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賢者の孫  作者: 吉岡剛
158/311

もうすぐ社会人です。

「あ、おはよー、シン君、シシリー!」


 ゲートで学院の教室に行くと、アリスが挨拶してきた。


 ……パジャマ姿で。


「アリスお前……最後の最後まで……」

「え?」

「パジャマ……」

「にゃっ!?」


 アリスはやっぱり気付いてないし、周りも笑いを堪えるだけで注意しない。


 はあ、相変わらずだな皆。


「何で誰も言ってくれないのさあっ!」

「当たり前だ馬鹿者。明日から我々は社会人になるのだぞ? 指摘される前に自分で気付け」

「殿下の意地悪ぅ~!」


 オーグに説教されたアリスは、涙目になりながらゲートで家に帰った。


 俺たちも大分遅かったのに、間に合うんだろうか?


「ところで、二人とも随分と遅かったな。どうした?」

「え? ああ、出掛けにシルバーがグズッちゃってな」

「お婆様に面倒をお願いしていたら遅くなってしまって……」

「そうだったのか。いやはや、子育ては大変だな」


 オーグがニヤニヤしながらそう言ってくる。


 くそ、コイツめ。


「オーグのとこも、学院を卒業したら子作り始めるんだろ? 大変だぞ~?」


 俺とシシリーもそうだけど、オーグとエリーも結婚したとはいえまだ身分は学生。


 身重の身体で学院に通うのは大変だし、万が一のこともある。


 王太子妃であるエリーは尚更だ。


 なので俺たちは、学生でいる間の子作りを禁止されていた。


 だが、それも今日で終わり。


 つまりオーグたちも子作り解禁というわけだ。


 クックック、オーグたちも子育ての大変さを思い知るといい!


 そう思ってオーグを挑発したんだけど、オーグは何やら呆れ顔だ。


「何を言っているのだお前は。王族が自身で子育てなどするはずがないだろう」

「……え? あ、そうか」


 そういえば、王族とか貴族は子供の面倒を乳母なんかが見るのか。


「私もできる限り子育てには参加するつもりではいるがな。基本的には乳母や使用人たちが面倒を見る」

「それって……自分たちは可愛がるだけで、面倒なのは使用人任せってことか?」

「人聞きの悪い言い方をするな。そもそも王族は国の最高権力者にして国の象徴だぞ? 国民に育児で疲れた顔を見せるわけにはいくまい」


 一瞬、楽そうでいいなあと思った。


 けど……。


「うーん……なんだかなあ……」


 複雑な感情に支配されている俺の様子を見て、シシリーが苦笑しながら俺の気持ちを代弁してくれた。


「確かに、大変なことも多いですけど、苦労をかけさせられた分、シルバーが嬉しそうに笑ってくれるの見ると、ああ、頑張って良かったなと思えますからね」

「そうそう、それ! それも親の醍醐味だよな!」


 子育ては大変だけど、その分達成感が半端ない。


「そうかあ、オーグはそういう体験ができないのかあ、残念だなあ」

「む」


 お、オーグがなんか悔しそうにしてる。


 ああ、オーグに勝つと気持ちいいな!


「……まあ、確かにそういった達成感は経験できないかもしれんが、今後のことを考えるとそれでいいかもしれんな」

「あれ?」


 あっさり引き下がった?


 なんで?


「去年、シルベスタを引き取った後のお前たちは……まるで幽霊のようだったからな……」


 引き下がったと思ったら、今度は憐憫の目で見てきた!?


「あぁ確かにぃ。去年の二人はボロボロだったわねぇ」

「夜泣きが非道くて、碌に寝られないって言ってましたもんね……」

「「うう……」」


 ユーリとオリビアの言うとおり、去年の俺たちはシルバーが夜泣きをする度に起こされ、碌に寝れない日々を送っていた。


 今思い出してもゲンナリする体験だったな……。


「でも、シン殿の家にも使用人はいるじゃないですか。養子ですし母乳を与えるわけではないのですから、使用人に任せてもよかったのでは?」


 トールの指摘の通り、シルバーはシシリーが産んだ子じゃない。


 妊娠していないシシリーからは母乳が出ないので、シルバーは粉ミルクで育った。


 ……この世界には普通に粉ミルクが存在していたよ。


 なので、夜中にシルバーにお乳をあげるのは別にシシリーでなくていいのだが……。


「そんなの駄目です! 私があの子のママなんですから、私がお世話をしないと!」


 まあ、そういうわけだ。


 シシリーは貴族家の出身だけど、平民であるウォルフォード家に嫁いできた。


 ……まあ、ウチはちょっと特殊なので使用人さんたちがいっぱいいるけど、立場は平民だ。


 それに、シルバーはミリアから直接シシリーに託された。


 シシリーの中では、シルバーは自分が責任をもって育てると決意しているんだろう。


 だから、最低限のサポートはしてもらうけど、極力自分で面倒を見たいと思っているんだ。


「結局、自分で苦労を背負い込んでいるのではないか。私にはそんなことをしている暇はない……いや、なくなるだろう」

「なくなるだろう……って、なんだよその予測」


 俺がそう言うと、オーグは俺をジト目で見てきた。


「な、なに?」

「これから、お前たちの起こす騒動を考えると……今から頭が痛くなるな」

「なんだよ? 俺たちが起こす騒動って」


 俺の言葉に、オーグはとても深い溜め息を吐いた。


「アルティメット・マジシャンズは、これから組織になる」

「そんなこと分かってるよ」

「今までは学生という身分を考慮して、緊急時以外は依頼を受けてこなかった」

「ああ」

「だが、学生という身分がなくなり、組織として活動を始めるとそうはいかない」

「だから、それがどうしたって……」

「舞い込む依頼を解決するにあたって、個別に人員を派遣することも増えてくるだろう」


 おい……。


 それって……。


「まあ、概ね問題はないのだが……」

「だっはー! 間に合ったあ!!」


 オーグの言葉の途中で、アリスがゲートから飛び出してきた。


 よほど急いで着替えたのだろう、服がヨレヨレだ。


「タイがずれてる」

「あ、リン、ありがとー」


 オーグは、服を直しているアリスとリンの方を見ながら言った。


「お前と、コーナーとヒューズが心配だ……」

「やっぱりか! 俺だってちゃんとやるわ!」

「殿下、それは非道い。ウォルフォード君とアリスはともかく、私は問題ない」


 俺とリンはオーグに対して抗議した。


 だが……。


「信用できるか! 今までの所業を思い返してみろ!」


 オーグに思い切り怒られてしまった。


 まさかと思い周囲を見てみるが、皆苦笑していた。


 マジか……。


 そこまで信用なかったなんて……。


 落ち込む俺とリン。


 苦笑する皆。


 そして。


「ほえ? なに?」


 話の流れを知らないアリスだけ、不思議そうな顔をしていた。


 くっそう……。



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別作品、始めました


魔法少女と呼ばないで
― 新着の感想 ―
[気になる点] 転生したらそれまでの常識も忘れるのか???????? 主人公危険すぎるだろ、作者の願望が投影されてるのか?オエッ
[一言] シンはすべてが規格外。アリスとリンは前科あり。
[一言] シン達は今まで近隣国内で活動やってたから、次からは未開の国々へいく物語
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