ある噂
「ふむ、今回の一件、ハオが責任を取らされそうだと」
「はい」
シャオリンさんの案内のもと、次の村への移動中にマークから悠皇殿での話を聞いた。
なんでも、今回の竜の大量発生の責任は、竜を保護する法案を立案したハオの責任になりそうなのだとか。
それはまあ、そうだろうな。
竜の個体数が少なくなっているから保護しようという法案だったはずなのに、僅か二年で大量発生だもの。
その法案を立案する際に添付したであろう竜の個体数の調査報告も虚偽であった可能性が高い。
というか、シャオリンさんの話からすると間違いなく虚偽報告だろう。
「それにしても……こうなることは予想できるだろうに。なんでまたそんな法案を立案したのかね?」
俺がそう言うと、周りの皆も頷いた。
俺たちは、オーグやトール、ユリウスたちと違って政治には詳しくない。
そんな俺たちでさえ分かることを、この国の官僚の中でも特に地位の高そうなハオが理解していなかったとは考えにくい。
どういうことなんだろうなと首を傾げていると、シャオリンさんが口を開いた。
「そのことについて……ハオに関してある噂を聞いたことがあります」
「噂?」
「はい」
なんだろう?
今回の件に関わることかな?
「ふむ、シャオリン殿。その噂とやらを聞いてもいいか?」
「はい殿下。その噂とは……ハオが個人で遺跡の発掘を行い、非常に強力な武器を手に入れたという噂です」
「ほう……」
シャオリンさんの言葉を聞いて、オーグが目を細めた。
「しかし、なぜ噂なのだ? 事実確認はしていないのか?」
「クワンロンでは、遺跡発掘の際に出た武器は一旦全て国に報告する義務があります。しかし……」
「その、ハオが発掘したという武器は報告されていなかったと」
「ええ。なので噂でしかないのですが……」
「どこからかその情報が洩れたと?」
「そういう訳ではありません」
ん? 情報が洩れた訳じゃないのに噂になってる?
「どういうことです? それで、なんで噂になんかなるんですか?」
意味が分からなくて、思わずオーグとシャオリンさんの会話に割り込んでしまった。
「ハオの屋敷に秘密裏に荷物が運び込まれるのを見た者がいたらしく、そこから噂になったのです」
そりゃ、そんな場面を目撃されたら色々疑われるわな。
しかし、傍目から見て、コッソリ運んでいると思われたってことは……。
「その荷物、相当大きかったんですかね?」
「らしいです。なので、強力な武器なのではないかとの噂が立ったのです」
やっぱりね。
「なるほどな。その噂が真実だとすると、その武器があるからこそ、この法案を通したということか」
「どういうことですか殿下?」
俺は分かったけど、分からなかったらしいアリスがオーグに聞いた。
「つまり、竜がある程度増えてもその武器を使って秘密裏に間引くつもりだったんだろう。なので、この無謀とも思える法案を立案した。だが……」
「結局、竜の大量発生は起きてしまい、ハオの対処は間に合わなかったということです」
オーグの説明をトールが補足した。
その説明を聞いたアリスは、呆れた顔をした。
「はぁ……なんか、メッチャ間抜けじゃない? あの人」
……アリスに言われたらお終いだな。
「まあ、本来なら何かしらの連絡が入るようになっていたんだろうな。しかし、それが上手く機能しなかったんだろう」
「それにしたって、ここまで放置しておくなんて。途中で間引くなりなんなりすれば良かったのに」
マリアが不満そうにそう言うが、そうは出来なかったんだろう。
「それは無理だろうな。なにせ、自分で出した法案がある」
「あ、そっか。竜を狩っちゃいけないって法案……」
「まさしく、自分で自分の首を絞めた結果になったな」
正しく、ハオの自業自得だ。
「まあ、これでハオは確実に失脚するだろう。そうなればクワンロンとの交渉も滞りなく進むはずだ」
「しかし殿下。ナバルさんが、ああいう輩はしぶといから気を付けないといけないと言っていましたが……」
ああ、マークはナバルさんの護衛で付いて行ってたんだっけ。
あのナバルさんがそう言うんだから、警戒はしておかないといけないだろう。
でも……。
「まあ、大丈夫じゃない?」
俺は不安そうなマークに向かってそう言った。
「シンの言う通りだ。心配ない」
オーグも、俺の言葉に乗っかってきた。
「なぜですか? 正直言って、ハオがそんなに簡単に失脚するとは思えません」
俺とオーグの言葉に、シャオリンさんが不安そうに聞いてきた。
「まあ、そんなに心配しなくても、各村を回り終わったら分かりますよ」
「その通りだ。なのでシャオリン殿、案内の程よろしく頼むぞ」
「はぁ……」
「ああ、それと」
オーグはそこで言葉を切ると、シャオリンさんをジッと見た。
「これからそういう情報は早めに言ってくれると助かるな」
聞いているこっちがゾッとするような冷たい声でオーグがそう言った。
あぁ、オーグの奴、まだシャオリンさんのこと信用してなかったんだな。
それが伝わったんだろう。
「……はい」
シャオリンさんは、消え入るような声でそう返事するので精一杯だった。
リーファンさんは……。
「……うぐっ」
……口を押さえてた。




