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賢者の孫  作者: 吉岡剛
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魔人化の条件

 どうしてこうなった!?


 俺は、ヒイロさんに、民主化を急いだのはどうしてなのか聞きたかっただけなのに、ヒイロさんはなぜか俺を凄く敵視していて、激高していって、ついには魔人化してしまった。


 元々、魔石の粉を飲んだという時点でそうなる可能性はあったんだけど、魔人化する前、ヒイロさんの怒りと憎悪の感情に比例するように魔力がドス黒く変色していった。


 それが引き金になってしまったんだろう。


 怒りと憎しみが魔人化のキーになると、なんとなく予想はしていたけど、こうして目の前で見て確信した。


 つまり……ヒイロさんは元々魔石の粉を飲んだことで魔力が不安定になっていたところに、俺に対する怒りと憎悪で魔人化してしまったということだ。


「……俺のせいかな?」

「奴の自業自得だろう。気にする必要などないさ」


 オーグは気にするなと言ってくれているけど、一方的に敵視され憎まれるって結構ショックなんだよなあ。


 そんなの、俺にはどうしようもないんだし、それで憎まれても……。


 そんな風に若干凹んでいると、執務室の扉が蹴破られた。


「なんだこの異常な魔力は!?」


 そう言いながら、イースの護衛騎士さんが飛び込んできて、魔人化したヒイロさんを見て目を見開いた。


「なあっ!? 魔人!?」

「部屋の外に出ていろ!! 死ぬぞ!!」


 護衛騎士さんたちは魔人化したヒイロさんを見て足を止めたので、すかさずオーグが部屋から出て行くように指示を出した。


 魔人王戦役からそんなに年月が経っていないので、魔人の恐怖をまだ覚えている人が多くて助かった。


 もし魔人の恐怖をしらない世代とかだったら、突撃してしまっていたかもしれない。


「シン! なるべく建物を壊さずに討伐できるか!?」

「相手元軍人だぜ!? 約束できねえよ!」


 そう言いながらも、俺は極力この建物に被害を出さないようにバイブレーションソードを手に取った。


 そして、魔人化したヒイロさんと対峙したのだが……。


「ぐ……ああああ! シン……ウォルフォードォォォ!!!!」

「なっ!? 言葉を発した!?」

「理性の残っているパターンか!?」


 魔人化したヒイロさんは、言葉を発した。


 まさか……シュトロームと同じく、理性が残っているのか!?


 そうなると厄介だ、理性の残っている魔人には散々手を焼かされたからな。


 とにかく慎重に、建物の被害を考えていると取り逃がすかもしれないので、最悪建物は諦めてもらおう。


 そう考えてバイブレーションソードを構えた。


「ううぅ、あぁあぁああ!!」


 ヒイロさんはそう叫ぶと、部屋の中にも関わらず魔法を放ってきた。


「ちっ!」


 後ろにはエカテリーナさんたちイースの面々がいる。避けると後ろに被害が及ぶので避けられない。


「私が障壁を張る! お前は前に出て、速攻でヒイロを仕留めろ!!」

「分かった!!」


 オーグがそう言ってくれたので、俺は魔法を避けて突進した。


 その直後、後方でオーグが展開した魔力障壁に魔法が阻まれたのが分かった。


 そして、その余波で視界が遮られた。


「どこだぁあっ!? ウォルフォードォォオ!!」


 ヒイロさんは巻き上がった煙幕で俺のことを見失ったらしい。


 どうやら、シュトロームたちと比べると、かなり中途半端に理性が残っているようだ。


 魔法使いなら当然できる、索敵魔法による探知ができていない。


 そこまで細かいことができないのだろうか?


 それとも、魔力に目覚めたのが最近だったので、そういう戦い方を知らないのだろうか?


 ともかく、これは好機だ。


 俺は、俺のことを見失っているヒイロさんの後ろに周り込み、そのままバイブレーションソードを振り切った。


「あ……」


 ヒイロさんの最期の言葉は、たったそれだけだった。


 魔法による余波で効かなくなっていた視界が晴れると、そこには首を落とされたヒイロさんの遺体が倒れていた。


「これは……一体なにがあったのですか?」


 突然の出来事に、逃げることもできずにいたエカテリーナさんが、困惑しながら問い掛けてきた。


 それにしても、困惑するだけなんだな。


 そういえば、エカテリーナさんは昔爺さんと婆ちゃんと一緒に魔物を討伐しながら旅をしていたと言っていた。


 血生臭いのに慣れているんだろう。


 俺は、エカテリーナさんにヒイロさんが魔人化したことと、その経緯を説明した。


 それを聞いていたダームの秘書官さんは、青い顔で震えている。


 いつ魔人化してもおかしくない人物の側にずっといたとなれば、一般人なら恐怖で震えるよな。


 それにしても……まさかここで魔人化に対する確証が得られるとは思いもしなかった。


 魔石の摂取したときと、あとは膨大な魔力の持ち主が身を焦がすほどの怒りと憎しみを爆発させたとき、魔人化は起こる。


 これで間違いないと思う。


 ただ、どうして理性が消えたり残ったりするのか、それは想像しかできないんだよな。


 多分、怒りや憎悪が個人や特定のものに向けられると理性が残り、特定のものに向けられず周りに撒き散らすと理性がなくなるんじゃないかな。


 これに関しては、実験なんてできないから、本当に想像でしかないけれども。


 ヒイロさんの魔人化だが、これは秘匿することに決まった。


 ダームの主権を譲り渡すことになり、色んな矢面に立たされることを考えると、このまま姿を見せず表舞台から退場した……という風にした方がいいと判断されたのだ。


 ただでさえ、これから混乱が起きることが予想されているのだ、首相が魔人化したなどという余計な情報でさらなる混乱を与える必要もないだろうしな。


 こうして、ダームの主権を手に入れたエカテリーナさんは、秘書官さんに向かって言った。


「さて、それではこれから国家を正常に戻していきましょう」

「……」

「でも、その前に」


 エカテリーナさんはそう言うとニッコリと笑った。


「な、なんでしょうか?」


 その笑顔に、秘書官さんはすっかり怯えている。


 さっきも、笑顔を見せたままエグイ要求をしてたからなあ。


 警戒するのも分かる。


 そして、その警戒は多分当たってると思う。


「大掃除……いえ、害虫駆除かしら?」


 笑顔で、またエグイことを言いだしたのだから。



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別作品、始めました


魔法少女と呼ばないで
― 新着の感想 ―
[一言] うーむ…魔力の性質が精神に由来するのなら、魔力の性質が精神へ影響を与えるのは当然。 1度恨みを持って魔力を変異させたのなら、その魔力により更に恨みが深くなり自我が消えるほどになる…とか?
[一言] ヒイロ「死ぬほど痛いぞ・・・」
[一言] あーー…。残念だ…。
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