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賢者の孫  作者: 吉岡剛
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鬱憤を晴らしました

「それにしても、ウォルフォードは剣も凄いのだな」

「ええ、驚いたわ。てっきり魔法使いのショボい剣だと思ってたから」

「それも賢者様から教えて貰ったのか?」

「いや、さすがにじいちゃんには無理だから、剣はミッシェルさんに教えて貰ったな」

「まさか! 剣聖様か!?」

「何? 本当かウォルフォード!」

「う、羨ましい……」


 魔物から助けてやってから、クライス達の態度が随分軟化した。


 道中はこんな風に雑談しながら進んだり出来るようになった。それはいいんだけど……。


「あ、前方に魔物の反応だ。皆、準備して」

「よし、シシリー、私の後ろにいろ」

「何言ってんだ! シシリーは俺が護るんだよ!」

「シシリーには指一本触れさせん!」

「あ、あの! 大丈夫ですから!」


 ……魔物が現れる度にシシリー、シシリー、シシリー……奴等はいつの間にか名前で呼ぶようになった。


 連携は今のところ上手くいってる。魔法を放ち、ダメージにより動きが止まった所を剣で仕留める。


 連携の訓練としては上出来だ。上出来だけど……。


「シシリー大丈夫か?」

「怪我はしてないか? シシリー」

「俺が護ってるんだ、怪我などさせるものか。なあシシリー」

「は、はぁ……」


 事ある毎にシシリーを構い出す。シシリーもどうしていいか分からず戸惑ってる。


 それは戦闘だけに限らず、藪を突っ切る時も。


「シシリー、気を付けろよ」


 倒木を越える時も。


「ほらシシリー、手を」


 少し歩くと。


「シシリー、疲れていないか?」

「あの、本当に大丈夫ですから」


 シシリー、シシリーって馴れ馴れしいんだよ!


「シン」

「あ?」

「もう、ほらイライラしないの」

「別にイライラなんか……」

「してるじゃない。そんなにイライラするなら言っちゃえば良いじゃない『シシリーは俺の女だから手を出すな』って」

「ばっ! 何言ってんだ!」

「関係無いならイライラする必要無いじゃない」

「……」

「まあ、シシリーも若干引いてるし、問題無いでしょ。女慣れしてない奴が、ちょっと優しくされたから自分に気があるとでも思っちゃったのよ」

「おーい、お前らまた魔物が来たぞ、準備しろ」


 イライラして魔物の反応を見逃したらしい。


 ……いや、別にイライラなんて……ああ! クソッ! やっぱりイライラするな!


 気を引き締め直して索敵魔法を掛ける。


 確かに右側から魔物の反応がある。しかも今度は団体だ。結構な数がいるな。


「ジークにーちゃん。ちょっと数が多くない?」

「ああ、これはちょっとマズイか?」

「そんなに数が多いのですか?」

「シシリー、我々の後ろにいろよ」

「あの、私も戦わないと訓練が……」

「いいから、女は私に護られていろ」

「いえ、あの、だから訓練……」


 こんな時までコイツ等……お姫様を護る騎士でも気取ってるつもりか?


 ……ああ、騎士候補生か……クソッ我ながら下らない事を……あれ?


「ちょっと待って、魔物の前に別の反応がある」

「ん? ああ、本当だな。これはひょっとして魔物に追われてるのか?」


 オーグも索敵魔法で確認したらしい。そしてその感想は当たってるだろう。


 しばらくすると、別の班が木々の間から飛び出して来た。


「ああ! ジークセンパイ! クリスお姉様! 逃げて下さい!」

「クリス様、ジークさん! 大変です! 魔物が大量に発生してこっちに向かってます!」


 指導教官の二人がこちらの教官に報告する。指導されてる両学院生は息も絶え絶えだ。


「どの位の規模だ?」

「少なくても百はいます!」

「百……!?」

「そんな!?」


 結構な数の魔物の群れになってるらしい。


「ジークにーちゃん」

「ん? なんだシン」

「それ、俺がやっていい?」

「……そうだな、頼めるか?」

「そ、そんなジークフリード様! シン君一人で百の魔物なんて!」

「シンに任せておけば大丈夫だよシシリーちゃん」

「正直、我々よりブッチ切りで強いですからね……そもそもこの訓練に参加する意味があるのでしょうか?」

「ほら! そこで座り込んでる奴等も! シンの邪魔になるから後ろに下がれ!」


 ジークにーちゃんとクリスねーちゃんが皆を後ろに『避難』させる。


 すると、森の奥から魔物の群れが見えてきた。


 ちょっとイライラしてるし、鬱憤晴らしに付き合って貰うぞ!


 現れたのは猪に狼、熊も混じっていた。


「こ、こんなに……シン君!」


 魔物はもうそこまで近寄って来てるけど、こっちの魔法も完成してる。悪いけど、全部吹っ飛べ!


 そして完成してる爆発の魔法を放つ。


 ……あ、やっべ、イライラして加減間違えた。


 急いで障壁を『二重』に展開させる。


 ドゴオオオオオオオオオオオン!!!!!


 大音量を撒き散らして、爆発魔法が炸裂した。


 爆発による粉塵が晴れた時、目の前の魔物が全部吹き飛んでるのが見えた。


 ……ああ、目の前が随分開けちゃったな。


 一応索敵魔法を掛けて魔物が残って無いか確認する。


 ……うん、全滅したな。


「シン君!」


 シシリーがいつものように駆け寄ってきてまた身体をペタペタ触り出した。


「見てたろ? 何も怪我なんかしてないって」

「本当ですか? こんな凄い魔法を使ったのに、ちゃんと自分で爆風を防げたんですか!?」

「そっちに爆風は行ってないだろ?」

「私達は大分後ろにいたじゃないですか! シン君は目の前で、こんな……こんな……」


 シシリーが俺の後ろを見て言った。


「こんな辺り一面(・・・・)吹き飛ばしちゃうようなもの凄い魔法使ったのに!!」


 ……やっぱやり過ぎたかぁ……見渡す限り木々が薙ぎ倒されちゃって、障壁を展開した所から先だけ不自然に木が残ってる。とんだ森林破壊をしちゃったな。


 その先には『避難』していた皆が、口を開けて呆然としていた。


「本当にどこも怪我してませんか?」

「あーうん、大丈夫、心配掛けてごめんな」

「本当です! シン君は色々と無茶し過ぎです! 心配するこっちの身にもなって下さいよ……」

「……ホントごめん」


 シシリーに怒られながら皆の所へ向かうと、呆然としていた皆がやっと喋りだした。


「な……なんですかあぁぁ!!? これはあぁぁ!?」


 ジークにーちゃんの後輩の魔法師団員の姉ちゃんが叫んだ。


「これが……現代の英雄の力……」

「え? ナニコレ? さっきと風景が違うんですけど?」

「……なんでこんな奴が訓練に参加してるんだ?」


 オーグとマリア、ジークにーちゃんにクリスねーちゃん以外、俺の魔法を見た事無かった人達が口々に呟く。


「これは……前に見た時より凄くなってねえか?」

「あの時も相当抑えてたんでしょうね。」

「相変わらず無茶苦茶というか何と言うか……」

「まあ、シンだしな」


 知ってる連中の意見も非道い。


「そ、それよりさ、何でこんな事になってんの?」

「おう、そうだ。エミリー、どうなってるんだよ?」


 ジークにーちゃんがエミリーと言うらしい別の班の指導教官に訊ねた。


「え? ああ! 私達はもっと浅い所で訓練をしてたんですよ。で、もうちょっと奥まで行けそうだったから少し進んだんです。そしたら……急に索敵魔法の探知外から大量に魔物が流れ込んで来て……」

「目視出来る距離まで、あっという間に近付いて来たんです」


 索敵外から急に……って事は……。


「ジークにーちゃん。奥に何かいるよ、コレ」

「ああ、間違い無いだろう。しかも熊みたいな大型も混じってやがった。これは、嫌な予感しかしなっ……!!」


 ジークにーちゃんが不意に言葉を切った。俺の索敵魔法にも掛かってる。


「う……うそ……うそでしょ!?」

「何よ、コレ!」


 別の班の魔法学院の生徒が悲鳴を上げる。


 索敵魔法が使えない騎士学院の生徒は戸惑うばかりだ。


「何だ? 何が起こった?」

「ちょっと! アンタ達だけ納得してないで教えてよ!」

「ジーク、ひょっとして……」

「ああ、最悪の事態だ」

「っ! それでは早く撤退しないと!」

「もう遅い!!」


 ジークにーちゃんの叫びとソレが現れたのは同時だった。


 そこにいたのは……。


 五メートル程ある、魔物化した虎だった。


「虎の……魔物……」

「は、はは、マジかよ……」

「い、嫌だ! 死にたくない!」


 皆が絶望の表情を浮かべる。


「シシリー! こっちに来い!」


 クライスがシシリーの腕を取り離れて行こうとする。


「放して下さい!」

「シシリー! 何を言ってる!? 早く逃げろ!!」

「逃げるならあなた方だけでどうぞ。私は……残ります」

「な! 何を言ってる!!」

「シン君が、万が一怪我をした時の為に、私は残ります」

「馬鹿な! 相手は災害級だぞ!? ウォルフォードでも勝てるものか!!」

「シン君を知らない人は黙って下さい!」


 シシリーが珍しく大声を上げた。


「フ、そうだな、シンにとっては造作も無い相手か」

「確か前に魔人の事を『虎の魔物より強いけど弱すぎておかしい』って言ってましたね……」

「そういえば俺も報告で聞いたな、その感想」

「……過去の虎の魔物討伐のトラウマが冷静さを失わせてしまいましたね……」


 クリスねーちゃんも虎の魔物にトラウマがあるんだ。というかそろそろ下がってほしいんだけど?


「という訳で、お前らもう一回『避難』しろ!」

「ほら、早く行きますよ。今もシンが虎を魔力による威圧で足止めしてるんですから」

「クリスティーナ様! ウォルフォードがやるなら私も!」

「ダメです。私とジークでも足手まといにしかなりません。アナタ達は私より強いですか?それも圧倒的に」

「い、いえ……それは……」

「なら行きますよ」


 クライスが残りたがってたみたいだけど、クリスねーちゃんに説得されてようやく避難する。


「シン君」

「ん?」

「無茶はしないで下さいね」

「おう、チャチャっと討伐するから待ってて」

「はい、待ってますね」


 そう言ってシシリーも皆と一緒に後ろに避難した。


 さて、虎と獅子の魔物は災害級って言われてる。


 獅子は虎より遅いけど、凄いパワーがある。


 虎は獅子より力は劣るけど、スピードが凄い。となると虎の倒しかたは……。


 ずっと足止めに使ってた魔力を霧散させて、身体強化魔法を掛ける。筋力だけじゃなく骨も強化させる。


 すると、ようやく魔力による束縛から解放された虎が自分を押さえ付けていた者に対して怒りの声を上げる。


『グルルルゥアアアアアアア!!!』

 

 そして俺に向かって突っ込んで来るが……。


「ニャアニャアうるせぇんだよ!! このデカネコが!!!」


 身体強化によるブーストで前方に飛び出し、虎の顎の下から思い切り膝蹴りを食らわせた。


『ガアアアアアアアアア!!』


 下から顎を打ち抜かれた虎は、後ろにクルンと一回転してスタっと着地した。


 あれ? 衝撃が抜けちゃったな。あんまりダメージ無いか?


 あ、そんな事無いわ。虎の足、ガクガクしてる。突っ込んで来た勢いをそのままカウンターで還したからな。


 虎の魔物と戦うには魔法を放つより身体強化して物理攻撃した方がいい。素早いから避けられる事もあるんだよね。獅子は逆だけど。


 さて、さっさと仕留めようとバイブレーションソードを出しながら虎に近付いて行くと、威嚇の唸り声を上げていた虎が俺の後ろの皆を見た。


 そして、俺よりくみやすいと感じたのだろう、俺を迂回し皆の所へ行こうとするが……。


「んな事させる訳ねえだろうが!!」


 虎の視線から目的が分かった俺はすぐに虎に追い付き、背中に乗り、バイブレーションソードで首をはね飛ばした。


 皆との距離の半分位かな? 皆の方に行きそうになったけど、コレなら皆を危険に晒した事にはならないだろ。


 無茶もしなかったし、良い感じで討伐出来たかな?


 上出来だと思って皆の所へ行くと、やっぱり呆れ顔だった。何で?


「シン君……聞いて良いですか?」

「うん。なに?」

「虎の魔物ってああやって倒すんですか?」

「そうそう、虎って素早いからさ、身体強化して物理攻撃で倒すのが効率良いんだよ」

「そうですか……膝蹴りも?」


 シシリーがそう聞いた所で皆も喋りだした。


「膝蹴りって……」

「あれはないだろ……」

「あのデカイ虎が一回転してたわ……」

「何と言うか、これは……」

「無茶苦茶ですね」


 あれ!? 膝蹴りはダメでしたか!?


 恐る恐るシシリーを見ると……頬を膨らましていた。


「もう! 無茶はしないでって言ったじゃないですかあ!」

「わ! ごめん! あれが無茶だとは思って無かった!」

「シン君なら大丈夫って信じてても……虎の魔物に突っ込んで行った時は心臓が止まりそうだったんですよ……」


 シシリーがちょっと泣きそうになってる。


「また心配掛けちゃったか……ごめんな」

「……本当に無事で良かったです……」

「うん」

「あ……そうだ」

「ん?」

「シン君、おかえりなさい、お疲れ様でした」


 そう言ってニッコリ笑ってくれた。


「うん、ただいま」

「それと、私達を助けてくれてありがとう」

「どういたしまして」


 俺は胸に手を当てて気取って頭を下げる。


 そして顔を見合わせシシリーと笑いあった。


「なあマリアちゃん。コイツ等付き合ってんの?」

「いえ……それがまだなんですよね……」

「マジで!?」

「マジです」

「信じられませんね」

「さっさとくっつけば良いのに」


 外野がウルサイ!

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別作品、始めました


魔法少女と呼ばないで
― 新着の感想 ―
騎士団やシンの沸点が低すぎて草も生えない 魔物相手にしょうもないセリフを吐かないでほしい
[良い点] 毎回不気味な謎が明かされるのと並行にシンのこつこつした能力開発が描かれやがてリンクしキーになるのではと言う予感や、練り上げた魔法設定が凄く私がみたなろう小説の中でも最高レベルに面白いです。…
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