子供向けの玩具って、意外と難しい。
オーグとの話し合いの結果、幼児に魔道具を使わせると基礎魔力量が上がり魔法使いの適正が得られる可能性が見えてきた。
なので、間違って利用しても害のない、初等学院性でも率先して使ってもらえるような魔道具の制作を行うために、俺はビーン工房を訪れていた。
今の幼児向け魔道具は、本当にただ光ったり、クルクル回ったりするだけで、それ以降の発展がない。
ただ、幼児にとってはそれだけでも楽しいものであり、暇さえあればそれで遊んでいる子も多いと聞く。
しかし、幼児にとっては面白いものでも初等学院生にもなるとそれだけでは満足できなくなってくる。
実際、シルバーも、最初は楽し気に遊んでいたが段々と興味がなくなってきたのを感じたので、次々に開発していったという経緯がある。
シャルやショーンはまだ楽し気に遊んでくれているけどね。
聞けばアレン君やクレスタさんも、最近は使っていないとのこと。
というわけで、オーグの要望にもあったように初等学院生でも楽しんで使ってもらえるような玩具を作る必要があるわけだ。
ということで開発に着手したわけだけど、一人で考えていると考えが行き詰ってしまう可能性があるので人の多いビーン工房にお邪魔しているというわけだ。
「というわけで、オーグから初等学院生向けの魔道玩具の制作をお願いされたわけだけど、なにか案はないかな?」
ビーン工房の俺が普段使わせてもらっている作業室に集まってくれた面々に向かって、経緯の説明をしたあとで玩具のアイデアがないか訊ねた。
ここに集まっているのは、ビーン工房の工房長でありマークの親父さんであるハロルドさん、マーク、ユーリである。
三人は、俺の話を聞いたあと、深い溜め息を吐いた。
「シン、お前なあ……マークやユーリの嬢ちゃんはともかく、俺にそんな国家機密をホイホイ話すんじゃねえよ……」
「え? いや、俺だってホイホイ話してませんよ? 通信機事業っていう国家プロジェクトに関わってる親父さんだから話してるんです」
俺が開発した通信機の有線版。
それを一般開放するにあたって、俺は権利やらなにやらを国に譲渡した。
だって、通信事業ってメチャメチャ利権が大きいんだよ?
そんなの、一個人、一商会に委ねられたって困る。
ということで、通信事業に関してはアールスハイド王国に権利があり国営になっている。
そのインフラ整備を任されたのがビーン工房だ。
そもそも俺の要望を受けて通信機を作ったのがビーン工房だからね。
妥当な選抜だと思う。
そんな国家プロジェクトに起用されているビーン工房の工房長だからこそ、俺は今回の背景まで話したのだ。
「親父さんが信用に足る人だというのは分かってますからね。というわけで、なにかアイデアありませんか?」
「お前は……まったく……子供向けの玩具ねえ。俺がガキのころの遊びといやあ鬼ごっこだのかくれんぼだの走り回る遊びばっかりだったなあ。マーク、お前はどうだった?」
「俺? そうだなあ、父ちゃんと似たようなもんだよ。あとは、工房で端材使ってなんか作ってた」
「そういやそうだったな。ユーリの嬢ちゃんは?」
「私はぁ、お人形さんの着せ替えとかおままごとかしらぁ? あんまり男の子と一緒に外で遊んだ記憶とかないわねぇ」
「ふむ、ということは男子用と女子用で分けて考えた方がいいのかな?」
「だなあ。初等学院前は一緒に遊んでるだろうけど、初等学院生になったら男女で別れて遊ぶのが一般的だな」
「で、男子用で魔道具だと……鬼ごっことかかくれんぼとかをレベルアップさせるのは……」
「子供にジェットブーツ使わせる気か!? あんなもん、もっと大きくならねえと危なくて使わせられねえよ!」
「でしょうねえ。俺もそれには同意です。となると、全く新しいものを作らないといけないのか……」
「ウォルフォード君」
新たに考えるとなるとなにがあったかな? と考え込んでいるとマークから声をかけられた。
「どうした?」
「あのッスね……」
マークはそう言うと、親父さんには聞こえないようにヒソヒソと話出した。
「ウォルフォード君が前世で遊んでた玩具とかどんなのがあったんスか?」
まさかマークからそんなことを言われるとは思っていなかったので驚いたが、さらに驚いているのがユーリだった。
「ちょ、ちょっとぉ! そんなもの作ったら、また殿下が怒っちゃうでしょぉ!」
「ん? なんだ? なにがあった」
ユーリが思わず大きい声を出してしまったので、さすがに親父さんが話に介入してきた。
「ゴメン父ちゃん、これは流石に父ちゃんにも話せないことなんだ」
「お、おう、そうか。ならいい、これ以上とんでもないことを聞かせないでくれ」
マークの言葉を受けて、親父さんは万が一にも聞こえないように自分の手で自ら耳を塞いだ。
それを見て安心したのか、ユーリがマークに食って掛かった。
「ちょっとマークゥ? あなた、なにとんでもないこと言ってるのよぉ?」
「だって、まったくなにも思い浮かばないんスよ? それなら、多少のリスクはあってもウォルフォード君の前世の話を聞いた方が効率的じゃないッスか。そもそも玩具なんスから、そのまま再現しても問題ないでしょうし」
「それは、まあ……」
「というわけで、ウォルフォード君、お願いするッス」
「そうだなあ……」
マークの言葉を受けて話すことにしたけど、どうしようかな?
ビデオゲームは、モニターも作らないといけないしそもそもコンピューターがないからどうしようもない。
そもそも、今回の魔動玩具作成は子供に魔道具の起動をさせることが目的だ。
ゲーム機を作るなら常に起動させておかないといけないので魔石を使う必要がある。
なので、これは却下。
ゲーム機以外となると……。
「なにがあったかな?」
「ちなみに、今世の幼いころはなにで遊んでたんスか?」
「魔法」
「……魔法は遊びじゃないッスよ」
「いや、山奥で他に娯楽ってトムおじさんの持ってきてくれる本以外なかったんだから、しょうがないじゃん。ああ、あと、魔道具作り」
「……魔道具作りも遊びじゃやらないわよぉ」
「しょうがないじゃん。他になかったんだから」
マークのせいで思考がズレた。
前世の遊び、前世の遊び……。
「ミニよん……ああ、これも趣旨が違うか」
真っすぐにしか走れないミニチュア四輪駆動車のことを思い出したが、あれは自分の手を離れるので魔石を使う必要があり、魔道具を起動し続けるという趣旨からは反してしまう
本当のところは、街で魔道車が走っていると男の子たちが羨望の眼差しで見ているという事例が報告されているので、この手の魔道玩具を売り出せば売れると思う。
改造のための各種パーツも豊富に取り揃えれば結構な売り上げになると思うけど……。
しかし、今必要なのは起動させ続ける必要がある魔道具なん……。
「あ、そうか。その手があったか」
「どうしたんスか?」
「なにか思い付いたの?」
アイデアを思い付いた俺にマークとユーリが食いついてきた。
「いや、魔道車あるじゃん」
「あるッスね」
「それのミニチュアを作ってね、手元で操作できるようにしたらどうかと」
いわゆる『ラジコン』だ。
あれの操縦機に魔力を通し無線通信の要領で玩具の車とを接続できるようにすれば、操作する間ずっと魔道具を起動させ続ける必要があるし、楽しめるし、いいアイデアではないだろうか?
ただ一点だけ、従来なら大問題になっていたことがあるのだが、最近その事情が変わりそれも解決できる。
ということを、その問題点を言わずにマークとユーリ、それとずっと耳を塞いでいた親父さんに話した。
その問題点については、言わなきゃ言わないで別にいいし。
「はあ……スゲエなシンは。どこからそんな発想が出てくんだ?」
親父さんには俺の事情を話していないので、純粋に驚いてくれている。
その反応を見て、俺も、マークとユーリも苦笑いだ。
「これでもう決まりじゃないッスか?」
「いや、シンの構想を聞いてる限り特大の問題があるだろ」
さすが親父さん、俺の簡単な説明でこの魔道具の問題点に気付いたようだ。
「アレですか?」
「おうよ。その問題をクリアできねえととんでもねえ高額な玩具になっちまう。いいアイデアだとは思うけどな」
「ところが、その問題点は昔なら大問題でしたけど、今はもう大丈夫なんですよ」
「あん? どういうこった?」
俺は、その問題点解決のための策を話した。
「……ああ? それで大丈夫なのかよ?」
「ええ。実はその件で相談を受けてましてね。そっちもこっちも解決できて良いことずくめなんですよ」
「……一体、二人でなんの話をしてるんスか?」
俺と親父さんで、アレだのコレだの言ってる内容が理解できなかったマークが話しかけてきた。
「ああ、実は……」
俺は、この魔道玩具を作るうえで本来なら大問題になっていたこと、そして、それが解決できる事情を話した。
「はあ……ウォルフォード君の周りは国家機密ばっかりッスね……」
「慣れてきちゃった自分が怖いわぁ……」
マークとユーリは、二人してなにかを諦めたような溜め息を吐いた。
そんな中で、ユーリは気になることがあるらしく疑問を投げかけてきた。
「それはそれでいいとしてぇ。その玩具、男の子には受けそうだけど、女の子にはどうなの?」
「それなあ……女子受けはしないか?」
「どうかしらぁ? 人によるとしか言えないけど、女子全体に人気が出るとは思えないわねぇ」
「そっかあ……でも、女子向けの玩具とか、子供向けのオシャレ用品くらいしか思いつかねえよ」
俺は、前世も今世も男子だからな。
正直、前世でも小学生女子がどんな遊びをしていたかなんて知る由もない。
そう思っての発言だったのだが、ユーリが俺の言葉に食いついた。
「子供用のオシャレ用品! それよぅ!!」
「子供向けの?」
「そう! 私たちが使ってるブラシ付きドライヤー、あれ、割と大きいから子供が使いにくそうにしてるって近所のママ友が話してたの」
「ああ、まあ、大人の女性をターゲットにした商品だからなあ」
「それをねぇ、子供にも使いやすい大きさにするのぉ! きっと喜んで使ってもらえるわぁ!」
「おー、なるほど。それにドライヤーなら毎日使うしな」
「そうそう!」
「お、ならこれで出そろったんじゃねえか? 男の子向けにはその車の玩具で、女の子向けには子供用ドライヤーってことで」
「いいんじゃないッスか?」
「いいと思うわぁ」
「おし。じゃあ、早速開発に入ろうか。子供用ドライヤーは、側を小さくするだけだから、車の方だけだな。まあ、無線通信機と魔道車の仕組みを簡単にしたものでできるだろ」
こうして俺は、マジカルコントロールカー。略してマジコンカーの開発に着手するのだった。