もうすぐ帰れそうです
「……」
俺らがそんな話をしていたとき、同じ部屋にいたマリアがこちらを睨んでいた。
「え? な、なに?」
「……リア充どもがムカつく話をしてるなと思ってね……」
ああ……。
この部屋にいるのは、俺、シシリー、マーク、ユーリ、オリビア、トニー、それとマリアとシャオリンさんだ。
……マリアとシャオリンさん以外、全員パートナー持ち!
そう思ってシャオリンさんを見てみると……。
「う……」
「世の中にはこんなに幸せそうなカップルが沢山いるというのになんで私には彼氏がいないんでしょう? なにが悪いの? なにか悪いの?」
なんかブツブツ言ってる!
「……独り身で悲しい身の上の人のために、もうちょっと話題に気を使ってもらえるかしら?」
「あ、ご、ごめん」
「大丈夫だよマリア! マリアにもきっといい人が現れるから!」
「下手な慰めは結構なのよおっ!!」
「あっ!」
シシリーの慰めも効かず、マリアはリビングを飛び出して行ってしまった。
シャオリンさんはまだブツブツ言ってる。
ど、どうしよ……。
そう思っていると、悠皇殿に行っていたオーグたちが帰ってきた。
「おい。メッシーナが泣きながら走り去って行ったが、なにかあったのか?」
ちょうどマリアとすれ違ったらしい。
っていうか、泣くほど悔しかったのか……。
「あの、残った人の中でパートナーがいないのがマリアだけだったので、拗ねちゃったというか……」
シシリーがオーグに説明しているが、拗ねる……でいいのか? あれ。
なんか憎しみが籠ってたような気がするけど……。
「ああ、なるほどな。カールトンは裏切ったし、いつもなら同意してくれるコーナーもいないからな」
「ちょっと殿下ぁ! 裏切ったとか言わないでくださいよぉ!」
今まではユーリも彼氏いない組だったからなあ。
マリアと一緒に俺らのことを羨んでいたのだが、そのユーリにも彼氏ができた。
とは言っても、ユーリの場合はそのうち彼氏ができそうとは思ってたけどな。
マリアほど理想が高くないし、アリスと違ってお子様体形ではない。
というか、この中で一番と言っていいほど大人体形だ。
「メッシーナにも是非良縁を結んでもらいたいところではあるのだがな」
「殿下、あたしは?」
「もちろんコーナーもだが、今の我々は世間に対して影響力が大きすぎるからな。誰彼構わずというわけにはいかん」
「えー! そんなあ!」
オーグの言葉に、アリスが悲壮感を漂わせる声をあげた。
ただでさえ、どうやったら彼氏ができるのかと悩んでいるアリスに、さらに厳しい条件まで付けられてしまってはそうなるだろう。
その点、ユーリはいいところを突いたよな。
「カールトンの相手はビーン工房の職人。権力者でもなく、ビーン工房という言わば身内。これ以上ない相手だな」
「ふふ、ありがとうございますぅ」
自分の選んだ相手が認められて、ユーリは嬉しそうだ。
その反面、アリスは憮然とした表情をしている。
「ちぇー、ユーリはいいよねえ。あたしなんて最近出会いすらないよ」
そういえば、アルティメット・マジシャンズとして活動をするようになってから、アリスがよく一緒にいるのはリンやメイちゃん、あとメイちゃんの友達であるアグネスさんやコリン君くらいのもの。
俺たちがちょっと有名になりすぎてしまったので、あまり人前に出られなくなったのもアリスやマリアに彼氏ができない理由だろう。
「そういえば、アリスの中等学院時代の友達とかはいないのか?」
ふと気になって聞いてみると、アリスは露骨に嫌そうな顔をした。
「アイツらだけはない! 中等学院時代は散々チンチクリンだのチビッ子だの言ってたくせに、あたしがアルティメット・マジシャンズになったら途端に手のひら返してさあ! 小さいところが可愛いだの、愛らしいだの! おまけに守ってやりたいとか! あんた等に守って貰わなくても自分で守れるわ!!」
アリスにしては珍しく、長々と怒りを吐き出し、ふぅふぅと肩で息をしている。
相当腹立たしかったんだなあ……。
それにしても、竜や魔人を単独で倒せるアリスを守るって……確かに、見た目は華奢で強そうには見えないけどさ。
「あーあ、あたし一生独身なのかなあ……」
息を整えたら落ち着いたのか、今度はシュンと落ち込み始めた。
「そ、そんなことありませんよ! アリスさんにだって、きっといい人が現れますって!」
「下手な慰めは結構だよおっ!」
シシリーに慰められたアリスは、マリアと全く同じセリフを吐きながら部屋を出ていった。
「ああ、アリスさんまで出ていってしまいました……なにがいけなかったんでしょう?」
今度は、マリアに続いて慰めることに失敗したシシリーが落ち込んでいる。
「そりゃあ、シシリーさんに慰められたら逆効果よねぇ」
「ですねえ」
そんな落ち込んでいるシシリーに対して、ユーリとオリビアがなにか納得した顔をしている。
「どういうことですか?」
「シシリーはぁ、マリアやアリスの欲しがってるものみんな持ってるからよぉ」
「え?」
「強くて優しくて、自分だけを一途に愛してくれる旦那さんと可愛らしいお子さん。マリアさんたちが羨むのも無理ないですね」
ユーリとオリビアの言うことも尤もかもなあ。
マリアとアリスからしてみれば、持てる者が持たざる者に上から物を言っているように聞こえているのかも。
「ええ!? わ、私そんなつもりじゃ!」
「言ってる方はそんなつもりじゃなくても、聞く人がそう捉えてしまったらどうしようもないですね」
「そんなあ……」
シシリーは本当に善意からマリアとアリスに接していたのだろう。
けど、普段なら聞き流せても心が荒んだ状態の二人は嫌味にしか聞こえなかったのかもしれない。
「まぁ、シシリーさんはぁ、私たちから見ても羨ましいくらい恋愛に関しては勝ち組だものねぇ」
「そうですよ。アールスハイド大聖堂で挙式なんて羨ましすぎます」
恋人がいるユーリとオリビアからも羨ましがられるシシリー。
その相手である俺としては、なんとも言えないな。
「ほう? ビーン夫人はアールスハイド大聖堂での挙式を望みか。口添えしてやろうか?」
「やめてください!! 羨ましいけど、当事者になったら心労で死にます!!」
ニヤニヤするオーグに、必死になって拒否をするオリビア。
なにやってんだか……。
「それはそうと、調印文書が出来上がったぞ。あとは調印をして終了だ」
「お、ようやくか」
クワンロンに来た最大の目的はそれだからな。
それが達成されるということは、俺たちのクワンロン滞在終了の日が近いということだ。
「いよいよですか。本当に色々とありましたけど、いざとなると寂しいものですね」
シャオリンさんが、少し寂しそうに言っているけど、なんでだ?
「え? シャオリンさん、これが終わったらアールスハイドに来るんですよね? アルティメット・マジシャンズの職員として」
「……あ」
忘れてたな……。
「あの、えっと……アールスハイドに行こうと思った最大の理由がなくなってしまったので……」
「ああ、俺のこと」
「はい……それで、その……」
「忘れていたというわけか」
「……申し訳ありません」
そういうシャオリンさんは、本当に申し訳なさそうだ。
まあ、仮にも大国アールスハイドの王太子直々にアルティメット・マジシャンズ駐在員として推薦されておきながら忘れてたってのはなあ。
「まあ、憂いがなくなったのならいいだろう。申し訳ないと思うなら、職員としてキッチリ働いてくれればいい」
「はい! これでも商家の娘ですから、お役に立ってみせます!」
オーグに許されたと思ったからか、シャオリンさんは張り切ってそう答えた。
それを聞いたオーグは……あ、ニヤッと口角が上がった。
シャオリンさんの負い目を利用して、馬車馬のように働かせる気か……。
「鬼め……」
「なにか言ったか?」
「いや? 別に」
それにしても、アールスハイドに戻ったらいよいよアルティメット・マジシャンズ本格始動か。
今までは学生という立場だったけど、これからは俺らも社会人。
一層気合を入れていかないとな。
「ん。今以上に魔法が使える。楽しみ」
今までは学院活動の延長みたいな感じだったから、そんなに頻繁に依頼は入ってこなかったけど今後は沢山依頼が寄せられるとのこと。
それを思ってリンも気合を入れている。
そういえば、リンはさっきのマリアやアリスの話にも入ってこなかった。
魔法大好きで、魔法が恋人って言ってるもんなあ。
彼氏には興味ないか。
「もったいないなぁ。リンも可愛いんだから、彼氏探したらいいのにぃ」
「私は魔法が恋人。だからいらない」
「またそれぇ? リンって魔法学術院に出入りしてるんでしょぉ? 誰か一人くらい気になる人とかいないのぉ?」
そういえば、リンは暇さえあれば魔法学術院に行ってる。
正式に所属しているわけではないけど、アルティメット・マジシャンズのリンであれば大歓迎だと魔法学術院でも歓迎されているらしい。
そういえば、そこでの交友関係とか聞いたことないけど、どうなんだろう?
「あそこにいるのは、魔法にしか興味のない変態ばっかり。そんな目で見たことない」
……。
あの……リンさん、それ……あなたも同じ人種なんじゃ……。
 




