皆にも説明
「新規団員、ですか?」
休日にオーグと話し合っていたことを、アルティメット・マジシャンズの業務終了後に事務所で他のメンバーにも話した。
事務所で話しているので、事務員さんたちも一緒である。
「確かに、折角できた超国家的組織を、自分たちの代だけで終わらせるのは勿体ないですね」
「そういうことだ。なので、これから新規団員を迎えるための試験やら体制を作り上げなければならない。お前たちも協力してくれ」
『分かりました』
オーグの言葉に、事務員さんたちも同意した。
その中で、カタリナさんがスッと手をあげた。
「どうした? アレナス」
「質問、よろしいでしょうか?」
「ああ、構わん。他のものも、疑問があればどんどん質問してくれ」
「ありがとうございます。それでは、新規団員の募集ですがどういった条件で行うのでしょうか?」
「なるべく自分たちで育成したいからな。各国の魔法学院を卒業予定の者を対象とするつもりだ」
オーグがそう言うと、カタリナさんは難しそうな顔をした。
「どうした?」
「あ、いえ。それは来年卒業予定の人を対象にするということですか?」
「ああ」
「先日卒業した人は?」
「その予定はない」
今は新年度が始まったばかり。
一番直近の卒業者はつい先日卒業したばかりの人たちだ。
もう進路が決まってしまっているのでオーグが対象外だと言うと、カタリナさんは益々難しそうな顔をした。
「おい……」
「いやあ、それは反発が起きるかもしれないですね」
オーグがカタリナさんに問い質そうとすると、イアンさんがそう言った。
「なんで反発が起きんの?」
俺がそう言うと、アンリさんが「マジか?」っていう顔で俺を見た。
「なんでって……シン様、ご自覚がないのですか? アルティメット・マジシャンズといえば、魔法使いの最高峰。世界を救った英雄。その一員になれるかもしれないのに、一年早く産まれただけでそのチャンスを逃すのですよ? 途轍もない反発が生まれるに決まっています!」
アンリさんが、とても熱量の籠った演説をしてくれた。
まあ……一応、世間で俺たちがどういう風に言われているのかは知ってるつもりだよ?
けど、なんというか俺たちの認識と世間での認識にズレがあるというか……。
なんか美化され過ぎてて、正直ついていけないのだ。
「私もそう思います。私が事務員として選ばれたときでさえ色々言われましたから。それが、今は下部組織とは言え将来は団員として仲間になれるかもしれないとなると……」
アルマさんが、自分が事務員に選ばれたときの体験をもとにそう言った。
「なるべく各国の組織に所属していたことのある人員は遠慮したいのだがな……反発が生まれるのなら仕方あるまい。先日卒業した者と、アルティメット・マジシャンズが発足した昨年の卒業生まで遡って募集してみるか」
最終的に、今年卒業予定の人と、今年に限って先日卒業した人と昨年卒業した人で入団試験を行うことに決定した。
来年以降は、新規卒業者のみになる。
今年卒業予定の人は問題ないけど、先日と昨年卒業した人に関してはすでに各国の魔法師団に所属している人もいるので、ディスおじさんを通して各国にお願いすることにした。
試験に合格してアルティメット・マジシャンズに入団することになると現在の所属先を辞めてもらわないといけなくなる。
話を通しておかないと、優秀な人材を引き抜かれたと遺恨を残すことになるからね。
まあ、試験を受けること自体は自由だから、受験するために現所属を辞める必要はないんだけど。
「それで、試験の詳細とか合格基準とかはどうするんですか?」
話がある程度まとまったところで、マリアが試験について聞いてきた。
「そうだな。試験の内容についてはまだ考えていないが、最低でもゲートの魔法が使えそうな者でないと話にならん。その辺を見極めることになるだろうな」
オーグがそう言うと、マリアは目を見開いた。
「え!? ゲートを教えるんですか!?」
「そうだが、なにか問題か?」
「いや、問題って……ゲートって犯罪に使いやすいから使える人間は限定するって言ってたじゃないですか」
「それについての問題は解決したからな。もしゲートを不正に使用したとすればすぐに分かる」
「え? ああ、あの魔道具ですか……」
オーグに言われて、マリアはようやく魔力紋識別装置のことを思い出したようだ。
まあ、あれは主に犯罪捜査に使われるもので、使用者は警備隊が主だ。
ほぼ使うことのないマリアが忘れていてもしょうがないか。
「あと、一番重要なのは人格だな」
「人格ですか?」
一番重要と言われたのが、実力ではなく人格であるということにマリアは疑問を持ったようだ。
「ああ。一番望ましいのは、優秀で尚且つ謙虚な人間だな」
「それだけですか?」
オーグの答えに、増々疑問が増えた様子のマリア。
けど、まあ、俺もそれが一番だと思うよ。
「どんなに優秀でも、力に溺れて傲慢になるような人間ならアルティメット・マジシャンズの評判を貶める結果になってしまいますから」
マリアの疑問にトールが答えるが、マリアの疑問はまだ晴れない。
「いや、それは分かるけど、そうじゃなくて。他にも見るべきところがあるんじゃない? 犯罪を犯しそうにない人だとかさ」
その言葉に、オーグは苦笑した。
「そんなものが分かれば苦労しないさ。それに、どんなに清廉潔白な人物でも、ほんの少しの誘惑で犯罪に手を染めてしまうことはある。重要なのはそうさせないための意識付けと、もし問題が起きたとき隠蔽をしないことと厳正な処罰を行うことだ」
「……問題が起きることは仕方がないんですか?」
「今のメンバーなら全員気心も知れているし、そうしないだろうという信頼もある。だが、組織が大きくなればそういう問題はどうしても出てくる。問題のない組織なんてありはしない」
オーグはそうキッパリと言い切った。
「じゃあ、そのうちアルティメット・マジシャンズの評判に傷を付けることも起きるってことですか?」
「そうならないために、厳正な処罰を課すんだ」
「それなら……でも、うーん……」
マリアは、納得したような、そうでもないような感じでまだ唸っている。
「それより殿下。合格基準はどうするんですか?」
唸っているマリアをよそに、おそらく入団試験についても仕切ることになるであろうカタリナさんがそう聞いてきた。
なので、先日俺たちが話し合った基準について伝えると、事務員の皆は目を見開いた。
「お、お姫様がそんなに強いんですか?」
「ああ……残念なことにな」
オーグからジト目を向けられるが、これはメイちゃんに才能があっただけの話だから、俺は悪くない、はず。
「どうやら魔法に関しての才能があったようでな。それに加えてシンや、マーリン殿、メリダ殿の指導を初等学院生時代から受けている。その結果が、第二のシン誕生というわけだ」
オーグはそう言うと深い溜め息を吐いた。
最近よく、嫁の貰い手が無くなると零しているからなあ。
まあ、強くなったとは言っても魔法的にだから、外見はそんなこと想像もできないくらい可愛く成長してる。
そんな心配することないと思うんだけどな。
「それでは、いつ頃試験を行いますか?」
色々と事務手続きが必要になるからだろう、この一年で事務方のまとめ役になりつつあるカタリナさんがそう聞いてきた。
「そうだな。まず昨年と今年の卒業者だけ先に募集して実施するか。来年卒業予定の者は年明けにでも試験をすればよかろう」
もうすでに卒業している人は別の組織に所属してるかもしれないから、試験をするならできるだけ早い方がいい。
その後、試験会場や日程についてはまた後日詳しく決めるということで今日の所は解散となった。
さて、どれくらいの募集が来るのだろうか?
全然集まらなかったりして……。
なんか、急に不安になってきたな。