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賢者の孫  作者: 吉岡剛
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次世代の団員

「へえ、初等学院での魔法の授業は脅しから入るですか! 知らなかったです!」


 そう言うのは、アルティメット・マジシャンズに入って三年目。


 もう二十歳になったメイちゃんだ。


 メイちゃんは高等魔法学院を首席で卒業したあと、アルティメット・マジシャンズに入団した。


 もちろん、縁故やコネなどではなくちゃんと入団試験を受け自力で合格している。


 試験結果としてはブッチギリの一位だったので、同期入団の人たちからのやっかみなどはなかった。


 ただ、まあ、自身が王女様だし、兄は王太子でアルティメット・マジシャンズの副長であったりするので、世間的にはコネ入団を疑っている人も中にはいるらしい。


 そういう人はメイちゃんの実力を間近で見たことがない人がほとんどなんだけどね。


 今のメイちゃんの実力は、アルティメット・マジシャンズの中でも相当に高い力を持っている。


 攻撃魔法は、オーグには及ばないけどそれに近い力を持っているし、過去にユーリから指導を受けたことがあるので魔道具への付与もできるし、シシリーに凄く懐いているのでシシリーから治癒魔法の指導も受け、シシリーほどではないにしろ治癒魔法も使える。


 ちょっとずつその道の専門家には及ばないけど、いずれも高いレベルで使いこなすことができる。


 使えないのは剣だけじゃないかな?


 これは、メイちゃんが興味を示さなかったので習っていないだけ。


 習えば、それも高レベルで身に付けていたんじゃないだろうか?


 お陰で、難しい案件もメイちゃんにお願いすればなんとかなる、そんな認識がアルティメット・マジシャンズ内に広がっている。


 そんな才能溢れるメイちゃんは、朝事務所に出勤してきた際に俺と雑談をするのが日課になっているのだが、先日初等学院で行われたシルバーの初めての魔法実習の話をしたところ、先の反応が返ってきたのだ。


「そういえば、メイちゃんたちは中等学院から魔法の授業があったんだっけ」

「です。なので初等学院でどんな授業をしているのか気になってたです」


 そう言うメイちゃんが魔法を習い始めたのは十歳の夏休み。


 俺たちの合宿に付いてきたのが切っ掛けだった。


 爺ちゃんと婆ちゃんから魔法を教わったのだが、当時、俺という存在相手に魔法を教えていたこともあり初等学院生には魔法を教えないという一般常識を二人ともすっかり忘れてしまっており、その結果当時珍しい初等学院生の魔法使いが誕生したのだった。


 初等学院で魔法を教えようということになったのは本当にごく最近、具体的に言うと三年前からなのでメイちゃんも初等学院での魔法の授業内容は知らない。


 シルバーのことは赤ちゃんのときから知っているし、その子が初等学院でどんな魔法の授業を受けているのかというのも気になったのだろう。


「まあ、中等学院生もまだ幼いけど初等学院生は本当に子供だからね。遊び半分で魔法を使うと大変なことになる、ということが分かってない子も多いから。最初に脅しをかけておこう、ってオーグが言いだしてな」

「ああ、お兄様なら言いそうです」


 オーグがそう言っているところを想像したのだろう、メイちゃんは苦笑しながらそう言った。


「メイちゃんにはオーグっていう抑止力があったけど、初等学院で授業するとなると相当な人数になるだろ? その一人一人に監視役を付けるのは不可能だから、自分自身にその自覚を持ってもらわないと」

「抑止力って……まあ確かに、お兄様は恐かったです……今も恐いですけど」

「そのオーグが娘のヴィアちゃんにはタジタジになってるの、ウケるよな」

「あはは! まあ、妹はともかく娘に嫌われるのは避けたいんじゃないです? 知りませんけど」


 二十歳になったメイちゃんは、初めて会った十歳のころから中身はあんまり変わっていないように思える。


 話し口調も昔のまんまだしね。


 ただ、外見は大分変わった。


 中等学院に入ったころから体形が女性らしくなり、今では背も伸びメリハリのある大人の女性の体形になっている。


 二十歳を過ぎてもあんまり体形の変わらなかったアリスが、血の涙を流す勢いで羨ましがっていたのを思い出すなぁ……。


 それに加えて、アールスハイド一の美男子と言われるオーグの妹だけあってルックスも整っている。


 美女で、抜群のプロポーションで、アルティメット・マジシャンズの中でも高位実力者で、性格も昔のまま純粋。


 モテないはずがないのだが、二十歳になった今でもまだ結婚はしていない。


 それは……。


「シン代表。おはようございます」


 俺とメイちゃんが雑談をしていると、新たに出勤してきたメンバーが挨拶をしにきた。


「あ! おはようです! エクレール君!」

「おはようございますメイ様。今日もお美しいですね」

「はわわ! こんなとこでそんなこと言っちゃダメです!」

「ふふ。では、仕事が終わってからですね」

「あう……」

「あのさ、君たち……仕事場でイチャつかないでくれる?」


 俺たちに話しかけてきたのは、アルティメット・マジシャンズの新入団員でメイちゃんと同期のエクレール君。


 フルネームを、エクレール=フォン=スイードと言う。


 名前からお察しの通り、スイード王国の王子様だ。


 スイード王国王位継承順位第三位の第三王子だったが、中等学院での魔法実習で高い才能を発揮。


 将来有望とみなされたのだが、当時のスイードはアールスハイドに比べて魔法技術において劣っていた。


 そこでスイード王家は、俺たちアルティメット・マジシャンズが常駐し常に魔法に対してアップグレードを続けていた魔法技術最先端の国、アールスハイドに留学させようということになった。


 そういう経緯により中等学院二年生から、メイちゃんも通っていたアールスハイド中等学院に転入。


 メイちゃんと同い年であり隣国の王族ということで、学院ではメイちゃんたちと一緒に行動するようになる。


 初等学院生時代より俺たちの指導を受けていたメイちゃんの魔法の実力は、スイード王国内で天才と持て囃されていたエクレール君の高くなっていた鼻を簡単にへし折った。


 身分も自分と同じ王族。


 現時点で自分よりも高い実力を誇る魔法。


 おまけに美少女。


 すっかりメイちゃんに惚れこんでしまったエクレール君は、本国を通してアールスハイド王家にメイちゃんとの婚約を打診。


 しかし、アールスハイド王国は王家まで含めて恋愛結婚推奨の国。


 政略結婚もあるにはあるが、世界一と言っていい大国のアールスハイドにとって、政略結婚でスイードと結びつく意味はあまりない。


 なので、この『王家同士』での申し出をアールスハイドは却下した。


 ただし、エクレール君『個人』がメイちゃんを口説き落としてお付き合い、結婚するのならそれを容認するという内容の返事をした。


 元々メイちゃんに惚れこんで政略結婚の申し出をしたエクレール君は、早速メイちゃんへのアプローチを開始。


 ことあるごとに『綺麗だ』『素敵だ』『素晴らしい』と称賛してくるエクレール君に対し、メイちゃんはそれを留学している先の国の王族に対してのお世辞だと思っていたらしく、全く響かなかったそうだ。


 しかもメイちゃんにとっては色恋沙汰より魔法が一番。


 高等魔法学院卒業後にアルティメット・マジシャンズに入団できるチャンスがあるということで、それを目標に誰よりも熱心に魔法の訓練をしていた。


 悉くアプローチが失敗したエクレール君は、ならばメイちゃんが一番夢中になっている魔法で実力を認めさせれば自分のことも意識してもらえるのでは? と目標を変更。


 魔法の訓練に打ち込むようになる。


 ……というか、スイードで受けられない高度な魔法を習いに来てるんだから、それが本道でしょうよ。


 前にそう言ったら「仰る通りですが、当時はそれすら忘れるほど必死だったのですよ」と色んな意味で照れながら話してくれた。


 まあ、そんなこんなで魔法を一生懸命頑張りだしたエクレール君。


 当然、メイちゃんも一緒に訓練する。


 一緒に訓練しているうちに、隣国の王族というお客様扱いから友人にランクアップし、さらに研鑽を重ねて、初等学院時代からの友人であるアグネスさんやコリン君も一緒にアールスハイド高等魔法学院に合格。


 高等魔法学院生になったころから始めたハンター協会での魔物討伐によりさらに仲が良くなり、メイちゃんもエクレール君を意識するようになった。


 頑張ったなあ、エクレール君……。


 こうしてエクレール君を意識し出したメイちゃんだったが、その後もしばらく関係性は変わらなかったそうだ。


 そして、学院卒業間近になってエクレール君の進路が気になりだしたメイちゃん。


 エクレール君はスイードの王族なので、学院を卒業すれば本国に帰還する予定だった。


 それを聞いたメイちゃんは大きく動揺し、自身の気持ちを自覚したのだとか。


 いや、遅。


 その結果、なんとメイちゃんからエクレール君に告白。


 舞い上がったエクレール君は、当然それを了承。


 そういう経緯で、今この二人はお付き合いをしている恋人、兼、婚約者なのだ。


 初めて聞いたときは「甘酸っぺえなおい」と思ったもんだ。


 ちなみに、エクレール君もアルティメット・マジシャンズにいるのは、ウチに入団すればスイード王家からアルティメット・マジシャンズ所属団員を輩出したと自慢できるし、国に帰らなくてもよくなるから、という理由。


 清々しい表情で面接のときにそう話してくれた。


 まあ、メイちゃんたちと一緒に研鑽していたので、実技試験もメイちゃんに次ぐ次席での合格となり、今は一緒にコンビを組んで仕事をしてもらっている。


 しかし、お付き合いをしだしてまだ二年とちょっとなので、ことあるごとにこうしてイチャイチャしだすのだ。


「まったく、もうちょっと仕事とプライベートのけじめをね……」

「アンタが言っても説得力ないわよ」


 若い二人にお説教をしようとしたら、マリアに割り込まれた。


「隙あらばシシリーとイチャイチャイチャイチャしてた奴がなに言ってんの? この世で一番その台詞を言われたくない人物よアンタ」

「……ぐぅ」


 ぐぅの音が出た。


「そうだったです! シンお兄ちゃん、いっつもシシリーお姉ちゃんとイチャイチャしてたですよ!」

「そうなんですか? 仲の良い夫婦の代名詞とも言われるシン様ご夫妻の熱愛振りを私も見てみたかったです」

「それはもうアンタ。四六時中イチャイチャイチャイチャしててねえ。見てるこっちが恥ずかしくなることが何度あったことか」

「お、おい、そこまでじゃなかっただろ!」

「そこまでだったわよ!! 何回イチャついてるアンタたちに魔法をぶっ放してやろうかと思ったことか!」

「……」


 マリアさんがガチギレしていらっしゃる。


 確かに、俺自身、若いころは四六時中シシリーとイチャイチャしていた自覚はある。


 しかし、こうして若い子たちの上に立つ立場になった以上、教え導くのも上に立つ者の役目なわけで……。


「ということで、シンからの言葉には説得力がないので私から言わせて頂きます。メイ様、エクレール様、ここは仕事場です。イチャイチャするのはお仕事が終わってからになさってください」

「はーい」

「すみませんマリア先輩。以後気を付けます」

「分かっていただければ結構です」


 ……いや、それ、俺がやりたかったやつ。


「マリアお姉ちゃんに言われると説得力があるです」

「そうですね。夫であるカルタスさんが事務所にいるのに、イチャイチャしているところを見たことがありません。ちゃんと公私を分けていらっしゃるマリア先輩に言われると、納得せざるを得ません」


 これが説得力か……。


 確かに、マリアとカルタスさんは夫婦だけど事務所でイチャついているところを見たことがない。


 王族二人から尊敬の眼差しで見られているマリアは、俺を見てドヤ顔をした。


 くっそ……ムカつくけど、なにも言えない……。


 こんなところで自分の過去の行動が自分の首を絞めることになるとは……!


 自分自身の不甲斐なさに歯ぎしりしていると、エクレール君が「そういえば」とメイちゃんに話しかけた。


「昨日、コリンとドネリー嬢から手紙が届いていたのですが、メイ様のところにも来ましたか?」


 コリン君は、俺も小さいときからお世話になっていたハーグ商会会頭トムさんの息子で、ドネリー嬢とはメイちゃんと幼いころから仲の良かったアグネスさんのことだ。


「来たです来たです!! 嬉しくて飛び跳ねちゃったですよ!」

「え? コリン君とアグネスさんからの手紙で? なにが書かれてたんです?」


 メイちゃんの友達で高等魔法学院にも在籍していたから、マリアも二人のことを知っている。


 飛び跳ねるほどメイちゃんを喜ばせたという手紙の内容が気になるのだろう。


 マリアに訊ねられたメイちゃんは、満面の笑みで答えた。


「アグネスさんとコリン君が結婚するですよ!! その結婚式の招待状を貰ったです!!」

「え、そうなの!?」

「あれ? シンお兄ちゃんのところには来てないです?」

「昨日だろ? 報告には無かったな」


 ウチには平民の家にも関わらず執事とメイドがいる。


 家に来る手紙の管理も執事の仕事なのだが、昨日はそんな報告はなかった。


 え、結構仲良くお付き合いしてたと思うんだけど、あれ? 俺の独り善がりだったかな……。


「うーん、おかしいです。ちょっと聞いてみますね」


 メイちゃんはそう言うと、無線通信機でどこかに通信をかけ始めた。


 いや……そろそろ仕事の時間だけど……。


 そう思っていたのだが、相手が出てしまったらしく、会話が始まった。


「あ、アグネスさん? メイです。今大丈夫です?」


 通信の相手はアグネスさんだった。


「あ、これからお仕事でしたか、じゃあまたあとで……え? 大丈夫です?」


 なんか今から仕事だったらしいけど、王女であるメイちゃんからの連絡の方が優先されるんだろう。


 会話が続く。


「昨日お手紙届いたです。おめでとうございます! 初等学院のころから、いつかこの日が来るのを信じてたですよ!」


 そういや、初等学院のころからアグネスさんのコリン君への想いは駄々洩れだったな。


 周囲は気付いているのに、コリン君だけ気付いてなかったけど……。


「式には当然伺うです! それでですね、シンお兄ちゃんのところには招待状送ってないです?」


 本題を切り出したメイちゃんは、その後「はい、はい」「ああ、確かに」「じゃあ、聞いてみるです」と言ってこちらを見た。


「シンお兄ちゃん、アグネスさんが、シンお兄ちゃんに結婚式の招待状を送るのは不敬にならないか? って聞いてるですけど、なります?」

「なるわけないでしょ!? むしろ子供の頃からお世話してる子たちが結婚するのに招待状貰えなくて寂しかったよ!」

「と言ってるです。なので、招待状送っても大丈夫ですよ」


 メイちゃんはそう言って通信を切った。


「なんか、シンお兄ちゃんに自分たちなんかの結婚式に来てもらうとか、畏れ多くてできなかったって言ってたですよ」

「いやいやいや、そもそもコリン君のお父さんのトムさんには俺が幼いころからお世話になってるんだから、その息子さんのコリン君の結婚をお祝いするのは当然でしょ!」

「そういえばそうでした」


 まあ、コリン君たちから招待状が届かなくてもトムさんからは来てたかもしれないけどさ、やっぱり本人たちから招待して欲しいじゃん。


 ともかく、これでコリン君たちの結婚式に行けるね。


 しかし、仲間内だけでなく、面倒を見ていた後輩たちも結婚するようになったか……。


「そういえば、メイちゃんとエクレール君はいつ頃結婚するの?」

「ほあっ!?」


 コリン君とアグネスさんが結婚するというので、二人の同級生であるメイちゃんとエクレール君はどうするのかと聞いたら、メイちゃんが変な声をあげた。


「えぅ、あの……」

「私たちはもう少し先ですね。王族同士の結婚ですし。恐らく臣籍降下になると思いますが、どちらの国の公爵位を賜るのかまだ協議中ですから」


 これが、メイちゃんが王女で二十歳なのにまだ結婚していない理由だ。


 王族同士の結婚は大変なんだなあ。


 まあ、この二人はお互い強く想い合っているようだし、どちらになっても大丈夫だろう。


「そうか、それならこの話はここで終わり。早速仕事に入ってもらおうかな」

「了解です!」

「承知しました」

「ほーい」


 三者三様の返事をしたあとカタリナさんから依頼表を受け取り、仕事をしに行った。


 それを見送ったあと、俺は自分の椅子に深く座り「ふー」と深く息を吐いた。


 そうか、あの子たちが。


 いつの間にか、そんなに時間が流れたんだなあ。


 うちも、上の子が魔法を教えてもらうようになったし、着実に次世代は育っている。


 そう実感する出来事だった。



メイちゃんとエクレール君のあれこれは、また別の機会にお届けしたいと思います。


今のところはダイジェストでご了承ください。

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別作品、始めました


魔法少女と呼ばないで
― 新着の感想 ―
[良い点] 年代がしっかりと進んで、みんなの成長が見られること。 作者にも読者にも、物語の流れや(悲しいけど)終わり(完結)が期待出来ること。
[気になる点] メイちゃんの容姿が気になる。まあアニメ版でアリスとリンが想像してた姿になったのだろうなと。
[一言] 万能なメイちゃん、ミニ·シン=ウォルフォードって感じになるのでしょうか楽しみです。 嫁ぎ先も有りそうですし、そうなるとリンがどうなったか気になる所 他のメンバーの、その後も気になります。
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