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賢者の孫  作者: 吉岡剛
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中庭の戦い

 激しい戦闘が行われていたのは、悠皇殿の中庭だった。


 そこに降り立った俺たちは、その光景に思わず目を疑ってしまった。


 そこでは、身体じゅうに魔力を纏わせたハオを、大勢の兵士が取り囲んでいた。


 だがハオは、そんな大勢の兵士の攻撃をものともしていなかった。


 呪符による攻撃は障壁によって防ぎ、溢れる魔力のままに魔法を放つ。


 兵士たちは、それをまた防御の呪符によって防いでいた。


 完全に大勢いる兵士の方がハオに圧されている。


「フハハハハ!! 素晴らしい! 素晴らしいぞ!! この力とその兵器があれば、この国は私のものになる!!」


 ちっ! やっぱりハオの狙いはレールガンの奪取か。


 それに、魔法が使えるようになった全能感に浸っているんだろう、この国の簒奪まで口にしていた。


 今まで力を持っていなかった者が力を持つとその力に酔いしれる。


 図らずも、馬車の中で話していたことと同じ状況になっている。


 今までハオは、権力という力は持っていたが、武力に関しては全く持っていなかった。


 それが、自分自身に魔法という武力が身についたことで、その力に酔っているんだろう。


「ちっ! ああいう奴を見ていると、スイードを襲った平民魔人どもを思い出すな」


 あいつらも、急に力を持ったことで増長し、シュトロームの元から離脱してスイードを襲ったんだった。


 コイツからは、あのときの魔人と同じ匂いがする。


 これは俺たちも参戦した方がいいと、そう思ったときだった。


『なっ!? アウグスト殿下!?』


 大きな声でそう叫んだのは、昼間にも会った将軍だった。


 将軍は俺たちの姿を見つけると、慌てて俺たちの方へとやってきた。


『なぜアウグスト殿下がこちらにいらっしゃるのですか!?』

「なに、ハオの家が火事になっているのを見てな。現場に行ったのだが、ハオが逃亡し悠皇殿に向かったというから来てみたのだ」

『そんな、ちょっとそこまで買い物しにいくみたいに言われましても……』


 正に戦場となっている現場に、そんな軽いノリでやってきたとは夢にも思わなかったんだろう。


 将軍は、非常に困惑した顔をしていた。


「こう見えても、我々は相当な修羅場をくぐり抜けている。心配には及ばん」

『そ、そうなのですか』

「ああ、ところで、随分と苦戦しているようだが、我々も加勢した方がいいか?」


 オーグがそう言うと、将軍は少し悩んだあと、首を横に振った。


『いえ、それには及びません。これは我が国の問題。他国からの使者であり王族である殿下に助力していただくことなどありえません』


 将軍は、真っ直ぐとオーグを見てそう言った。


「そうか。差し出がましいことを言ったな。許せ」

『殿下のご厚意はありがたく頂戴いたします。なにとぞ、お気を悪くなされませんよう』

「分かっている。だが、もし危なくなったら手を出すからな」

『そうならないように努力しましょう』


 将軍はそう言うと、再び戦場へと駆け出して行った。


『貴様ら! 他国の使者であるアウグスト殿下の目の前で醜態を晒す気か!? このままでは、殿下はどう思うだろうな? クワンロンの兵士は、錬度の低い腰抜けばかりだと西方世界の人間に馬鹿にされるぞ!!』


 将軍がそう言うと、兵士たちの士気が目に見えて高くなった。


 他国の使者の前で醜態を晒すなど、国軍の兵士として恥以外のなにものでもないだろう。


 でも……。


「いや、そんなこと吹聴したりしないんだが……」


 オーグは、自分が兵士を鼓舞するためのダシに使われたことに困惑していた。


 普通に考えて国家間の関係が悪くなるから、そんなこと言わないと思うけど。


「まあいいじゃん。お陰で兵士たちの士気は上がってるみたいだし」


 実際に、先ほどまで圧され気味だった兵士たちだが、今は逆にハオを追い詰めている。


『くうっ! 後ろからだと!? 卑怯な!!』

『やかましい! 大人しく縛につけ!!』

『貴様らには、国を守る兵士としての矜持は無いのか!! 正面からかかってこい!!』

『賊がなにを言うか!!』


 将軍のその一言がハオの逆鱗に触れたのだろう。


 ハオの纏う魔力の質が変わった。


『賊? こ、この私を賊だと!? ふざけるな!! 私はまもなくこの国を統べる皇帝となるのだぞ!! その私に向かってなんたる言い草だ!!』

『皇帝になるだと!? 皇位の簒奪まで目論んでいたか! お前たち! コイツは皇位の簒奪を目論む反逆者だ!! 生死は問わん! 確実に打ち倒せ!!』

『『『『おう!!』』』』


 将軍のその一言で、兵士たちの攻撃が一層激しさを増した。


 今までは生け捕りにすることに重点を置いていたので、思い切った攻撃ができなかったんだろう。


 それが生死問わずという命令が出されたことで、兵士たちに迷いがなくなった。


 その前に、皇位を簒奪するって言ってたしな。


 もう、単なる犯罪者じゃなくて反逆者で間違いない。


 だが、それはハオにとって許しがたい暴言であったらしい。


『反逆者だと……この私が反逆者だとおっ!!??』


 またハオの魔力の質が変わった。


 なんというか、どす黒いものが含まれている。


 これは……。


「オーグ、ちょっとヤバイかも」

「ああ。これは良くない兆候だな。おい、万が一が起こる可能性がある。皆準備しておけ」

「「「はい!!」」」


 オーグの言葉を受けて、傍観体勢から戦闘準備態勢に移った。


 これで、万が一が起きてもすぐに対処できる。


 そうして俺たちが戦闘の準備をしている間も、ハオの魔力はどんどん膨れていく。


『私はこの国の皇帝になる人間だ!! その私に逆らうお前たちこそ反逆者だ!!』

『憐れなものよ、ついに世迷いごとまで口にするようになったか!』

『ぐぎぎぎ……があああっ!!!!』

『うおっ!!』


 将軍に煽られていたハオは、ついに我慢の限界を迎えたらしく、突如大量の魔力を放出して周囲を取り囲む兵士を弾き飛ばした。


 将軍もその煽りを食らって転倒している。


『しまった!!』


 当然、ハオはその隙を見逃さなかった。


 兵士の包囲網を突破すると、中庭に置いてあるレールガンのもとまで辿り着いてしまった。


『ふひひひ……これさえあれば……コレさエあれバ……この国ハ私のもの……』


 ……口調が段々怪しくなってきた。


 これは……本格的にマズイか?


「ちょっ! ウォルフォード君! なにを悠長に構えてるんでスか!? アイツ、あの武器まで辿り着いちゃったスよ!!」

「殿下もぉ! なんでそんなに落ち着いてるんですかぁ!?」


 俺がハオの様子がおかしいことに注目していると、マークとユーリが焦った声で俺たちに声をかけてきた。


「いや、シンが落ち着いているから問題ないのだろうと思ってな」

「ウォルフォード君?」

「どういうことぉ?」


 オーグが焦っていない理由を話すと、マークとユーリは俺の方を見てきた。


 そういえば、あれのことは結局なにも話してないんだったな。


 それで落ち着き払っていたら変か。


「ああ、いや。多分あの武器、起動しないと思うんだよね」

「なんでそんなことが分かるんスか!?」

「え? 勘?」

「えぇ?」


 ユーリは、心底呆れたという顔をしている。


 まあ、勘とは言ったけど、起動しないことは確実に分かってる。


 いや、起動はするか。


『フヒひ! 死ね……死ねえぇっ!!』


 そんなやり取りをしている間に、ハオはレールガンの銃口を兵士たちに向け、魔力を流して起動させた。


『くっ!! 全員、防御しろ!!』

『フハハ、モう、遅いわアっ!!』


 将軍の命令で、一斉に防御呪符を展開する兵士たち。


 そんな兵士たちに、お構いなしに魔道具を起動させるハオ。


 兵士たちは、来るべき衝撃に備えて全身を丸く縮こませ、防御呪符の後ろに隠れた。


 けど……。


 しばらくして兵士たちの顔に困惑が広がった。


 来ると思っていた衝撃がこないんだから、それは当然か。


 キョロキョロと、周りにいる兵士たち同士で顔を見合わせている。


 そして、視線の前方のハオに向けると一層困惑した。


 レールガンは、ブウゥンという音を出して起動してはいるのだが、それ以上なにも起きない。


 起動させたハオも困惑している。


 まあ、それも当然だ。


 だってあれ……。


 弾入ってないからな。


『な、なぜだ!? なぜ前のような攻撃をしない!!』


 ハオは、切り札だと思っていた武器が効果を発揮しないことに困惑し、しきりに魔力を流し続けていた。


『よく分からんが、今だ!! ハオを取り押さえろ!!』


 そして、将軍はこの機を逃すような人間ではなかった。


 将軍の号令で、さっきまで戸惑っていた兵士たちがハオに殺到。


 あっという間にハオを拘束してしまった。


『放せ! 放せえええっっ!!』


 ハオが大声で喚いているけど、そんなことで兵士たちがハオの拘束を緩めるはずがない。


 数人がかりでハオを押さえ込み、後ろ手に拘束した。


『ふう、手こずらせおって』


 将軍は、ようやく安堵の表情を浮かべたが、すぐにその顔を引き締めハオの目の前に立った。


『ハオ。皇帝陛下に対し反逆し、その皇位を簒奪しようとしたことしかと確認した。これにより貴様は、国家反逆罪の大罪人として処刑される』


 静かな声で、将軍はハオに向かってそう言った。


 そして、最後に嘲笑を浮かべながら言った。


『いい気味だ』


 おそらく、その一言がトリガーになったんだろう。


 ハオの身体に纏わりつく魔力の質が劇的に変わった。


 さっきまでは、黒い濁りがある感じだったのが、今やもう真っ黒だ。


『貴様……きさマ! きサマ! キサマ! キサマアッ!!』


 ハオはそう言うと、どす黒い魔力を辺り構わず放出した。


 ああ……この光景は覚えがある。


 これは……。


「なんか……カートが魔人化したときのことを思い出すわね……」


 恐らく、皆同じ気持ちだったんだろう。


 マリアの言葉を否定する者は誰もいなかった。


 そして……。


『ぬおっ!? なんだ!!??』

『うわっ!』

『ひっ!』


 ハオを押さえ込んでいた兵士たちが、再び吹き飛ばされた。


 将軍は二度目ということで、今回は踏ん張っているが、ハオになにが起きたのか分からず困惑している。


 それは周りの兵士たちも同じで、皆一様に顔を見合わせたりしている。


 だけど、俺たちにはハオに何が起きたのか分かった。


 今まで、散々俺たちが相手にしてきたモノ。


 つまり……。


「やっぱり、魔人化したか……」


 そう。ハオは、魔人化してしまったのだ。


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別作品、始めました


魔法少女と呼ばないで
― 新着の感想 ―
[一言] レールガン(実体弾兵装の一種)と聞いて,「弾頭は魔石だろうか?」とか予測していただけに,ほぼ的中した様ですね。
[良い点] 手に汗握る展開は、非常に面白い作品です。 [一言] 早く続きが読みたいです。月2回くらいのペースでお願いできないでしょうか?
[一言] 魔人化したか.....じゃねーよwwする前に止めさせや!!!都合上仕方ないが、浅慮だなwwいつの日かマーリンは止めをさせとすぐに指示を出し、魔人化を止めたというのに
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