決着しました
すみません。
実は、駅の階段で転倒して
左手首の靭帯を損傷するという
結構な怪我を負っていました。
ようやく回復したので投稿を再開します。
「おや、惜しいですね。外しましたか」
自分の放った魔法が、俺に致命傷を負わせられなかったからだろう、シュトロームは少し残念そうにそう言った。
そう……少しだけ、残念そうに。
「シュトロームッ!! ぐうっ!! お、お前えっ!!」
ミリアの飛び出しによって俺の視界が遮られたのをいいことに、シュトロームはそのミリアごと俺を撃った。
シュトロームを愛し、その子供まで産んだミリアを……。
そのことに途轍もない怒りを感じた俺は、右肩を撃ち抜かれていることも忘れて怒鳴ってしまった。
思わず力み、興奮してしまったことで傷口から血が噴き出す。
「駄目ですシン君!! じっとしていてください!!」
駆け寄ってきたシシリーが、俺の傷口に治癒魔法を施してくれる。
シュトロームの放った魔法は肩を完全に貫通しており、さっきから流血が止まらない。
これを自分で治癒するとなると、痛みで集中力が続かないところだった。
シシリーがいてくれて本当に良かった。
俺がシシリーの治療を受けているというこの絶好の機会を逃すまいと、シュトロームは俺に追撃をしようとしてくるが、それは再び始まったオーグたちの魔法の連射によって阻まれた。
「くっ! まったく、羽虫のようにブンブンと! 鬱陶しいですね!!」
シュトロームはそう言うと、周囲へと無差別に魔法を放った。
だが、特に狙いを定めている訳でもなく全方向へ放った魔法は、皆の魔力障壁を突破するほどの威力は得られていない。
先ほど魔道具による魔力障壁を破られたミランダは、マリアの魔力障壁によって護られていた。
俺は、シシリーの迅速な治療のお陰で、なんとか魔力障壁を展開できるまで回復することができていた。
シュトロームの魔法を魔力障壁で防御している間も、シシリーは集中力を切らさず、治療に専念してくれている。
お陰で、シュトロームに撃ち抜かれた右肩は全快した。
「ほお。流石は聖女と呼ばれるだけのことはありますねえ。もう治してしまうとは」
「シュトローム!! お前っ!! ミリアはお前のことを本当に慕っていたのに!!」
「それがなにか?」
「な……なに?」
「ミリアさんが私のことを慕っているからなんなのです? 私になにか義務でも発生するのでしょうか?」
「お、お前ぇ……」
「それにしても、壁になるのならもう少し位置を考えてくれれば良かったんですけどねえ。お陰で仕留めそこなってしまいました」
もはや怒りで言葉が出てこない。
前世も含めて、こんなに怒りを感じたことは初めてだ。
俺は、その怒りに任せてもう一度魔力を集めようとした。
そのとき。
「ご……ごめんなさい……」
「ミリア!?」
瀕死の重傷を負ったミリアが話し始めた。
「あなたに……シュトローム様を止めて欲しいと言いながら……ゴフッ! ……はぁ……はぁ……それでもやっぱり……シュトローム様には死んでほしく……なかった……」
「喋っちゃ駄目ですミリアさん!! 今すぐ治癒魔法を掛けますから!」
「はぁ……はぁ……無駄よ、聖女様。私たち魔人には……治癒魔法は効かない……」
「な!?」
「そ、そんな……」
魔人には治癒魔法が効かない!?
そんなの初めて聞いたぞ!?
だとしたら、これはもう致命傷だ。
治す手立てがない。
ミリアが死ぬのは時間の問題だろう。
……もう、これ以上悲惨なことは繰り返させない。
ここで、必ずシュトロームを止める!!
俺は、先ほど霧散させてしまった魔力を再度集め始めた。
「むっ!!」
俺がミリアに気を取られている間も、シュトロームは皆から間断なく魔法を受け続けており、俺の隙を突くことができなかった。
「ちいっ! 本当に使えませんね! 最期に一撃くらい食らわせればよいものを!!」
「ふざけんな! お前は、ここで必ず仕留める!!」
俺が集められる最大限まで集めた魔力を、今度こそ魔法へと変換する。
『原子融合』
「? なんですか? その詠唱は?」
シュトロームが疑問を投げかけてくるが、俺はそれには答えない。
いや、答えられない。
原子融合を行うのに、とんでもない量の魔力がいるのと、その制御に極限の集中が必要だからだ。
『包囲』
融合させた原子を、魔力で包囲する。
「一体なにを……」
『熱核反応』
その包囲の中で、熱核反応を起こす。
「!! な、なんですか!? その膨大なエネルギーは!!??」
すると、そのエネルギーの大きさに気付いたシュトロームが驚愕の声をあげた。
『方向指定』
俺は、シュトロームの驚愕の声をよそに、魔法に指向性を付ける。
これができないと、絶対に実行しようとは思わなかった魔法。
それを……。
『発射あっっ!!!!』
熱核魔法を、シュトロームに向けて放った。
「!! 皆!! 攻撃を止めて障壁を展開しろ!! 余熱で焼け死ぬぞ!!」
俺が放った魔法を見たオーグが大声でそう叫ぶ。
だけど、この魔法は『熱』と『爆風』を生み出す魔法だ。
方向指定した中には熱も含まれているので、周りへの影響はない。
だが、それを向けられたシュトロームは……。
「ぐっ! うおおおおおっ!!」
自身の全魔力を、魔力障壁へとつぎ込み、俺の魔法を防ごうとしていた。
だが……。
「ぐううっ!! こ、これは……障壁が!!」
シュトロームの張った障壁は、俺の魔法にどんどんと侵食されていく。
そして……。
「これで……終わりだああっっ!!!!」
俺は、これで全てに終止符を打つべく、全力で魔力を込めた。
その結果……。
「ぐっ……があああああああっっっっ!!!!」
俺が全力を込めて放った魔法は、とうとうシュトロームの障壁を打ち破り、シュトロームを呑み込んだ。
シュトロームが、熱核魔法に飲み込まれ消滅していくとき、抵抗を止めたシュトロームは、宙を見ながらなにかを呟いた。
そして、なにやら穏やかな顔をしながら……消滅していった。
-------------------------------------------
「ぐっ……があああああああっっっっ!!!!」
シンの放った魔法により、障壁を突破され全身にその魔法を受けたシュトローム。
彼は、シンの魔法により消滅していく身体を見ながら、宙に向かって呟いた。
「……すまないアリア……君のもとには行けそうにないよ……」
その言葉を残し、世界中を恐怖と混乱に陥れたシュトロームは……。
この世から消滅した。