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賢者の孫  作者: 吉岡剛
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禁忌

「禁忌? なんだそれは?」


 その言葉を聞いたオーグがシャオリンさんを再度問い詰めるが、彼女は苦渋に満ちた顔で首を横に振った。


「殿下、これは禁忌なのです。おいそれと話すわけにはいきません」

「そんなことを言っている場合か? そのことを知っておかねば、我々は後手を踏むことになるかもしれん。そうなれば被害が大きくなるかもしれないのだぞ?」


 オーグがそう言うと、シャオリンさんは助けを求めるようにリーファンさんの方を見た。


 リーファンさんは、青い顔をして口を押さえていた。


 ……それどころではなさそうだ。


 その様子を見たシャオリンさんは、一瞬怒った表情を見せたがすぐにまた悩みだした。


 話すかどうかシャオリンさんは悩んでるけど……俺、もうその話知ってるんだよな。


「シャオリンさん」

「はい?」

「俺、その話知ってますよ」

「んなっ!? なんで!?」


 シャオリンさんは、驚愕で口調が素に戻ってる。


「リーファンさんに聞きましたので」

「リーファン……」


 シャオリンさんは恨めし気な目でリーファンさんを見るが、当のリーファンさんはちょっと目が虚ろに……あ……。


 やっちまった。


 大惨事だ。


「あの、俺がリーファンさんに索敵魔法を教えたことの交換条件で教えてもらったことなので、リーファンさんを責めないでください」


 俺がそう言うと、シャオリンさんは諦めたように息を吐いた。


「そういうことなら、リーファンを叱れませんね。分かりました。シン殿が知っているということなら、いずれ皆さんも知るでしょう」

「では」

「ええ、殿下、禁忌についてお話します」


 シャオリンさんがそう言うと、全員がシャオリンさんに注目した。


「その禁忌とは、魔法が使えない者を使えるようにする方法です」

「なっ!? そんな馬鹿な! そんな方法は存在しない!」


 シャオリンさんの言葉に一番反応したのはリンだ。


 彼女は魔法について並々ならぬ向上心を持っている。


 高等魔法学院での授業や、アルティメット・マジシャンズとしての訓練だけに飽き足らず、魔法研究の最高峰である魔法学術院にまで出入りしている。


 その魔法学術院でも、魔法が使えない者は一生使えないという結論が出ている。


 魔法が使えるのは、身体に帯びている基礎魔力量が大気中にある魔素に干渉できる者。


 つまり、基礎魔力量が増えない限り魔法は使えない。


 魔法が使える者は、訓練によって基礎魔力量はいくらでも伸ばすことができる。


 だが、魔法が使えない者はどうやっても増やすことはできない。


 魔法が使えないからだ。


 これに関しては、間違いなく事実だ。


 もしかしたら、外部からの干渉で基礎魔力量を増やすことができるかもしれないが……。


 シュトロームによる平民の魔人化という事実を知っている身としては、危なくてそんなこと試すわけにはいかない。


 結局、魔法が使えない者は、一生使えないのだ。


 俺も、リーファンさんから話を聞くまでそう思っていた。


 そして、その方法が西方世界で試されていない理由も理解した。


 この国だから発見されたと言ってもいい方法だったからな。


「それが、できるんですよ、リンさん」

「どうやって!?」


 リンが勢い込んでシャオリンさんに詰め寄っている。


 シャオリンさんは、そんなリンをジッと見ていた。


「リンさん、皆さんも約束してください。これを聞いても決して試すことはしないと」

「それはつまり、その方法が禁忌とされる理由にあるのか?」

「そういうことです殿下」

「そうか……それで? その方法とは?」

「それは……」


 シャオリンさんはまだ少し逡巡したあと、意を決して話しだした。


「簡単なことです。魔石を摂取するんですよ」


 シャオリンさんがそう言ったあと、皆の間に衝撃が走った。


 魔石を摂取する。


 ただ、それだけのことで魔法が使えなかった人間が使えるようになる。


 だが、魔石が非常に貴重な西方世界では決して誰も試そうとしない方法だ。


 魔石が潤沢に取れるクワンロンだからこそ、過去にそれを試した人間がいたんだろう。


「そんな簡単なことで……しかし、それがなぜ禁忌とされているんだ?」

「そうだよ! それだけで魔法が使えるんなら、皆魔法が使えるようにした方がいいじゃん!」


 オーグとアリスは、魔石を摂取することが禁忌とされていることに納得がいかないようだった。


「あ、もしかして、魔法が使える人間が増えると困るとか?」


 マリアも自分の考えをシャオリンさんに投げかけた。


 だが、シャオリンは首を横に振り、その理由を話しだした。


「魔法が使える人間が増えることに問題はありません。そうではなく、この方法には重大な欠陥があるのです」

「重大な欠陥?」

「ええ、魔石を摂取し魔法が使えるようになった人間は……やがて死に至るのです」

「え?」


 マリアは、思いもよらない返答に固まっている。


 他の皆も同様だ。


「魔石を摂取し、魔法が使えるようになった人間は、魔力が非常に不安定になるのです。その結果魔力が暴走しやすくなって……」


 結果、亡くなる人が多くいたと。


「そうか、それでその方法は禁忌とされているのか」


 オーグは納得したという顔をしていた。


「はい。とは言っても、禁忌を破って魔石を摂取した人なんてここ数十年いませんから、実際に見たことはないんですけどね。ただ、絶対しちゃいけないと昔から口うるさく言われていました」

「でも、やっちゃいけないって言われると、やっちゃう人とかいるんじゃないの?」


 確かに、マリアの言う通り人間ってやっちゃいけないってことほどやりたくなるものだよな。


 しかし、シャオリンさんは首を横に振った。


「摂取すれば必ず死ぬと言われてきましたから。魔石は便利なものですけど、間違って口に入ったら死んでしまうものだと教えられていました。そんなもの、わざわざ口にする人がいると思いますか?」


 なるほどな、魔石は便利だけど危険な毒物って認識なのか。


「でもぉ、呪符を作ってる人はぁ? 魔石を粉末にしてるんでしょぉ? 間違って吸い込んだりしちゃわないのぉ?」

「呪符を作る工場は、それは厳重に魔石の管理をしています。そこで作業をする人間は必ず顔を覆う面を被っていますし、工場から出る際は全身を洗浄してからでないと出てはいけない決まりになっています」


 そこまでするほど、魔石の摂取は忌み嫌われているってことか。


「そういうことか。しかし、ハオはその禁忌に手を出すほど追い詰められていたってことか」

「そうだと思います。官僚のトップから失脚し、犯罪者として裁かれようとしている。プライドの高いハオにとって耐え難い屈辱でしょうね」


 確かに、プライド高そうだったもんな。


「見えてきたぞ」


 オーグの言葉で前を見ると、悠皇殿が目に入った。


 そしてそこでは……。


 激しい戦闘音が響いていた。


 しかし……追い詰められた末に禁忌に手を出し、国に反逆する……か。


「嫌な予感がするな」

「奇遇だな、私もだ」


 シャオリンさんの言う禁忌の結末とは別の嫌な予感を感じつつも、俺たちは戦闘が繰り広げられている悠皇殿へと舞い降りた。



 

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別作品、始めました


魔法少女と呼ばないで
― 新着の感想 ―
[一言] 魔法が使えるようになっても脅威にならないと思うが。
[一言] なんだか禁忌のレベルが低い むしろ、それで魔人化して暴走して被害甚大 とかあれば納得しやすいのでは?
[良い点] 禁忌って言う割には本人が死ぬだけって大袈裟じゃね?人を食うとか生贄とか、禁忌っていうなら他者にも被害が出るの想像するからちょっと拍子抜け これなら普通に法律で禁止されてるでいいじゃんってレ…
2020/08/21 12:45 退会済み
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