次世代は子供たちだけじゃない
三人の赤ちゃんたちが寝付いて静かになったリビングで、俺たちはようやく一息ついた。
普通なら、シルバーもまだ三歳前なので落ち着きのない年頃なんだけど、お兄ちゃんとしての自覚からなのか大人の皆と同じように大人しくお菓子を食べている。
そんなお利口なシルバーの頭を愛おしそうに撫でているアイリーンさんに、シシリーが声をかけた。
「そういえばお母さま、アリスさんの様子は如何ですか?」
シャルが産まれる少し前にアリスとシシリーの兄であるロイスさんとの婚約が発表された。
それに伴い、将来子爵婦人となるアリスは、休日アイリーンさんに貴族としてのマナーを習いに行くようになった。
シシリーから質問を受けたアイリーンさんは、シルバーの頭を撫でる手を止めニコッと微笑んだ。
「アリスちゃんに必要なのは、食事のテーブルマナーとか立ち居振る舞いくらい。元々、元気だけど不作法な子ではないもの、問題ないわ。むしろ、教えることが少なすぎで張り合いがないわね」
「でも、貴族って揚げ足を取られないように会話にも気を付けるって本で読んだことありますけど、そういうのは教えないんですか?」
俺がそう聞くと、アイリーンさんとセシルさんは一瞬キョトンとしたあと笑い出した。
「アルティメット・マジシャンズであるアリスちゃんの揚げ足を取るって、そんな命知らずな人間がいるとは思えないわね」
そうなのか?
俺たちが、他の魔法使いよりも大きな力を持っていることは十分理解している。
ただ、それは純粋に武力として、暴力としての力だ。
権謀術数ではない。
暴力で意見を封殺するって、余計な軋轢を生むような気がするんだけど……。
そんな考えが顔に出ていたのか、アイリーンさんは俺の顔を見るとクスっと笑った。
「シン君が心配していることは分かるわ。けど、ひとまずその心配はないわ」
「え、なんでですか?」
「貴方たちのこれまでの実績ね」
「実績?」
「そう。貴方たちは、アールスハイド国民の恐怖の対象であった魔人を簡単に討伐することができる。そして、それを実践してみせた。そんな貴方たちに歯向かおうなんて人間は、この国にはいないわ」
そういうことか。
歯向かってくる人間がいないから、暴力で屈服させる必要はないってことか。
「もちろん、貴方たちがその力を振るえば私たちに抗う術はない。けど、貴方たちはそんなことしないでしょう?」
「それはもちろん」
「アリスちゃんにも、その辺りはよく言い聞かせてあるわ。アリスちゃんには力がある。畏怖もされている。だから、色々と誤解されないように気を付けなさいって」
「そうだったんですか」
さすがアイリーンさんだ。
俺たちが周りからどう見られているのか、身近にいる分、よく状況が理解できてる。
こういう人が近くにいれば、アリスは多分大丈夫だ。
シシリーを見ると、安心したように微笑んでいる。
平民から貴族に嫁ぐと大変だってオーグが言っていたからどうなるかと思っていたけど、思ったよりどうにかなりそうだ。
そう思っていると、リビングにゲートが開いた。
そこから出てきたのは……。
「あ、お義父様、お義母様」
清楚なワンピースを着た少女だった。
「あらアリスちゃん、今日のレッスンは終わったの?」
「はい。お義父様とお義母様がシン君の家に行くと言っていたので迎えに来たんです」
「そう。お疲れ様、ゆっくり休みなさい」
「はい」
……誰だ、これは?
アイリーンさんと和やかに会話している、このいかにも清楚なお嬢様は誰だ!?
顔はアリスの顔をしている。
……アリス!?
アリスのあまりの変貌ぶりに、俺は思わず固まってしまった。
「ありすちゃん?」
シルバーも、ついこの前まで元気なお姉さんだったアリスがお淑やかなお姉さんに変わってしまって混乱している。
シシリーは……あれ? ニコニコしていて動揺した様子がない。
「さて、アナタ。もう孫たちとの交流の時間は終わりよ。そろそろ帰らなくては」
「もうそんな時間か。じゃあねシルバー。また遊びに来るよ」
アイリーンさんに帰宅を促されたセシルさんが、シルバーの頭を撫でながら立ち上がった。
「それでは、殿下、妃殿下、御前失礼致します」
「失礼致します」
「シン君、シシリー、また遊びにくるよ」
「アリスちゃんは、ゆっくりしていきなさい」
二人は、オーグとエリーに挨拶をしたあと、俺たちに声をかけてからアリスが開いたゲートを使って帰って行った。
そして、アリスがそのゲートを閉じた瞬間……。
「……だっはい!!」
謎の掛け声をかけつつ、アリスがドカッとソファーに座り込んだ。
「あ~、疲れた~。あ、ありがとマリーカさん」
「いえ」
ダレた格好でソファーに座るアリスに、マリーカさんが冷たい飲み物を手渡した。
そして、優雅さの欠片もない恰好でそれを飲み始める。
「プハッ! 生き返ったぁ」
そう言いながら、アリスは飲み干したグラスをテーブルの上に置いた。
「随分お疲れのようですわね」
そんなアリスの様子を見ながら、エリーがクスクス笑いながら言った。
「さっきまでダンスのレッスンだったんだよ。ダンスなんて今まで踊ったこともないから大変なんだよ」
「まあ。では、私が教えて差し上げましょうか?」
「うへえ、やめてよ。折角休憩に来てるのになんでわざわざ疲れることするのさ」
アリスがそう言うと、エリーとシシリーはクスクス笑いだした。
「まあ、今から覚えるというのは大変ですわよね」
「ですねえ。私たちは幼い頃からレッスンを受けていましたけど、大人になってから覚えるのは大変だと思います」
エリーとシシリーの言葉を聞いたアリスは、ソファーの背もたれにもたれかけ唇を尖らせている。
「むう。食事のマナーも難しいし、言葉遣いも直さなきゃいけないし、面倒臭いなあ……」
若干ウンザリした雰囲気を醸しながらアリスがそう言った。
アリスは面倒臭いというが、それらは貴族夫人にとっては必須なこと。
それを放棄されてしまってはロイスさんとの結婚ができなくなるかもしれない。
そう思ったのか、シシリーがフォローに回った。
「食事のマナーも、言葉遣いも、皆様に白い目で見られないために必要なことですよ」
「そうですわ。クロード夫人の言うように、確かに貴女方は貴族も含めてこの国の人たちから畏怖されています。けれど、その畏怖が侮りに転じることなど簡単なことですわよ?」
「え? そうなの?」
シシリーの言葉を引き継いだエリーに、アリスが驚いて目を見開きダレていた姿勢から前のめりに変わった。
「ええ。いかに英雄といえども、その人物が粗野で教養のない人物だと人々はどう思うでしょう? 表向きは反抗的な態度を取らずとも、裏では野蛮な人間だと侮るようになるのですわ」
「……」
「そして、こうも言われるでしょうね『クロード子爵家のアリス夫人は、その力でロイス様を脅し、夫人の座を手に入れた』と」
「はあっ!?」
エリーの言葉に、アリスは立ち上がって激高した。
そんなアリスを、エリーは静かに見つめている。
「言われますわよ。今、貴女方を見る皆の目は羨望。その中には、若干の嫉妬も含まれているのです。そんな中、平民から貴族夫人になった貴女がそのような態度を取って御覧なさい。あっという間ですわよ」
「……」
エリーに揶揄う様子はなく、真剣な表情でそう言った。
それを聞いたアリスは、無言のままソファーに腰を落とした。
「ですから、面倒臭がらずに頑張りなさいな。貴女の行動が、そのままロイス様の評判に繋がるのですから」
「……そうだね。ロイスさんが馬鹿にされるのは我慢できないから、頑張るよ」
「貴女には私やシシリーさんが付いています。悩みごとがあるならいつでも相談なさって結構ですよ」
「うん。ありがとうエリー」
そう言うアリスの顔は、さっきまでのウンザリした表情ではなく、決意に満ちた顔をしていた。
「あ、ということは、ここでも喋り方を変えた方がいいのかな?」
「別に今のままでいいんじゃありません? 公私の切り替えができないとしんどいですわよ?」
「そっかあ、じゃあここでは素でいようっと」
「そうなさいな」
エリーはそう言うと、優雅な仕草で紅茶を一口飲んだ。
俺は、先程の発言といい仕草といい驚きとともにエリーを見つめていた。
その視線に気づいたのか、エリーがムッとした顔をして俺を睨んだ。
「……また失礼なことを考えていますわね?」
「なぜ分かった」
「分かりますわよ!」
そういえば、エリーが妊娠してすぐのころ、同じようなやり取りをしたなあ。
エリーは王太子妃。
この国の王妃であるジュリアさんに次ぐ二番目に高貴な女性だ。
しかし、俺はエリーの公私のうち、『私』であるプライベートな姿しか見たことがない。
『公』の部分を見ると、どうしてもムズムズしてしまうのだ。
「まったく、オーグもなんとか言ってくださいな」
エリーはオーグに俺を窘めてもらおうとしたのだろうけど、当のオーグはさっきから顔を伏せてお腹を押さえている。
必死に笑いを堪えているんだろうなあ。
「オーグ!」
「ああ、いや、すまない。いいではないかエリー。こんな気安いやり取りができるのもココだけだ。改めるのは惜しいと思うぞ」
「それはそうですけど……」
オーグとエリーは、しょっちゅう家に遊びに来る。
とくにエリーの訪問頻度は高い。
オーグがいなくても、シシリーに連絡を取り迎えに来てもらうほどだ。
よっぽど居心地がいいんだろうな。
「それにしても、コーナーももうすぐクロード夫人か。これは色々と考えなければいけないな」
「なにをですか?」
自分のことでオーグが考えないといけないことがあると言うので、アリスも気になったようだ。
「コーナーがクロード夫人になるとアルティメット・マジシャンズに常駐することは難しくなる」
「あー、そうですね」
アリスが嫁ぐのは、クロード子爵家の次期領主であるロイスさん。
ということは、アリスは次期領主夫人として色々な所に顔を出さないといけなくなる。
アルティメット・マジシャンズの活動をしている場合ではないのだ。
「ウォルフォード夫人、ビーン夫人も今は産休中だ。恐らく、今後も産休を取ることが多くなるだろう」
それって、二人目、三人目が産まれることは確定ってことかよ。
まあ、否定はしないけど。
「それに、カールトンやメッシーナだって今後どうなるか分からん。そうなると、アルティメット・マジシャンズは人材不足になってくる」
「そうだなあ……」
「それに、私もその内王位を継ぐことになるしトールやユリウスも次期領主だ、いずれお前も歳を取る。折角生まれた超国家的な組織なのに、我々の世代だけで終わらせるのはあまりにも惜しい」
「……ああ、分かった。つまり、俺たちの後継者が欲しいってことだろ?」
「その通りだ」
後継者かあ。
確かに、このアルティメット・マジシャンズという組織は俺たちありきで成り立っている。
俺たちがいなくなれば、組織自体が存続できない。
しかし、一年間活動をした結果、各国からの評判はすこぶる良い。
このまま失くすには惜しい組織になってしまったということだ。
「ということは、新しいメンバーを入れるってことか?」
「そうなんだが……これもまた悩ましいところでな」
「なにが?」
「私たちは、お前の前世の知識をもとに他にはない実力を手に入れた」
「ああ」
「しかし、この力は使い方を間違えれば新たな火種になる。おいそれと教える訳にはいかん」
「まあ、そうだよなあ」
俺は、世の魔法使いの実力を知らなかったために安易にオーグたちに前世の知識をもとにした魔法を教えてしまった。
結果は、全員この世界では隔絶した実力の持ち主になった。
俺たちは元同じクラスでいつも一緒にいた仲間。
だからこそ悪用はしないと信じられるけど、新しく仲間になる人はどうか分からない。
もしかしたら、野心を隠して近付いてくる人間もいるかもしれない。
そんな人間に、前世の知識をもとにした魔法を教えてしまうと、折角魔人を倒して手に入れた平穏が人間の手によって壊れるかもしれない。
それは、以前からオーグに口を酸っぱくして言われ続けていることなので、俺たちの直弟子と言ってもいいメイちゃんにも教えていない。
「俺の知識を教えないとなると、実力不足は否めないってことか」
「そういうことだ。アルティメット・マジシャンズは世界最高峰の魔術師集団でなければならない。これは私の意思ではなく、民意だ」
「皆は俺たちにそうあって欲しいと思ってるってこと?」
「そうだ。だからこそ、私たちに全幅の信頼を置いて貰っていると言っていい。そこに実力が足りず、依頼をこなせないものが入ってみろ、信頼を失うぞ」
「そうかあ」
確かに悩ましいな。
人材を確保したいのに、アルティメット・マジシャンズに入団させる条件を厳しくするしかない。
すると、該当する人物がいなくなる。
「うーん、そうなるとアルティメット・マジシャンズの下部組織みたいなのを作るしかないのかなあ」
俺が思いついたのは、前世のプロスポーツ組織だった。
そこでは、入団してすぐの選手はまず二軍とかマイナーとか下部組織に入って実力を伸ばし、やがて一軍に合流する。
「下部組織か……」
そう思っての発言だったのだが、意外とオーグの関心を引いたようで腕を組んで考え込み始めた。
「とりあえず見込みのありそうな人間を入団させ、下部組織で育てる……案外いい案かもしれんな」
「そう? なら入団基準を決めないとな」
どうやら下部組織を作ることで決まりそうなのでそう言ったのだが、ここで俺はちょっと気になることを聞いてみた。
「そういや、最近メイちゃんの魔法の練習を見てやれてないけど、どれくらいの実力になってるんだ?」
メイちゃんは、この春から中等学院三年生になった。
中等学院から魔法の実践授業があるので、メイちゃんが中等学院に入学してからは練習を見ていない。
俺の前世知識を教えずにどれくらい実力が伸びたのか、メイちゃんが基準になるのではないかと思ったのだが……。
聞かれたオーグの顔は、非常に渋いものになっていた。
「……もうそろそろ、災害級の魔物なら単独で討伐できそうだな……」
「はあっ!?」
オーグの言葉に、一番に反応したのは婆ちゃんだ。
「ちょっ! それは本当かい殿下!? マーリンだって、高等学院一年生のときに大型の魔物を討伐するのに四苦八苦してたのに中等学院三年になったばかりで災害級!?」
「確かに……それはちょと凄いのお……」
婆ちゃんだけでなく、爺さんも驚いている。
それはそうだろう、なんせ自分の若い頃より強いと言っているようなものだ。
オーグの発言に、シシリーとエリーも驚いている。
動じていないのはアリスだけだ。
「アリスは知ってたのか?」
「まあねえ、メイ姫様を魔物討伐に連れて行ってたのはあたしたちだもん」
アリスがそう言うと、オーグはキッとアリスを睨んだ。
睨まれたアリスは「スー」っと吹けもしない口笛を吹いてそっぽを向いている。
「はぁ……普通なら、成人もしていない人間が魔物討伐に行くこと自体が異常なのだがな。この通りコーナーやヒューズが同行しているために遠慮なく魔物討伐をしていたらしいのだ」
らしいって……オーグは知らなかったのか……。
「それに、メイの学友も一緒らしいからな。友人と遊びに行く感覚で魔物討伐をしていたらしい。ハンター協会も、コーナーやヒューズが一緒にいることで特に問題視しなかったそうだ」
ああ、有名になり過ぎて妙な信頼を得ちゃったからかあ。
確かに、魔人すら簡単に倒せるアリスやリンが一緒なら、協会の人もなにも言わないか。
「ちょっと待って、メイちゃんの友達ってあの二人? 確か、アグネスさんとコリン君だっけ?」
「そうだ」
アグネスさんは、トールやユリウスと同じように幼い頃からメイちゃんに付けられた側付きだ。
家柄、人格共に問題ないということで選ばれたらしいけど、二人は本当に仲がいい。
親友と言っていい間柄だ。
コリン君は、実は俺も幼い頃からお世話になっているトムおじさんの息子だ。
平民だけど、とある出来事が縁で男の子としては珍しく王女であるメイちゃんの側付きをしている。
婆ちゃんの信頼も篤いハーグ商会会頭であるトムおじさんの息子として、こちらも家柄に問題ないとされ初等学院の頃から一緒にいる。
この二人、実は初等学院の頃に俺たちが直接魔法の指導をしたことがある。
メイちゃんの提案にアリスとリンが悪ノリした結果なのだが、他より早く魔法の練習をし始めたからか同年代より魔法の実力は優れているらしい。
「三人とも、大型までなら単独で倒せるようになったよ。災害級は、また三人で連携しないと無理かなあ」
「それでも異常だ」
これまで、世界最高峰と言われた爺さんが高等魔法学院一年生のときになんとか大型の魔物を倒していたということは、今の時点で過去の爺さんの実力を上回っているということに他ならない。
「まじか……今の子はそんなに進んどるのか……」
あ、爺さんが若干落ち込んでいる。
「アンタの場合は独学じゃないか。あの子たちにはシンっていう教師がいるんだ、同じ条件じゃないよ」
おお? 婆ちゃんが爺さんを擁護した!?
今まで見たことがない光景に驚愕していると、爺さんが気を取り直した。
「ふむ、それもそうじゃの」
爺さんは驚愕もしていないし珍しがってもいない。
こういうところは元夫婦って感じがするな。
っていうか、また一緒に暮らし始めて何年も経ってるんだから籍も元に戻せばいいのに。
そんなどうでもいいことを考えていると、婆ちゃんがオーグの方を向いた。
「それで、他の子たちもメイちゃんたちと同じくらいの力を持ってるのかい?」
「いえ。シンの直接指導を受けたからでしょうか、その三人だけ突出しています」
「ということは、全体的なレベルはそう変わってないってことかい?」
「そうでもないです。シンが私たちや魔法師団にもたらした情報。魔法の基本は詠唱ではなく魔力制御にあるということはすでに広く知れ渡りましたから。学生のレベルは年々上がっています」
そうなのか。それは初めて知った。
俺の知ってる世界は、実は驚くほど狭い。
結局、高等魔法学院でもSクラスの人間としか交流がなかったし、それ以外の場所でもディスおじさんやメイちゃんなど、王族とかシシリーの実家としか交流がなかったりする。
……よくよく考えると凄い歪な交流関係だな。
俺、立場的には平民なのに。
最近は、シルバーを通じて子供たちのママさんやパパさんたちと多少の交流はあるが、魔法に関する仕事をしている人はいない。
なので、今の魔法界がどうなっているのか、正直に言うとあんまり詳しくない。
魔法師団とも交流はないしな。
しかし、子供たちのレベルが年々上がっているのなら、オーグの懸念は解消できるんじゃないだろうか?
「それならさ、まずはメイちゃんたちをアルティメット・マジシャンズに入れたら?」
俺がそう言うと、オーグが凄い険しい顔をした。
「確かに、今の子供らの中ではメイたちの実力は飛び抜けている。しかし、世間はそれを知らない。そんな中でメイを入れてみろ、アルティメット・マジシャンズは縁故で新規採用をする団体だと思われるぞ」
ああ、そうか。
俺たちは気軽に接しているけど、メイちゃんは王族。
一般の人たちは、メイちゃんのそういう個人情報は手に入れられない。
そんな中でメイちゃんをアルティメット・マジシャンズの追加要因第一号にしてしまうと、縁故と思われてしまう。
そりゃ、悩むよな。
「それに、そもそもメイは王女だぞ? いまでさえお転婆という言葉では言い表せない状況になっているのに、これ以上だと……嫁の貰い手がなくなってしまう」
おおう。
そういや、昔ディスおじさんにも同じこと言われた気がする。
けど、メイちゃんももう十四歳……もうすぐ十五歳か。
それくらいなら、好きな人の一人や二人できていそうなもんだけどな。
「メイちゃんにそういう話はないのか?」
「さあ? 私もメイの全てを知っているわけではないからな。特に中等学院でのことなど知る由もない」
「メイちゃんに興味なさすぎじゃね?」
王女だろ?
もしお付き合いしている人がいるなら、王族として知っとくべきなんじゃ……。
「それは私の知るところじゃないな。メイが誰かと付き合うなら調査くらいはするだろうが、それは相手の素性調査くらいだ。メイを害する意思があるかとか、裏社会と繋がりがないかとか」
「それでいいのか?」
「構わんさ。アールスハイドは自由恋愛の国だ。後ろ暗い相手でなければ王族だって誰と恋愛したって構わない」
「へえ」
「だからこそ、これ以上暴れらると困るのだ。その内、行き遅れ王女とか言われるようになったら目も当てられん」
オーグはそう言うと、本当に疲れたように溜息を吐いた。
いつも邪険に扱ってるけど、こういうところはちゃんとお兄ちゃんなんだよな、コイツ。
「じゃあ、どうする?」
「どりあえず……メイに関しては、本人の意思は尊重するが第一号とするのは止めた方がいい。その前に入団試験などをして実績を作るべきだろう」
「そうか。じゃあ、下部組織を作って入団試験するか」
「そうだな、じゃあ試験内容を……」
「ちょっと、二人とも!」
俺とオーグが試験内容について話し合おうとしたとき、エリーの声がそれを遮った。
「今日は休みに来たのですよ? それなのに仕事の話ばかりして。もうちょっと家族の時間を大事にしてくださいませ!」
エリーが、膨れっ面になりながらそう言った。
「そうですよ。お仕事に真面目なのはいいことですけど、今日は家族で一緒に過ごす日です。お仕事のことは忘れて下さい」
シシリーにもそう言われてしまえば仕方がない。
そう言われてしまった俺たちは、お互い顔を見合わせて肩を竦めた。
「そうだな。今日は休日なんだし、仕事の話はナシにするか」
「ああ。すまなかったなエリー」
二人の言う通りなので、この話は一旦ここで打ち切り家族との時間を過ごすことにした。
「あれ? なんか、あたしだけ邪魔者なような気がする」
アリスがそんなことを言うので、俺とシシリーは顔を見合わせたあとアリスに向かって言った。
「なにを言ってるんだ義姉さん」
「そうですよお義姉さん。お義姉さんも家族じゃないですか」
「……義姉さんはやめてよう、すっごい壁を感じるよう」
そう言って涙目になるアリスに、俺たちは思わず笑ってしまった。
こうして、俺たちの休日は和やかに過ぎていった。
しかし、アルティメット・マジシャンズの新規団員か。
これは、早急に解決しないといけない案件だな。
休日が明けたらすぐにでも皆の意見も聞きつつ話を詰めないとな。
コリン君とアグネスさんは、メイが主役のSPに出てくるメインキャラです。
興味があれば読んでみてください。
小説は一巻だけですが、漫画は今三巻まで出てます。
三巻以降は書き下ろしストーリーです。
SPの漫画は、絵が可愛いいんで私は凄く好きです。




