彼女になって下さいって言ったばかりだけどね」
「そうでしたね」
二人でクスクス笑い合う。
すると、シシリーが俺の胸に飛び込んできた。
「シン君……私、幸せです……」
「シシリー……」
抱き合ったまま見詰め合う。するとシシリーがスッと目を瞑った。
俺はシシリーに顔を近付け……。
唇を重ね合わせた……。