魔道具を創ってみました
今日も今日とて森へ行く。
獲物を求めて森へ行く。
……っていうか森の中に住んでるんですけどね。
どうも、またちょっと成長して八歳になったシンです。
あの後からミッシェルさんのシゴキ……もとい稽古がグレードアップしました。してしまいました。まぁそのお陰で身体強化の魔法が使える様になったんですけどね。
この三年で変わった事と言えば、武術の稽古がグレードアップしただけではありません。
もう一人師匠が増えました。
実は魔法には前に話した魔力を制御してブッ放すものだけでなく、物品に概念を載せた魔力を転写する『付与魔法』というものがありまして、実は爺さんこの付与魔法が余り得意ではない事が判明しました。
魔法を付与するよりブッ放す方が性に合ってるそうで……まぁそんな訳で、不得意な人より得意な人に習った方がいいという事で爺さんの客のうちで付与魔術が得意な人に教わる事になりました。
で、これがまたいかにも『魔女』って感じの、黒いローブを纏いメガネを掛けトンガリ帽子をかぶった婆さんです。
背が高く、見た目はおばあちゃんなのにすげぇスタイルが良い。
若い頃は相当モテたんだろうなぁと思われる。
名前は『メリダ=ボーウェン』
俺はメリダばぁちゃんと呼んでる。メリダさんて呼ぶと返事してくれないんだよ。でも『ばぁちゃん』と呼ぶと凄く嬉しそうな顔をする。
……爺さんと昔何かあったのだろうか……怖くて聞けないけど……。
肝心の付与魔法ですけど、実はこれも付与する事自体はそう難しい事じゃない。
指先や杖の先に付与したい現象をイメージして魔力を集め、それを放出するのでは無く付与したい物品に『ある方法』でその魔力を転写するだけ。
後は魔力を込めるだけで、付与された魔法が発動するという仕組み。
魔法が使えない人にとっては非常に有用な技術で、付与魔法が使える方が一般人的には重宝されるそうだ。
もっとも、魔法が付与された物品、つまり『魔道具』は希少であり高価な物なので、おいそれとは手に入らないのだそうで、それをいくつ持っているかがステータスになるのだそうだ。
まぁ物品自体は安価な物でも良いそうなので高額なのはほぼ技術料だ。
で、その魔力を転写する為のある方法というのは『自分の理解している言葉で現象を書き込む』事だ。
この文字を書き込むというのが曲者で、実は書き込む物によって記載できる文字数に制限があるのだ。
安い素材は少なく、高い素材は多い。
逆に込められる文字数が多い程高価になるとも言える。
この世界の文字は、アルファベット等と同じで文字がいくつか揃って初めて意味を為す。
なので綴りが多いと一言だけで文字数がオーバーする事も珍しくない。
その時ふと思い付いたのが、漢字で転写したらどうなるんだろうという事。
一文字で意味を為す漢字ならソコソコの文字数を転写出来るのではないかと。
気になったので試してみたらアッサリ成功した。
ばぁちゃんにはメチャメチャ問い詰められられましたけどね……。
お陰で付与魔術もこれまでの魔法、いわゆる放出魔術と同じ様に大好きになった。
……武術は相変わらずしんどいですけどね……。
そして狩りに来ている今、俺の手元にはその付与魔術で創った武器が握られている。
遠距離攻撃用の『ライフル』
近接戦闘用の『バイブレーションソード』
行動補助用の『ジェットブーツ』
防御用の服である『プロテクトスーツ』である。
『ライフル』はそのまんまで、違うのは火薬で弾を発射するのではなく、魔法により圧縮された空気で発射する、所謂エアガンである事。まぁ威力はエアガンの比じゃないですけどね。
『バイブレーションソード』は、超音波振動している刃物。
まだ子供で重い武器が持て……なくはないけど、身体強化しながらというのは他に出来る事が少なくなるので、子供の力で持てる武器で何とか出来ないかと考えた結果、薄くて軽い武器にこの付与を付ける事を思い付いた。
これが評判良くて、非力な魔法職の人にはメイン武器として、戦士職の人にも素材の解体などが楽になると、色んな人から創ってくれと頼まれた。
『ジェットブーツ』は踵の部分からジェット噴射が出て、移動や跳躍の補助が出来る。空中での方向転換も出来る様になった。
創る事自体はそう難しくなかったんだけど……制御がメチャメチャ大変だった……。
使いこなせる様になるまで何回吹っ飛んだ事か……。
その様子を見ていた面々からは、これを創って欲しいという言葉はなかった。微妙な顔をしてたなぁ……。
そして最後の『プロテクトスーツ』は普通の服に『防刃』『対衝撃』『対魔法』の付与を付けた物。効果はそのまんま。
だって鎧とか革でも重いし動き辛いんだもの。
これは評判良いだろうと思ったが……意外と賛否両論別れた。
ばぁちゃん達みたいな魔法職の面々には素晴らしいと絶賛され、ミッシェルさん達みたいな戦士職の面々は立派な鎧がステータスである事もあり微妙な顔をされた。
そんな感じの装備に身を包んだ俺は、いつもの如く草むらに身を潜め獲物を狙っている。
今狙っているのはデッカイ猪。
地面にばら蒔いた木の実を貪る様に喰ってる。
俺は餌に夢中な猪の正面に回り込み眉間に向けてライフルをブッ放した。
弾は寸分違わず眉間に吸い込まれ、脳を破壊し後頭部から抜ける。
どんなにデカイ奴でも脳を破壊されれば生きてはいけない。三百キロ近い体がズズンと倒れる。俺は素早く近くの木に縄を掛け猪の足に括り付け宙吊りにしてから血抜きをする。もちろん穴を掘って血を撒き散らさない様に注意する。
血抜きが済んだらそのまま解体する。
初めのうちは吐いたけど慣れるもんだね。もう獲物が肉にしか見えない。
狩りを終えて家に帰ると、今日はばぁちゃんとミッシェルさんの両方がいた。
「おや、お帰り。狩りに行ってたのかい?」
「こんちは、ばぁちゃん。うん、今日は猪狩ってきた」
「ほう、もう猪が狩れるのか」
嫌な予感が絶賛発動中です。
「いや、ライフル使ったし、まだ剣では無理だよ?」
「はっは、そう謙遜するな。飛び道具を使ったとはいえ猪の様な大きい獲物に向かって行けるんだ、これはもう少し稽古を厳しくしても良さそうだな」
はい、定型文来ました。
俺は縋る様な思いで爺さんを見た。
「ほっほ、お手柔らかにのう」
こっちも定型文か!
っていうか、爺さんがここんとここれしか喋ってねぇよ!