バレた!?
俺をじっと見るシャオリンさん。
その真剣な様子に、俺は目をそらさずに言った。
「作れますよ」
そう言った瞬間、シャオリンさんとリーファンさんだけでなく、チームの皆にも緊張が走ったのが分かった。
「あ、あなたは……」
「けど、作りません」
「……え?」
シャオリンさんがなにかを言いかけたけど、俺はそれを制してそんな兵器は作らないことを明言した。
「それを作ったとして、どうするんですか? どこで使うんですか?」
「そ、それは……クワンロンを征服しにきたりとか、世界征服とか……」
そんなことを言うシャオリンさんに、心底呆れてしまった。
「はあ……」
「え? 溜め息?」
「なんで皆さん、力があるとすぐに世界征服したがるんですかね?」
「そ、それは……定番というか」
「以前にも、それこそ今回同行してるナバルさんに聞かれたことがありますけど、そんな面倒臭いこと絶対しませんよ」
「め、面倒?」
「だってそうでしょう? 今の俺は、シシリーっていう最高の奥さんがいて、シルバーっていう超可愛い息子がいて、じいちゃんばあちゃんがいて、アルティメット・マジシャンズの皆がいて、ウォルフォード商会が順調だから経済的にも満足してる。一体どこに不満が?」
「こうやって聞いてみると、シン殿って凄いリア充ですよね」
「その言葉の概念って、クワンロンにもあるんですか?」
「ありますよ。恋人がいたり、友達が多かったり、仕事が順調だったり、リアルが充実している人は、そうでない人から嫉妬の対象になりますからね。シン殿なんて究極のリア充じゃないですか! 羨ましい!」
「シャオリンさん!?」
「私だって、私だって恋人の一人や二人欲しいですよ!」
「二人はマズイんじゃ……」
「家はそこそこお金持ってるんですから、あとは恋人だけなんですよ! なのに、なんでこんなことしてるんですかね!?」
「知りませんよ! ちょっと落ち着いて下さい!」
「はっ!」
なんか、恋人のくだりから急にシャオリンさんが暴走し始めた。
え、やっぱりリーファンさんは恋愛の対象外なの?
そう思ってリーファンさんを見てみると、ちょっと驚いた顔はしてるけど特に気にしてないっぽい。
むー。
「と、とにかくですね。俺は世界征服なんて面倒臭いことしたくありませんし、家族が危険に巻き込まれるようなこともするつもりはありません」
「そう、ですか」
「とりあえず、これでシャオリンさんたちが懸念しているようなことは起こらないと理解して頂けますか?」
「そうですね。それで納得するしかないですよね」
「そこはもう、信用してくださいとしか言いようがありませけどね」
こればっかりは、俺の事を信用してくれとしか言いようがない。
一応、行動に起こさないに足る理由は話したと思うから、大丈夫だと思うんだけどな。
「それでは、これで話は終わりですか?」
「あ、いえ。そもそもの話が終わっていません」
「……そういえばそうですね」
すっかり忘れていた。
途中から、前文明だの、世界を滅ぼせる兵器だのの話になったからなあ。
「そもそもです、なぜシン殿が前文明の文字を知っているのですか? 偶然にしてはあまりにも文字が似すぎています」
「それは……」
これはなんと答えたらいい?
そもそも、俺はこの世界には漢字など存在していないと思って付与魔法に漢字を使っていた。
実際、クワンロンで使われている文字は、シャオリンさんに呪符を見せてもらったときにも感じたが、ホントに初期の象形文字みたいだった。
それなのに、今更、実はもう存在しない前文明で使われていた文字でしたとか言われても、答えようがない。
「……正直言って、分かりません」
俺もかなり混乱しているので、一応今の気持ちを正直に答えた。
嘘は、言っていない。
本当のことを言っていないだけ。
「それで納得できると思いますか?」
「そう言われても、自分の頭の中に浮かんできたとしか言えませんよ」
……今、嘘を吐いた。
正直、いい気分じゃない。
皆を騙しているのだから。
だけど、こればっかりは正直に言う訳にはいかない。
言えばさらに混乱させる。
……いや、言い訳だな。
皆に嫌われたくない。
その想いが強かった。
しばらく沈黙が続くと、それを打ち払ったのは意外な人物だった。
「これはあれじゃないかなあ」
「トニー?」
沈黙を破って、トニーが話し出した。
「もしかしたらだけど、シンには前世の記憶があるんじゃないかな?」
「!!」
あまりに確信を突いたセリフに、俺は言葉を失った。
なぜ?
なんでその結論にたどり着いた?
そんな俺の混乱をよそに、トニーは言葉を続けた。
「ほら、創神教の教えにもあるじゃない。善行を積めば神様のもとに導かれて、もう一度人間に生まれ変わることができるって」
「そうだな」
「それなら、クワンロンで広まっている宗教でも同じ教えですよ」
オーグとシャオリンさんがトニーの言葉に同意した。
宗教って、世界が変わっても大体同じ教えに行きつくんだな。
同意を得たトニーは、さらに言葉を続けた。
「うん、だからさ、シンの前世は前文明の人間で、生まれ変わっても漠然とその記憶が残ってるとかじゃないかい?」
トニーがそう言ったあと、辺りには再び沈黙に包まれた。
……空気が重い……。
その空気にしばらく耐えていると、シャオリンさんがはあっと息を吐いた。
「正直、一体なにをと言いたいところですが……ひょっとしたらそれが一番正解に近いのかもしれませんね」
「え?」
「これはゴシップの話ですが、前世の記憶を持っているという人間は、我が国にも一定数います」
「だよねえ、ウチの国にもいるよ」
「え?」
俺、さっきから「え?」しか言ってない。
予想外のことばっかりだもん。
「今まで、なにを馬鹿なことを言っているのかと思いましたが……そう考えると納得できてしまう自分がいます」
「僕も同じだねえ。シンに前文明を生きたころの記憶が心の奥底の方に残っているなら、シンの規格外の力も納得できてしまうよ」
トニーの言葉に、なぜか皆が納得をし始めた。
「確かにな。そう考えればシンの異常な力の説明も付く……か?」
「自分は納得ッス! ウォルフォード君の柔軟な発想はどこから来るのかと常々不思議に思ってましたけど、無意識に刷り込まれているから斬新なアイデアが出てきてるんじゃないっスか?」
オーグは、納得したようなしてないような微妙な感じだが、マークはようやく腑に落ちたと言わんばかりにスッキリした顔をしている。
「確かにそうね……シンの常識外れの行動も、ひょっとしたら前文明では当たり前のことだったのかもしれないわね」
「無意識にそういう行動をしてたってことぉ?」
「あの魔法を見せられたら、確かにそう信じちゃいます」
マリア、ユーリ、オリビアも同意し始めた。
「あ! ひょっとしてあの服の発想もそうなのかな!?」
「そうに違いない。あれは斬新すぎる」
アリスとリンの言うあの服ってのはメイちゃんとお揃いの服のことだろうな。
絶対違うと思うけど、黙っておこう。
「それにしても、どうしてシャオリン殿はそんなにシン殿が古語を使えることを懸念していたのですか?」
「そうで御座るな。先程の兵器以外でなにか不都合でもあるで御座るか?」
皆が納得し始めている中、トールとユリウスだけはシャオリンさんへと意識を向けていた。
そういえばそうだな。
なぜ、ここまで問い詰められなければいけないんだ?
その思いは皆同じだったようで、シャオリンさんを見つめている。
皆の視線が一斉に集まったことで、ちょと気圧された感じだったシャオリンさんだが、立ち向かうように言った。
「だって……見過ごせないじゃないですか! もしかしたら……」
シャオリンさんは、少し言葉を切ったあと言った。
「もしかしたらシン殿が古語の意味を解説した本を読んだかもしれないじゃないですか!」
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