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賢者の孫  作者: 吉岡剛
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誤解されてました

 新しい爆発魔法は成功した。


 ちょっと圧縮させ過ぎたかな?


 予想以上の大爆発を起こしてしまった。


 うん、実験しといて良かった!


「シン、今のはどうなってんだい!」

「確かに、奇妙な爆発の仕方をしたな」

「爆心地から向こうは酷い事になってるのに、こっち側には何も無いじゃないですか。どうなってるんです?」


 皆からさっきの魔法についての質問が入る。


「ああ、ヒントになったのは、合同訓練の初日に魔物の群れを爆発魔法で吹き飛ばした事なんだ」

「ああ、あれね……」

「あれは本当に心配しました。自分で障壁を張らないといけない程の大爆発でしたから。これには劣りますけど……」

「そう、その自分で障壁を張らないといけないって事がね、魔法として未完成だなって思ってたんだ。で、何とか出来ないかなって」


 この魔法を考えた切っ掛けについて説明した。


「爆発魔法を使った後に障壁を張らないといけないのって、衝撃波が円状に拡がるからだろ?」

「まあ、爆風とはそういうものだからな」

「その衝撃波を円状じゃなくて、一方向だけに向けたらこっちに爆風が来なくて障壁張らなくても済むじゃん」

「……その発想は無かったな……」

「そういうイメージをしたって事ね」

「そのイメージ自体がよく分かりませんけど……」

「まあ、魔法の主旨は分かったけど、この威力はなんだい!」

「いや……ちょっと予想より威力が上だったというか何というか……」

「……まあ、実験しといて良かったとしとくかね」

「そうそう、いやーまさかこんなに威力が出るとは思っても見なかったよ!」

「このお馬鹿! いいかい、これからは魔法を思い付いてもすぐに使うんじゃないよ! ここで実験してからにしな!」

「わ、分かってるよう……」


 ばあちゃんに怒られたけど、実験しないと新しい魔法なんて危なくて使えないって。


「それにしても……予想より威力が上だったという事は、爆風を一方向に向けた事が関連してるんでしょうか?」

「あ、それはあるかもな。本来こっちに向かう筈だった爆風はどこに行ったんだって話になるし」


 トールの考察に思わず頷いた。そっか、そういう事もあるかもな。


「はあ……相変わらず、お前の魔法を見るときは寿命が縮まる思いだ。何をしでかすか分かったもんじゃないからな」

「確かに、あんなに全力で魔力障壁を展開した事って無かったですよ」

「あ、そうだ! 多分大丈夫って言ったのに、あそこまで全力で魔力障壁展開しなくてもいいじゃん!」

「多分って付けるから、慌てて魔力障壁を展開したんだろうが!」

「あの威力の魔法がこっちに向いたらと思うと……」

「あれでも心配だったよね!」


 そうか、その前段階で成功してたんだから多分って付けなくても良かったか。


「さて、シンの魔法実験はこれで終了だ、この後はメリダ殿の付与魔法講座だが……シン」

「なに?」

「悪いが王城まで送ってくれるか?」

「ああ、定期報告か」


 この合宿中は王都を離れるので魔人達の情報が入りづらい。なので一日に一度王城にゲートで戻り、状況を確認する事になっている。


「他の皆はメリダ殿の講義を受けていてくれ」

『はい』

「じゃあ、行こうかシン」


 こうして、本日の定期報告に向かう。


 ゲートを開く先は王城の門にある警備兵の詰所だ。


 いきなり現れると警備兵の人達が驚いてしまうので、まず鈴を投げ入れる。それが、今からそっちに行きますというサインになる。


 そうして鈴を投げ入れてからゲートを潜ると、待っていた警備兵の人達がいた。


 ところが、昨日一昨日と来たときは普通に接してくれていた警備兵の人達の態度がおかしい。


 どうしよう? みたいな雰囲気が流れている。


 オーグもその雰囲気を察したようで、警備兵に問い掛けた。


「なんだ? 何かあったのか?」

「あ、いえ、何かというか何というか……」

「ハッキリしないな、どうした? 何か魔人共に動きがあったのか?」

「いえ! それは何もありません!」

「じゃあなんだ!?」


 オーグがちょっと苛ついた雰囲気を出したときだった。


「何かではありませんわ! アウグスト様!」


 詰所の奥から女性が現れた。


 誰?


「エ、エリザベート……」

「エリザベート?」

「ああ、前に言った事があるだろう。私の婚約者だ」

「へえ! あの!」


 前に聞いたことがあったオーグの婚約者が目の前にいた。


「何をコソコソお話していますの?」

「いや、別に何でも無い」

「本当ですの?」


 エリザベートと呼ばれた女性に問い詰められるオーグ。こういう光景も珍しいな。


「……なんだ? 何をニヤニヤしてるんだ?」

「え? いやそんな事してないよ?」

「してるじゃないか!」

「えー? そう?」


 いつもオーグにはからかわれてばっかりだからな、こういうチャンスは滅多に無い。そう思っていると、エリザベートから苛ついた感じで声を掛けられた。


「ちょっと! 私を放っておいて何を二人きりで盛り上がってますの!」

「ああ、すまないエリー」


 へえ、普段はエリーって呼んでるのか。


「オーグ、彼女の事紹介してくれよ」

「ああ、彼女はエリザベート。エリザベート=フォン=コーラル。コーラル公爵家の令嬢だ」

「初めまして、英雄の御孫様にして新しい英雄、シン=ウォルフォードさん。私、コーラル公爵家が二女、アウグスト殿下の婚約者でもあるエリザベート=フォン=コーラルと申します。以後お見知り置きを」


 そう言って挨拶をしてくれたエリザベートは、背中の辺りまで伸ばした金髪をゆるふわカールにした青い目をした美少女だ。


 公爵令嬢でエリザベートだからドリルヘアーを期待してたのは内緒だ。


「これは御丁寧に、私はシン=ウォルフォード、こちらこそ宜しくお願いします」


 俺も無難に挨拶を返す。それにしても、どうして公爵令嬢がこんなところにいるんだ?


「それよりエリー、何故こんなところに?」


 オーグも同じ疑問を持ったようでエリザベートに聞いていた。


「どうもこうもありませんわ! 学院が長期休暇に入った途端に私やメイを放ったらかしにして合宿に向かわれてしまうなんて!」

「メイ?」

「妹だ」


 ああ! あの家に来ることを拒否られた妹ちゃんか!


 ……そういえば、オーグが家に来ることを拒否したのは合格発表に行くからであって、その後は何も無くても普通に家に来てたような……。


「なあ、オーグ」

「なんだ?」

「確か、妹を家に連れて来なかったのって、合格発表を見に行くからだったよな?」

「そうだな」

「でも、その後普通に遊びに来てたよな?」

「そうだな」

「何で連れて来なかったんだ? 確かばあちゃんに憧れてるんだろう?」

「なに、メイの絶望する顔が面白くてな」

「非道い!」


 なんて可哀想な妹ちゃん!


「非道いです! お兄様!」


 可哀想な妹ちゃんに同情していると、詰所の奥からもう一人女の子が出てきた。


 十歳位かな? ストレートの黄土色っぽい金髪に蒼い目をした透き通るような白い肌の将来有望そうな美少女が出てきた。


 さっきお兄様って言ってたから、ひょっとして……。


「なんだ、いたのか?メイ」

「いたのか? じゃないです! さっきの話は聞かせてもらいました。何が大切な話があるですか! 遊びに行ってたんじゃないですか!」

「おや、バレてしまったか」

「むぅ! 非道いです! ズルいです! 私もメリダ様にお会いしたいです!」


 ひとしきりオーグとじゃれあった後に俺の存在を思い出したのか、慌てて挨拶をしてきた。


「あわわわ! ご免なさいです! 私、メイ=フォン=アールスハイドです! アウグストお兄様の妹で、えと、えと、メリダ様の大ファンです!」

「あの落ち着いて、ね?」

「あう、ご免なさい!」

「俺はシン、シン=ウォルフォードです。マーリンとメリダの孫だね。宜しくねメイちゃん」

「は、ハイです!」

「オーグとは何ていうか、従兄弟? みたいな付き合いをしてるからさ、メイちゃんもそういう風に接してくれると嬉しいな」

「じ、じゃあ……シンお兄様って呼んでもいいですか?」

「お兄ちゃんでいいよ。俺はオーグと違って王族じゃないからさ」

「……シンお兄ちゃん」

「はい」

「エヘヘ、意地悪じゃないお兄ちゃんが出来たです!」

「そうか……苦労してんだな……オーグの妹だと」

「そうなんです! 分かってくれるですか? シンお兄ちゃん!」

「ああ、オーグには事ある毎にからかわれてるからな……」

「私もそうです! いっつもお兄様に騙されて……」


 そうしてしばらく見つめ合った俺達は、手を取り合ってお互いの苦労を労い合った。


「お前達……何をしてるんだ……」


 オーグから怒りの籠った声が聞こえてきた。


「え? あわわわ!」

「何って……お前にからかわれてる同志の苦労を労ってるんだが?」

「ほう? 苦労してるのか?」

「当たり前だろ! 毎度毎度ネタを見付けてはからかって来やがって! 少しは反撃させろ!」

「シンお兄ちゃん凄いです!」

「そうか……私はお前の事でこんなに苦労してるのにな……」

「む……そ、その事は申し訳無いと思ってるけど……」

「そんな私にそういう事を言うのか?」

「い、いや、たまには俺にも反撃させろと……」

「ああ、こんなに苦労しているというのに」

「む……」

「ああ! シンお兄ちゃん頑張って下さい!」


 応援してくれるメイちゃんに応えようとオーグを見ると……またニヤニヤしてやがった。


「オーグ! テメエまたからかいやがったな!?」

「フッアハハハ! 期待通りの反応をしてくれるから嬉しいよシン」

「テメエ……」

「だから! 私を放ったらかしにして盛り上がるなっつってんでしょうがあ!!」


 エリザベートからお怒りの突っ込みが入った。


「エリー姉様、口調が乱れてるです」

「はっ! 私とした事が」

「それよりもエリー、メイ、何故こんなところにいる?」

「ああ! そうですわ! 先程も言いましたけど、私やメイを放ったらかしにしているからですわ!」

「私達も合宿に行きたいです!」

「合宿に行きたいって……これは『高等魔法学院』の『研究会』の合宿だぞ? 何故部外者のお前達を連れて行かなければならない?」

「そ、それは……」

「ズルいです! 合宿って言ってもクロードの街は温泉街です! 魔法の練習なんてしてないです!」

「してるぞ?」

「え? ホントですか?」

「別の場所でな」

「やっぱり温泉に入りに行ってるだけじゃないですか! 私も行きたいですわ!」

「そうです! 行きたいです!」


 よく見ると旅行用の鞄が用意してある。定期報告だからこの時間にはオーグが来るっていうのを分かってて行動してたな。


「はあ……本当に遊びに行ってる訳じゃないんだがな……」

「練習のお邪魔はしませんわ! 折角長期休暇になってアウグスト様と一緒にいられると思ってましたのに! また研究会に入り浸って……」


 そうか、オーグはしょっちゅう研究会……と称して家に来てるからな、あんまり良いイメージを持ってないかもしれない。


「それに……アウグスト様に悪い虫が付かないようにしないと……」


 エリザベートがそんな事を言い出した。


「オーグが? ハハ! 無い無い」


 エリザベートを安心させてやろうと思って言ったのに、当の本人は俺をジッと見詰めてきた。


 な、なんでしょう?


「本当かしら……」


 えーと……何でこんなに疑われてるんだ?


「おい、オーグ」

「なんだ?」

「彼女、何か疑ってんぞ?」

「ふぅ……何を勘違いしているのやら……」

「そういった監視の意味も含めて、合宿には同行させて頂きますわ」

「はぁー大人の話なのです!」


 何でか妹ちゃんのテンションが上がる。


 オーグはしばらく考えた後、口を開いた。


「旅行鞄まで用意してあるという事は、既に父上や公爵の了承は得ているんだろう?」

「ええ、合宿先には賢者様と導師様がいらっしゃるとか、お二人が一緒なら問題無いだろうとお父様には快諾して頂きましたわ」

「私も父上に許可を貰ったです!」

「はあ……準備万端じゃないか」


 既に外堀は埋められてる感じだな。


 そんな話をしてたら詰所にまた一人入ってきた。


「連れて行ってやればいいではないか」

「父上!」


 王様登場です。


「合宿と言っても、魔法の実践練習は例の場所でやるのだろう?」

「父上もご存知でしたか」

「ああ、あそこでシン君の魔法を見て魔法学院に入れようと決意したからな。それより、あの荒野には連れて行かずにクロードの街に滞在させていればいいだろう。あそこは温泉街だし、連れていくだけでも息抜きにはなるだろ」

「はあ、父上がそう仰るなら」

「やりましたわ!メイ!」

「やったです! エリー姉様!」


 オーグから許可が出た事に喜ぶ二人にオーグが釘を刺す。


「言っておくが、私達は本当に魔法の練習もしているからな、その邪魔だけはするんじゃないぞ」

「はーい!」

「承知してますわ」


 話も纏まったみたいだし、最初の報告で魔人に動きは無かったし、そろそろ戻るとするか。


 その時、戻る先の事で思い付いた事があった。


「あ、そうか」

「どうした? シン」

「いや、合宿先ってシシリーの実家の領地な訳じゃん。女生徒の家に行ってるから疑ってるんじゃないのか?」

「ああ、そうかもな」

「そうではありませんわ」


 俺の推理をエリザベートは否定した。


「私が一番疑っているのは……」

「いるのは?」

「貴方ですわ!シンさん!」


 …………


「「ええええええええ!!??」」

「はわわ、大人の話ですぅ!」


 何でだよ! 


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別作品、始めました


魔法少女と呼ばないで
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