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賢者の孫  作者: 吉岡剛
228/311

作らない理由

「子供を……わざと死にかけさせて……」

「なんスかそれ!! そんなこと許されていいんスか!?」


 オリビアは真っ青になって震え、マークは真っ赤になって怒っている。


 この二人も子供を熱望しているからな。


 その子供に対する非道ともいえる所業に我慢できないといった様子だ。


「落ち着けビーン。あくまで過去のことだ」

「っ! はい……分かりました」


 オーグの説得で、マークは少し憤りを収めた。


 しかしまだ気持ちが収まらないのか少し怖い顔をしていたが、オリビアが震えているのを見て、その肩を抱いてやっている。


 それで少しは落ち着いたようだ。


 シシリーもオリビアと同じように震えていたので肩を抱き寄せて慰めてあげた。


「それにしても……本当にそんなことが起こっていたのでしょうか?」


 トールは信じたくない様子でそう言った。


 でもなあ。


「あの都市に使われている技術は、一人二人の知識でどうにかなるもんじゃない。ある程度は魔法によって補完できるとはいえ、相当な人数がいないとあんな都市なんて作れない」

「……まさに、悪魔の所業だな」


 オーグも俺と同じ感想を持ったらしい。


 ……良かった。


 信じていたけど、もしそれが有用だとか考えたら、全力で止めなきゃいけないところだった。


「シンの話だと、前世の記憶を思い出すのは極稀ってことよね。一体、何人の子供を実験台にしたのかしら……」

「それは分からないけど……相当な人数じゃないかな。それに、思い出すのが異世界の記憶だけとは限らないし」

「え?」


 マリアが嫌悪感を顔に出しながら呟いた言葉に返事をしてやると、キョトンとした顔を向けてきた。


「だってそうだろ? 前世が同じ世界の昔の時代かもしれないし、前文明よりも文明が遅れた異世界かもしれない」


 俺がそう言うと、トニーが納得したような顔をした。


「なるほどねえ。異世界も一つじゃないってことかい?」


 さすがにトニーはこの手の話の理解が早い。


「そうだと俺は思ってる」


 今より文明の進んでいる世界の記憶を思い出せば大当たりって感じだったんじゃないかな?


 大当たりなんて不謹慎すぎて口には出せないけど。


「しかし、前文明で使われている付与文字といい、マッシータといい、シンと同じ世界からの転生者が多くないか?」


 俺の仮説に対し、オーグが疑問を投げかけてきた。


「これは完全に推測だけど、いいか?」

「ああ」

「多分だけど、俺やマッシータがいた世界とこの世界は『近い』んだと思う」

「近い? なにがだ?」

「次元の位相っていうか、世界同士の距離が近いんじゃないかな?」

「……すまん。言ってることの意味が全く分からない」


 俺の説明に対し、オーグだけでなくトニーや他の皆も頭にクエスチョンマークが浮いている。


「この世界は前の世界と生態系がよく似てるんだよ。動物も植物も。人間もね」

「人間が同じなのは当たり前だろ?」

「そうか? ひょっとしたら虎とか獅子みたいな人間がいる世界だってあるかもしれないぜ?」

「まさか、そんな……」

「言い切れるか?」

「む……」

「でも、そんな中でも、全ての動植物が前の世界によく似てる。だから、世界同士の距離が近いのかなって考えたことがある」

「うーん……」


 オーグが腕を組んで考え込んでるけど、まあいきなり事前知識もなしにこんな話を聞かされてもすぐには理解できないわな。


「シン! シンのいた世界は並行世界という可能性はないのかい!?」


 いたよ、事前知識があるやつ。


 トニーの質問にも答えは用意できてる。


「それはないな。だって、星座の配置が違うし地形も違う」

「そうかあ」

「並行世界ではないけど、世界自体の距離は近いって思ってればいいんじゃない? 俺だって詳しい話は知らないんだし」


 俺がそう言うと、オーグは理解するのを諦めたようだ。


「仕方がないか。ともかく、世界が近いから魂も行き来しやすいということか?」

「真相は神様しか知らないと思うけどね」


 俺がそう言うと、オーグはチラリとシシリーを見た。


「こんな話、創神教の神子には聞かせられないな」

「言っても信じてもらえないでしょうから、言いませんよ」


 オーグは言外に、治療院の神子には言うなよと言っているが、その辺りはシシリーも分かっているようだ。


 まあ、そもそも信じてもらえないよね。


「シン殿。色々話が脱線しているのですが、そろそろ重要な話をさせてもらってもいいでしょうか?」


 俺らが色々と考察をしていると、シャオリンさんがそう言ってきた。


「重要な話?」

「そうだった。シンの話が衝撃的すぎて忘れていた」


 オーグはそう言うと、俺に向き直った。


「前文明での戦争について、お前はかなり詳しかった。ということは、お前のいた世界でも同じような戦争が起こったのか?」


 ああ、そういうことね。


「いや。前世で超強力な兵器は作られていたけど、それが飛び交うような戦争は起こってない」

「作られてはいたのか」

「それこそ抑止力としてね。それを使ってしまったら、それこそ前文明のように世界が崩壊してしまうと知っていたから、俺が生きていた時代では使われたことはない」

「その後は分からないということか」

「願わくば、ずっと使われないことを祈るけどね」

「随分と嫌そうな顔をされるのですね」


 そう言った俺の顔に嫌悪感が浮かんでいたのだろう、シャオリンさんから指摘された。


「そりゃあそうですよ」

「なぜですか?」

「……その兵器は過去に一度……いや、二度使われたことがあります」


 俺はそこで一旦区切って、改めて言った。


「使われたのは……前世で俺が住んでいた国です」


 その途端、周りがザワっとした。


「とは言っても、俺が生きていた時代より七十年以上昔の話です。けど、俺たちは幼いころからその兵器による被害の大きさと悲惨さを教え込まれて育ちます。なので、俺はそういう都市を吹き飛ばすような兵器に嫌悪感を持ってるんですよ」


 だから、俺は絶対にそんな魔道具は作らない。


 そういう思いを込めてシャオリンさんに向かってそう言った。


「……なるほど、シン殿が作れるけど絶対に作らないと言っていた意味がようやく分かりました」


 シャオリンさんは、納得したという表情でそう言った。


「ちなみに、どれほどの被害が出たんだ?」

「ああ、どうだったかな……その兵器が炸裂した周囲数キロが吹っ飛んだのと、数万人が死亡したのは知ってるけど、詳しい数字は覚えてないな」


 多分、社会科で習ったはずだけど具体的な数字とか全然覚えてない。


 詳しい話ができなくて申し訳なく思っていると、オーグは驚愕に目を見開いていた。


「す、数万だと!?」


 驚愕しているのはオーグだけでなく他の皆も同じだった。


「七十年以上前でそれだからな。俺がいた時代だと、それの数千倍の威力になってた」

「……」


 もはや、声も出ないようで、オーグは呆気にとられて口をポカンと開けていた。


「そ……そんなものが使用されたら……世界が終わるではないか……」

「そう言ったよ。だから、持ってても使わないって」

「しかし、前文明は使った……」

「そういうことだろうな。前文明がどういう政治形態だったかは知らないけど、地位の高い人の子供には前世の記憶を思い出させるような行為はしないと思う。結果、作った方はその威力を知ってるけど、使う側はそんなの知らない。強力な兵器だから使った。その結果が前文明の崩壊だと思う」

「分かった……よく分かった。今後、そのような兵器が作られないように、今のうちから根回しをしておくべきだというのがよく分かった」


 オーグは、今のこの世界が前文明の二の舞にならないようにしたいって言っていたからな。


 そういう決意をしてくれたなら、各国に働きかけてなんとかしてくれそうだ。


 これで、前文明の崩壊にかかわる話は終わりかなと思っていると、トニーがポソっと呟いた。


「こう言っちゃなんだけど、前文明って高度な文明の割に最低な世の中だったんだねえ……」


 うん、俺もそう思った。


 皆も同意するように頷いていた。


魂云々は、私の勝手な設定です。


軽く流しておいてください。

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別作品、始めました


魔法少女と呼ばないで
― 新着の感想 ―
[良い点] シンがちゃんとその辺のこと考えてるのが仲間に理解してもらえて心底嬉しい [気になる点] 被害者数とどう言った被害かはちゃんと覚えとこうぜシン! [一言] んん〜今まさに馬鹿なトップのせいで…
2021/07/29 18:13 退会済み
管理
[一言] 読み直して思ったけど世界が近いって表現、 世界=国で国同士が近いって表現にしたら少しわかりやすいかね?
[気になる点] 熱核兵器としての魔道具は作らないけど、魔法は行使してますね、シン。 魔人編の最終段階で、シュトロームに対して。 オーグたちは気付いてないのか。
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