表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
賢者の孫  作者: 吉岡剛
306/311

ある日のシャルの学院生活

「ぐぬぬぬ……」


 アールスハイド初等学院、一年の教室。


 その教室内で、一人の女子生徒が算数の小テストの答案を手に悔しそうな表情を浮かべていた。


「あ、アリーシャちゃん。テスト何点だった?」


 答案を手に近寄ってきたのはマックスだ。


 声をかけられたアリーシャは、一瞬マックスを睨むと、自分の答案に視線を落とした。


「……マックス君は何点でしたの?」

「僕? 僕は九十三点」

「きゅっ!?」


 なんか、急に絞められたような声をあげるアリーシャに、マックスはビクッとなる。


「レ、レイン君は?」


 アリーシャは、マックスと一緒にいるレインにも点数を聞いた。


 するとレインは、おもむろに口を開いた。


「おれは……」

「……」(ゴクリ)

「七十点」

「レイン君……」


 レインの点数を聞いた途端、アリーシャの顔が慈愛に満ちた表情になった。


 恐らくアリーシャの点数より低かったのだろう。


 しかし、その態度はあからさますぎた。


 ハッとそのことに気付いたアリーシャは、もしかしたらレインが気を悪くするのでは? と焦った。


 だが。


「ん。予想より上出来」

「っていうか、レイン授業中よくウトウトしてるのに、よくそんな点数採れるね?」

「んー、勘が当たった」

「勘って……」


 アリーシャは、レインがあまり勉強が好きではないのではないか? ということに気付いた。


 それなら、とアリーシャは思い切ってレインに声をかけた。


「あ、あの、レイン君!」

「ん? なに?」

「あの、もしよかったら……」

「うん?」

「い、いっしょにおべんきょしませんか!?」


 ……また噛んだ。


 思い切って声をかけたのに、また噛んでしまいアリーシャは真っ赤になった俯いてしまった。


 流れる気まずい雰囲気。


 それを切り崩したのはレインだった。


「ん、いいよ」

「え!?」

「あ、でも」

「え?」

「おれら、大体シャルんちで勉強してる」

「シャルロットの……」


 シャルロットの家。


 すなわち、ウォルフォード家。


 先日初めて遊びに行ったが、王族、英雄、聖女、賢者、導師と勢ぞろいのとんでもない家だった。


 そこで勉強?


 アリーシャの身体が震えた。


 そんな環境で勉強をしたとしても、気もそぞろになって勉強に身が入らない自信がある。


 それはどうにかお断りしようとレインに声をかけようとしたが、一足遅かった。


「おーい、シャル」

「なーに?」

「あ、ちょ」


 アリーシャが止める間もなく、レインの呼びかけに応えシャルロットが近寄ってきた。


「なに? レイン」

「うん、シャル、何点だった?」

「わたし? わたしは、九十五点」

「きゅっ!?」


 またアリーシャから、絞められたような声が聞こえた。


「ど、どうしたのアリーシャちゃん」

「な、なんでもありませんわ」


 アリーシャは、シャルロットの点数に衝撃を受けた。


 もちろん、高得点であったことも、自分より高い点数だったこともあるが、アリーシャはなんとなくシャルロットのことを頭の悪い子だと思い込んでいた。


 それが、蓋を開けてみれば自分より頭がいいとは……!


 どうにも釈然としなかったアリーシャだが、マックスとレインにとってはそうではなかったらしい。


「さすがだねえ。シンおじさんに教わってるの?」

「ママもだよ!」


 その言葉でようやく腑に落ちた。


 魔王シンと言えば、魔法の強力さだけがよく取り沙汰されているが、今まで誰も思い付かなかったような魔法を理論的に説明し、魔法界に多大な貢献をしているという。


 魔法を教えるのも得意で、特にアルティメット・マジシャンズに新たに入団した魔法使いは、それまでとは比べ物にならないほど成長するという。


 聖女シシリーは、幼少期から優秀な学生であったことが知られている。


 優秀で教え上手な両親から直接勉強を教われる環境。


 これで成績が悪いわけがない。


「な、なに? アリーシャちゃん」

「……べつに」


 思わずシャルロットを睨みつけてしまったアリーシャだったが、これがただの嫉妬と八つ当たりであることは自分でよく分かっていたので、それ以上シャルロットに噛み付くことはしなかった。


「それでさ」

「うん?」


 そういえば、レインがシャルロットを呼んだのは別の理由だった。


「アリーシャが、シャルの家での勉強会に参加したいって」

「そうなの!?」


 レインの説明を聞いたシャルロットは、目を輝かせてアリーシャに詰め寄った。


「ちょ! 近い! 近いですわ!!」

「わあ! やろ! うちでいっしょにお勉強しよ!」

「わ、分かりました! 分かりましたから離れなさい!」

「やった!」


 シャルロットは、新しくできた友達が家に遊びに来てくれるのが嬉しくて仕方がない。


 アリーシャは、こんなに喜んでもらえるとは思ってもおらず、面喰らって顔を赤くした。


「そういえば、ヴィアちゃんは何点だった?」


 マックスの言葉で、ハッと気が付くアリーシャ。


 シャルロットがいるということは、オクタヴィアも一緒にいるということだ。


 なぜ忘れていたのか。


 ウォルフォード家で勉強会をするという話が衝撃的すぎたからだと、自分に言い訳をしているとオクタヴィアがニコッと笑って答えた。


「九十八点ですわ」

「! 殿下……!」


 何気なく答えたオクタヴィアの点数に、アリーシャは絶句したあと、羨望の眼差しを向けた。


 さすが王族。九十八点なんて高得点をたたき出すなんて凄い! と思っていたのだが、マックスとレインは意外そうな顔をしていた。


「あれ? そうなの?」

「満点だと思ってた」

「一ヵ所、計算間違いをしてしまったのですわ。それがなければ満点でしたのに」

「おにーちゃんのことばっかり考えてるからだよー」

「まあ! なにを言うのシャル! シルバーおにいさまのことを考えないときなんてひと時もありはしないのですよ!?」

「……殿下……」


 満点が当たり前だと思われているところは素直に凄いと思っていたのに、そのあとに続く残念さ。


 これにはアリーシャも思わずゲンナリする他なかった。


「ところで、アリーシャさんは何点でしたの?」

「え?」


 そういえば、まだ自分の点数を伝えていなかった。


 しかし、この面々を前に発表するのは恥ずかしい。


 だがオクタヴィアまで発表したのに自分が発表しないわけにはいかない。


 アリーシャは思い切って点数を発表した。


「……八十八点ですわ」

「……あー」


 良い点数であることは間違いない。


 しかし、周りが軒並み高得点なので、なんとも微妙な点数に見えた。


 オクタヴィアたちの反応に、アリーシャが羞恥に震えていると、その肩をポンと叩かれた。


「どんまい」

「レイン君に言われたくありませんわ!?」


 自分より点数が低いレインに慰められたことに思わずツッコミを入れてしまった。


「まあまあ、一緒に勉強すればすぐに点数は上がるって。シルバーおにいちゃんも教えてくれるから」

「まあ、シルバー様も?」


 シャルロットの兄であるシルベスタとはすでに何度か会っていて、その初等学院生男子に似つかわしくない紳士的な振舞いに好感を持っていた。


「ところで、シルバー様も優秀でいらっしゃるの?」


 そのアリーシャの言葉に、シャルロットたち四人が顔を見合わせた。


「シルバーおにーちゃん、去年三年生だったとき学年一位だったよ」

「……やはり優秀ですのね」

「当然ですわ!」

「あひっ!」


 オクタヴィアが突然大きな声を出したので、アリーシャは驚きのあまり変な声を出してしまった。


「シルバーおにいさまが優秀なのは、太陽が東から登って西に沈むくらい当たり前のことですわ! そんなシルバーおにいさまとの勉強会……ああ、考えただけでドキドキします!」

「っていうかヴィアちゃん、いつも思うけど、なんでシャルんちで勉強会してるの? 家庭教師いるんじゃないの?」

「そんなの! シルバーおにいさまに教えてもらえるからに決まっていますわ!!」

「……殿下……」


 なんというか、もう……なんだろう?


 シルベスタが関わるときのオクタヴィアにはあまり触れないでおこう。


 そう誓うアリーシャなのであった。


 しかし、勉強会ではシルベスタに教えてもらうオクタヴィアがいる。


 その様を見せつけられることになる。


 その結果、自分がオクタヴィアにどんな感情を持つのか、今から不安でしょうがないアリーシャなのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
別作品、始めました


魔法少女と呼ばないで
― 新着の感想 ―
[一言] アリーシャって、別のやつに向いてると思ってた
[気になる点] 賢者の孫17 永遠無窮の英雄譚 (ファミ通文庫) 文庫 – 2022/11/29 吉岡 剛 (著), 菊池 政治 (イラスト) https://www.amazon.co.jp/dp/…
[一言] そろそろ、登場人物のまとめ お願いします。 誰が誰の子だったか分からなくなってきましたので。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ