疑惑の目
いつも誤字報告、ありがとうございます。
それにしても、なぜあんなに誤字が多いのか……
毎回見直してるはずなんだけどなあ……
この大きさから言って、これは多分相当な高層ビルだと思う。
三十階以上はありそうだし、百メートルはゆうに超えるだろう。
それにしても、前文明に前世の記憶持ちがいたのは間違いないだろうけど、建設業に携わっていた人だったのだろうか?
でないと超高層ビルなんて素人が建てても倒壊する未来しか見えない。
皆はそのビルの大きさに圧倒されて声が出ない様子だったけど、俺はこれを建てた人のことが気になって無言になっていた。
すると後ろからシャオリンさんに声をかけられた。
「驚きましたか? これが前文明の遺跡とされるモノです。恐らく建物であったと思われますが、それがどれくらいの高さだったのか、またどうやって造られたのか、未だに想像の域を出ないのです」
ビルを見上げてそう言うシャオリンさんは、ちょっと誇らしげだ。
「残念ながら丸ごと原型を留めている建物はないのですが、一部だけでも凄いでしょう?」
「本当だねえ……これを見ただけでも前文明が超技術を持っていたのが分かるよ」
トニーはそう言うと、ビルをしげしげと見て回り始めた。
皆もそれにつられて一緒に見て回る。
「……これは自然の石をくり貫いているのか? それとも……」
「人工物だな、これ」
オーグの呟きに俺が答えると、オーグとシャオリンさんが俺を見た。
「……なぜ、そう思われるのでしょうか?」
わあ、シャオリンさんが警戒心剥き出しだ。
ハオや竜に関しては協力的だったのに、前文明のことに関しては警戒を解いてくれないなあ。
とはいえ、変に誤魔化すと余計警戒されると思ったので、人工物だと断じた理由を説明する。
「なんでって、石の中になんか入ってるじゃん。あれ、強度を補強するものでしょ? そんなものが自然界にあんの?」
俺がそう言うと、シャオリンさんとリーファンさんを除く皆はもう一度建物をまじまじと見つめた。
「ホントだ。シンの言うとおり、石の中に何か入ってる」
「シャオリンさん! あれ、触ってもいいんスか!?」
確認したマリアが納得するように呟くと、マークがシャオリンさんに触ってもいいか尋ねた。
「え? ええ。構いませんよ」
「アザーッス!」
許可をもらったマークは、ビルに向かって走り出した。
「ああ! マークずるいぃ!」
それを見たユーリも後を追う。
そうなると自然と皆でビルの側まで行くことになった。
「へえ……これ鉄ッスね」
倒壊し剥き出しになっていたのは鉄骨。
そらそうだ。
高層ビルを建てるのに鉄骨入りじゃないなんて危なすぎる。
「あぁ、そっかぁ。この形に加工することで強度を上げてるのねぇ」
鉄骨はただのまっすぐな鉄の棒じゃなく、H形をしている。
こうすることでより強度を上げているのだ。
「あ! なんか糸屑みたいなのが出てると思ったら、これも鉄だよ!」
アリスが、鉄骨よりも細い鉄があることに気付いた。
鉄筋だな。
「これでさらに強度を上げているのか……ここまで強度を上げるなど、どれほど巨大な建造物だったのか……」
オーグが鉄骨と鉄筋で補強されたビルを見て、思わずといった感じで呟いた。
「我が国の王城も堅牢な造りだと思っていたのだが、これはそれ以上だな」
「ということは、王城もこれと同じ技術を使えばもっと大きくできるということですか?」
シシリーがそう言うと、オーグだけでなくマークとユーリも首を横に振った。
「我が国でも同じような建材はあるにはあるが……」
「これは強度そのものが違うッスね」
「どうやったら、こんなに硬くできるのかしらぁ?」
ユーリはそう言うと、ビルの外壁をコンコンと叩いた。
この世界にもコンクリートはあるし、一般家庭から王城まで幅広く使用されている。
けど、このビルに使われているコンクリートはそれとは比べ物にならないくらいの強度を持っている。
つまり、これと同じように鉄骨や鉄筋を使用したとしても同じような強度は得られないということになる。
「だが、この工法は素晴らしいな。これを取り入れればこの建造物ほどではないにしろ今より大きな建造物を造ることができるし、強度も増す」
「ですね。後は、より強固な建材を開発することができれば、これに匹敵する建物も造れるはずです」
「ここに完成形があるのだから、造れるはずよねぇ」
これから国を治めていく王太子とうちの技術者組の二人が熱心に話し合っている。
オーグは、街を強固に作り替えられるかもしれない可能性を見出だしてそこに思いを馳せているし、マークとユーリは単純に新しい技術に興奮しているようだ。
ただなあ……。
「あの……そろそろ行きませんか? まだ遺跡の入り口にすら入っていないのですが……」
遠慮がちなシャオリンさんの言葉にハッと我に返る三人。
そう。
ここ、まだ入り口の前なんだよね。
「そうッスね! 入り口に入る前からこれなら、中に入ったらもっと凄い技術があるはずッス!」
マークはそう言うと、真っ先に遺跡の入り口を通って中に入ってしまった。
「ズルいよマーク! 私も行くぅ!」
「ちょ、置いてかないでよ二人とも!」
走り去って行ったマークを追ってユーリとオリビアも遺跡の中に入って行った。
「僕が行きたいって言ったんだけどなあ」
自分より興奮してしまっているマークとユーリを見て、トニーが苦笑を浮かべている。
トニーは、単純な好奇心で遺跡を見たがっただけだもんな。
ただ、前文明の超技術を目の当たりにした技術者には敵わないということかな。
「まあ、俺たちはゆっくり観光しようよ。技術的なことはあの二人に任せてさ」
俺がそう言うと、皆から変な目で見られた。
なんだよ?
「いや……こういうのはアンタが一番食い付くと思ったんだけど……」
「意外と冷静ですね」
マリアとシシリーからそんなことを言われた。
え? 俺、あんな風になると思われてたの?
そう思って周りを見ると、頷かれた。
マジか。
皆のあまりな評価に衝撃を受けていると、アリスとリンがとんでもないことを言いやがった。
「もしかしてあれ? シン君、もう知ってるとか?」
「やっぱり、ウォルフォード君は前文明時代の記憶持ちの疑惑あり」
「はあ!?」
今ここでその話題を蒸し返すのかよ!
俺の中ではもう誤魔化せた話だと思ってたのに。
そう思ってシャオリンさんを見てみると……。
彼女は、明らかに疑惑の目で俺を見ていた。
なんも誤魔化せてなかったのね。