この姉にしてこの妹あり。
「そうですか、結局ハオの逆転の目は、魔王さんが摘んでしもた訳ですな」
とりあえず前文明の兵器についてはあとで考えるとして、まずは目の前の事態に対処しないといけない。
なので悠皇殿でのやりとりをナバルさんに伝えたところ、そういう返事をされた。
「まあ、結果的にそうなっただけですけどね。ハオの企みを知ってたわけじゃないです」
「そうですか。それにしても、一発逆転を狙えるほどの武器ですか……魔王さん、その武器再現できたりとかは?」
「できませんよ。なんでも古代の遺跡から発掘された武器だそうですからね。俺たちの知識の及ばない武器です」
「そうですかあ……」
なんで残念そうなんだよ。
「なんだナバル外交官、そんなに強力な武器を手に入れてどうするつもりだ?」
まるで強力な武器を手に入れたいと言っているかのようなナバルさんに、オーグが牽制した。
「い、いや! 単純に興味があっただけですがな! 別に武器を手に入れようとかそういうのは……」
「その割には、再現できるかどうか聞いていたが?」
そうだよな。そう言うってことは、自分も欲しいって言ってるようなもんだもんな。
そこを指摘されたナバルさんは、バツが悪そうに頭を掻いた。
「いやあ……珍しいもんとか見たり聞いたりしたら、ついこれは売れるんちゃうかって考えてもうて……悪い癖ですわ」
それは確かに悪い癖だ。
特に武器に関してはね。
「はぁ……少しは自重してくれ。魔人たちがいなくなり、あちこちに戦争をしかけていた帝国もなくなった。ようやく平和になったのに、新たな火種を持ち込んでどうする」
「あはは、反省しますわ」
新たな火種。
あの武器は、それ位強力な武器だ。
あれを保持しているかどうかで勝敗が決まる程の。
そんな武器を西方世界に持ち込むなんて考えられない。
あれは、あのまま悠皇殿の中庭か、武器庫で死蔵されているのが一番なんだよ。
ますますあれの詳しい話をする訳にはいかないな。
「と、それよりも、まずは会談の件ですな。いつ頃になるとか聞いてませんの?」
「クワンロン側もハオの代わりを選定したり、例の法案を廃止にしたりと色々とあるらしいからな。時期が決まったら連絡するとだけ聞いている」
「ホンなら、しばらく暇になるっちゅうわけですか」
「そういうことだな」
そんなわけで、俺たちは急に予定がポッカリと空いてしまった。
筈だったんだけど……。
「アノ……」
ナバルさんとオーグの話を聞いていたスイランさんが話に入ってきた。
「どうしました? スイラン殿」
オーグがそう聞くと、スイランさんは俺たちに向かって深々と頭を下げてきた。
『例の法案が廃止になるとのことで、なんとお礼を言っていいのか……本当にありがとうございました』
スイランさんがそう言うと、シャオリンさんやリーファンさん、それに他の人たちまで頭を下げてきた。
元々、身体が治ったら自分で法案を廃止にするように働きかけるつもりだったらしいからな。
それが、自分が動かなくても廃止になりそうだとすると、感謝もしたくなるか。
けどなあ……。
「頭をあげて下さいスイラン殿。元々、成立すること自体がおかしな法案だったのです。こういう結果になったのは当然の結果です。わざわざお礼を言われるほどのものではないでしょう」
オーグの言う通りなのだが、スイランさんは小さく首を横に振った。
『いえ。ハオにはそれを切り抜けられる手立てがあったと聞いています。それが機能しなかったのは殿下たちがいらっしゃったからだと思います。ハオにとっては想定外の事態だったのでしょう。そういう意味でも私は殿下たちにお礼が言いたいのです』
スイランさんの言葉に、ミン家の皆さんも頷いている。
その辺は完全に偶然なんだけどなあ。
別にハオの企みを潰すために動いた訳じゃないし。
そのことで感謝されても……。
皆も同じ気持ちだったのか、スイランさんたちの感謝の言葉に戸惑っている。
それを見たスイランさんは、小さく笑った。
『では、竜の被害を最小限に食い止めて下さったことの感謝として受け取ってください。殿下たちが救ってくださった村には、我が商会の人間も多く駐在していましたから。本当にありがとうございます』
そうだったのか。
っていうか、竜の生息地近くの村だもんな。
竜の革を仕入れるために、商会の人間がいてもおかしくない。
まあ、竜を仕留める人なのか、仕留めた竜の革を仕入れるだけの人なのかは分からないけど。
ともかく、そういうことなら、村の危機を救ったのは俺たちだ。
「そういうことなら、感謝を受け取りましょう」
オーグも、そういうことなら確かに感謝されてもおかしくないということで、感謝を受け入れた。
『そうと決まれば、早速お礼をしないといけませんね。村を救ってくれたお礼と、ハオの失脚、法案の廃止を祝う祝宴を開きましょう!』
スイランさんはそう言うと、使用人の人たちに早速あれこれと指示をし始めリビングから出て行った。
そういえば、ここに来た初日にも宴会してたな。
宴会好きなんだろうか?
「いやはや。嬉しそうでしたなスイランさん」
「悩みが一気に解決していっているんだ、はしゃぎたくなるのも分かる」
ナバルさんとオーグが、スイランさんの出て行ったリビングの扉を見ながらそんなことを言っていると、扉が開きスイランさんが顔を出した。
『あ、魔石の取引に関する話し合いは明日しましょうね!』
そう言うと、再び姿を消した。
そのスイランさんの行動に、俺たちは思わず苦笑をこぼしてしまった。
シャオリンさんは恥ずかしそうだ。
「やれやれ、浮かれとってもやり手の商会会頭っちゅう立場は忘れてへんという訳でっか」
そのナバルさんの言葉に、全員頷いたのであった。