それでいいのか?
「ああ、暇あ」
シンたちより一足先に自宅に戻っていたマリアは、自室のベッドに寝転がり暇を持て余していた。
「ちょっと……アタシは暇じゃないんですけど」
その部屋に一緒にいるのは、今年騎士学院を卒業し騎士団に入団したミランダだ。
「いいじゃない。今日は非番なんでしょ?」
「非番なんだから休ませなさいよ!」
学院卒業と同時に騎士団に入団したミランダは、すでに騎士団の業務に就いている。
今は敵国であった帝国が無くなってしまったので、騎士団の主な仕事は魔物の討伐である。
昨日もその任務に就いていたミランダは、非常に疲れていた。
ミランダは、魔人王戦役においてアルティメット・マジシャンズに帯同しシュトロームと実際に戦った唯一の騎士として、入団前から注目の的であった。
そんな注目されている中での魔物討伐である。
体力的な疲労より、精神的な疲労の方が強く、非番である今日はゆっくり休もうと思っていた。
そこにマリアからの呼び出しである。
魔法使いでないミランダはゲートなど使えないので、徒歩でメッシーナ邸まで来た。
メッシーナ家の使用人たちもすでに顔見知りで、訪れるなり部屋まで通してくれる仲である。
そうして部屋に入ると、目に入ったのがベッドでゴロゴロしているマリアの姿だった。
「アンタの暇つぶしに付き合わせるために呼んだんなら帰るわよ?」
「待ってよお~、一緒にゴロゴロしようよお~」
「うわっ! ちょっ! 放して!」
帰ろうとするミランダをマリアが必死に繋ぎ止め、ベッドに引きずり込んだ。
「ったく、なにがしたいのよ!?」
「私だって疲れてるのよお。昨日までクワンロンで大騒動だったんだからあ」
「なら今日はマリアも休みなの? なら大人しく休んでなさいよ」
「一人だと暇なのよお」
「いや、休むなら一人で休みなさいよ」
「いいじゃん、ちょっとくらい付き合ってよ」
「……ったく」
なんだかんだ言って、この二人は仲がいい。
以前はシシリーも交えて三人でお泊り会をよく開いていた。
最近ではシシリーが結婚し、子育てに忙しいので参加できなくなってしまったが、それでも二人でのお泊り会は開催している。
それくらいには仲がいいのである。
「それでさあ、相変わらずシンとシシリーはイチャイチャしててさあ……」
「ふーん」
「おまけにマークとオリビアまでイチャイチャしてるしさあ……」
「へえ」
「それに、ユーリに彼氏ができてたのよお……」
「そ……なに!?」
マリアの衝撃的な話の内容に、それまで気のない返事をしていたミランダが思わずベッドから起き上がった。
「おい! それはどういうことだ!?」
今まで、自分と同じく彼氏いない同盟の同志だったはずのユーリに彼氏ができた。
その件をマリアに問いただそうとマリアを問い詰めようとしたのだが……。
「……すぅ」
「嘘でしょ!?」
話をしているときからなんとなく怪しかったが、マリアは気になる発言をするだけして寝落ちしていた。
「ちょっと! 気になるから続き聞かせなさいよ!」
「うーん……ミランダうるさい……」
「ふざけんじゃないわよ!」
なんとかしてマリアを起こし、真相を聞き出そうとするが、マリアも相当疲れているのか一向に起きる気配がない。
「なんなのよ、もう!」
ミランダは憤慨し、マリアの隣に寝転んだ。
「呼び出したかと思えば、気になることだけ言って寝ちゃうし、本当にもう」
そうして寝転がりながら文句を言っていたミランダだが、彼女も慣れない仕事に疲労が溜まっている。
そんな中で、貴族の屋敷にあるフカフカのベッドで横になっていればどうなるか。
「あふ……」
次第に疲労から瞼が重くなってくるミランダ。
「ああ、もういいや。アタシも寝よ」
こうして休日に女子二人、ベッドで仲良く眠りにつくのであった。
その後、お茶を持ってきた使用人が、ベッドで仲良く眠っているマリアとミランダを見て、微笑ましいがそれでいいのかと思いつつ、部屋からそっと出ていった。
本当に、それでいいのだろうか?