もう一つの依頼
書き溜めたので、しばらく連続で投稿します。
「シャオリンさんのお姉さまを……ですか?」
「はい。そうです」
シシリーへの依頼ということで、おそらく治療系の話だとは思っていたが、その予想は間違っていなかった。
そして、どうして俺じゃなくてシシリーなのかということも、治療してほしい人物を聞いてなんとなく察した。
お姉さんってことは女性。
そして、女性の治癒を、女性の治癒魔法士に依頼するってことは……。
「姉は、その……子供を産むところに病が……」
やっぱり、女性特有の病気か。
子宮や女性器などの婦人科系の病気は、どんなに治癒魔法の腕が良くても男性治癒魔法士を敬遠する傾向がある。
相手が治癒魔法士、つまり医師だとしても女性のデリケートな部分を見られたくないからだ。
俺じゃなくてシシリーに治療の依頼があった時点でなんとなく予想してはいたけど、子宮に病気が見つかったってことは……。
「すみませんシャオリンさん。少し聞いてもいいですか?」
「あ、はい」
「その、どういった経緯でその病気が見つかったんですか?」
「それは……」
シャオリンさんは、少し迷ったあと詳細を話し出した。
「姉は結婚しています。それで、結婚後しばらくしてから子供ができたのですが……」
「その検査のときに、病気が見つかった。ということですか?」
「はい……それで、その……」
シャオリンさんは、そのあと非常に言いづらそうにしていたので、俺が続きを言った。
「子供はダメになった……そういうことでしょうか?」
「……はい」
「そんな……」
辛そうに肯定するシャオリンさんを見て、シシリーが痛ましそうな声をあげた。
俺たちも自分の子供を作ろうとしてたもんな……それがダメになったときのショックを共感してしまったんだろう。
それにしても……。
「厄介だな……」
俺のその言葉に、シャオリンさんが敏感に反応した。
「あの! ウォルフォード殿は、姉の病に心当たりがあるのですか!?」
まさに必死という形相で俺に詰め寄ってきた。
「え、ええ。ただ、あくまでも推測ですが……」
「それでも結構です! 私たちでは対処のしようがなくて、病気の進行を遅らせることしかできませんでしたから……」
シャオリンさんはそう言うと、沈痛な面持ちで下を向いた。
「ウォルフォード殿、それで、スイラン様の病気はなんなのだ?」
黙り込んでしまったシャオリンさんに代わって、リーファンさんが俺に聞いてきた。
「スイラン様? シャオリンさんのお姉さんの名前ですか?」
「そうだ。それより、スイラン様の病気は?」
「あ、ああ。そうですね。えっと、ちゃんと診察したわけではないので、確証があるわけではないのですが……」
これは、言うのに勇気がいるな。
病気を告知する医師の辛さが分かる。
「恐らく……子宮ガン……ではないかと……」
診察したわけじゃないけど、子宮にできた病気。
治療したら子供が流れたという話を聞くと、元々医療の専門家でなかった俺にはそれしか思い付かなかった。
まあ、婦人科系の病気は沢山あるって聞くし、間違ってるかも知れないけど、最悪の状況で考えておくべきだ。
そう思って俺が病名を告げると、辺りが静まり返った。
そりゃそうだよな。
ガンといえば、前世でも死の宣告に近いものがある。
俺が生きていた当時では、大分生存率があがっているとは聞いていたけど、やはり死亡原因のトップはガンだった。
この世界は、魔法で治療ができるためなのか医療に関する知識が遅れている。
シシリーの治癒魔法が世界でトップクラスと言われているのも、俺が狩った動物を解体しながら生物の仕組みを説明しながら教えたからだ。
そんな状況では、ガンなんて、まさに不治の病なんだろうな。
やっぱり、予想とはいえ言うべきではなかったか?
そう後悔し始めていたんだけど。
「あの、シン君。しきゅうがん……ってなんですか?」
「え?」
シシリーの言葉に、思わず間抜けな声を出してしまった。
え? ガン、知らない?
「え? あの、ほら。胃とか肺とかにできるヤツだよ」
「そう言われても……」
あれ? これはマジでガンそのものを知らない?
「マジか……」
「え?」
「ああ、いや。その、子宮以外にも発生する病気で、それになると大抵命を落とすっていう……」
「命を落とす!? それでは姉は! 姉はもう助からないですか!?」
しまった!
不用意なことを言ってしまった。
なんとか話を逸らさないと。
「いや! その! 病気の進行を遅らせることはできているんですよね? ちなみにそれはどういうものですか?」
「病気になった際に使う札を用いました。そのお陰で病気の進行は止まったのですが、代わりに子供が……」
「ああ、それで……というか、札?」
「ええ、これです」
そう言ってシャオリンさんが取り出したのは、なにかの模様が書かれているお札だった。
「ええと、これは?」
「こちらの人には馴染みがないかと思いますが、これは呪符と言います。私たちは、これを用いて魔術を使います」
「へえ……」
「ちなみに、クワンロンの言葉で『病気治癒』と書かれています」
「なるほどね」
模様かと思っていたら文字だったか。
シャオリンさんの言葉から、これは漢字なんかと同じ、一文字で意味が込められている文字だな。
俺たちが日常で使っている文字で表すより、随分文字数が少ない。
そう思って札を見ていると、オーグがポツリと言った。
「シンの使う付与文字に似ているな……」
やべ。
オーグが変なところに気付きやがった。
また話をそらさないと。
「これで魔法を行使したということは、その病気には魔法自体は効くということですね」
「はい。ですが……進行を遅らせることができただけで、治療自体は……」
そう言ってシャオリンさんはまた俯いてしまったけど、今の言葉で希望が出てきた。
「シャオリンさん。確かに難しい病気ですが、魔法が効くのであればまだ希望が無いわけではありません」
「え!?」
シャオリンさんは、元気づけようと発した俺の言葉に反応して、ガバッと顔をあげた。
「ほ、本当ですか!?」
「あくまで可能性の話です。絶対とは言えないですし、もしかしたら別の病気かもしれません。なので、過度な期待はしないでください」
「それでも……可能性があるだけでも……」
シャオリンさんはそう言うと、涙を流し始めた。
そのシャオリンさんの肩を、リーファンさんが優しく抱いている。
おっと、これは……。
「よっしゃ、話は済んだな? そしたら、これから設計の打ち合わせや。シン君、行くで!」
「え!? あ、ちょおっ!!」
シャオリンさんとリーファンさんの関係について思いを巡らせていると、割り込んできたアーロンさんに無理矢理連れ出された。
ちょっと、もう!
空気読めよな! 兄弟子!
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