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賢者の孫  作者: 吉岡剛
233/311

送別会

 オーグを待っている間に準備も終わったようで、ミン家主催の送別会が始まった。


 明日、一緒に飛行艇に乗って帰るということでシルバーも連れてきた。


 テーブルいっぱいに並べられた異国の料理に興味津々である。


「ほらシルバー、あーん」

「あーん」


 俺は唐揚げっぽい料理を箸でシルバーの口に運んでやる。


 唐揚げといえば、子供が好きな料理の定番。


 案の定シルバーも、その美味しさに目を輝かせている。


「それにしても、シン君、このおはし? の使い方上手ですね」

「ああ、前世の俺の国は箸が主流だったからね」

「へえ。文化的に似ている部分もあるんですね」

「人間である以上、思考が似通るのかもしれないな」

「ぱぱ、あーん」


 俺がシシリーと話をしていると、シルバーが待ちきれないとばかりに料理を催促してきた。


「ああ、ごめん。さて、どれがいい?」

「かーげ」

「かげ?」

「唐揚げじゃないですか?」

「ああ!」


 シシリーの通訳によってようやく欲しいものが判明した俺は、再び唐揚げをシルバーの口に放り込んだ。


「もぎゅもぎゅ」

「ああ、そんな一気に食べさせちゃ駄目ですよ。ああ、ほら、お口から零れてるじゃないですか」

「あ、ごめん」


 唐揚げの油が溢れ、ベトベトにしているシルバーの口をシシリーが近くにあったナプキンで拭き取っている。


「むふ」

「こら、動いちゃメッよ」

「むむー」

「ああ、もう」


 シルバーは、今シシリーに抱っこされている。


 口を拭こうとするシシリーの腕の中から逃げ出そうと必死にもがいている。


 対するシシリーも、逃がすまいとガッチリ抱え込んでいる。


 そんな母子の攻防は、見ていてほんわかしてしまう。


「シン君! 笑ってないで捕まえててください!」

「おっと、はいよ」

「あう!」


 ママよりも力の強いパパにつかまったことで観念したのか、シルバーが大人しくなった。


「本当にやんちゃなんですから」


 シシリーはそう言いながらシルバーの口を拭く。


「むぐ、あう」

「はい、綺麗になりましたよ」


 シシリーはシルバーの口を拭き終わると、再び抱っこしなおした。


「はあ……凄い。ちゃんとお母さんしてるんですねえ」


 いつの間にか俺たちの近くにいたオリビアが、シシリーの様子を見て感心したようにそう言った。


 そんなオリビアに、シシリーは笑みを返す。


「もう二年近くもシルバーのママをしてますからね。大分慣れました」

「さすがシシリーさんです。私はうまくできるでしょうか……」

「赤ん坊のお世話は、ご両親とかに教わればすぐにできますよ。それよりも、私はこれからの方が心配です」

「これから?」


 首を傾げるオリビアに、シシリーは笑みから一転真剣な顔になった。


「イヤイヤ期と反抗期です」

「ああ……」


 そう、シルバーはもうすぐ二歳。


 二歳といえば、そろそろあれが始まるのだ。


 何をするにしてもイヤイヤと拒絶するイヤイヤ期。


 それが高度に発展する反抗期。


 婆ちゃんから、二歳以降は覚悟しろとシシリーと二人して脅されているのだ。


「実際に、その年ごろの子供と接したことがないので、どんなものなのかは分かりません。しかし、あのお婆様が「本当に苦労した」と仰るのです」

「メ、メリダ様が!?」


 オリビアにとっても、ばあちゃんは威厳の対象らしい。


 その婆ちゃんが手を焼いたというのだ。


 どんな恐ろしい事態が待っているのか……。


「あの、ウォルフォード君は前世の記憶があるんですよね? 前世では結婚してなかったんですか?」


 今とは関係ない前世の話だからと、オリビアは何気なく聞いたんだろう。


 けど、その言葉を聞いたシシリーは急に泣きそうな顔になった。


「シン君……結婚してたんですか?」


 ちょ、ちょ、ちょおーっ!!


 なんで泣きそうになってんのよ!?


「してない! 前世で死んだとき、恋人もいなかったから!」


 俺がそう言うと、シシリーもオリビアも、ハッとした顔をした。


「いや、嘘じゃないからね? 本当に独身恋人なしで……」

「いえ、そうではなくて……」

「ご、ごめんなさい!」


 シシリーは泣きそうな顔から困惑の表情になり、オリビアは突然頭を下げた。


「ど、どうしたオリビア? え? 俺、なんかやられました?」


 オリビアに謝られる覚えがない。


 なんでこんなに深々と頭を下げているのだろうか?


 そして、なぜシシリーはそれを止めないのだろうか?


 不思議に思っていると、オリビアがポソっと口を開いた。


「そうですよね……前世の記憶があるってことは、死んだときの記憶があるってことですよね……」


 え? ああ……。


 オリビアの一言で、俺が死んだときのことを思い出したと思っているのか。


 まあ、前世の記憶があるって時点で、前世……つまり死んで転生してるって言ってるもんな。


 そりゃ気にするか。


「あの、謝ってるとこ申し訳ないんだけど」

「……はい」

「覚えてないんだよね」

「「……え?」」


 オリビアだけでなく、シシリーまでキョトンとした顔をして俺を見ている。


「会社を出たとこで記憶が途切れてるから……それ以降なにがあったのか、さっぱり分かんないんだよ」

「そう、なんですか?」

「うん。だから、なんかいつの間にかこの世界にいたって感じだから、そんなに気に病まなくていいよ」

「でも……」

「覚えてないことで謝られても、俺が困るってば」

「そうですか……」

「そうそう」

「……分かりました」


 ようやくオリビアが納得して頭を上げてくれた。


 こんな宴の席で頭を下げられるとか、勘弁してほしい。


 しかも、覚えてないことだもんな。


「でも、シン君も初めての子育てだったんですね。良かったです」


 俺の前世まで嫉妬してんのか。


 まあ、記憶があるっていうなら気になるよなあ。


「親戚にも子供はいなかったから、本当に初めてなんだよなあ」

「じゃあ、私と一緒ですね」

「ああ、一緒に乗り越えよう」

「はい!」

「あい!」


 俺がシシリーと手を握り合うと、シルバーがそこに自分の手を合わせてきた。


「いや、お前のことでママと頑張ろうって言ってんのよ?」

「ふふ、あはは」

「う?」


 俺がシルバーに諭すように言うと、シシリーが我慢できないと笑いだし、シルバーは不思議そうな顔をした。


「はぁ、本当に気にしてないんですね」

「言ったろ? 覚えてないって。そんなのどうやって気にするんだよ」

「……それもそうですね」


 オリビアは、ようやく笑みを浮かべると、近付いてきてシルバーの頭を撫でた。


「あう」

「ふふ、可愛いですね。やっぱり、私も早く自分の子供に会いたいです」

「そのためには、マークに頑張ってもらわないと……な」


 そう言いながら後ろを向いた。


 そこには、顔を赤くしたマークがいた。


「いや……この場でそんなこと言わないで欲しいッス」

「いいじゃん。今ここには夫婦しかいないんだからさ」


 俺がそう言うと、マークとオリビアの二人は、顔を赤くしながら言った。


「「まだ夫婦じゃないです!」」


 いいじゃん、夫婦ってことにしとけよ。


 もう面倒くさいよ。


「タノシンデ、イラッシャイマスカ?」


 そう俺たちに声をかけてきたのは、今回の送別会の主催スイランさんだ。


 片言ながらも、ハッキリと俺たちの国の言葉でそう言った。


「はい。楽しんでます。ありがとうございます」


 一言一言、区切るようにそう言うと、スイランさんも意味を聞き取れたのか、ニッコリと微笑んだ。


『これから、外国語学校を開くことになりました。私も、少しでも話せるようになっておきませんとね』


 さすがにこれはリーファンさんの通訳が入った。


 でも、そうか。


 クワンロンの人たちばっかり言葉を覚えようとしているけど、俺たちもクワンロンの言葉を覚えないといけないよな。


『アールスハイドにも、そのうち語学学校を開く予定でいます。殿下にも話はしてありますので、その際は是非習いに来てくださいね』


 もう、そこまで話進んでるのね。


 はぁ、本当にやり手だわこの人。


 シャオリンさんがどうにかして助けてほしいと言っていたのがよく分かる。


 スイランさんがいるのといないのとで、商会の発展具合は全く違うと思う。


 そして、シャオリンさんはこのスイランさんがいるから、なんの憂いもなくアールスハイドに来ることができるんだと理解した。


 その後は、ミン家の使用人さんたちにお礼を言って回ったりしながら過ごし、送別会が終わるころには、シルバーはすっかりシシリーの胸の中でおねむだった。


「シルバーも寝落ちしたことだし、そろそろお開きにするか」

「そうですね。姉さん」


 シャオリンさんが、あえて俺たちの言葉でスイランさんを呼んだ。


「そろそろ、終わりましょう」


 シャオリンさんがそう言うと、スイランさんはコクリと首肯した。


「ミナサン。ホントウニ、アリガトウゴザイマシタ」


 スイランさんはそう言うと、俺たちに対し、深々と頭を下げた。


 すると、オーグが一歩前に出てスイランさんに声をかけた。


『こちらこそ、大変お世話になった。礼を言う』


 と、クワンロンの言葉で話しかけたのだ。


「お前、いつの間に……」


 そう訊ねたのだが、オーグはニヤリと笑うだけで答えてくれなかった。


 本当にこいつ、努力してるところとか見せないよな。


 マジですげえわ。


 外国の王太子に自分たちの国の言葉でお礼を言ってもらったミン家の人たちの中には、感激して涙目になってる人もいる。


 本当にすげえわ。


「それではシャオリン殿。これからよろしく頼む」

「はい! こちらこそ、よろしくお願いします」


 こうして、俺たちのクワンロン滞在は幕を下ろし……。


「ところで、また酔いつぶれているナバル殿たちはどうする?」


 ……。


 折角うまいこと締めようとしたのに!


 この酔っ払いおやじどもが!


 とりあえず酔いつぶれたおっさんたちは、各々の部屋にまで運びました。


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別作品、始めました


魔法少女と呼ばないで
― 新着の感想 ―
[一言] いつも更新ありがとうございます。
[一言] 俺、なんかやられました? やっちゃいました、じゃねぇのかよ
[一言] シルバー君は癒やしですね。 アルティメットマジシャンズのマスコットになる事を祈ります。 後、他のメンバーのプライベートも進展してくれたら良いと思います。 リン、アリス、マリアには幸せを掴んで…
感想一覧
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