オーグと相談
アレン君たちと会話をした数日後、俺はオーグに直接アポを取り、王城に来ていた。
ちなみに、あの日遊びに来ていたアリーシャちゃんは、ヴィアちゃんを俺んちにゲートで連れてきたオーグと付き添いのエリーがいたことに驚いて硬直してた。
うちでは普通のことなのでそのうち慣れてくれるだろう。
アレン君やクレスタさんも、今では普通にオーグやエリーとも挨拶や雑談ができるまでに慣れたのだから。
人間って、慣れる生き物なんだよ。
さて、今日の訪問の理由は子供たちの現状報告ではない。
そのときアレン君たちとの雑談から、もしかしたらという発想があり、オーグに相談をしにきたのだ。
「すまないシン、待たせた」
慣れ親しんだ王族のプライベートスペースにある応接室で待っていると、執務を終えたオーグがやってきた。
「忙しいところ、悪いな」
「いや、丁度落ち着いたところだから問題ない」
アールスハイドは王族による王制だが、政務の全てを王が取り切っているわけではない。
当然、各方面に専門の部署がありそれぞれに局長が存在しており、王族がすることは国政に関わる重要な案件の最終決済が主である。
国の方針を決める会議なんかにも参加はするが、それ以外では比較的時間の余裕はある。
今日はたまたま俺が連絡したときオーグが執務中で、それが終わってからならという返事を受けたのでこうして応接室で待っていたのだ。
「それで? 相談したいこととはなんなのだ?」
「ああ、実は、この前アレン君とクレスタさんが家に遊びにきてたんだけどさ」
「シルバーの友人か。それが?」
「あの子たちもシルバーと同い年だから、魔法使いの適正を調べるだろ? 二人とも魔法使いの適正があったらしくてな」
「そうか。適正のあるなしで友人関係が変わることもあると聞いたことがあるからな、一緒なのはいいことだ」
「それはそうなんだけど、ちょっと気になってさ」
「気になる?」
俺がそう言うと、オーグは居住まいを正した。
「いや、ちょっと、顔怖いって」
「お前が気付くことは魔法界にとっての大発見に繋がることが多いからな。真剣に聞かねばならない。さあ、なにに気付いたのか話せ」
オーグの気迫に押されつつ、俺は先日気が付いたことを話し始めた。
「最近さ、魔法使いに適性のある子が増えてきたと思わない?」
「……そうなのか?」
ああ、オーグはやっぱり気付いてなかったか。
まあそれもそうか、今年は何人の子供に魔法使いの適正がありました、なんて一々報告なんてしないからな。
俺が気付いたのは、俺がウォルフォード商会の会長だからだ。
「年々、子供用の魔力制御用魔道具の売り上げが増えてる。最初は誤差かなと思っていたけど、気になって調べてみたら、魔法使用の年齢を引き下げた三年前と比べると、一.二倍ほどになってた」
「そんなにか!?」
「ああ。それで、なにか要因があるんじゃないかって考えたんだけど、ウチで売ってる玩具の魔道具があるだろ」
魔道具を起動させる要領で起動し、光ったり、クルクル回るだけの単純な玩具。
とはいえ低年齢の子供には非常に受け、ウォルフォード商会の大きな稼ぎ頭となっている。
「それを売り出したのが、ちょうど三年前くらいなんだ」
「……」
俺がそう言うと、オーグは俺の言葉を吟味しだした。
コイツのことだ、俺と同じ考えに至るのはすぐだろう。
「……つまり、幼少期から魔道具に触れていると基礎魔力が伸びる?」
「今まで、基礎魔力は生まれたときから決まっていて変わることはない……って思われていたけど、幼少期に限っては違うのかもしれない」
「……確かに、今まで幼児に魔道具を使わせるなんて考えもしなかったからな。お前があの無意味な魔道具を作ったときは、とうとうおかしくなったのかと心配したのだが……」
「え? お前、そんなこと思ってたの?」
「それは当然だろう? 魔道具と言えば実用重視。大人が使うことを前提に作られている。まさか幼児用の魔道具を開発するとは夢にも思わなかったからな」
「まあ、俺もシルバーに防御用の魔道具を使わせるまではそんなこと考えてなかったけど、思いの外シルバーが上手に魔道具を使えるようになって魔法に興味を示しだしたからさ。なんとか視線を逸らそうと考えた結果なんだけど」
「それが、思わぬ副産物を生んだというわけか」
「確証はないよ。検証してないから。けど、ここ最近魔法使いに適性のある子が増えたことと、俺が幼児向けの魔道具を売り出して子供が小さいときから魔道具に触れる機会が増えた時期が一致してる。関係があるかもって考えるのは普通だろ?」
俺がそう言うと、オーグは眉間を揉み解したあと「フーッ」と息を吐き出した。
「検証してみないと発表はできないが、もしこれが本当なら大発見もいいところだな」
「どうする? さっそく魔法学術院に報告するか?」
「それは私の方でやっておく。こう見えて高等魔法学院次席卒業だからな。お前には、魔道玩具の増産をお願いしたい。できればバリエーションも増やしてほしいのだが、できるか?」
「バリエーション?」
「お前のあの魔道玩具は、幼児には受けがいいがある程度の年齢になると使わなくなるだろう?」
「ああ、まあ、意味のない魔道具だからな」
「検証する意味でも、ある程度の年齢の子供にまで率先して使ってもらえるように魔道玩具のバリエーションを用意してもらいたいのだ」
「なるほど、対象年齢の引き上げってことか」
オーグの言葉を聞いた俺は、ニヤッと笑った。
「王太子サマのご依頼とあらば、全力で魔道具の開発をしようじゃないか」
「ほどほどでいいからな! ほどほどで!!」
オーグが必死に自重を呼びかけるが、要は初等学院生向けの玩具だ。
競合他社もいないし、多少はっちゃけても問題ないだろう。
「さて、それじゃあ早速開発に入るわ。魔法学術院への報告と子供を持ってる家庭への周知はよろしくな!」
「あ! おい! くれぐれも! くれぐれもほどほどにな!!」
オーグはそう言うけど、大丈夫だって。
所詮は遊び道具、多少羽目を外したって、子供が目を輝かせるだけで大したことにはならないと思う。
というわけで、俺は遊び道具の開発に取り組むのだった。