クワンロンのお国事情
「お姉さんが商会の会頭? それはまた……随分と若くないですか?」
「元々会頭だった父が事故で亡くなってしまって……姉がその後を継いだのです」
「あ……それは……」
シャオリンさんのお父さんは亡くなっていたのか……。
「すみません、嫌なことを思い出させてしまって……」
「いえ、もう三年も前の話ですし、気にしてません。で、その父の跡を継いだ姉は、うちと同様に竜の革を扱っている商会に声をかけ次々と傘下に治めていき、その竜革組合の組合長になったのです」
へえ、たった三年で組合を作って、まとめあげたのか。
シャオリンさんのお姉さん、相当やり手なんだな。
「ですが……」
さっきまで、誇らしげにお姉さんの業績を語っていたシャオリンさんの顔が曇った。
「その姉が倒れたことによって、次期組合長の座を巡って諍いが起き始めたのです」
「まあ……よくある話ですね」
「それだけならまあ……そうして組合が揺らいでいたところにあの法案が発令されてしまって……」
「法案?」
「はい、それが……」
そこまで言って、曇っていただけのシャオリンさんの顔が、苦々しいものになった。
「竜は絶滅の恐れがあるので狩ることを禁ずると……それだけでなく、その竜の革を取引することも同様に……」
「え?」
竜狩りの禁止?
それって……。
「えー? シャオリンさん、それおかしくない?」
皆でシャオリンさんの話を聞いていたのだが、アリスが疑問の声をあげた。
「さっき、竜は時々狩らないと増え過ぎちゃうって言ってなかった?」
そう、さっき竜の革を見せてもらったとき、確かにそう言っていた。
なのに、絶滅の恐れ?
「そう、おかしいんです。なのに、国はそういう御触れを出してしまったんです」
悔しそうにそう言って、シャオリンさんは俯いてしまった。
重苦しい空気が流れる中で、実家が工房を営んでいるマークが、シャオリンさんに声をかけた。
「あの、そうなる前に抗議とか、個体数の調査資料とか提出しなかったんスか?」
ビーン工房も、色んな素材を扱うもんな。
もしかしたら、今までにそういう経験があるのかも。
そのマークの問いかけに、シャオリンさんはバツの悪そうな顔をした。
「それが……先ほど申しましたように、組合が混乱している時期でして……誰もそういう法案が審議されていることを知らなかったんです」
議論をする暇もないうちに決定が下されてしまったということか……。
いやしかし……。
「政府は一体なにを考えているんだ? それでもし竜が溢れてしまったらどう責任を取るつもりだ」
この話は初めて聞いたのか、オーグが珍しく怒りを露わにしている。
でも、そうだよな。
実際に魔物化した竜と対峙したことがある俺には分かる。
もしあれが魔物化していなくても、戦闘力のない一般人が襲われたらひとたまりもない。
それを放置するなんて……。
他の皆も同様の心配をしているようで、浮かない表情をしていた。
それにしても……。
「あの、シャオリンさん。それって、どういう経緯で決まったのかも分からないんですか?」
「はい……私たちにとっては寝耳に水の話で……法案が発令されたあとに行政府に抗議に行ったのですが一切取り合ってもらえず、私たちは大量の不良在庫を抱えてしまったのです」
「打つ手なしってことですか……」
「ですが!」
「ひあっ!」
俯いていたシャオリンさんが、ガバッと顔をあげてシシリーの手を握った。
「シシリー殿のお力によって姉が復活すれば、行政府と渡り合うことができます! 姉は行政府にも顔が効きますので、法案の見直しを進言することができるのです! ですから、なにとぞ! なにとぞ!」
「わ、分かりました、できるだけ頑張りますから……」
「お願いします! お願いします……」
興奮した様子から、段々と涙声になっていくシャオリンさんを見て、俺はシシリーの肩にポンと手を置いた。
「責任重大だな」
「……はい。きっと、シャオリンさんのお姉さまを癒してみせます」
そういうシシリーの表情は、決意に満ちたものだった。