王子様はツンデレ
「偶然通りかかった……ですか」
シンたちと離れたところでトールがクスクス笑いながらそう言った。
そんなトールを、アウグストはジト目で見る。
「なんだ? なにが言いたい?」
「殿下は素直では御座らんなと」
トールに対しての言葉にユリウスが答えた。
二人とも同じことを考えていたようである。
「シャオリン殿がシン殿と合流したと報告しただけですぐに馳せ参じたのに」
トールとユリウスは、アウグストから命じられてシャオリンを監視していた。
そのトールから、シャオリンがシンと合流したと無線通信機で連絡を受けたアウグストは、すぐにシンたちのもとに向かったのだ。
そして、三人が合流すると建物の陰からシンとシャオリンの会話を聞いていた。
シャオリンがシンになにかしないようにとの配慮だったが、まさかシャオリンがあの場で自分の心情を吐き出すとは思いもしなかった。
「それにしても、やはりシンの殺害も視野に入れていたか」
アウグストは、どう言い繕ったところでトールの言う通りなので、強引に話題を方向転換することにした。
そんなアウグストを見てフッと笑みを浮かべたトールとユリウスはアウグストの思惑に乗ることにした。
「そうですね。ですが、そのことで随分と思い悩んでいたようですね」
「時折シン殿をジッと見ていることがあったで御座るが、どうしようかと悩んでいたので御座ろうなあ」
二人が話に乗ってきたことで話題を変えられたと感じたアウグストは、ホッとして会話を続けた。
「強大な力を恐れるのは人間として自然なことだ。その相手が恩人だったからどうすればいいのか分からなくなったのだろうな」
「ですね。辛かったでしょう」
「しかし、それも殿下のお陰で大分マシになるのでは御座らんか?」
「そうであってくれるといいのだがな」
アウグストはそう言うと遺跡に目を向けた。
これ以上は、実際に動き出してみないとなんとも言えないので、それ以上考えるのを止めたのだ。
話題も転換できたし。
だが、事態はアウグストの予想を裏切った。
「それにしても、殿下はお優しいですね」
「……ん?」
「シン殿を気遣うだけでなく、シャオリン殿まで救われるとは。いやはや感服したで御座る」
「……別に、そういうわけではない。シャオリン殿がうってつけの人材だったというだけだ」
アウグストはそう言うと、これ以上蒸し返すなという視線を二人に投げかけた。
一般人ならば萎縮してしまいそうな視線を受けた二人は、全くそれに動じない。
「ですね、我々も探索するとしましょう」
「で御座るな」
トールとユリウスはそう言うと、建物の中などを覗き込み始めた。
そんな二人を見て、アウグストは疲れたように溜め息を吐き頭を掻いた。
「ったく、私が揶揄われるとはな……」
一番の側近たちの成長を頼もしくも厄介だなと思いながら、アウグストは遺跡を見て回るのだった。