想定外がありました
シュトロームは立ち上がると、すぐに魔力を集め始めた。
いきなり攻撃してくるのかと身構えると、シュトロームは後ろを振り返り、そこに向かって魔法を放った。
「なっ!?」
シュトロームの放った魔法は、後ろにあった壁を易々と打ち破り、空へと抜けていった。
城の壁を破壊するように放たれたので、もの凄い土煙が謁見の間を覆いつくす。
「くそっ! 目くらましか!?」
その土煙でシュトロームの姿が見えなくなった。
シュトロームを見失うなど、明らかに致命的なので、土煙を晴らすべく風魔法を起動。
土煙が晴れようやく視界が確保できたとき、そこで見たのは元の位置から一歩も動いていないシュトロームと、その後ろの空だった。
「フフフ、こんな狭い場所でやり合うなど興醒めでしょう? もっと広い場所へ案内しましょう」
シュトロームはそう言うと、フワリと浮き上がり開いた穴から外へと出ていった。
「なにが興醒めだ! ふざけんな!!」
先ほどからシュトロームのふざけた発言が頭に来ていた俺は、思わず叫びながら外へと飛び出そうとした。
だけど、その肩が誰かに掴まれた。
「落ち着けシン!」
「ああ!?」
「頭に血が上っていては、シュトロームの思う壺だぞ!」
「これが怒らずにいられるか!!」
「その気持ちは分かるが! シュトロームはお前のことを相当警戒している。室内ではなく外で戦おうとしているのがその証拠だ!」
「なんで……あ、そうか」
俺とシュトロームは、過去に一度対戦している。
その時は警備隊の練兵場でやりあったから、屋根をカムフラージュにして太陽光レーザーを撃ち込んだんだった。
それを警戒しているのか。
「さっきから挑発めいた言動を繰り返しているのも、お前の冷静さを失わせるためだ。奴の策略に乗るな!」
オーグの指摘で、興奮していた頭が冷静になっていくのを感じた。
普段はふざけてばかりだけど、こういう真剣な場ではやっぱり頼りになる。
「……悪いオーグ。ありがと」
「なに、構わんさ」
冷静になり、オーグに礼を言うと、俺たちもシュトロームに続いて外に飛び出した。
外に出たところを攻撃されるかもしれないので、浮遊魔法ではなく各々ジェットブーツを使う。
警戒はしていたが、特に攻撃されることもなく地上に降り立つことができた。
普段からジェットブーツを使って魔物狩りをしているというミランダも。
窓の外は中庭になっており、戦うには十分な広さがあった。
その中庭の真ん中で、シュトロームは悠然と立っている。
中庭に降り立った俺たちを見たシュトロームは、また挑発するような言葉を吐いた。
「中々来ないので今更怖気付いたのかと思いましたよ」
「はっ、もうその手には乗らねえよ!」
俺がそう言うと、シュトロームは意外そうな顔をした。
「ほう? もう冷静になってしまったのですか。つまらないですね」
「煽ろうったってそうはいかねえよ!」
「ふむ。この短時間での立て直し。流石は賢者の孫……と言いたいところですが」
シュトロームはそう言うと、俺の後ろに視線を移した。
その視線の先にいるのは、オーグ。
「なるほど。流石はアールスハイド王国始まって以来の傑物と称されるアウグスト殿下。アルティメット・マジシャンズの頭脳は貴方という訳ですか」
「シンの前で傑物などと言うのは止めてくれ。恥ずかしくなる」
「おや、気に入りませんか……奇遇ですね、私も気に食わないことがあるのですよ」
そう言った後のシュトロームの顔は、先ほどまでのヘラヘラした顔ではなく、明らかに怒りに満ちた表情をしていた。
「頭に血が上った仲間を諫めて冷静にさせる。なるほど、素晴らしい信頼関係ですね、ですが、私はそれが気に食わない!!」
突如、シュトロームを中心に吹き上がる魔力の渦。
それは、シュトロームの怒りに呼応するように荒々しく、そして禍々しく強烈だった。
「くっ!」
魔力の圧力だけで体がビリビリと震える。
コイツ……やっぱりとんでもねえな。
「仲間? 信頼? そんなものは所詮子供のお遊戯! 幻想なんですよ!!」
そう言うシュトロームの目は……憎悪に満ちていた。
「甘い言葉で取り入り、利用するだけ利用したら切り捨てる! それが人間の本性なんですよ!! なのに、信頼し合っている風を装って仲間ゴッコに興じて悦に入っている。虫唾が走りますねえ!」
「っ! テメエッ!!」
「お前と一緒にしないで貰おうか」
「……なんですって?」
「オーグ……」
俺たちの関係を、仲間ゴッコと言ったシュトロームに、さすがに冷静でいられなくなったのだが、オーグ冷静に切り返した。
「お前に過去なにがあったのかは知らんがな、私たちになにがあったかも知らんだろう?」
「ええ、そうですね。興味もありません」
「だろうな。まあ、私たちの付き合いもまだ一年ちょっとの短いものだが……」
オーグはそう言うと、皆を見渡した。
「私たちは、共に学び、競い合い、高みを目指し、死線を共にしてきた。そんな仲間たちのことを信頼できずにどうするというのだ?」
オーグのその言葉に、皆頷いている。
「……それが仲間ゴッコだと言っているのですよ。そんな薄っぺらな関係など、利害がぶつかったらすぐに壊れてしまう。人間など、所詮利己的な生き物なのですよ!」
「貴様ら魔人は違うとでも?」
オーグがそう言うと、シュトロームは厭らしくニヤッと笑った。
「私は究極に利己的な存在ですよ」
シュトロームはそのまま話し続けた。
「人間らしい感情が無くなっていくなかで、自分中心の利己的な考えは残った。つまり、それが人間の本質ということですよ」
「そんなことありません!!」
シュトロームの言葉に、真っ先に反論したのはシシリーだった。
「ここにいる人たちは、みんな自分以外の人たちのことを考えている人たちばかりです!」
シシリーは、目に涙を浮かべ、顔を真っ赤にしながら必死に吠えた。
「シン君も、殿下も、みんなみんな、自分以外の人たちの幸せを願っています! そんな人たちのことを馬鹿にしないでください!!」
シシリーの言葉に、俺たちは胸を打たれた。
見てくれている。
そのことが凄く心強かった。
そのシシリーの言葉を聞いたシュトロームは……。
狂ったように笑い出した。
「ククク……あーっはっはっは!! いやはや、流石は聖女と呼ばれるだけのことはありますねえ。人心を把握することが得意と見える」
「なんだと!?」
コイツ! また煽るつもりか!?
だけど、次にシュトロームが発した台詞に、俺は言葉を詰まらせた。
「他人のため、周りのため、国のため。それはそれはご立派な行いでしょうね。ですが、その施しを受ける人たちはどうですか? 護られることが当たり前で、弱さの上にあぐらをかいているんじゃないんですか?」
「そ、それは……」
前世も含めて思い当たる節のあった俺は、咄嗟に反論できなかった。
「所詮、人間などそんなものですよ。どれだけ施しを与えても、それを当たり前のように享受し、その施しが途絶えると途端に不満を漏らす。そんな人間のために尽力することになんの意味があるのです?」
確かに……シュトロームの言っていることに間違いはない。
どんなに優遇されていても、それが途絶えた途端に不満を漏らす人がいるのも事実だ。
そんなことはないと、断言することができなかった。
だが。
「なんだ、そんなことか」
オーグは、呆れたようにそう言い放った。
「なに?」
「そんなことは、国を治めていれば日常的に起こるものだ。お前、元は帝国の貴族だったのだろう? 領地を治めてたのならそれくらい分かるだろう」
「分かっているからこそ言っているのですよ!!」
シュトロームのその叫びは、今までで一番強いものだった。
「散々施しを受けておきながら! 子供だましのような姦計に踊らされ! 不満を持ち! 暴走し! 私の妻と子供の命を奪った!! そんな自分勝手な人間どもを、許せるはずがないだろうが!!!!」
「……なるほど、それがお前の怒りの源か」
「私は知っているんですよ! 人間など、所詮自分のことしか考えていない! 都合が悪くなると保身のためにどんな暴挙にも出る! それが人間の本質なのですよ!!」
怒りで魔力が暴発しそうになるほど渦巻き始めた。
「さあ、お喋りはここまでです。甘い理想に身を委ねている貴方達を倒し、このくだらない世界を滅ぼしてあげますよ!!」
シュトロームはそう言うと、集めていた魔力を魔法に変換しこちらに向けて放った。
それは、他の魔人たちや幹部であるゼストやローレンスの魔法とは比べ物にならないくらい巨大な魔法だった。
「うおおっっ!!」
この規模の魔法はさすがに他の皆では荷が重いと判断し俺が魔力障壁を張り防ぐ。
流石はシュトローム、魔人たちの首魁だけあって今までの魔人たちとは魔法のレベルが違う!
「ぐっ……うおおあああっ!!」
いまだかつて魔力障壁に費やしたことがないほどの魔力を込め、なんとかシュトロームの魔法を防ぐ。
「ほう、さすがはシン=ウォルフォードくん。これを防ぎますか」
シュトロームが楽し気な声をあげているが、こっちはそんなのに付き合ってる暇はない。
「みんな、行け!!」
俺がシュトロームの魔法をなんとか防いでいるうちに、シュトロームを攻撃するように声を上げる。
その俺の声を聞いた皆は、俺の横をすり抜けシュトロームに向けて一斉に魔法を放った。
魔道具を使って魔法を放ったミランダも含めた十二人分の魔法がシュトロームへと向かって行く。
だがシュトロームは、驚きも戸惑いもせず、魔法を避け、魔力障壁で防ぎ切った。
「ちいっ! これだけの一斉射撃でかすり傷一つ負わせられんとは!」
「ふははっ! 素晴らしい! 素晴らしいですよ、アルティメット・マジシャンズ!!」
オーグの悔し気な声とは対照的に、シュトロームの声は非常に楽しそうだった。
「人類の命運を決める戦いは、こうでなくては興醒めというものです。さあ、もっと足掻きなさい! 足掻いて足掻いて、そして何も護れず、惨めに死んでいきなさい!!」
「そんなことさせるかよ!!」
シュトロームの魔法を防ぎ切った俺は、魔力障壁を解除しすぐに最近の主力魔法である指向性爆発魔法を放った。
「むっ! おおっ!!」
シュトロームはそれも防いでみせるが、それは想定内。
俺はすぐさま次の魔法を放つ。
「食らえっ!!」
足元にある土を円錐状に掘り出し回転を付与。
それを圧縮した空気を使って射出した。
「! それはっ! くっ!!」
俺の魔法を魔力障壁で防いでいたシュトロームは、次の魔法の正体をすぐに見抜き、障壁での防御ではなく回避行動によってその石の弾丸を避けた。
「なるほど……魔力障壁では防ぐことができない物理での攻撃ですか。中々やりますね」
「大人しく騙されてくれていれば楽だったんだけどな!」
「おやおや、いけませんねえ。そんなの、楽しくないじゃないです……か!!」
シュトロームはそう言うと、こちらに向かって魔法を放った。
それは最初のような全体を巻き込むような魔法ではなく、各個人を狙った魔法。
威力を分散させた分、最初の魔法に比べると大分威力が落ちる。
これ位なら、皆であれば問題なく防御でき……。
「きゃああっ!!」
「ミランダ!?」
魔法が使えないミランダも、防御魔法を付与してある魔道具を起動していたはず。
だがシュトロームの魔法は、その魔道具の防御力を上回ったようで、ミランダが吹っ飛ばされた。
「シシリー!!」
「はいっ!!」
致命傷ではなさそうだけど、すぐには動けないようなダメージを受けたミランダのために、シシリーに回復を依頼する。
だが……。
「行かせませんよ?」
そのシシリーに向かって最初と同程度の魔法が放たれた。
「シシリィィー!!」
俺は、オリビアが使ったように短距離でゲートを開き、シシリーの前に立ち塞がり、魔力障壁を展開した。
「くっ……おおおっ!!」
「シン君!」
「いいから! 行けっ!!」
「! は、はいっ!!」
なんとか魔法を防ぐことに成功した俺にシシリーが声をかけてくるが、この機会を逃すわけにはいかない。
すぐにミランダのもとに行くように指示をすると、シシリーはすぐに従ってくれた。
「おや、仕留めそこないましたか」
シュトロームの声には、愉悦が混じっていた。
その様子はまるで、ちょっと狩りに失敗してしまった程度のものに感じた。
「テメエ……」
シュトロームの様子に苛立ちを覚えていると、その隙をついてオーグが魔法を放った。
「ふんっ!!」
炎と風の混合魔法。
火炎旋風だ。
「おっと!」
凄まじい高熱を巻き起こす火炎旋風だったが、シュトロームは事もなげに魔力障壁で防いでみせた。
「アウグスト殿下も中々やりますねえ、その力、当に人間を逸脱している」
「お褒め頂き、感謝の極みだ!」
シュトロームの軽口に応対しながら、オーグは続けて魔法を放った。
それは、俺がさっきやって見せた石の弾丸を放つ魔法だった。
「おっと! 殿下も使えるとは! ですが、この魔法はすでに先ほど見ましたよ!」
俺の魔法をすぐに再現してみせたオーグの技量には感嘆するけど、さっき俺のを見たシュトロームは魔力障壁ではなく、物理障壁を展開してその石の弾丸を防ぐ。
そのとき。
「はああっ!!」
「うおおっ!!」
オーグの意図を汲んだトールとユリウスが、すぐさまシュトロームに魔法を放った。
「むっ! うおおっ!!」
物理障壁しか張っていなかったシュトロームは、まともにその魔法を受けた。
……かに見えたが。
「……危ないですねえ」
シュトロームは、魔力障壁も同時展開し、トールとユリウスの魔法を防いでいた。
「二重起動……」
「やはり、シュトロームもできるので御座るか……」
魔法を防がれたトールとユリウスは、苦々し気にシュトロームの障壁を見ていた。
「くっくっく……ただの人間であるアウグスト殿下が魔法の並列起動ができるのに、私にはできないとでも思っていましたか?」
シュトロームはそう言うと、両手に異なる魔法を展開してみせた。
「シン=ウォルフォード君やアウグスト殿下の魔法は大変参考になりましたよ。せっかくなのでお返ししてあげましょう!」
右手の炎の魔法と左手の風の魔法。
シュトロームはこれを組み合わせると、巨大な火炎旋風を作り上げた。
「はははっ! 燃え尽きなさい!!」
魔人であるシュトロームは、オーグと比べても魔力が段違いに多い。
シュトロームが作りだした火炎旋風は、オーグのものを大きく上回っていた。
「皆!! 全力で魔力障壁を張れっ!!」
大声で皆にそう言うと、俺は巨大な火炎旋風と対峙した。
「シン!? お前、なにを!?」
「こいつをどうにかしないと! 皆、蒸し焼きになっちまう!!」
これだけの巨大な火炎旋風。
防いだとしても、後には相当な熱が残る。
そうなったらまともに戦えなくなる。
それは避けないと!
「うおおおっ!!」
巨大な火炎旋風に対し、俺が選択したのは普通の風の竜巻を起こす魔法。
「ふははっ! そんなもので対抗できるとでも思っているのですか!」
それを見たシュトロームが馬鹿にしたように哄笑するが……。
俺の竜巻には、ある仕掛けがしてある。
俺の竜巻と、シュトロームの火炎旋風がぶつかり合う。
竜巻が火炎旋風に巻き込まれて消滅する……。
そう見えた次の瞬間。
「!? な、なに!?」
シュトロームが信じられないといった声を上げた。
なぜなら、シュトロームの放った火炎旋風が、徐々に小さくなっていったからだ。
「馬鹿な!? ただの竜巻でなぜ!?」
「俺の竜巻は特別製だからだよ!!」
通常、風の魔法を使う際には、周囲の空気をそのまま使う。
だが俺は、その空気を使わず、あるもので竜巻を作り上げた。
それは、二酸化炭素。
火炎旋風は、上昇気流の発生により、周囲の空気……いわゆる酸素をどんどんと巻き上げて大きくなっていく。
だが、周囲から取り込むのが酸素ではなく二酸化炭素であったなら?
炎はその姿を維持することができず、小さくなっていくのは当たり前だ。
「ちいっ! 怪しげな魔法を!!」
「お前にだけは言われたくないね!!」
魔人のくせに失礼なことを言うシュトロームに向かって、俺はある魔法を放った。
「おっと!! またこれですか? 進歩がありませんねえ!」
俺が放ったのは、シュトロームの足元に土の杭を打ち上げる魔法。
以前、警備隊の練兵場でシュトロームを空中に誘いだすために使った魔法だ。
当然、今回もシュトロームは空中へ飛びあがることでその魔法を避けた。
そして、当然のように空中で静止するシュトローム。
「今だ!!」
事前に話し合っていた、シュトロームを空中で釘付けにするという作戦。
そのために前回と同じ魔法を使ったんだ。
皆はすぐさま俺の意図を汲んで一斉に魔法を放つ。
「くっ! 想定済みですか! ですが、こんなヌルい魔法では私にかすり傷ひとつ負わせられませんよ!!」
シシリーの手によって回復したミランダも含めた全員の攻撃だが、シュトロームには簡単に防がれてしまう。
それもそのはず。
「む? くっ! こ、これは!?」
皆は最大火力での一撃ではなく、あえて魔力を抑えて撃っている。
それは、シュトロームを空中に釘付けににするため魔法を連射するため。
一撃一撃は大した威力ではないものの、想定外の数であったのかシュトロームから驚きの声が漏れている。
今だ!!
俺は、自分が制御できる最大値まで魔力を集め始める。
「!! シン=ウォルフォード!! 貴様!!」
シュトロームがそのことに気付くが、皆の魔法の連射はおさまらない。
俺の邪魔をしたくてもできない状況ができあがった。
皆がシュトロームを足止めしてくれている間に、魔力の制御が完了した。
「……ちょっと……本当に大丈夫なんでしょうね!?」
集まりきった魔力の量に、シュトロームを攻撃しているマリアから疑惑の声があがる。
大丈夫だと言いたいけど、今集中を切らすと魔力が霧散してしまう。
「くっ! このっ! ええい、鬱陶しい!!」
どうにかして俺に魔法を発動させまいとあがくシュトロームだったが、皆の魔法攻撃はおさまらない。
空中にいるため、回避行動もままならないシュトロームは、魔力障壁での防御で手一杯だった。
これなら……いける!!
そう思い、詠唱に入ろうとした。
そのとき。
俺とシュトロームの射線上に、人影が飛び出してきた。
その人影は……。
「ミリア!?」
俺に、シュトロームを止めてくれと、涙ながらに懇願してきたミリアだった。
「……ごめんなさい! やっぱり、シュトローム様を死なせたくない!!」
「くうっ!!」
ミリアの突然の乱入に驚いた俺は、集めていた魔力を霧散させてしまった。
くそっ!
こんな土壇場で邪魔をしてくるとは、さっきの言葉は俺たちを油断させるためのものだったのか!?
そう思って声を張り上げようとしたときだった。
「さすがはミリアさん。ナイスフォローですよ」
シュトロームはそう言うと、魔法を放った。
ミリアの身体に隠れてその姿が見えなかった俺は、防御も回避もすることができず、その光線のような魔法に右肩を撃ち抜かれた。
「がああっっ!!」
「シン君!!」
今生の人生において、初めて負った大きな傷に、思わず苦悶の声が漏れる。
そんな俺の様子を見たシシリーが、俺に駆け寄ってくるのが見えた。
俺は、凄まじい痛みに耐えながら周囲を見る。
皆は、ミリアが乱入してきたことに驚いたのだろう。
思わず魔法を撃つ手を止めてしまっていた。
シュトロームはその隙を突いたんだ。
だけど、シュトロームの攻撃は見えなかった。
なぜ?
そう思ったが、その答えはすぐに分かった。
「……シュトローム……さま……」
俺の目の前に落下してきたミリアの身体。
その身体の……。
「まさか……ミリアごと……」
胸の真ん中……明らかに致命傷と思われる位置に、大きな穴が開いていた。




