根本的な問題が発覚しました
研究会で皆のやりたい事を聞いた。
とりあえず、攻撃魔法のシシリーとトールについては練習場でしか出来ないので、魔力制御の練習をして貰う。
その事を伝えると、皆に何故かと聞かれ逆に驚いた。
何故なら強力な魔法を使うには、大きな魔力が必要なのだ。俺は当たり前だと思っていたが皆は違っていた。
強力な魔法を使うには詠唱を工夫し、それに見合ったイメージをするのだと思っているらしい。
そんな考え方をしていたのか。まずはその先入観を払拭する所から始めないと駄目だな。
とりあえず、今の魔力制御の実力を見る為に、皆に魔力障壁を展開して貰うが……。
……障壁が薄い。
「駄目だね。これじゃあ殆ど魔法を防げないんじゃないか?」
「しかし、魔力障壁なんてそんなに防御力のあるものでは無いだろう?」
「……マジで言ってんのか?」
「どういう事だ?」
「この前、シュトロームが俺の魔法の初撃を防いだだろ?」
「ああ、あれは初めての授業の時にお前が使った魔法の強化版だったな。まさか防がれるとは思って無かったが……」
「あれ、魔力障壁で防がれたんだぜ?」
「な! なんだと!?」
「嘘……」
「何か特別な防御魔法だと思ってました……」
「あんだけ扱える魔力がデカイんだ。俺は防がれる事は分かってた。だから魔法を撃った後、すぐにシュトロームの裏をつくように動いたんだ」
「あたしは見て無いんだけど……」
あの場にいなかったアリスから声が上がる。それはしょうがないので諦めて貰おう。
「魔力が大きければ特別な防御魔法を使わなくても魔法は十分防げる。シシリー、この前付与した防御魔法を展開してみてくれない?」
「はい、分かりました」
そう言うとシシリーは魔道具の指輪に魔力を通す。
「わ……凄い魔力障壁……」
「障壁が凄くて言われるまで気付かなかったな……確かに制御されてる魔力が凄い」
「シシリー、それって思い切り魔力使ってる?」
「いえ……起動する時に使った魔力以上は使ってないです」
「これには、俺の魔力制御のイメージで魔力障壁が付与してある。そのイメージに添って、付与してある魔法が必要な魔力を集めて制御してるんだ」
皆展開されてる魔力障壁を呆然と見ている。これで魔力制御が重要だと言う事が理解して貰えるかな?
「確かにイメージは大事だよ? でもそのイメージを具現化する魔力が無いと魔法は起動しないよね?」
皆黙って俺の話を聞いている。
「だから、まずは魔力制御を鍛えよう。ゲートやら他の魔法やら、全てはそれからの話だな」
神妙な顔になったな。というか、何故皆この事を知らないんだ?
「シン、何故こんな事を知ってるんだ?」
「何でって……じいちゃんから教えて貰ったぞ? 小さい頃から、魔法を使うには魔力の制御が大事。魔力を制御出来なきゃどんなにイメージしても魔法は使えない。だから、とにかく魔力を沢山制御出来るようになりなさいって、そう教わったよ。むしろ、皆が知らない事の方が驚きだよ」
「そうか……それが賢者殿の凄さの秘訣か……」
「というか……魔力を制御しないでどうやって魔法を使うんだよ?」
「魔力制御はある程度出来るさ。ただ、高度な魔法を使うとなると、どうしてもイメージや詠唱の方に思考が行ってしまってな。それに……魔力制御の練習は地味だからな……」
皆黙って俯いちゃった。
「皆もそうなのか?」
「……ある程度魔法が使えるようになると、技術的な事の方に意識が行っちゃったな……」
「私もです……魔法に魔力が必要なんて基本中の基本なのに……」
「シン君はいつも魔力制御の練習してるの?」
「ああ、小さい頃から毎日やってるからな、もう習慣になってるよ」
そうして魔力を集め、制御して見せた。
「っっ!!」
「これは……!!」
「す、凄い……」
「どんな事でもさ、基本を忘れちゃったらそれ以上成長しないよ。小手先に走るより、もっと大事な事があるんじゃない?」
魔力を霧散させながら皆に言う。
「という訳で、これから毎日魔力制御の練習な。サボんなよ?」
「分かった。頑張る」
「……リンは暴走させんなよ?」
「させない!」
「それと、とりあえずの目標は無詠唱で魔法が使えるようになる事な」
『ええー!?』
「えーじゃない。ここは『究極魔法研究会』なんだろ? それ位出来なくてどうするよ?」
「分かった。頑張る」
「……リンは暴走させんなよ?」
「させないったら!」
どうもリンは暴走魔法少女ってイメージが……。
その日は一日魔力制御の練習をして貰って、最後にもう一度魔力障壁を展開して貰った。
「……これは……いや気のせいか?」
「気のせいじゃないです。さっきより魔力障壁が厚くなってます」
どうやら皆実感したみたいだな。
「各自、家でも魔力制御の練習をする事。それが上達したら魔法の練習をしよう」
結局、基本中の基本をおさらいしただけでこの日の研究会は終わってしまった。
ただ、皆の顔はやる気に溢れていた。
皆の現状が把握出来て良かった。それが分からなかったらいくら魔法を教えたって無駄になる所だったな。
皆レベルアップの目処が立って意気揚々と校舎を出た。
「おい! 出てきたぞ!」
「シン様ぁー!」
「こっち向いてー!」
「ウォルフォード君! 一言! 一言お願いします!」
皆で校舎に戻った。
「わ、忘れてたぁ……」
「っていうか、家の門は出てないわよね。どうやって学院に来てるって知ったのかしら?」
「裏口から出たとでも思ったんだろう。それで次は学院で張っていたと」
「凄い執念だねえ……」
「って言うか! あんな人だかりが出来てたら学院から出られないじゃん!」
「しょうがない、またこれ使うか……」
これはしょうがない。しょうがないよね?
ゲートを家に開き、皆で潜った。
「おや、おかえりシン。またゲート使ったのかい?」
「おかえりシン。どうかしたのかの?そんなに沢山友達を連れてきて」
「ただいまじいちゃん、ばあちゃん。いや校門の前も凄い人だかりでさあ……皆出られないから連れて来た」
「騒ぎ過ぎだよ全く!」
「ほっほ、その内収まるじゃろうて」
本当かな?
「それより見た事無い子もいるね。紹介してくれないのかい?」
「ああ、えっとウチに来た事無いのは……」
「ア、アリスです! アリス=コーナーです!」
「リン=ヒューズです。御会いできて光栄です」
「初めまして、トニー=フレイドです」
「ユーリ=カールトンですぅ」
「マ! マーク=ビーンッス!」
「オ、オ、オリビア=ストーンです!」
俺が紹介する前に自己紹介しちゃった。
「何人かは聞いた事があるね。特に、マークと言ったねえ」
「は! はいッス!」
「アンタの所の工房には迷惑を掛けてしまったみたいで……すまなかったねえ」
「そ! そんな! 頭を上げて下さい! 逆に大口の契約が出来たって父ちゃん大喜びしてたッスから!」
「それでもウチの孫が迷惑を掛けた事は間違いない。だから詫びさせとくれ」
「そうじゃのう、すまなかったなマーク君」
「本当に止めて下さい!!」
爺さんとばあちゃんに頭を下げられてマークが叫んでる。
「じいちゃん、ばあちゃん、もうその辺にしといたげなよ。マークが困ってるよ?」
「誰のせいだい! 誰の!!」
ばあちゃんにメッチャ怒られた。
「そ、それよりも、じいちゃんとばあちゃんに聞きたい事があるんだけど、いい?」
「はぁ……なんだい?」
「どうかしたのかの?」
「今日知ったんだけどさ、普通魔法の練習って魔力制御の練習の事を言うんじゃないの?」
そう言うと爺さんは少し悲しそうな顔をした。
「嘆かわしい事じゃ。皆ある程度魔法を使えるようになるとすぐに小手先に走りよる。魔法の練習とは派手な詠唱とそれをイメージする事じゃと思っとる。そのせいかのう、年々魔法使いのレベルが下がって来とる」
爺さんが情けないと言わんばかりに溜め息をこぼす。皆はシュンとしちゃった。
「半分位はアンタのせいだけどね」
「ワシの!?」
ばあちゃんの発言に爺さんが超ビックリしてる。
「ばあちゃん、どういう事?」
「どうもこうも、マーリンが無詠唱でポンポン魔法を使うもんだから皆その魔法に憧れちまってねえ。無詠唱なもんだから、真似も出来ない。でもマーリンの魔法は使いたい。目の前で見た事ある奴がマーリンの魔法のイメージで詠唱を創ったら偶々成功したのさ。それ以来、詠唱を工夫すれば色んな魔法が使える、そんな風潮になっちまったのさ」
「確かに……私達もそう思っていました」
「それ、ワシのせいじゃ無いじゃろ!?」
「原因はアンタさ。全く自重もしないでポンポンと……アタシは言ったね? ちょっとは自重しろと。見てごらん、アンタがそんなんだからシンがこんなんになっちまうんだよ」
「ちょっ! 飛び火した!?」
「シン君の自重の無さはお祖父様譲りなんですね」
「シシリーまで!?」
何故か俺まで標的にされてしまった。
「と、とにかくじゃ、魔法に一番大事なのは魔力制御じゃ。当然イメージも大事。じゃがの、詠唱なんぞ本来は要らんのじゃぞ?」
『え!?』
「シンを見てみい、この子が詠唱しとる所を見た事があるかの?」
「そういえば一度も無いな……」
「まあ、この子の場合はイメージの仕方が特殊なんじゃがの」
「どういう事ですか? 賢者様」
「この子は魔法の『結果』ではなく『過程』をイメージしとる。皆は何故火が燃えるのか知っておるか?」
「何故と言われると……明確には答えられません」
「ワシもよう知らん。じゃが、この子はそこに疑問を持つんじゃ。火とは何か? 何故燃えるのか? それをよく観察したんじゃろうなあ、その結果が……シンの火の魔法は見た事あるかの?」
「青白い炎でした」
「そう、それじゃ。あの炎はとんでも無い温度になっとるようでの、着弾した地面が溶岩みたいになっとったわ」
皆が感心したようにこっちを見るけど……何かカンニングした答えを褒められてるようで居心地が悪かった。
「シンのイメージは特殊じゃがな、それを知らんワシでも無詠唱は使えるんじゃ。それに戦闘中は詠唱をしとる暇など無いし、詠唱で使う魔法がバレたら簡単に対処されてしまうわい」
「それで無詠唱を覚えろって言ったんですね……」
「という事は、皆シンから魔力制御について聞いたんじゃな?」
『はい』
「それでよい。まずは制御出来る魔力の量を増やす事じゃ。さすればイメージ通りの魔法が使えるようになる。こんな風にの」
あ! 爺さんがゲートを開いた!
「じいちゃん! それ!」
「ほっほ、苦労したがの。紙に書いてくれた説明でようやっと理解出来たわい」
さすが爺さんだ。この歳になっても探究心と向上心は衰えてない!
「シンの魔法はシンしか使えない訳では無い。魔力制御が出来て、ちゃんとイメージも出来れば皆使えるんじゃ。シンは規格外であっても理不尽な存在では無い。今これまでに無い脅威が迫っとる中、皆の成長は必ず人類の役に立つ。頑張るんじゃぞ」
『はい! ありがとうございました!!』
やっぱ、俺より爺さんが言った方が説得力があるな。そこは人生経験の差かな? 皆のやる気はマックスになってる。練習したくてウズウズしてる感じだな。
「じいちゃん、ありがと」
「ほっほ、何……ちょっと責任を感じての……」
それは知りたく無かった!
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「マーリン、アンタも偶には良い事するじゃないか」
「偶にはとは何じゃ」
研究会の面々が帰宅の途に付き、シンがシシリーとマリアを送りに行って、皆がいなくなったリビングでマーリンとメリダが座っていた。
「アンタがゲートを覚えたのはシンの為だろう?」
「……何の事じゃ」
「シンは魔法を使う度に規格外だの無茶苦茶だの言われてるみたいだねえ」
「確かにそう言っておったの」
「でも、アンタがシンの魔法を使えれば、シンは特別なんかじゃ無いって言えるからね」
「……」
「フフ、良かったんじゃないかい? 皆シンのように魔法が使えるかもと目を輝かせていたからね」
「今は人類存亡の危機かもしれんのじゃ、そうなってくれれば幸いじゃな」
「なるよきっと、アンタのお陰でね」
「……そうかの?」
「そうさ……フフフ」
上機嫌なメリダに対し、内心を見透かされたマーリンは少しばつの悪そうな顔をしていた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
次の日、皆家でも魔力制御の練習をちゃんとやってたみたいで、制御出来る魔力の量がほんの少し増えていた。
ただ気になったのは、リンがカチューシャをしてきた。
ショートボブの髪をいつもは無造作に梳いてるだけなのに、今日はカチューシャをしている。
リンの顔をじっと見た。フイっと目を逸らされた。
「リン……お前……」
「……言わないで……」
……暴走させたな……。
魔力が暴走して髪の毛が爆発したんだろう。でも暴走させたと知られるのは恥ずかしいからカチューシャをしてきたと。
「リン、お前大丈夫なのかよ?」
「よくある事、問題ない」
「よくある事って……よく家の人に怒られないな」
「お父さんは宮廷魔法師、家に魔法練習場がある」
「それが暴走魔法少女誕生の原因か……」
好きなだけ魔法が使えて、好きなだけ暴走させて来たんだろう。暴走させてもケロっとしている。
「それいい。これから『暴走魔法少女』と名乗る」
「いや、褒めてねえからな?」
研究会の名前といい、そういうセンスなのか?
そして、今日一日の授業が終わって帰りのホームルームの際にアルフレッド先生が俺達に言った。
「お前ら、一体何したんだ? 魔法学の先生が涙目になってたぞ?」
ああ、あれか。
「いや、昨日ウチでじいちゃんに魔法の講義を受けたんだ。それを話したら先生羨ましがっちゃって……」
「嫉妬で涙目になってたのか……何やってんだアイツ……それより、賢者様の講義ってなんだ?」
昨日ウチでじいちゃんが話した内容を伝える。すると……
「何て……何て羨ましいんだ! ズルいぞお前ら!」
「先生も同じリアクションしてんじゃん!」
放課後、研究会も終わって皆で帰る。今日の研究会は魔力制御の練習に費やしただけなので割愛だ。でも、皆今までより魔法が使いやすくなったと言ってた。
正門を見るとやっぱり人だかりが出来ていたので、騒がれる前に皆は人だかりの横をすり抜けて出て行く。
俺は裏口に回る。こっちにも何人かいたけど、光学迷彩を展開し皆の横を通る。気付かれずに学院の外に出て皆と合流する。
「昨日もこうすれば良かったね」
「いや、昨日は先に見つかって騒ぎになったからな。この手は使えなかった。今回みたいに誰にも気付かれてない状況でないとな」
今日は久し振りに街に出れた。昨日と今日の朝もゲート使ったからな。そして、久々の街は少し様子がおかしかった。皆が何か不安そうな顔で話し合ってる光景が多い。
「何か街の様子がおかしくないか?」
「え? ああ、シン君は外に出て無いから知らないんだ」
「何かあったのか?」
「うん、軍がね……」
「軍?」
「戦争の準備を始めてるらしいんだ」




