捻くれ者
トニーの提案による遺跡調査が決定したあと、アウグストは自室にトールとユリウスを招き入れていた。
「どうされましたか殿下?」
普段からアウグストの側近として常に一緒にいるトールであるが、そのためにアウグストの様子がいつもと違うことに気付いた。
先ほどとは打って変わって、非常に真剣な顔をしていた。
トールに訊ねられたアウグストは、二人に対してある命令を出した。
「いや、お前たちにある任務を頼もうと思ってな」
「任務……で御座るか?」
同じくアウグストといつも一緒にいるユリウスも、アウグストの言い方に首を傾げた。
「あ、もしかしてシン殿の監視ですか? もし万が一遺跡を破壊してしまうと、国交樹立後すぐに国際問題になるかもしれませんからね」
「トールはシン殿に対して厳しいで御座るな」
職人を多く抱える領地を持っているトールにとって、シンという人間は頼もしくも監視していないと気が気でない相手なのである。
シンが片手間で作ったもので職人たちの仕事が奪われかねないからだ。
そんなトールの言い分に、ユリウスは思わず苦笑を零した。
「うむ、本来ならそうしたいのは山々なのだが、今回は別件でな」
「別件ですか?」
「シン殿の監視でないとすると……なんで御座ろう?」
さっきはトールの言い分に苦笑していたユリウスであるが、実は彼も結構非道いことを言っている。
「監視は監視で間違いないさ。ただ、その対象がシンではないというだけだ」
「シン殿でないとすると……シャオリン殿ですか?」
トールの推理を、アウグストは首肯することで肯定した。
「しかし、ここに来る前に多少のいざこざはありましたが、クワンロンに着いてからのシャオリン殿は特に不審な行動などしていないで御座るが……」
「確かにな。だが、どうにも気になるのだ」
「なにがですか?」
「シャオリン殿がシンを見る目つき、だな」
「シン殿を見る目つき……ですか?」
アウグストに言われたトールは、これまでのシャオリンの行動を思い出した。
そういえば、悠皇殿の中庭でハオの所有していた武器を見たとき、シンが付与されている文字を確認していたときのシャオリンの目は非常に厳しいものだった。
「確かに……しかし、敵対している訳ではないと思いますが?」
あの視線は、本当に知らないのか? 嘘を言っているのではないか? という疑いの目だった。
正直トールも、シンが分からないと言うとは思わなかった。
てっきり、今までのようにあの武器の正体も見抜いてしまうと思ったからだ。
だが、返ってきた返答は使途不明。
そのとき、トールはシャオリンと同じことを思った。
本当は分かったのではないか? と。
そして、それは当たっていると確信している。
なぜなら、ハオがあの武器を起動しようとした際、なぜかシンは起動はしても攻撃はされないことを知っていたからだ。
とはいえ、トールはシンを問い詰めるつもりはない。
皆から常識がないと常々言われているシンだが、本当に作っては駄目なもの、世に出してはいけないものはちゃんと分かっている。
トールがシンにあれこれ言うのは、一応釘を刺すという理由もあるが、そのやり取りを楽しんでいるというのもある。
そのシンが言わなかったのだ。
あれは、世に出してはいけないものなんだと、トールは考えていた。
「まあ、概ねお前の考えている通りだろう。シンは知っているのに話さなかった。そのことに不信感を持っているのかもしれん。将軍の魔石摂取に関する告白にも若干嫌悪の表情を見せていたからな。一応将軍から他言無用と圧力を掛けられていたからそれに関して喋ることはないと思うが……」
アウグストがそう言うと、トールは溜め息を吐いた。
「真実が知りたい……というやつですか。言葉としての響きはいいのかもしれませんが、真実を明かさない方がいいこともあるでしょうに」
呆れたように言うトールに、ユリウスが苦笑を浮かべた。
「トールは捻くれているで御座るな」
その言葉に、トールは顔を顰める。
「殿下の側に長くいたからですよ」
「おい、なぜそこで私が出てくる?」
そう抗議してくるアウグストを見て、トールとユリウスはお互いの顔を見合わせた。
「なぜって、殿下は捻くれ者の代表格じゃないですか」
「そうで御座る」
「お、お前ら……」
二人の言い分に、アウグストが青筋を立ててプルプルしていると、トールから追撃が入った。
「今回自分たちを呼んだのも、シャオリン殿がシン殿に対しておかしな行動を取らないように監視しておけという命令でしょう? シン殿が心配なら初めからそう言えばいいのに」
「……」
トールにそう言われたアウグストは、何も言えなくなった。
図星だったからである。
その様子を見たユリウスは、笑いながら言った。
「やっぱり、捻くれ者で御座る」
「うるさい! 用はそれだけだ、さっさと行け!」
「かしこまりました」
「了解で御座る」
アウグストに怒鳴られた二人は、笑いを堪えながらアウグストの部屋を辞去した。
あとに残されたアウグストが、まさか自分の考えが見透かされているとは思いもよらず、頭を抱えていたのは言うまでもない。