受験生、悲喜こもごも
『アルティメット・マジシャンズ新規団員募集』
その告知は、アールスハイドだけでなく周辺の国々にまで発布され各国に激震が走った。
『史上最強の魔法士集団』
『魔人王戦役の功労者』
『世界を救った英雄』
数々の異名で語られることの多い彼らは、広く民衆から慕われていた。
できることなら、その一因に加わりたい。
魔法使いなら一度はそんなことを考えるほどだ。
だが、アルティメット・マジシャンズは高等魔法学院の同級生たちだけで作られた組織で、身内色が強く、外部からの加入は難しいだろうと思われていた。
それが突然の新規団員募集である。
当然、各国の魔法使いたちは色めき立ち、そして大半が絶望した。
なぜなら新規団員募集の募集要項に『昨年と今年、各国魔法学院を卒業した者』という条件が記載されていたからである。
一昨年以前に魔法学院を卒業した者には受験資格すら与えられなかった。
となると、大半の魔法使いはその条件から外れてしまうために、あちこちで嘆き悲しむ声が上がったというわけである。
中には抗議しようとした者もいたが、各国担当者から「各国の組織に長く勤めていたものは内部事情も知っていよう。所属して一年程度なら組織の機密まで知り得ないだろうという配慮なのだよ」という言葉に、渋々でも納得せざるを得なかった。
そんな中、幸運にもその条件に該当していた者たちはこぞって応募した。
最初は、アルティメット・マジシャンズの事務所があるアールスハイドにて試験を行うと思われていたが、応募者殺到のため急遽各国で一次試験が行われることになった。
一次試験が終わってから数週間という、選考期間にしては少し長く感じるほどの時間が流れたころ、ようやく一次試験合格者が発表された。
その合格率は異常なほど低く、合格者は総受験者の一割にも満たなかった。
不合格者の心情としては「やっぱりな」という感情を抱いた者が大半だった。
受かるとは思っていなかったけど、試しに受けてみようという者が多かったのだ。
だが、中には自分が不合格になったことに憤りを感じる人間もいた。
「はあっ!? なんで俺が不合格なんだよ!!」
その人物は、彼の国の魔法学院において常に主席だった。
彼に敵う者などなく、彼の国の魔法師団にも幹部候補生として入団していた。
そんな人間が不合格になった。
自分をエリートと信じて疑わない男は、その不合格の通知を震える手で握りしめていた。
「なんでだ……なんで俺が不合格なんだ……」
そう呟く男に、同僚が慰めるように肩を叩いた。
「まあまあ、今回ほとんど落ちたらしいから、そんなに気落ちしなくてもいいだろ」
その同僚はそう言うと、自分にも送られてきた不合格通知をヒラヒラと男に見せた。
だが男は、そんな同僚の手を払いのけた。
「うるせえっ! お前と一緒にすんな!! お前が落ちるのは当然だろうが、俺が落とされるのは納得できねえ!!」
「はあっ!?」
男の暴言に、同僚の顔が一瞬で怒りに変わる。
だが、確かに男の言う通り自分の実力は自分がよく知っている。
自分ではこの男に逆立ちしたって敵わないことも。
なので、怒りの感情に支配されつつも、それ以上この自分本位で自分が一番だと思っている男に反論することはしなかった。
もっとも、これがこの男の不合格の原因である。
一次試験である実技は合格していたのだ。
そのあとの素性調査で、エリート意識が強く、他者を見下す傾向があり、自分が一番になるためなら他者を貶めることも厭わないという調査結果が上がってきた。
そんな男が審査を通るはずもなく、早々に弾かれていた。
「なんでだ……俺は同世代で一番なんだ。落とされる謂れがねえ!」
そして、そうした人間は各国にいた。
そんな中、荒れる男を見てそそくさと自分宛の合否通知を隠し部屋を出て行った人物がいた。
「ど、どうしよう。まさか合格したなんて言えないよ」
周りが落ち込んだり憤ったりしている中で自分が合格したとは言えない人間が、これもまた各国にいるのだった。
そんな、自分の合格を他者に自慢しないような人物だけが、最終試験に集められたのだった。