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賢者の孫  作者: 吉岡剛
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魔人たちの様子を伺いました

「なあシシリー」

「はい。なんですか?」

「……オーグ、カッコ良すぎね?」


 なんだよ、人類の守護者たるプライドって。


 まるで世界を救うヒーローみたいじゃん。


 そんなクサイ台詞……俺も言ってみたい!


「あはは……でも、あれが私たちが知っていた殿下ですよ。今の殿下に馴れちゃいましたけど、以前はああいうイメージでしたね」

「うーむ……そういう話は何回か聞いたことあるけど、どうにも違和感が……」

「シン君は、今の殿下しか知りませんもんね」


 皆は最初、今のオーグに違和感を感じていたらしいけど、俺の前じゃ最初からアレだったからなあ。


 ああいうクサイことを恥ずかしげもなく言えるところは、やっぱり王子様なんだなって感じる。


 と、シシリーとそんな話をしているときだった。


「あうっ!」

「あ! アリス!!」


 さっきまでリンと一緒に順調に魔人を討伐していたアリスだったが、攻撃を意識するあまり足下への注意が疎かになったらしい。


 魔人たちとの壮絶な魔法の撃ち合いでボコボコになった地面に脚をとられて転倒。


 そこにタイミング悪く魔人の魔法が飛んできた。


「にゃあああっ!!」


 アリスは、なんとか今着ている魔法少女風の服にも付与してある防御魔法を展開するが、完全には相殺しきれず吹き飛ばされてしまった。


 ああもう!


 調子に乗って油断したな!?


 脚をとられての転倒なんていう不意の状況じゃ、咄嗟に魔道具を起動させることなんてできない。


 多少は相殺できたみたいだけど、結構なダメージを受けているのが離れていても分かる。


「行ってきます!」


 同じようにアリスがダメージを受けるところを目撃したシシリーが、すぐさまゲートでアリスのもとに向かった。


「あうう……」

「もらった!!」

「させません!!」


 ダメージを受け倒れているアリスに、とどめを差そうと魔人が放った魔法が、ギリギリ間に合ったシシリーの魔力障壁によって防がれた。


「はああ!? テメエ! どっから現れやがった!?」

「リンさん! 援護を!」

「分かってる!」

「うおっ! くそっ!」


 ゲートで突然現れたシシリーに魔人が戸惑っている隙に、リンが魔人を牽制。


 シシリーたちから引き離すことに成功した。


「大丈夫ですか!? アリスさん!」


 魔人が離れたことを確認したシシリーは、すぐさまアリスの治療にあたった。


「あうう……ゴメン、シシリー。油断しちゃった」

「もう、相手は魔人なんですから油断なんてしちゃ駄目ですよ」

「いやあ、戦法が当たってサクサク討伐できるもんだから……」

「それでも魔人なんです。付与魔法の起動が間に合わなかったら、さっきの一撃で死んでいてもおかしくないんですよ?」

「うん、実感した。やっぱりコイツら、今までの魔人とは違うや」

「はい。もう大丈夫ですよ」

「わお。本当にもう治ってる! ありがとシシリー!」


 怪我の治療を終えたアリスが、自分に手傷を負わせた魔人に向かって飛び出していった。


「このおっ! よくもやってくれたなあっ!!」

「はあっ!? もう治ったってのか!?」

「ウチの治癒魔法士は最高なんだよ!!」

「いくらなんでも常識外れだろ!!」

「ウォルフォード君の訓練を受けたんだから当然」

「はっ!?」


 あまりに早く現状復帰したアリスに気を取られていた魔人の背後に、リンがすかさず回り込んだ。


「しまっ……」

「遅い」

「くっ……がああっ!!」

「こっち忘れてるよ!!」


 慌ててリンの魔法を防御しようとした魔人だったが、そうなると今度はアリスの方が疎かになる。


 アリスの魔法をまともに喰らった魔人が、崩れ落ちる。


「くそ……二人がかりとか……卑怯だろ……」

「優先順位は間違えない」


 恨み言を呟きながら倒れる魔人に、リンがとどめの魔法を放った。


 最優先事項は、どんな形でもいいから魔人たちを討伐して世界を救うこと。


 皆にオーグの意思は十分伝わっているようだ。


「それにしても……」

「どうした、シシリー?」


 アリスの治療を終えて、また俺の隣に戻ってきたシシリーがポツリと呟いた。


「魔人たちは、これほど劣勢になるとは思ってなかったんじゃないでしょうか?」

「まあ、そうだろうね」


 前回の対戦を思えばそれも仕方がないことだろう。


 お互いが決め手に欠け、膠着状態に陥ったという前の戦闘。


 あの場にいた魔人は少なかったし、ほとんど俺が討伐しちゃったけど、何人かには逃げられた。


 そいつらから情報は得ていたと思……。


「……なあシシリー」

「はい、なんですか?」

「魔人たちも、オーグたちを仕留めきれなかったんだよな?」

「え? あ、はい。殿下たちは魔人たちの連携に戸惑っていましたし、魔人たちも戦闘服の付与魔法を突破できていませんでした」


 そういう戦いだったからこそ、オーグは皆に新しい戦い方を模索しろと指示を出し、皆はそれまでの力押しから、連携をしたり、新しい魔道具を用意したり、サポートをしたりした。


 なのに……。


「なんで魔人たちは、対策を練ってないんだろうな……」

「そう言われれば……」


 前回、魔人たちがオーグたちを圧倒したのならそれも分かる。


 けど、膠着していたのなら何かしらの対策を練るのが普通じゃないのか?


「おかしいよな……」

「そう……ですね……どういうことなんでしょうか?」

「無為無策で戦闘に参加するなんて、まるで……」

「うわあっ!」

「ミランダ!?」


 思考の途中でミランダの悲鳴があがった。


「大変! 行ってきます!」

「あ、ああ」


 話の途中だったが、ミランダの危機にシシリーが再度ゲートで現場に向かった。


「マリア! 援護して!」

「分かった!」

「もう! ミランダも油断したの?」

「アタシはこれでギリギリ一杯だよ! あ痛たた……」

「じっとして!」


 ミランダは魔法使いじゃないからなあ。


 咄嗟に魔道具を起動させて防御することに慣れてないんだろうな。


 それでも大事にはいたってないみたいで一安心だ。


「はい、終わったよ」

「ありがとシシリー! たああっ!」


 治療を終えたミランダは、さっきのアリスと同様、傷が癒えた途端に魔人に向かっていき、マリアとの連携でまた一体魔人を討伐した。


 また、簡単に討伐された。


 いや……確かにこの魔人たちは、以前戦った平民魔人たちに比べて強い。


 けど、前回の戦闘に対する対策が全く練られていない。


 その証拠に、戦法を変えたマリアとミランダに、こんな簡単に討伐されている。


 この前の、確か……ゼストとかいう魔人が言うには、コイツらは元軍人のはず。


 そんな奴らが無策で挑んでくるか?


 これじゃあまるで……。


「……自ら破滅を望んでるみたいじゃないか……」


 俺の目には、そんな風にしか見えなかった。

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魔法少女と呼ばないで
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