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賢者の孫  作者: 吉岡剛
192/311

商人の性

 シャオリンさんを伴ってゲートを潜り、村の防衛施設の塀の上に出た。


「すごい……本当に村の防衛施設だ……」


 過去に来たことがあるんだろう、シャオリンさんは周囲を見渡すとポツリとそう呟いた。


 まあ、竜の革を扱う商家の人間だからな。


 その狩場である村に来たことくらいあるか。


 やっぱり、シャオリンさんの同行を許可したのは正しかったみたいだ。


「シャオリンさん。俺たちは皆の加勢に向かいますから、ここから動かないでくださいね」

「は、はい。分かりました」


 シャオリンさんの返事を聞いた俺は、塀の上から索敵魔法を展開し、人と竜が集まっている場所を探った。


 すると……。


 ある方向から、デカい爆発音が聞こえてきた。


「これは……!」


 その場所を索敵してみると……。


「ウォルフォード君! これ、魔物化してるッスよ!」

「そうみたいだな」


 魔物化した竜の魔力を感知した俺たちだったが、さっきの爆発音から察するに、オーグたちがいるんだろう。


「どうする?」

「自分は一応行っておきたいッス」

「折角来たのに、なにもしないのは申し訳ないですから」


 マークとオリビアに一応確認してみると、現場に向かいたいとのこと。


 まあ、折角加勢に来たのにもう終わってましたじゃなにしに来たのか分かんないしな。


「とはいえ、もう終わってるかもしれないぞ?」

「それでもッスよ」

「そっか。じゃあ、とりあえずオーグたちと合流するか」

「ッス!」

「はい!」


 俺たちはジェットブーツを起動し、塀の上から現場に向かって飛び出した。


 そうして現場に辿り着いてみると、リンがウォータージェットで魔物化した竜の首を刎ねたところだった。


「なんだよ。結局リンも首刎ねてるじゃん」

「む? ウォルフォード君?」

「人のこと、首刎ねるのが好きだとか言ってたくせに、自分もやってんじゃん」

「これは仕方ない。殿下の要望」

「オーグの?」

「そう。素材に傷を付けないようにオーダーされた」

「ああ、なるほど」


 俺が魔物の首を刎ねるのは、昔食料として動物を狩ってたときの名残。


 首を刎ねるのが一番素材を綺麗に残せるからね。


 今回狩った竜の革も、素材として回収するんだろう。


 特に魔物化した竜の革は普通の竜の革より丈夫そうだしな。


「ところで、随分と遅かったな」


 リンと話をしていると、オーグが話に加わった。


「もたもたしているから、村を襲ってきた竜は全て討伐してしまったぞ」

「あー、申し訳ありません殿下」

「すみません」


 遅れてきたマークとオリビアがそう謝罪するけど、別に謝るようなことじゃなくね?


「別にビーン夫妻が謝ることじゃない。お前たちは別の仕事をしていたのだからな」

「ふ、夫妻……」

「だから殿下! まだ夫妻じゃありませんって!」

「それはいいとして……」

「よくないですよ!」

「どうして遅くなった? なにかトラブルでもあったのか?」

「む、無視された……」


 オリビアが悲痛な顔をしてるけど、もうそう呼ばれるのも時間の問題だし、別にいいんじゃないの?


 っと、それより。


「マークとオリビアとはすぐに合流できたんだけどね、追加で連れてきた人がいるんだ」

「追加で?」

「ああ。シャオリンさんがどうしても連れて行ってほしいっていうから」

「お、お嬢様が!?」


 俺の言葉を聞いたリーファンさんが、驚愕して声をあげた。


 そりゃそうだろうな。


 こんな、戦闘の最前線に非戦闘員のお嬢様を連れてきたんだから。


「な、なぜですか!?」

「いや、今回報告があったのはこの村だけど、竜の大量発生がこの村だけとは限らないじゃないですか」

「た、確かに」

「元々、この村の竜を鎮圧したら別の村を回ろうかと思っていたんですけど、シャオリンさんが竜の生息地に近い村の場所を把握してるっていうので」

「それで連れてきたのか」

「まあね。竜の生息地に近い……つまり竜を狩ることを生業にしている村にはここみたいな砦があるらしくてさ。そこから出ないことを条件に連れてきた」


 俺がそう言うと、オーグは納得した顔をして頷いた。


「そうだな。闇雲に村を回るより、その方が効率的か」

「その話をしててな。シャオリンさんを砦に送ってからこっちに来たから、それで遅くなった」

「状況は分かった。それでは、竜狩りも終わったことだし、一旦砦に戻るとするか」


 オーグのその言葉で、俺たちは砦に戻ることにした。


 もうすでに村に竜の気配はないので、俺たちは普通に砦に設置されている門を開けて貰って中に入る。


 すると、中に避難していた村人たちが俺たちを歓迎してくれた。


「シン殿!」


 その村人たちの中から、さっき送り届けたシャオリンさんがこっちに向かってきた。


「皆さんも、ご無事でしたか」


 シャオリンさんはオーグたちを見て、安堵の息を吐いていた。


「魔物化してない竜なんて楽勝だよ!」

「余裕」


 アリスとリンが、シャオリンさんにドヤ顔を見せる。


 シャオリンさんは、顔が若干引きつり気味だ。


「むしろ、シンに空から翼竜を落とされたときの方がピンチだったわね」

「悪かったよ!」


 マリアめ、これはしばらく言われそうだ。


「よ、翼竜、ですか?」


 ん? シャオリンさんの顔が、驚愕と期待の入り混じった顔してる。


「ええ。シン殿がまとめて撃ち落としまして。それが自分たちの真上だったものですから……」

「翼竜が降ってきたので御座るよ」

「だからゴメンって!」


 トールとユリウスまで!?


 予想外の口撃に驚いていると、シャオリンさんが興奮した様子で俺に詰め寄ってきた。


「あの! シン殿!」

「はい?」

「その……討伐した翼竜の損傷具合は……」

「ああ。全部額を撃ち抜きましたけど、上空から落下したから……」


 結局、身体の方の革はどうだったんだろ?


 詳しくは見てなかったんだよな。


 そう思っていると、トニーとユーリが前に出てきた。


「回収してあるから、見てみるかい?」

「パッと見だと傷は無さそうだったわよぉ」


 そう言いながら異空間収納より回収した翼竜を取り出した。


「こ、こんなに!?」


 またもシャオリンさんが驚愕の声をあげる。


 そんなに珍しいんだろうか?


 戸惑う俺たちをよそに、シャオリンさんは興奮した様子のまま翼竜を調べ出した。


「翼に傷がない……これは極上品!!」


 シャオリンさんの表情は、まさに喜色満面といった様子。


「シン殿!!」

「うおっ!? はい!?」


 そして、その表情のまま俺の方をバッと見て詰め寄ってきた。


 び、びっくりした……。


「これ! この翼竜も含めて、狩った竜は全て売却してもらえませんか!?」

「え? ああ、まあ、それはいいですけど」

「本当ですか!? ありがとうございます!!」


 わあ、シャオリンさんメッチャ嬉しそうな顔してる。


「あの、この翼竜ってそんなに珍しいんですか?」

「翼竜自体は珍しいものではないんですけど、狩るとなると中々……それに翼を傷付けずに狩ることも難しくて……」


 ああ、まあ空飛んでるもんな。


 狩るならまず翼を狙うのか。


「翼竜の革は、身体より翼の方が価値が高いのです。薄い上に丈夫ですからね。ただ、今言ったように狩れる数も少ないですし、多くは傷が入っているのです」

「ああ。ならこれは……」

「ええ! 無傷な上にこの量!! こんなの見たことありません!!」


 なるほどね。


 それならシャオリンさんのこの興奮ぶりも納得できるな。


「それでは早速値段の……」

「シャオリン殿。すまないが、それは帰ってからにしてもらえないだろうか?」


 翼竜を含めた竜の値段交渉に入ろうとしたシャオリンさんを、オーグが遮った。


「え? あ! も、申し訳ありません! つい商人の血が騒いでしまって……」


 今まで見たことない量の翼竜を見たからな。


 興奮して我を忘れてしまったんだろう。


 シャオリンさんがここに来たのは、竜の革の買い付けのためじゃなく、俺たちを竜の生息地に近い村に案内すること。


 それを思い出してオーグに謝罪した。


「いや、事情を聴く限り無理のないことだとは思う。だが、今は他に優先させるべきことがあるからな」

「はい……そのために無理を言って付いてきたのに……申し訳ありませんでした」

「構わない。それより、早速次の場所に向かいたいのだが」

「分かりました。地図を見せてもらえますか?」


 シャオリンさんに言われて、出がけに借りた地図を近くにあった台の上に広げる。


 その地図を見ながら、シャオリンさんは地図上にいくつか印を付けていった。


「この近くにある竜の生息地は、ここ、ここ、それとここです」

「ふむ。その生息地の近くには……」

「ええ。その竜を狩るための拠点となる村があります」


 シャオリンさんの説明を聞き、地図上にある印を見る。


「結構離れてるんですね……」


 シシリーが地図上の印を見て率直な感想を述べる。


 確かに、俺もそう思った。


「竜は身体が大きいですし、竜の中だけで食物連鎖が完結しますから。一つの生息地はかなり大きいんですよ」


 ああ。


 だから拠点となる村が離れてるのか。


 しかし、広大な生息地か……。


「それだと、予想よりも数が増えている可能性があるな……」

「多分。ですが、まず大事なのは人の住んでいる所です。生息地内で増えてしまった竜は、また少しずつ狩ればいいですし」

「とりあえず、人的被害を抑えることが最優先か」

「そうして頂けるとありがたいです」


 オーグとシャオリンさんとで話がまとまったみたいだ。


「よし。それでは早速、ここから近いところから回るとするか。シャオリン殿、案内を頼むぞ」

「はい! お任せください!」

「もう行く?」

「ああ。シン、また頼む」

「おっけー」


 オーグからの要請を受けたので、全員に浮遊魔法をかける。


「わ! わあ!」

「ぬわっ! またか!」


 シャオリンさんは驚いた様子だけど、怖がっている感じはない。


 リーファンさんは……。


 申し訳ないけど、我慢してくれ。


「シシリー、悪いけどシャオリンさんを引っ張っていってあげてくれる?」

「はい、分かりました」


 シャオリンさんは女性だからな、牽引を頼むのも女性がいいだろうとシシリーに声をかけた。


 ということで……。


「リーファンさんは、また俺が引っ張って行きますね」

「……」


 うわあ……強面のリーファンさんが、なんとも言えない苦々しい顔をしているよ。


「それでは、行くぞ!」

『はい!』


 オーグの号令で、全員が風魔法を起動し移動を始める。


「わああっ!!」


 シシリーに手を引かれているシャオリンさんが楽しそうな声をあげている。


 リーファンさんは……。


「ぬうわああっ!!」


 ……着くまで、吐かずに我慢してくれるだろうか?


あ……マークの話を聞くのを忘れてた。


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別作品、始めました


魔法少女と呼ばないで
― 新着の感想 ―
[気になる点] そういやシンたちがミン家(スイラン&シャオリン姉妹)に売却した大量の竜の内、シンが空中で数十頭も撃墜した翼竜の翼は全部、傷のない極上品としてクワンロン国内でも特に価値が高くなるんだった…
[気になる点] 一番素材としての状態が良いのは全身の血流を止めることでは? 少しの間に暴れることを考えるなら大量の二酸化炭素を吸い込ませて失神させるとかしても良いかもしれませんね。 少なくとも首チョン…
[気になる点] 誤字報告 > 魔物化した竜の魔力を関知した俺たちだったが、さっきの爆発音から察するに、オーグたちがいるんだろう。 関知ではなく感知ですね。
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