相変わらずの日々
アルティメット・マジシャンズに新人さんを迎えた。
その新人さんであるヴァン君とミネアさんは現在基礎練習の真っ最中である。
訓練初日に制御魔力量を見せてもらったのだが、全然足りなかった。
初等学院時代のメイちゃんより少なかった。
これで二人とも首席だったらしい。
これは、魔法学院のレベルが低いのか、メイちゃんが天才なのか……。
後者のような気がする。
ともかく、制御魔力量が少ないと話にならないので今はメンバーが交代で付き添いつつ魔力制御の練習をしているのである。
魔力制御なら誰でも教えられるしな。
というわけで、訓練もないし出動もない俺は、先日ヴァン君とミネアさんを案内しながら思い付いたものを作ろうと思っています。
「……次から次に……今度はなにを作るつもりだ?」
一応待機中の身なので、ビーン工房には行かず事務所の自分の机の上に材料を広げている俺に、オーグが警戒した目を向けてきた。
「ん? いや、こないだヴァン君とミネアさんを案内しながら説明したときに思ったんだけどさ」
「うむ」
「俺らってさ、機密事項多いよな」
「まあ……主にお前の魔道具のせいだがな」
「……」
嫌な沈黙。
だが話を進めよう。
「その機密事項の多い事務所のさ、セキュリティを向上させようかと思って」
「セキュリティの向上? この建物は軍と警備局隊員の精鋭によって警備されている。問題はないのではないか?」
確かに、ウォルフォード商会とアルティメット・マジシャンズが入っているビルは、騎士団の騎士、魔法師団の魔法使い、警備局の警備隊員によって警護されている。
その警備の厳重さは、さながら前世の世界でいう大使館の警備のようだ。
まあ、アルティメット・マジシャンズの事務所に保管されている機密情報、そしてアルティメット・マジシャンズの金庫に保管されている大量の通貨は、賊にとってとてつもなく美味しい獲物に見えるだろう。
だからこそのこの警備体制なのだが、これに加えて今後演習場も整備しようとしている。
また警備対象が増えるのだ。
「今後、また警備対象が増えるかもしれないし、そうなると警備してくれる人の負担も増えるだろ? だから、その負担を少しでも軽くできればなと思ってな」
そう言って、俺は自分の市民証を取り出した。
これを起動させると俺の個人情報が表示される。
その表示には、俺の固有魔力が使われている。
「これに反応する装置ができれば、登録してある市民証でだけ解除できるシステムができるかなって」
そう説明すると、オーグだけでなくいつの間にか俺たちのそばに集まっていた事務員さんたちも真顔のまま固まっていた。
「わ、びっくりした。皆さん、どうしたんですか?」
俺がそう訊ねると、カルタスさんから真顔のまま質問を返された。
「それは、完成したら今後市販する予定はありますか?」
「市販? ああ、そうですね。これが広まれば一般の商会のセキュリティにも使えますね」
俺がそう答えると、カルタスさんが俺の手を両手で握ってきた。
「その際は私に相談してください! 絶対もうかりますから!!」
元エルスの商人だったカルタスさんは、このセキュリティシステムに商売の匂いを感じ取ったようで、販売について相談してほしいと懇願してきた。
さすがエルス商人だなあと思っていると、思わぬところからも声があがった。
「さすがシン様、素晴らしいです! こんなとんでもないものを簡単に発明してしまうとは! それに、これがあればあの苦情も解決することができるかも……」
声をあげたのはアンリさんだ。
なんで? っていうか。
「苦情?」
なにそれ?
そんなの聞いてないと思っていると、アンリさんだけでなくカタリナさんも苦笑していた。
「実は、ハンターたちからクレームが出ているんです。狩り以外の依頼が少ないって」
今の魔物ハンター協会は、魔物の狩りだけでなくアルティメット・マジシャンズに依頼されてきた依頼の中で、わざわざ俺たちが出動するまでもない案件を引き受けてくれている。
その結果、魔物狩りだけでなくそういった依頼を専門にこなす人も現れ始めた。
すると、そういう人たちに依頼が取られてしまい、あぶれた人たちが魔物狩りに行くという構図になっているのだとか。
……いや、まず率先して魔物狩れよ……魔物ハンターだろ。
と、本当ならそう言いたいところなのだが、ハンターの死亡率は非常に高い。
安全な依頼があればそちらを、となるのが人間なのだ。
しかし、現状依頼からあぶれてしまう人がいる。
「ハンターに、セキュリティシステムに反応のあった現場に急行してもらって犯人の確保をしてもらうように依頼すれば、そういった苦情も多少は改善されるかと思いまして」
「ああ、なるほどなあ」
要は、非常勤の警備会社ってことか。
俺は前世のを思い出していたが、興奮したカルタスさんの叫びによって思考を現実に戻された。
「アンリさん! それいい! 最高ですわ!! 作りましょ! 警備商会作りましょ!!」
「ええ! 頑張りましょう!!」
「……」
いや、あの、まだアイデアを説明しただけで開発すらしてないんですけど……。
しかし、熱く語り合っているカルタスさんとアンリさんにそんなことは言えない。
……しょうがない、どうにかして作りますかね。
そうして熱い二人は放置して魔道具に付与する言葉を考えていると、残った事務員さんたちがようやく言葉を発した。
「はぁ……シン様が魔道具を開発する瞬間に立ち会ってしまいました」
「はい。本当に、とんでもないことを簡単に思い付いて、なんでもないことのように開発されてしまうんですね……」
「そりゃ、魔道具士たちが神様みたいに崇めるのも納得です」
カタリナさん、アルマさん、イアンさんが口々にそう言った。
「シン」
「なに?」
三人はポソポソ話しているだけだったけど、オーグは直接話しかけてきた。
「そのセキュリティシステム、王城でも取り入れられないか?」
「王城に? どんな?」
「そうだな、王城の出入りの管理とかだな」
「出入りの管理……」
なら、セキュリティの高いビルに設置されてる、駅の改札みたいなやつがいいかな。
「できると思うよ」
「そうか! なら完成したら王城に設置してくれ。毎朝、王城に入場する長い列ができていてな、問題になっていたのだ」
「へえ、ならすぐに作らないとな」
「ああ、頼む」
こうして、市民証の固有魔力に反応するセキュリティシステムの開発に乗り出した。
……あれ? また俺、仕事抱え込んだ?
しまった、と思っていると、呆れた顔をしたマリアと目が合った。
「……馬鹿じゃないの?」
「……その通りですね」
まあ、そんな感じで、新人さんの訓練をしたり、依頼に出動したり、時々思い付いた魔道具を作成したり、国家プロジェクトに参加したりしながら日々を過ごしていった。
懸念していたダーム側に表立った動きはなく、平穏な日々が流れて行った。
そして、三年の月日が経った。




