新人さん、いらっしゃい
「ヴァ、ヴァン=スタインです! よ、よろしくお願いします!!」
「ミネア=フォードです!! よろしくお願いします!!」
アルティメット・マジシャンズの新規入団試験が終わり、二人の新規団員を迎え入ることになった。
一人は、先日クルトの魔法学院を卒業しクルトの魔法省に努めていたヴァン=スタイン君。
年齢は俺らの一つ下で、短めの茶髪に緑色の目をした非常に真面目そうな青年である。
今もガチガチに緊張しながらもキッチリと頭を下げて挨拶をしている。
クルトの魔法省には入ってまだ数ヶ月も経っていないので業務実績というものはないのだけど、学院時代は生徒会長も務めていたとのこと。
成績も、入学当初は中間くらいだったのだが、努力を重ね最終的にはトップで卒業したとのこと。
非常に真面目で努力家なのだ。
もう一人は、昨年カーナンの魔法学院を卒業し、現在はハンターとして活動していたミネア=フォードさんという女の子である。
昨年の卒業なので、年齢は俺らと同い年。
オレンジ色の髪と薄い青色の目をした非常に元気な子である。
魔法学院を優秀な成績で卒業したのになぜハンターになったのかというと、カーナンは魔法師団より羊飼いの方が人気も実力もあるし発言権も高い。
けど羊飼いの世界は男社会。
女性が入るには少々難しいのだとか。
それって男女差別では? と思うが、そういう訳ではないらしい。
というのも、カーナンの羊飼いはガチムチの男ばかり。
女性大歓迎らしいのだが、男臭く暑苦しい羊飼いを敬遠する女子が多いそうだ。
ミネアさんも、優秀な人材が揃っている羊飼いは魅力的だけど暑苦しい男集団に入るのは嫌。
かといって魔法師団は羊飼いに劣等感を持っているので向上心があまりない。
それなら、自分の努力次第で実力を伸ばすことができるハンターの方がよっぽどマシという理由なんだとか。
ちなみに、これらは素性調査と最終面接で聞いた話。
というわけで、優秀、かつ努力家で向上心のある人材ということでこの二人が選ばれたのだ。
他の人は、人格的に問題はなくても、人に言われたことだけをする指示待ち人間だったり、向上心があまり見られない人だったり、そもそも実力が足りなかったりしたので不採用になった。
千人近い応募で、合格二人か……。
自分で言うのもなんだけど、狭き門だなあ。
「俺はアルティメット・マジシャンズ代表のシン=ウォルフォードです。ヴァン君、ミネアさん、よろしく」
「は、はい!! よろしくお願いします!!」
「よろしくお願いします!! シン様とお会いできて感激です!!」
ヴァン君は緊張からかガチガチになりながら挨拶し、ミネアさんは元気いっぱいに挨拶してくれた。
「それじゃあ、最初だしまずは皆に紹介しようか」
という訳で、まずはアルティメット・マジシャンズの実行部隊を紹介した。
二人もここの所属になるわけだしね。
全員と顔合わせをするということで、今日はシシリーとオリビアも参加している。
オリビアのとこのマックスはウチでシャルと一緒に爺さんと婆ちゃんが面倒見てる。
皆との顔合わせは概ね和やかに済んだのだけど、オーグのときだけは副長だし他国の王太子ということで元気娘のミネアさんもさすがにガチガチに緊張していた。
ヴァン君は……。
緊張を通り越して、なんか青白くなってて可哀想だった。
これから俺以外にも二人の面倒を見てもらうこともあるので仲良くしてもらいたい。
実行部隊との顔合わせが終わったら、今度は事務員さんたちとの顔合わせだ。
ヴァン君はクルト、ミネアさんはカーナンの出身だが、クルト出身のアンリさん、カーナン出身のイアンさんと面識はないらしい。
そんなこんなで顔合わせは終了。
明日からいよいよ魔法の訓練を始めることになった。
訓練場所は、俺たちが教える場合は例の荒野で。
自主練習したい場合は魔法師団の練習場を貸してもらえることになっている。
なんで俺たちが教える場合は荒野なのかっていうと、ゲートの魔法を教えるから。
これは、いくら魔力追跡ができるようになったとはいえ、ホイホイ教えていい魔法ではないから。
いわゆる、門外不出にするつもり。
それを伝えると、ヴァン君はそんな便利だけど取り扱いが難しい魔法を教えられるという緊張感でまた青くなっており、ミネアさんは新しい魔法を教えて貰えるということでワクワクした顔をしていた。
「両対象だねえ。ヴァン君も、もうちょっと肩の力を抜いたらいいのに」
対照的な二人の様子を見て、俺は苦笑しつつそう言った。
「い、いえ! アルティメット・マジシャンズの秘儀を教えて頂くのですから気楽になんてなれません!!」
ヴァン君は、直立不動の姿勢でそう言った。
「ええ? ヴァン君は嬉しくないの? 私はアルティメット・マジシャンズの超絶秘技を教えてもらえるってだけで超ワクワクしてるよ!」
「なっ……なんでそんなにお気楽なんですか!? ゲートの魔法と言えばあまりにも便利すぎて犯罪に使われやすいからアルティメット・マジシャンズが伝授するのを禁じている魔法なのに!」
おっと、ヴァン君は正しくゲートの魔法について理解しているな。
「でも教えてくれるって言ってるんだしいいじゃん」
「それはそうですけど……シン様、どうしてゲートの魔法を教えて頂けることになったのですか?」
「ああ、それはね。ゲートの魔法を使っても、誰が使ったか分かるようになったからだよ」
「「は?」」
あ、そういえば魔力紋測定器はまだアールスハイドだけでしか運用されてなかったな。
もうすでに各国に売り込みをかけていて大量発注を頂いている。
なので各国でお披露目されるのも時間の問題なのだけど、それを知っているのは各国の上層部だけ。
今回募集したのは学院を卒業したばかりの人たち。
そんな上層部の話は知らないよな。
ということで、今現在アールスハイドの警備局で固有魔力紋を感知する魔力紋測定器を使った捜査がすでに行われていることを説明すると、ヴァン君は唖然とした顔で固まり、ミネアさんは目を輝かせた。
「凄いです! 凄すぎてどう言葉にしていいか分からないです!!」
ああ、うん。
この場合、ヴァン君の反応が普通なんだろうな。
ミネアさんの反応は、魔法が大好きなリンとか、魔法学術院の研究者たちと同じ感じがする。
この子も魔法大好きっ子だ。
「はあぁ……最高です……まさか入団してすぐにこんな魔法の最高峰に触れることができるなんて……」
そう恍惚の表情で呟くミネアさんと、まだ唖然としているヴァン君に、俺たちの連絡用として必須である無線通信機を渡した。
「うきゃあああ!!」
「……」
ミネアさんは、無線通信機を受け取り、その説明を聞くと奇声を発して飛び跳ねた。
ヴァン君は……。
白目を剥いて気絶していた。