王子様のプライド
アリスとリンの放った同時魔法は、戦場に大音響を響かせた。
それに気付いたアウグストは、ちらりとそちらを見て溜め息を吐いた。
「まったく……通信機で連絡を取り合うなら頭の装備だけで十分だろうに。相変わらず真面目さが足りんな、あの二人は」
アリスとリンには後で説教だなと決めたアウグストは、すぐに自分の戦闘に思考を切り替えた。
「なんだ……なんなんだ、お前たちは!?」
アウグストの目の前には、呆然という言葉がピッタリ当てはまる表情の魔人がいた。
「なんだと言われてもな。我々はアルティメット・マジシャンズだ。お前たちも知っているだろう?」
「そんなことを言ってんじゃねえ!! ほんの一ヶ月前まで、俺たちと同等だったじゃねえか! それなのに……なんでここまで圧倒されるんだ!!」
「ふむ、そうだな……努力の結果とだけ言っておこうか」
「ふっざけやがってえっ!!」
魔人の質問に対するアウグストの返答に、魔人は激昂した。
たった一ヶ月。
常識的に考えて、たった一ヶ月でここまで成長するなど魔人には考えられなかった。
「なにが努力の結果だ! どうせ前の戦いのときは手の内を隠していやがったんだろうがっ!!」
報告のあった以前の戦い。
その際、やはりシンの力は脅威だとしつつも他のメンバーについては自分たちと同等。
戦い方次第で十分勝機アリという報告だった。
なのに、蓋を開ければこの蹂躙劇。
魔人が勘違いをするのも無理はない。
だが……。
「心外だな。いくら私でも、自分の命を天秤にかけるほど愚かではない」
「うるせえっ! そんな言葉、信じるかよ!」
「本当なのだがな……」
アウグストたちが魔人を圧倒できている理由。
それは単純に、今までの戦い方に固執しなかっただけだ。
二対一に持ち込んだ者。
新たな魔道具を持ち込んだ者。
その魔道具を大量に持ち込んだ者。
そもそも戦いを捨て、サポートに回った者。
対して魔人たちは、戦い方を変えることをしなかった。
魔人になったことによる驕り。
アウグストたちを所詮は戦闘経験の少ない子供だと見くびった侮り。
だが、一番大きいのは……。
「コロコロ戦い方を変えやがって……テメエらにはプライドってもんがねえのか!」
魔人になり、圧倒的な力を持ったことによるプライド。
それが邪魔をして魔人たちは戦い方を変えることができなかった。
そんな魔人に対してアウグストは。
「ふむ、プライドか。そんなものは……ない!!」
「はあっ!?」
そうキッパリと言い切った。
「ちょ、おま……お前、確か王太子だよな!? なんで自分の力にプライドを持ってねえんだよ!」
「そう言われてもな。所詮、私の……いや、私たちの力はシンに与えられたものだ。自分で得た力ではない。そんなものにプライドなど持てるはずがないだろう?」
アウグストの言葉を聞いた魔人は、口元をニヤッと歪ませた。
「……はっ! なんだよ、大国の王子様ともあろう御方が借り物の力で戦ってんのかよ? こいつはお笑い草だぜ」
「煽ろうとしても無駄だぞ? そのことは全員が理解している」
「……ちっ」
「ああ、それと、一つ訂正しておこう」
アウグストはそう言うと、魔力を集めはじめた。
「この力は『与えられた』ものであり『借り物』ではない」
そしてアウグストは集めた魔力を魔法に変換した。
「なっ……」
その魔法を見て絶句する魔人。
アウグストの右手には炎の魔法が。
そして左手には風の魔法が渦巻いていた。
「魔法の……同時起動……!?」
「シンから与えられ、すでに自分のものとしている。そのための努力を怠ったことなどない!!」
アウグストはそう言うと、その魔法を解き放った。
「はああっ!!」
アウグストの放った炎の魔法は、同時に放たれた風の魔法を巻き込み巨大な火焔旋風を巻き起こし、魔人を呑み込んだ。
「くっそがあっ!!」
「燃え尽きろ!!」
しばらく魔法を放ち続けたアウグストが魔法を解除すると、そこには真っ黒になって燃え尽きた、魔人の燃えかすだけが残されていた。
アウグストは、その魔人の燃えかすを見下ろした。
「プライドか。もちろん私にもあるさ。だが……」
そしてアウグストは、他にもいる魔人たちに目を向けた。
「それは……人類の守護者であるプライドだ!!」
アウグストはそう言うと、人類を護るため魔人に立ち向かっていった。