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賢者の孫  作者: 吉岡剛
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シンからのアドバイス

「ふう……結構多いなぁ」


 ユーリは、今討伐した肉食竜を異空間収納にしまいながらそう呟いた。


 ほとんど肉食竜と遭遇しなかったアリスと違い、ユーリは肉食竜と頻繁に遭遇していた。


 その肉食竜を手製の魔道具を使って討伐する。


 自分で魔力を魔法に変換していない分、消耗は少ないのだがそれでも溜息が出る。


 それほど、竜で溢れかえっていた。


「村まですぐの場所でこんなにいるなんてねぇ、もうちょっと遅かったら危なかったかもぉ」


 そんなことを言いながら、ユーリは索敵魔法を展開した。


 すると、すぐ近くで大きい魔力を感知した。


「!!」


 ユーリが慌ててそちらを見ると……。


「りゅうはいないかぁ……」

「きゃあああっ!!」


 焦点の合っていない目でそう呟くアリスとご対面した。


「ア、アリスゥ!?」

「ユーリ……竜見なかった……?」

「えぇ? 竜って……そこら中にいっぱいいるけどぉ?」


 ユーリがそう言うと、アリスは周囲を見渡した。


 そして首だけでユーリを見ると……。


「いないじゃん……」


 怨めしそうにそう言った。


「ひぃっ!?」


 そのあまりに異様な姿に、ユーリは恐怖を感じ、思わず悲鳴をあげてしまった。


「ど、どうしたのぉアリス? なんでそんなに張り切ってるのぉ?」

「……それがさぁ」


 アリスは、先ほど起こった出来事をユーリに話した。


 それを聞いたユーリは、はぁっと溜め息を吐いた。


「そりゃあそうなるに決まってるでしょぉ? 肉食竜をおびき寄せる生餌に使ったって言われても反論できないわよぉ」

「け、結果的にはそうだけど! そもそも、あんなに簡単に気絶する方が悪いんだよ!」

「だから、なんで草食竜を逃がすのに爆発魔法を使うのよぉ?」

「なんでって……近くで爆発が起きたらビックリするじゃん?」

「そりゃあビックリするわねぇ」

「何頭かはちゃんと逃がしたんだよ。意図した方向には逃げてくれなかったけど……」


 アリスのその言葉を聞いたユーリは、しょうがないなという顔をしてアリスにある提案をした。


「それならぁ、私のやり方見てみるぅ?」

「ユーリの?」

「うん。私、アリス程攻撃魔法上手くないからねぇ。色々と工夫しないといけないのよぉ」


 ユーリはそう言うと、索敵魔法を展開した。


「あ。あっちの方に何頭かいるね」

「この、ちょっと離れてるやつ?」

「うん。草食竜かどうかは行ってみないと分からないけど、とりあえず行ってみましょぉ」

「分かった」


 アリスが頷いたので二人で魔力を感知した場所へとやってきた。


「あ、いたいた。やっぱり草食竜だねぇ」

「やっぱり?」

「うん。群れてるから」

「肉食竜は群れないの?」

「今のとこ、群れてる肉食竜は見てないかなぁ」


 ユーリはそう言うと、腰のホルスターに刺さっている杖を一つ抜き取った。


「それ、格好いいよね」

「うふふ。でしょ? ビーン工房の革製品担当の人が作ってくれたの」


 ユーリはそう言うと、嬉しそうにホルスターを指で撫でた。


 その顔は、妙に艶っぽかった。


「へぇ……随分と嬉しそうだね」

「え? あ、あはは。か、格好いいからねぇ」

「……怪しい」

「そ、それより、草食竜の逃がし方でしょ?」

「なんか、誤魔化された気がするけど……ま、いっか。それで? どうやるの?」

「ふふ。こうやるの」


 ユーリが杖を振るうと、草を食んでいた草食竜の目の前に突如土の壁が現れた。


『ギャウ!?』


 突如現れた土の壁に驚く草食竜と、それに驚いた別の草食竜も一斉に逃げだす。


「そっちじゃないわよぉ」


 ユーリがもう一度杖を振るうと、逃げようとした方向にまたも土の壁が現れる。


 逃げ道を塞がれた草食竜は、慌てて反転し逃げ道を探す。


 すると、壁と壁の隙間を見つけた。


 草食竜たちは、その隙間へと殺到し逃げ出すことに成功した。


 その方向は、生息地のある方向。


 逃げて行く草食竜たちを見ながら、ユーリは呟いた。


「パニックになってるみたいだから、大分奥まで行ってくれるかなぁ?」


 今ユーリがやったことは、目の前で突然魔法を発動させパニックに陥らせて逃げ道を限定させるという、シンが使ったのと同じ方法である。


 違うのは、使った魔法の種類と、一気に取り囲んでしまうか徐々に逃げ道を塞ぐかの違いだけ。


 ユーリが徐々に取り囲むという方法を取ったのは、シンほど精密に竜を驚かせるほどの魔法を行使することができないから。


 アリスに言ったように、色々と工夫しているのである。


 この光景を見たアリスは、感心したようにユーリを見た。


「ユーリすっごー」

「ふふ。私は皆ほど魔法はすごくないからねぇ」

「でも、そっか。逃がすだけなら、派手な魔法でなくてもいいのか」

「アリスだったら、一気に竜たちを取り囲んだりできるんじゃない?」

「それいいかも!」


 ユーリのお陰でストレスを溜め込まなくても良さそうだと感じたアリスは、嬉しそうにユーリに返事した。


「さてとぉ。早く次の村に行かないといけないし、次やりましょうかぁ」

「そだね」


 次の竜を見つけるために再度索敵魔法を展開した二人は、同時に固まっている魔力の反応を見つけた。


「お? これ、固まってるってことは草食竜かな?」

「たぶん」

「じゃあさ。次はあたしにやらせてよ!」

「ふふ、いいわよぉ」


 アリスは、さっきのユーリの対応を見て自分なりに草食竜を任意の方向へ逃がす方法を思いついていた。


 その方法とは、シンの方法と同じで炎の魔法で草食竜たちを取り囲むというものだったが、その方法を試すことは出来なかった。


 なぜなら……。


「ねえ、ユーリ」

「なぁに?」

「さっき、群れてるのは草食竜だって言ってたよね?」

「言ったわねぇ」

「これ……どう見ても肉食竜じゃね?」

「そうねぇ」


 二人の視線の先にいたのは、今まで見た竜に比べると非常に小さな竜。


 だが、その容姿は今まで見た肉食竜に酷似していた。


 小さいが、どうみても肉食竜である。


「あー、ひょっとして、身体が小さいから群れで狩りをするとか?」

「でしょうねぇ」

「でさ」

「うん?」

「皆、こっち見てない?」

「見てるわねぇ」


 アリスとユーリがそんな会話をしている間に、小型の肉食竜は二人をロックオンしていた。


 二人を獲物と認識した竜は、行動を開始した。


 真っすぐ向かってくる竜と、回り込むように散開した竜がいたのだ。


「回り込むつもりねぇ」

「へえ、意外と知恵が回るんだ」

「狩りの本能かしらぁ?」

「どっちでもいいよ」


 アリスはそう言うと、魔法を起動。


 今回は逃がすのではなく討伐なので、遠慮なしに竜へ向かって魔法を放った。


 放たれた炎の魔法に巻き込まれた竜もいたが、小さい体躯の竜は見た目通り素早い。


 何頭かは魔法を避けた。


「わっ! 避けられた!?」


 大きい魔法を撃てばそれで終わるだろうと思っていたアリスは、目の前で起こった事態に驚き動きを止めた。


 竜は、その隙を突いてきた。


「わわ!」


 慌てて魔法を展開するアリスだったが、間に合うかどうかギリギリのライン。


 ジェットブーツで上空に逃げることも考えたアリスだったが、その耳にのんびりした声が聞こえてきた。


「もう。こんなとこウォルフォード君に見られたらお説教ものだよ?」


 ユーリはそう言うと、ホルスターから別の杖を引き抜き襲ってくる竜に向けた。


「えい」


 気の抜けるような掛け声だったが、杖から発動したのは先ほどのアリスと同じ炎の魔法。


 だがこちらは、アリスのものと比べるとかなり規模が小さい。


 ということは、威力も小さくなっているのだがその分発動時間が短く、連射ができる。


 杖から発射される無数の炎の弾。


 それをユーリは、特に狙い定めることもなく竜に向かって発射したのだ。


 ユーリの放った炎の弾は向かって来る竜に次々と着弾し、少しずつ、だが確実にその身を削り取って行く。


 最後には竜の身体の一部がミンチになっており、明らかに絶命していた。


「うわ……エグッ……」

「そーれ、こっちもぉ」


 アリスの呟きは無視して、ユーリは杖の先から魔法を発射したまま後ろを振り向いた。


 そこには、回り込もうとしていた別の竜たちがおり、その竜もユーリの魔法の餌食になった。


 シンが見たら『機関銃の掃射かよ』と突っ込みが入れられそうな光景である。


 ともかく、ユーリのお陰で襲い掛かってきた竜たちは全て倒された。


 残ったのは、割と見るに堪えない光景である。


「……これ、革取れるのかな?」

「そうねぇ……でも、そんなの気にしてられなかったよぉ」


 割とあっさり狩ったように見えるが、素材としての価値を残すことまではできなかったので、そんなに余裕はなかったらしい。


「ウォルフォード君ならぁ、こんな状況でもヘッドショット決めちゃうんだろうけどねぇ」

「間違いないね」


 あくまで想像でしかないのだが、翼竜たちを全てヘッドショットで仕留めたのを見ているだけに、間違いなくできると断言した。


「それにしても、そんな杖も持ってたの?」

「今のは小さい敵用ねぇ。素早いと魔法が当たらないものぉ」

「確かに」

「だからぁ、こういう連射できるものとかぁ、一発が大きいものとかぁ、色々用意してるのぉ」


 そう言いながら、ユーリはホルスターにぶら下がっているいくつかの杖を撫でた。


「ほえぇ、凄い、用意周到じゃん」


 感心してそう言うアリスだったが、褒められたユーリの顔に浮かんでいるのは苦笑だ。


「って言ってもねぇ。これ、ウォルフォード君のアイデアだからぁ」

「シン君の?」

「そう。最初は火とか水とか土とか、そういう色んな種類の杖を用意してたんだけどぉ。ウォルフォード君が、用途別に分けた方がいいってアドバイスしてくれてぇ」

「へぇ、そうなんだ」


 以前、魔人王戦役の際にユーリが用意したのは各属性の威力の大きな魔法ばかりだった。


 だがシンから見たら、威力が大きいのは火でも土でも風でも相手に与えるダメージに大差はない。


 なら、大きい威力の魔法は一つにして、今のように小さい魔法を無数に撃ち出したり、防御のための土壁を作ったりする方が便利では? とアドバイスしたのだ。


「一度シン君の頭の中見てみたい」

「それは同意するわぁ」


 自分たちを人類の最上位に押し上げてくれた存在。


 誰も思いつかなかった魔法を駆使し、その威力は冗談抜きで世界を破滅させるだけの力を持つ。


 それは、シュトロームとの戦いで確信した。


 そんなシンの頭は、いつもなにを考えているのだろうと、純粋にそう思ったアリスは軽い口調でこう言った。


「意外と、本当に前世の記憶が詰まってたりして」


 そう言うアリスの顔に、深刻さはない。


 あくまで冗談だ。


「よーっし! 次の竜を探すぞおっ!」


 その証拠に、アリスは早速その発言を忘れ、竜を探すために索敵魔法を展開し始めた。


 だが、アリスの言葉を聞いたユーリは……。


「かもしれないわねぇ」


 至極真面目な顔でそう呟いた。


 その声は、索敵魔法に集中しているアリスには聞こえなかった。


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別作品、始めました


魔法少女と呼ばないで
― 新着の感想 ―
[良い点] 更新お疲れ様です [一言] 水刃なら素材傷付けずに済みそうですね
[気になる点] 誤字報告 >「パニックになってるみたいだから、大分奥まで言ってくれるかなぁ?」 大分奥まで行ってくれるかなぁ? >真っすぐ向かってくる竜と、回り込むように散会した竜がいたのだ。 …
[一言] マーリンと成人するまで狩りをしていたんだからそっち方向の知識だと思う。
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