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賢者の孫  作者: 吉岡剛
188/311

腹黒たち

『ハオ殿、これは一体どういうことですかな?』


 悠皇殿の一室においてハオは数人の官僚たちに囲まれていた。


 ハオは部屋の中央にある椅子に座らされ、取り囲む官僚たちは一段高い場所に座っている。


 その様子は、まさにハオを罪人として見ているようにしか見えなかったし、ハオ自身もそう感じ屈辱に震えていた。


『確か、ハオ殿の出した資料によると竜は絶滅の危機にあるという話でしたな』

『ところが、その絶滅危惧種であるはずの竜が大量発生したというではないですか』

『もう一度聞きますぞハオ殿。これは一体どういうことですか?』


 口々にそう言ってくる官僚たちを、ハオは憎々し気に睨む。


 ハオは、クワンロンの官僚の中でも特に地位が高い。


 今、ハオを取り囲んでいる官僚たちは、自分よりも立場が下の者たちであった。


 それが、この機に乗じて一斉に自分を見下してきている。


 屈辱以外のなにものでもなかった。


『だんまりですか? ハオ殿』

『黙っているということは、貴方の提出した竜に関する報告書は虚偽だったと認めることになりますよ?』

『ち、違う! 知らなかったんだ! 私は調査団体からの要望を受けて法案を提出しただけで!』


 ハオは、官僚の一人からの言葉に対して咄嗟に反論した。


 当然、嘘である。


 官僚の一人は、そのハオの言葉を聞いてニヤリと口を歪めた。


『ほう。ということは、ハオ殿はその報告書をロクに精査もしないで法案を提出したと、そう仰るのですな?』

『あ……いや……』

『違うと? 現に貴方は今そう仰ったではないですか』


 ニヤニヤと見下してくる官僚に対し、強い憤りを感じたハオは奥歯が割れるほど歯を食いしばった。


 なぜ自分ほどの人間がこんな格下の人間に侮られなければならないのか。


 プライドの高いハオにとって、このような扱いなど屈辱以外のなにものでもない。


 こんなことになっているのも、全てはここ数日姿を現していない補佐官のせいだと思ったハオは、全ての責任を補佐官に擦り付けることにした。


『ほ、補佐官が調査したというので、その言葉に従ったまでだ! 私は騙されたんだ!』

『その補佐官を任命したのは貴方でしょう? ならば、任命責任があるのではないですか?』

『そ、それは……!』


 ああ言えばこう言う官僚に対し、ハオは心底イライラしていた。


 自分は一切悪くない。


 そもそも、この法案を提出した時点で竜の数が増えるであろうことはハオにも予見できていた。


 だからハオは、万が一にも竜が大量発生して暴走しないように竜の監視を強化していた。


 そして、少しでも竜の大量発生の兆しが見えれば、すぐに補佐官に連絡が入るようになっていた。


 増えた竜を狩る手段も用意していたのだ。


 だが、その補佐官が失踪した。


 正直、裏切った補佐官を自分の手で八つ裂きにしてやりたい気分だったが、責任を取らせる相手がいなくなるのはよろしくない。


 ハオは必死に考えを巡らせ、補佐官に責任を擦り付けつつ自分の有利になるような話を思い付いた。


『じ、実は、団体と補佐官からこの話を聞かされた際に、私はこういった事態になるのではないかと提言していたのだ。竜を保護するということは個体数を増やすということだからな』

『ほう?』


 官僚は、明らかに信じていない様子だったが、とりあえず続きを促した。


『団体と補佐官が言うには、絶滅寸前だからそうすぐには増えないとのことだったが……それでも私は不安を払拭することが出来なかった。そこで私は、独自に竜に対抗する手段を備えていたのだ』


 前半は嘘だが、後半は嘘ではない。


 段々調子に乗ってきたハオは、まるで演説をしているかのように語りだす。


『補佐官たちの見立てでは、向こう十年は大丈夫という話だったが……奴らは竜の繁殖力を見誤ったらしい。その証拠に補佐官はここ数日姿を見せていない! 責任を取らされるのを恐れて逃げ出したのだよ!』


 ハオの熱弁を、他の官僚たちは口を挟まずに聞いている。


 その様子にハオは、官僚たちが自分の言葉を信じていると確信し、ここから自分の手柄に持っていくように話をシフトした。


『確かに、部下のしでかしたことの責任は私にもあるだろう。だからこそ、こんなところで無駄な時間を食っている訳にはいかない! 私はこの事態を引き起こした部下の尻拭いのため、一刻も早く現地に向かわねばならんのだ!』


 そう言い切ったハオは、自分を取り囲んでいる官僚たちを睨んだ。


 その視線を受けた官僚たちは、小声で少し話し合ったあとハオに向かって言った。


『ハオ殿、竜に対抗できる手段とはなんですか?』

『実は、遺跡から発掘した武器がありましてな。それが竜に十分通用するものであるのだ』

『そうですか……』


 官僚たちは再度小声で話し合い、ハオに告げた。


『いいでしょう。今はこの事態を一刻も早く沈静化させることが急務です。ハオ殿にその手段があるというのならそれを使って貰いましょう。すぐに現地に向かって頂けますか』


 その言葉を聞いたハオは、このピンチを切り抜けたと安堵し、


『ああ、任せてもらおう!』


 力強くそう言うと、部屋から出て行った。


 ハオが出て行ったあと、官僚の一人がポツリと呟いた。


『ハオはああ言っているが、本当のところはどうなのだ?』


 その呟きに対する答えは、並んで座っている官僚たちではなく、その後ろから聞こえてきた。


『全部デタラメですよ』


 そう言いながら姿を現したのは、ハオのもとから失踪した補佐官であった。


 補佐官は、ハオのパワハラに耐え兼ねて失踪したあと、別の官僚に保護を求めていた。


 保護を求められた官僚も、ハオを追い落とす材料として補佐官を匿っていた。


 そして、その補佐官の口から真実が語られていく。


『あの報告書は、ハオが調査団体に無理矢理書かせたものです。職員の家族を人質に取ってね』

『清々しいほどの下衆だな』

『我々も清廉潔白であるとは言い難いが……アレに比べれば、聖人君子ではないかと錯覚するよ』

『それで、その職員たちからも証言は得られるのか?』


 口々にハオのことを罵っていた官僚たちだが、そのうちの一人が補佐官に聞いた。


『大丈夫です。今回の報告が入ってすぐに調査団体の職員とその家族を保護するように手配済みです。もっとも、ハオの方にはそちらに手を回す余裕はないでしょうけど』

『そうか。ところで、ハオが言っていた竜に対抗しうる武器があるという話もデタラメなのか?』

『いえ、そこだけは本当です。発掘した際私も側にいましたし、その威力も確認済みです』

『そんなに強力なのか?』

『はい。用途が分からなかったので試運転をした際、その武器から発せられた衝撃で調査員が何人か跡形もなく吹き飛びましたからね』


 補佐官のその言葉に、官僚たちはゴクリと息を飲んだ。


 そして、またニヤッと笑った。


『まあ、竜の暴走はこの国にとって一大事ですからな。ハオ殿には精々頑張って討伐をして頂こうではありませんか』

『ただまあ、それほどの武器を発掘したのに国に報告していなかったことは問題ですがなあ』


 その言葉を聞いた官僚たちは、全員ニヤニヤしていた。


 その光景を見た補佐官は、あまりに腹黒い官僚たちのやり取りを見て、内心で溜め息を吐いていた。



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別作品、始めました


魔法少女と呼ばないで
― 新着の感想 ―
[一言] こいつらめっちゃ腹黒ですね。補佐官さん胃痛で死なないでしょうか?大丈夫でしょうか?頑張ってください。ハオも腹黒ですか、他の官僚は頭のいい腹黒ですね。ハオの何倍も厄介そうです。主人公頑張ってく…
[一言] 官僚達も自分で証拠を集めたり人質にされていた人達を保護した訳でなく、逃げ出してきた補佐官の持つ証拠と証言を利用してるだけで目糞鼻糞ですねぇ。 こんなんじゃ思い至らないのも仕方ないですね。 ハ…
[一言] 君主制だと国民の責任は君主が取り(君主が聖人君子か傀儡に限るのかも)、独裁制では人民が責任を取るのかな?民主制は誰も責任から逃れようとする(衆愚政治の末路)。
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