ハオの苦悩
悠皇殿での尋問後、ハオは拘束されたまま自宅へと戻された。
拘束は解かれたものの、自宅は多くの兵士によって監視されており逃げ出すこともできない状況である。
そんな状況の中、ハオは自室にて頭を抱えていた。
一体、どうしてこんなことになったのか。
もう少しで竜革取引の実権を全て握り、そこから発生する富を思うがままにできるはずだった。
多少危ない橋は渡ったが、それはどうにでもできると、そう思っていた。
ところが、自分に忠実であると思っていた副官も、自分の身を守るはずの私兵も裏切った。
その結果が今の窮地だ。
このままでは、政治家としての地位を失うだけでなく犯罪者としての汚名を着せられるかもしれない。
それもこれも、全て自分を裏切った下民どものせいだと、ハオは真剣に思っていた。
実際、報告書を偽造して法案を提出し国民に被害をもたらした。
その証拠を押さえられているので、政治家として終わりである。
そして、竜の個体数を調査する団体の職員に対して脅迫を行っていることから、犯罪行為も認められている。
かもしれないではなく、実際にそうなることはすでに決まっている。
しかしハオは選民意識の強い人間である。
自分は国民の頂点に立っており、皇帝すらお飾りの存在として見下している節がある。
そんな人間が、自分の窮地を認められるはずがない。
これは、全て自分を貶めるための陰謀だと、真剣に考えていた。
こんな不当な扱いはあってはならない。
どうにかして自分の地位を回復する必要があった。
自分が力を示せば、愚かな国民たちはこの国に必要なのはやはり自分だと再認識するだろう。
だが、その力を示すためにはどうすればいいか?
そこでハオが考えたのは、例の武器だった。
あの武器は素晴らしい威力を発揮した。
なにせ起動実験を行った際、用意した的をあっけなく撃ち抜き、射線の遥か先にいた人間を木っ端みじんに砕き、さらにその先にある山の一部を削ぎ取ったのだ。
あの武器があれば、この窮地を脱するだけでなく皇帝を廃し自分が皇帝になれるとさえ思っている。
それほどの威力だった。
だからこそ、こんな無謀ともいえる法案を提出したのだから。
だが、問題はその武器が兵士によって徴発されてしまったことだ。
悠皇殿から連れ出されるときに見えたのだが、その武器は悠皇殿の中庭に運び込まれていた。
まずはアレを取り返さなくてはいけない。
しかし、今自宅の周りは兵士で固められている。
うまく自宅を抜け出せたとしても、今度は悠皇殿に忍び込まなければならず、さらに武器の周りで警備しているであろう兵士もなんとかしなくてはならない。
どうするか?
私兵はもう使えない。
となると、自分でなんとかしなくてはいけないのだが、ただの政治家である自分にはそんな戦闘力はない。
どうする? どうすればいい?
散々悩んで悩みぬいた結果、ハオはあることを思い出した。
それは、この国では禁忌とされていること。
だが、ハオにはもうそれしか道は残されていなかった。
悩んだ結果……。
ハオは、その禁忌に手を伸ばした。