幸せな光景
シシリー、オリビア、エリーがそれぞれ子供を産むと、アールスハイド王国はまたしても祝賀ムードに包まれた。
王太子妃であるエリーの産んだ王女はオクタヴィアと名付けられ、ヴィアちゃんと呼ばれて仲間の皆から可愛がられていた。
王女がこんなに、周りから敬われることはあっても可愛がられることなんてないと、ディスおじさんが初孫であるヴィアちゃんを愛おしそうに抱っこながらそう言っていた。
オーグによると、自分が幼い頃は両親以外に気安く接してくる者など皆無だったとのこと。
まあ、普通王族だとそうなのかな。
俺らは、オーグが王族だってことを時々忘れそうになるくらい親しくしているから、どうしても友達の子供って感じで接してしまう。
けど、それは俺らだけで、他の貴族の人たちは違う。
生後数ヶ月を過ぎて御披露目されたときには、大の大人たちが揃って膝をつき頭を垂れたと、家に遊びに来たお義父さんであるセシルさんが、シャルを抱っこしながら教えてくれた。
「そういうことを聞くと、オーグが王族だって思い出しますね」
「いや……普通、そういうことがなくてもアウグスト殿下が王族であることを忘れる人なんていないのだが……」
「本人が時々王族であることを忘れてますからねえ」
「殿下……」
セシルさんはそう言うとガックリと項垂れた。
その様子がおかしかったのか、シャルがキャッキャと笑ってセシルさんの顔をペチペチと叩いた。
その光景を、シシリーと義母であるアイリーンさんがクスクス笑いながら見ている。
「おばあちゃん、おじいちゃんどうしたの?」
アイリーンさんの膝の上で抱かれているシルバーには、なぜおじいちゃんであるセシルさんが項垂れているのか分からない。
そこで顔をあげてアイリーンさんに訊ねたのだが、その言葉は以前と比べ物にならないくらいしっかりしている。
ちょっと前までじいじ、ばあばと呼んでいたのに凄い進歩だ。
シャルたちが産まれ、実際に弟妹たちを見てお兄ちゃんとしての自覚を改めて持ったのか、その成長ぶりが顕著に見られた。
問われたアイリーンさんも、シルバーの成長に目を細めて微笑みつつ自分を見上げてくるその頭を撫でながら話しかけた。
「なんでもないのよシルバーちゃん。おじいちゃんはちょっとお疲れなだけよ」
「そうなの? おじいちゃん、げんきだして」
「シルバーちゃんは優しいわねえ。ほら、アナタ。シルバーちゃんが心配するからシャキッとなさい。シン君たちの関係なんて今更でしょう?」
「……そうだな。ごめんなシルバー、おじいちゃんはもう大丈夫だよ」
「……ほんと?」
「ああ、ほら、シルバーもこっちにおいで」
セシルさんはそう言うと、シャルを抱きながら自分の膝を叩いた。
「うん!」
シルバーはその誘いに乗ってアイリーンさんの膝の上から降り、セシルさんの膝の上に乗った。
シャルを抱いてシルバーを膝の上に乗せている状態だが、その姿に不安定なところは一切ない。
「凄いですねお義父さん」
俺が素直にそう言うと、セシルさんは笑っていた。
「こう見えても四人の子持ちだよ? 特にロイスとセシリアとシルビアは年子だったから三人同時に構ってやらないと構ってない子が拗ねちゃって大変だったんだよ。逆に、シシリーのときは皆が構いたがってね、順番を守らせるのが大変だったなあ」
そういやそうか。
四人も子供がいれば、慣れるのは当たり前だな。
セシルさんの膝の上に乗ったシルバーは、シャルを一生懸命あやしている。
シャルもお兄ちゃんが分かるのか構われて嬉しそうだ。
「でも、貴族の方って育児は乳母とか使用人に任せるってイメージがあるんですけど、そうじゃなかったんですか?」
俺がそう言うと、セシリアさんとアイリーンさんは顔を見合わせたあとクスッと笑った。
「確かに、そういう家もあるけどね。アールスハイドでは、その考えは少し時代遅れなんだよ」
「もちろん、主人には仕事があるし、私も他の家のご夫人方とのお付き合いもあるから、少しは手伝ってもらったけれど、基本的には私たちで育てたのよ」
「まあ、夜泣きの対処は全面的に使用人に任せたから、その面では随分楽をさせてもらったけどね」
セシルさんとアイリーンさんがそう言うと、シシリーが同意するように頷いた。
「私も、シルバーのときは自分で全部やるんだって頑張りましたけど、今回は皆さんにお手伝いしてもらってます」
生後三ヶ月を過ぎて夜泣きの始まったシャルだが、今はメイドの皆さんに協力をしてもらっている。
シルバーのときは使命感とか初めての子育てだからとかで気張っていたけど、まだ学生で学院に通わないといけないこともあって倒れそうになってしまったからなあ。
今は仕事もしているし、頼れるところは頼ろうということにしたのだ。
「でも、そう考えるとマークのところは大変だな」
家
ウチは平民だけど、爺さんと婆ちゃんの威光が絶大なので、王家が気を利かせて使用人を派遣してくれている。
けど、マークとオリビアのところは純粋な平民家庭だ。
両親はいるけど使用人はいない。
さぞ大変なんだろうなと思っていると、不意にゲートが開いた。
誰だろうと見ていると、中から出てきたのは疲れた様子のマークとオリビアだった。
オリビアの腕には、二人の子である男の子が抱かれている。
「どうもッスウォルフォード君」
「お邪魔します」
「ああ、いらっしゃい。マックスもいらっしゃい」
マックスというのは、マークとオリビアの子供の名前だ。
オリビアの腕に抱かれているマックスの頬をつつきながら挨拶すると、マックスはキョトンとした顔で俺を見ていた。
「あ、シシリーさんのお父さんとお母さんも来てたんスか」
「すみません。お邪魔でしたか?」
俺に挨拶をしたあと、セシルさんとアイリーンに気付いたマークとオリビアは、申し訳なさそうな顔をしながらそう聞いてきた。
それに答えたのは俺ではなくセシルさんとアイリーンさんだった。
「いや、全然構わないよ」
「フフ、また赤ちゃんが増えたのね。嬉しいわ。さあ、遠慮せずにこちらにいらっしゃい」
二人はそう言うとオリビアをソファーに招いた。
「し、失礼します」
オリビアは、セシルさんとアイリーンさんの間に座らされた。
それに真っ先に反応したのはシルバーだ。
「まっくす! こんにちは!」
セシルさんの膝の上から降りたシルバーは、セシルさんとオリビアの間に座り直した。
「こんにちはシルバー君。今日もマックスと遊んでくれるかな?」
「うん!」
オリビアにマックスの子守りを任されたシルバーは元気に返事をした。
早速シルバーがマックスの頭に手を伸ばすと、マックスは満面の笑みでシルバーの手を受け入れた。
……俺のときはキョトンとされたのに……。
マックスの態度の違いにションボリしていると「ああぅう」と、なんだかシャルのご機嫌が怪しくなってきた。
その様子を見て、アイリーンさんがクスクス笑いながらシルバーに言った。
「あらあら、シャルちゃんはもっとお兄ちゃんと遊んで貰いたいみたいよ?」
「え?」
アイリーンさんの言葉でシャルの方を向いたシルバーは、自分に向かって手を伸ばしているシャルを見た。
「しゃる、ごめんね」
シルバーはそう言うと、伸ばされたシャルの手を握り頭を撫でた。
すると今度はマックスの機嫌が悪くなる。
「わわっ」
慌ててマックスの方を向いたシルバーは、頭を撫でたことでシャルに放してもらえた手でマックスの頭を撫でる。
両手で一生懸命二人をあやしているシルバーの姿に、俺たちの口から自然と笑いが溢れた。
「フフ、良いお兄ちゃんですね、シルバー君」
自分の子を一生懸命あやしているシルバーを微笑ましそうに見つめるオリビア。
その顔は、もう立派な母親だった。
「そういえば、さっき二人の話をしてたんだ」
二人が来る前にしていた会話を思い出してそう言うと、マークとオリビアは首を傾げた。
「自分たちの話ッスか?」
「ああ。今回、俺らはシャルの世話を使用人さんたちにある程度お願いすることにしたんだけど、マークたちのところはそういう人がいないから大変だろうなって」
俺がそう言うと、二人は揃って苦笑を浮かべた。
「確かに大変ッスね」
「今ならお二人の苦労が分かります。学院に通いながらシルバー君を育てたなんて本当に尊敬します」
今は気丈に振る舞っているけど、二人からは隠しきれない疲れが見える。
今はマークの実家に戻っているのでマークの両親も手伝ってくれるのだろうが、頼りきりになるわけにもいかない。
特にオリビアは、幼馴染で昔から知っている仲とはいえ、他家に嫁いだ身だから中々頼みづらいだろうしな。
「だと思ったよ。マックスは俺らで見てるから、少し仮眠してきたら?」
俺がそう言うと、マークとオリビアは顔を見合わせた。
「……お願いしていいッスか?」
「ああ、客間は分かるよな。そこ使っていいよ」
「助かるッス」
「ありがとうございます」
「いいって。じゃあ、ある程度時間が経ったら起こしに行くから」
俺がそう言うと、オリビアは異空間収納からベビーベッドを出すと、そこにマックスを寝かせた。
「じゃあ、お願いします」
「ああ、ごゆっくり」
二人は少しホッとしたような顔をして階段を上がっていった。
その二人の後ろ姿を目で追っているとセシルさんが立ち上がった。
「シャルもマックス君と一緒に寝ようね」
セシルさんはそう言うと、マックスの隣にシャルを寝かせた。
一緒のベビーベッドに寝かされた二人は、なんだかご機嫌そうだ。
「あらあら、二人とも仲良しさんですね」
その可愛らしい光景に、シシリーの顔は蕩けそうだ。
シルバーもベビーベッドを覗き込みながら二人の様子を見ている。
そんな和やかな時間が流れていたのだが、またリビングにゲートが開いた。
そして、その途端に赤ちゃんの泣き声が聞こえてきた。
「シルバー! 助けて下さいませ!」
そんなことを言いながらゲートから出てきたのはエリーだった。
腕にはヴィアちゃんが抱かれている。
そのヴィアちゃんは、エリーの腕の中で元気よく泣いている。
「えりーおばちゃん。びあちゃんとうしたの?」
シルバーがコテンと首を傾げてそう聞く。
ついこの前まで「おねえちゃん」と呼ばれていたのに、子供が産まれた途端に「おばちゃん」と呼ばれるようになったエリーは、一瞬「ぐぬっ」っといった顔をしたけど、なんとか持ち直しシルバーの視線に合わせて膝をついた。
「ヴィアが、シルバーに会いたいって泣くのですわ。慰めてあげて下さいませ」
エリーはそう言うと、ヴィアちゃんをシルバーに見せた。
泣いているヴィアちゃんを見たシルバーは、その頭を撫でた。
「びあちゃん、よしよし」
すると、さっきまでエリーがどんなにあやしても泣き止まなかったヴィアちゃんがピタリと泣き止み、シルバーに満面の笑みを向けた。
「はぁ……なにをやっても泣き止みませんでしたのに、シルバーだと一瞬ですのね……母として自信をなくしますわ」
エリーが少し拗ねたようにそう呟いたので、俺とシシリーは思わず吹き出してしまった。
「笑い事ではありませんわ! 母としての威厳が……あら、クロードご夫妻、いらっしゃいましたの」
エリーは、立ち上がり頭を下げているセシルさんと、カーテシーをしているアイリーンさんを見つけて声をかけた。
「ご機嫌麗しゅうございます、王太子殿下、妃殿下」
セシルさんは頭を下げながらそう言った。
「二人とも、そう畏まらないでくれ。ここは公の場ではないのだからな」
エリーが来てるってことはオーグも一緒なわけで、突然現れた王太子一家を見て、セシルさんたちは慌てて臣下の礼をとったのだ。
「しかし……」
「この場でそのような態度をとるのは二人だけだぞ? シルバーに至っては我らのことをおじちゃんおばちゃんと呼ぶのだ。そんな中で畏まっているのもおかしな話だろう。楽にしてくれ」
「はぁ……」
「……では、失礼致します」
なんか変な論法だったけど、これ以上固持するのも失礼だと思ったのだろう、二人とも戸惑いながらもソファーに腰を下ろした。
「それにしても、ヴィアはシルバーが気に入ったか」
シルバーに頭を撫でられてご機嫌に笑っているヴィアちゃんを見ながら、オーグがそう呟いた。
「シャルもマックスもそうみたいだな。いいお兄ちゃんって証拠だろ」
「ん? マックスもいるのか。ビーン夫妻はどうした?」
「上で仮眠してる。二人のとこには世話をしてくれる使用人さんがいないから」
「ああ、そうか。私たちは普段から乳母や使用人たちにヴィアの世話を任せているからな。そういう話を聞くと、彼女たちのありがたさが分かるな」
「でも、今日は自分たちで子守りしてるんだな」
「休日くらいはな。恐らく将来、ヴィアとシャルロットは友人同士になる。そのとき、両親の対応が違うと言われたら可哀想だろう?」
へえ、オーグがこんなこと言うなんてな。
「意外と親馬鹿なんだな」
「は? 親として当然のことだろう? ところで、シン」
「なに?」
急にオーグが真剣な顔をして俺を見てきた。
「最近のシルバーの様子はどうだ?」
「どうって?」
オーグがなにを言いたいのか分からなくて聞き返すと、オーグは神妙な顔をして近寄ってきた。
「今まで、私もシルバーをずっと見てきたから今まで問題がないのは分かっている。だが、ここ最近シルバーは随分と自我がハッキリしてきただろう? それに伴って様子が変わったなどということはないか?」
その言葉を聞いた俺は、オーグがなにを言っているのか理解し、怒りを込めてオーグを睨んだ。
だけど、オーグの顔は真剣だ。
オーグは、シュトロームとミリアという魔人同士の親から生まれてきた子供であるシルバーをそれとなく監視している。
この国の王太子として、少しでも危険があることは許容できない。
シルバーを養子として引き取る際、オーグにそう言われたことを思い出した。
今までは、自我の乏しい幼児ということで静観していたようだが、ここ最近のシルバーは三人の赤ちゃんのお兄ちゃんとして急速に自我が発達した。
それに伴って今まで顕在化しなかった危険性が出ていないか知りたいのだろう。
そのことを思い出した俺は、怒りをグッと押し殺しオーグを見返した。
「なにもないよ。むしろ、同年代の子たちよりよほど良い子に育ってる。お前が考えてるような危険性はない」
「それは断言できるか?」
「できる」
俺がそう言うと、オーグは真剣な顔をして考え込んだ。
そんなオーグを、周りの皆も黙って見つめている。
思い悩む王太子に、誰も声をかけることができない。
「おい、なにが言いたいんだよ?」
俺は、この空気を打破しようとオーグに声をかけた。
すると、俯いて考え込んでいたオーグが顔をあげ……。
とんでもないことを口にした。
「いや……シルバーを婿に貰うのと、ヴィアを嫁に出すのと、どちらがいいか考えていた」
その言葉を聞いた瞬間、リビングの空気固まった。
「は? なに言ってんの?」
あまりに突然のことで理解が及ばずそう返すと、別のところから追及が入った。
「殿下、それはウチを王家に取り込みたいってことかい?」
今日は、セシルさんたちクロード家の人たちにシャルと触れ合ってもらいたいという理由で、離れた場所からこちらを見ていた婆ちゃんが会話に入ってきた。
「いえ、そういう意図ではないのですが……」
「だったら、どういう意味なんだい?」
口籠ったオーグに婆ちゃんがさらに追及すると、おずおずと話し出した。
「ヴィアは、私や母であるエリーよりもシルバーに懐いている気がします。このまま成長した場合、ヴィアがシルバーに恋心を抱く可能性が高そうなので」
「……まあ、確かにその可能性はなくはないかもねえ」
オーグの言葉で、婆ちゃんがシャルやマックスが寝かされているベビーベッドに一緒に寝かされたヴィアちゃんを一生懸命あやしているシルバーを見る。
ヴィアちゃんは、来たときの様子とは違いシルバーを見て非常に嬉しそうにしている。
その横では、エリーが複雑そうな顔をしてその様子を見ていた。
「ヴィアが成長し、シルバーと付き合いたい、もしくは結婚したいと言ってきた場合、その希望を叶えてやりたいと考えています。そうなった際、王家に婿入りしてもらう方がいいか、ウォルフォード家に嫁に出した方がいいか、今から考えておいたほうがいいかと思いまして」
娘が生まれたばっかりなのに、もうそこまで考えてるのかよ。
ああ、でも、なるほどな。
だからさっきの質問なのか。
「王女であるヴィアちゃんの配偶者として、シルバーが相応しいか確認したかったのか」
「ああ。家柄で言えば、シルバーは魔王と聖女の息子だ。なんの問題もない。問題なのはその出自だからな」
「なるほど。自分の娘であるヴィアちゃんを嫁がせてシルバーを監視下に置きたいという意図はないってことだな?」
俺がそう言うと、オーグは少し視線を泳がせた。
「……一石二鳥だと思わないか?」
オーグのその台詞に、俺は深い溜め息を零してしまった。
「はぁ……お前、やっぱりそういう意図があったんじゃないか」
俺がそう言うと、オーグは真剣な顔で反論してきた。
「元々は、ヴィアが望むことを叶えてやろうという気持ちなのは間違いない。ただ、そういう一面もあるということだ」
「ヴィアちゃん、まだ赤ちゃんだろうが!」
「お前、ヴィアのあの様子を見てなんとも思わないのか!? 両親である私とエリーよりもシルバーに懐いている。これで将来シルバーに懸想しないなんてことになったら、そっちの方が驚きだ!」
オーグの顔は真剣で、冗談を言っているようには見えない。
「はぁ、お前、男親としてそれでいいのかよ?」
俺は、シャルが産まれたときからシャルが可愛くて仕方がない。
将来、シャルが彼氏を連れてくることすら考えたくない。
それなのに、オーグはもうヴィアちゃんを嫁に出す、もしくは婿を迎えることまで考えている。
するとオーグが苦笑しつつ答えた。
「まあ、私は王族だからな。生まれた子が男であれ女であれ結婚するのは義務みたいなところがある。元から覚悟はしていたのだ」
ああ、なるほど。
まだ二十歳前で妙に達観したことを言うと思ったらそういうことか。
「なんにせよ、今から心配してもしょうがないだろう。そのときになったら相談に乗ってやるくらいでいいんじゃないかい?」
ばあちゃんにそう言われると、オーグは少し考え込みフッと笑った。
「そうですね。少々先走りすぎたようです」
「やっぱり親馬鹿だな」
「うるさい」
そんな会話をしながら子供たちを見た。
すると、そこではシルバーが忙しそうに三人の赤ちゃんをあやしている姿があった。
シルバーの手は二本しかないのに、赤ちゃんは三人いるから常に誰かが撫でてもらえず不満げな声を漏らす。
すると慌ててシルバーがその赤ちゃんをあやす。
そして、シルバーの手が離れた赤ちゃんが不満を盛らず。
その微笑ましい光景をクスクス笑いながら見ていると、次第に赤ちゃんたちが眠りに落ちていき、ようやくシルバーは手を休めることができた。
三人とも寝静まったことを確認したシルバーは、フーッと息を吐いた。
「おにいちゃんはたいへん」
若干疲れた様子を見せながらそう呟いたシルバーを見て、シルバーには悪いと思いつつ俺たちは笑ってしまった。
シルバーは意味が分からずキョトンとしている。
するとシシリーがシルバーを抱っこしてその頭を撫でた。
「ありがとうシルバー。偉いね、さすがお兄ちゃんですね」
そう言われたシルバーは、キョトンとした顔から満面の笑みに変わって大きく頷いた。
「うん! だってぼく、おにいちゃんだから!」
シシリーに抱っこされながら嬉しそうにそう言うシルバーを、オーグやエリー、婆ちゃんまで微笑ましそうに見ている。
いい光景だなあ。
そう思っていると、エリーがポソッと呟いた。
「やはり、シルバーに婿に来てもらったほうが……」
だから、気が早いってんだよ!