叙勲を受けました
武器の開発資金を王国が支援してくれる事になった。
バイブレーションソードは魔道具であり、今の所その付与は俺しか出来ないと伝えたらオーグも諦めたみたいだ。
ただ、刃を交換するというアイデアは十分採用の可能性はあるとの事で、オーグにアイデアを売って欲しいと言われた。魔物討伐時に魔物を沢山切るとすぐに刃が駄目になるので、簡単に刃が交換出来るのは魅力的なのだとか。刃を上質な物にすれば十分実用に耐えると熱く語られた。
ただ、勝手に売るとばあちゃんに殺されそうなので、相談してからな。
ハロルドさんと言うらしいマークの親父さんに色々と頼んでみようかな? いくらか技術的還元が出来れば武器の開発資金を出して貰う事にも遠慮が無くなるし、開発を自重してシュトロームと対峙した時に後悔もしたくない。
どこまで開発するか、ディスおじさんに相談してみようかな?
オーグにディスおじさんへの伝言を頼もうかと思ったが、しょっちゅうウチに来てるし、頼まなくていいか。
そんな工房でのあれこれを終えてのオリビアの店での昼食時、女子三人は結局何やってたのか聞いてみたが、「オリビアさんのお部屋でお話ししてました」というだけで詳細は教えてくれなかった。
これはあれか、女子会を開いてたって事か。確かに内容は聞けないな。
御用聞きの事をシシリーに伝えると、完全に忘れてたらしくメッチャ謝られた。そんなに気になったのか、マークとオリビアの関係。
ちなみに、シシリーはセシルさんのお勧めのサンドイッチを、マリアはアイリーンさんのお勧めのパスタを頼んでた
育ち盛りのこの身体にはパスタやサンドイッチなんてオヤツにしかならない。ガッツリ肉食べましたよ。
食事が終わったらとりあえず用事が無くなったので、皆で街をプラプラする事にした。
「そういえば、マークの店の二階と三階って何を売ってるんだ?」
「ああ、二階は生活用品で、三階はアクセサリーとかッスね。三階のアクセサリーは普通のと魔道具と両方置いてあるッス」
「アクセサリー……」
そうか、アクセサリーに防御の魔法を付与すれば結構思い通りの防御が出来るのか。正直、制服に付与した魔法は、効果は抜群だけど服以外の場所を防御しないんだよな。実際に使ってみてその欠点が分かった。顔熱かったし。
それに服を替えると効果が無い。しかしアクセサリーなら服を替えても大丈夫だし、魔力障壁のように展開すれば全体を防御出来る。
アクセサリーの開発もお願いしよう。
「シン君、どうかしたんですか?」
「いや、シシリーは何か欲しいアクセサリーは無い?」
「アアアアクセサリーですか!? えと、あの……指輪とか……でもいきなりそんな! とりあえずネックレスとかからにした方が……ブレスレットも捨てがたいし……あ、ピアスもいいなあ……」
「そ、そんなに欲しいの?」
「いえ! そういう事じゃなくて! な、何が良いかなあって……」
「ふーん。実は、アクセサリーに防御魔法を付与した方が効果が高いんじゃないかと考えててね。皆がアクセサリーに付与するなら何が良いかと思ったんだ」
「……あ、そうですか……」
シシリーがションボリしちゃった。
「シン……お前、それは無いだろう……」
「上げて落とす……鬼ですか?」
「シシリー可哀想……」
「え? え?」
あ! 聞き方間違えた! あれじゃアクセサリーを買ってあげるって聞こえるよ!
「あーシシリー?」
「……何ですか?」
まだションボリしてる。
「あのさ……もう一回マークの店に行かない?」
「いいですけど……」
「あ、皆はここで待ってて」
街歩きは一時中断だ! それどころじゃない!
そしてビーン工房に入り、目当ての階層を目指す。
「え? シン君、ここってさっきの話の……」
「うん、アクセサリー売場」
「ご、御免なさい! そんな催促するつもりじゃ!」
「いいからいいから、嬉しそうだったのに俺が落ち込ませちゃったからね。それに……」
「それに?」
「……シシリーにアクセサリーを買ってあげたいなって……」
「はぅ!」
そうだな。お詫びとか言ってるけど、シシリーにアクセサリーをプレゼントしたいってのが本音だな。
「付与は俺がしてあげるから、普通のやつね。どれがいい?」
「えと、あの、あの……」
「すいません、この中で付与出来る文字が多いのってどれですか?」
「いらっしゃいませ。そうですね。この辺りが八文字から十二文字位付与出来る物になります」
「シシリー、この中でどれがいい?」
「こ、この中ですか!?」
やっぱり台座もあるからかな、指輪が付与出来る文字が多いみたいだ。大体銀貨で二~五枚位が普通らしい。高いのになると金貨数枚とかある。さすがに付与出来る文字数も多いけどゼロの数も多いな!
「あの! やっぱり悪いですよ! こんな……指輪なんて……」
「いいよ。元々工房に支払うつもりでお金持って来てたけど、オーグの提案のお陰でそのお金が浮いたんだ」
「でも……」
「それに、シシリーの事は奴に知られてると思う。防御の強化はしておきたいんだ。これまで以上にね」
「……分かりました。じゃあ……」
ようやく納得してくれたな。今言った事は本当だ。シュトロームのせいで暴走してたカートから、シシリーを守る為に俺が護衛をしてた事は奴に知られていてもおかしくない。もしシシリーが狙われたら俺は正気じゃいられない。
シシリーは真剣な顔で指輪を選んでいる。暫くするとこっちを見た。お? 決まったか?
「あの……シン君、やっぱりシン君が選んでくれませんか?」
「え? 自分の好きなの選んでいいんだよ?」
「あの……自分じゃ決めきれませんので……」
色々と目移りしちゃったかな?
「そうだなあ……」
値段や付与文字数はちょっと無視して、シシリーに似合うものを選ぼう。そうなると……。
「これかな?」
そうして選んだのは、銀の台座に青い石が付いてる指輪だった。シシリーの紺色の髪によく似合うと思う。
文字数は八、値段は銀貨三枚だ。
「どう?シシリーに似合うと思う」
「わぁ……!」
シシリーは目を輝かせて指輪を見ている。
「じゃあ、これ、お願いします」
「かしこまりました。このまま着けて行かれますか?」
「はい! お願いします!」
良かった。シシリー元気になったな。店員さんから指輪を受け取ったシシリーは右手の中指に買った指輪を填めた。
「シン君……ありがとうございます!」
シシリーが笑顔でそう言ってくれる。やっぱり可愛いな。シシリーは絶対に危険な目には合わせない。そう改めて誓った。
「喜んで貰えて良かった。後で防御魔法付与するからね。そいつがシシリーを守ってくれる」
「シン君が……守ってくれる……」
ん? ちょっと違うけどな。まあいいか。
指輪を買った俺達は店を出て皆と合流した。
嬉しそうに指輪を見てるシシリーを女子二人が取り囲んでキャイキャイ言ってる。やっぱりあの中には入れないな。
「それにしても、アッサリ指輪を買うか。さすがだなシン」
またオーグがニヤニヤしてるな。
「言っとくけど、お前らにも防御付与したアクセサリー渡すからな」
「……あの光景を見た後にそれを言われると……なんとも微妙な感じがするな……」
「……まあ男に指輪とか気持ち悪いから、ネックレスかブレスレットでやるわ……」
「……そうしてくれ……」
その後は、特に目的も無く街を歩き回った。ウインドウショッピングをしたり買い食いをしたり。やっぱり同い年の友達とつるんで歩くのは目的が無くても楽しいな。
そんな平和で楽しい一日を過ごして、まずマークとオリビアと別れてシシリーの家に向かう。
シシリーの家に着いたら、先ずは防御魔法を付与する。
文字数は八文字だからな……『魔力障壁』と『物理障壁』でいいか。
『絶対魔法防御』より簡単に、イメージは『固い壁』だ。全部無効にしなくても、ほぼ防げれば問題ない。シュトロームとの戦闘で絶対魔法防御はちょっと過剰な気がしたのだ。あそこまで完全に防御しなくても魔力障壁で魔人の攻撃を防げた。なら魔力障壁で十分だろう。障壁を展開するので身体全体を防御してくれる。周りの人も守れるので、汎用性で言えばこちらの方が上かな。
『物理障壁』も同じイメージ。魔力と物理のイメージの違いはあるけどね。
防御魔法を付与した指輪をシシリーに渡……そうとしたら右手を出して来たので、さっきと同じ中指に填めてあげる。
また嬉しそうにしてるシシリーに、指輪を起動して貰った。
「わっ!凄いです!」
体を覆うように展開された障壁を見て素直に驚くシシリーと……
「ほお、これは凄い。さすがは導師メリダ様のお孫さんだ」
「あら? あの指輪は……フフ、あらあらシシリーったら嬉しそうねえ」
セシルさんとアイリーンさんもその展開された障壁を見てた。
「良かったらセシルさんとアイリーンにも同じ付与をしますよ」
「え? いいのかい?」
「あら、嬉しいわあ」
この付与なら大丈夫だよね? 他の魔法使いも使える防御魔法なんだし。
「レベルが違うけどな……」
オーグが何かボソッと言ったな。
そして、クロード家の皆さんにお礼を言われて家にゲートで帰った。
帰ってからばあちゃんに工房で何をしてきたか聞かれたので今日あった事を話す。
アクセサリーに施した付与の話を聞いたばあちゃんが……
「シンが……シンがようやく自重を覚えてくれたよ……」
と泣き出した。泣く事無いじゃん!
「あれで自重なのか……」
「この家族の普通は次元が違うんですよ……」
「凄い家族で御座るな」
そんな事より、重大な事実に気付いた。
「ほっほ」
爺さんの影が薄い!
これからの事に色々と目処が着いた翌日、明日に迫った叙勲式の用意をした。
今日はオーグ陣とシシリーとマリアはウチに来てる。
俺が叙勲式用の礼服を合わせてるのを見てる。
「へえ、背も高いし、身体も鍛えられて締まってるし、顔も良いから何着ても似合うわねえ」
「シン君……格好いいです……」
「ああいうのは羨ましいな。私は線が細いからな」
「殿下……それは……」
「拙者等には嫌味にしか聞こえないで御座る」
「シンも礼服を着る歳になったんじゃのお……」
「あの小さかった赤ん坊がね……大きくなったもんだねぇ」
俺がメイドさん達の着せ替え人形になってる間、友人達と保護者達はソファに座って楽しそうに談笑してた。
こっちはもうクタクタになって来てるのに!
「マリーカさん……もういいんじゃない?」
「何を仰ってますかシン様。ウォルフォード家の新しい英雄様に恥ずかしい格好などさせられる筈が無いではありませんか!」
マリーカさんの言葉にメイドさんが激しく頷く。いや、普通に礼服着てれば恥ずかしく無いと思うんですけど……。
結局、あれやこれやと着替えさせられ、薄いブルーの上下にシャツ、スカーフを首に巻いて完成した。礼服の上着には銀糸で見事な刺繍も施されている。それを俺の身体に合わせてあっという間に直してしまった。こんなところもハイスペックメイドさんズです。
そしてその後、マリアとオーグ陣のアクセサリーの要望を聞いた。
マリアはネックレスがいいそうだ。
オーグもネックレスがいいとの事。ただ、マリアは細いチェーンで可愛いデザインの物がいいとの事で、オーグは太めのチェーンでシルバーアクセみたいな物がいいらしい。
ユリウスは革製のベルトにシルバーが付いたブレスレットを希望した。ネックレスだと戦闘中に切れそうだし、指輪だと剣を持つ時に滑るんだそうだ。
……高等魔法学院の生徒……だよな?
一番意外だったのはトールで、ゴツいシルバーリングを希望したのだ。トールの小っこい容姿にゴツいリング……ギャップなのか?
「自分、実はシルバーアクセは割と好きで、いくつか持ってるんですよ」
「お前は昔から自分の容姿と真逆の物を好きになるな。確か子供の頃は騎士を目指してなかったか?」
「今でも憧れはありますよ。自分の体格では無理だと諦めただけです」
「それでアクセはゴツいシルバーアクセか……」
「良いじゃないですか。格好いいでしょう?」
「確かに格好いいよ。俺もシルバーリングにするつもりだし。でもトールは意外だった」
「何でですか!」
そう言って膨れるから余計にイメージと違う。まあ本人が良いって言ってるからいいか。
自分の欲しいアクセサリーが決まったので早速ビーン工房にゲートを開く。店の裏手、工房の横なら人目も無くゲートを開けるのだ。
工房主であるハロルドさんを呼び、正式に王国が資金を出す旨が伝えられた。取り替え式の剣についても、俺の魔法付与をしないならとばあちゃんからOKが出た。アイデアを買い取りたいという事だったが、一括で支払うには相応の対価が曖昧なので、王国からビーン工房に支払われる金額の内十%がアイデア料という事になった。
このアイデアは俺とマークとトニーの三人で話していた事で、マークは工房の人間なので辞退し、俺とトニーで折半する事に決まったそうだ。
昨日の内に決定したらしく、トニーにも既に伝えられている。
王国が発注する武器の金額の五%……しかも取り替える事が前提の物だから定期的にその金額が振り込まれる。その膨大な金額にトニーは青い顔をして倒れたそうだ。
そりゃ、何気無い会話をしていただけなのにそんな大金が入る事になったらビビるわな。俺もビビった。
王国からの大口取引に親父さんは超ご機嫌で、今日はアクセサリーを見繕いに来たと伝えると、無料で進呈してくれるとの事。
昨日の俺が支払った代金も返却すると言ってきたがそれは辞退した。何となく自分のお金でプレゼントする事に拘ってしまったからだ。
自分のは無料で頂きます。
だって今はまだお金入って来てないんだもの!
皆希望通りのアクセサリーを手に入れ、防御魔法を付与して今日は解散。いよいよ叙勲式本番を迎える。
当日の午後、今日は授業が終わった後、研究会の活動は休みにして家に帰り用意をして待っていると、王城から馬車が迎えに来た。入学式の時に乗ったのと同じだな。相変わらず乗り心地は良いけど居心地が悪い!
爺さんとばあちゃんも一緒に行く。二人は叙勲式の参列者だそうで、ついでに一緒に行く事になった。
王城は今まで来た事が無かった。王城の住人はしょっちゅうウチにいるのにな。
王城は、所謂某夢の国にあるような尖塔が建っていて……という感じの建物。当然あれより規模はデカイけどね。
係の人に控室へ案内され、その時を待つ。
待っているのはディスおじさんなので緊張はしないが、この後の面倒を思うと憂鬱になってくる。
そしていよいよ係の人が呼びに来た。
そのまま謁見の間に案内される。そして……。
『救国の勇者! 新たなる英雄! シン=ウォルフォード様御到着!』
その呼び出しだけで帰りたくなった。しかし、両脇にいつの間にか騎士の人がいて逃げられない!
……本当に逃げたりしないけどね。
その騎士の手によって重々しい扉が開いた。
そして巻き起こる拍手。
こんなに歓迎されてるとは思ってもみなかったので一瞬固まってしまったが、何とか歩き出した。
事前に教えられていた位置で立ち止まり跪く。
『アールスハイド王国国王! ディセウム=フォン=アールスハイド陛下、御入場!』
ディスおじさんが登場した。周りの人も跪いてるのが気配で分かる。
「皆の者、楽にせよ」
その言葉に周りの人は立ち上がるが、俺はそのままと教えられていた。
「シン=ウォルフォード。此度の働き、誠に見事であった」
「あ……ありがたきしあわせ」
「此度の働きに敬意を表し勲一等に叙する」
「謹んでお受け致します」
立ち上がり、ディスおじさんから勲章を授与されるのを待つ。やがて玉座から立ち上がり、手ずから勲章を授与してくれた。
「見事であった」
「あ、ありがたきしあわせ」
相手がディスおじさんだと非常にやりにくい! 早く終わらないかな? そう思っているとディスおじさんが話し始めた。
「皆の者よく聞け。このシン=ウォルフォードは、我が友、賢者マーリン=ウォルフォードの孫であり、幼少の頃より我も世話を焼いてきた、言わば甥のような者だ。彼がこの国に居るのは世間知らずであった彼の教育の為であり、決して我が国に利をもたらす為では無い! 彼を我が国の高等魔法学院に招く際、賢者殿と約束した事がある。彼を政治利用も軍事利用もしない事だ! その約束が破られた際、英雄の一族はこの地を去る。その事努々忘れるな!」
……本当に言ってくれたよ。ディスおじさんマジカッケー!
周りは多少ざわついてるけど、概ね了承したらしい。
はぁ……これでやっと終わったか?
『それでは、これにて勲章授与式を終了致します』
お、終わったぁ!
『この後当王城大ホールにてパーティが催されます。皆様ご参加下さい』
終わってなかったぁ!