相変わらずの二人
お待たせ致しました。
「ユーリさんって、怒るとあんなに怖いんだねえ。僕も気を付けないと」
トニーは、両手に持ったバイブレーションソードを縦横無尽に振るいながら、皆の前で初めてキレたところを見せたユーリを見ていた。
その表情は余裕そうである。
魔人に対抗する手段として、トニーはバイブレーションソードの二刀流を選択。
魔人たちと戦う前に、魔物化した竜という魔人とは違う人類の厄災を圧倒できたことで、その動きは自信に満ち溢れていた。
ジェットブーツを駆使して魔人の魔法を掻い潜り、一刀目が防がれてもすぐに二刀目で魔人を討伐してしまう。
ある意味、一番シンの恩恵を受けているトニーが、この戦場において一番の戦果を挙げているのは間違いない。
そんなトニーに対し、近接戦闘では不利と見た魔人は……。
「ガキが! 調子に乗るんじゃねえ!!」
遠距離から強力な魔法を放った。
だが……。
「おっと」
「なにぃ!?」
トニーは向かってくる魔法に対して冷静に魔力障壁を展開。
難なくその魔法を防いでしまった。
「ふっ!!」
「!?」
剣の方が得意だと思っていたトニーに、呆気なく自分の魔法を防がれたことで、一瞬呆然とした魔人の隙を見逃さずジェットブーツで一気に距離を詰めたトニー。
「シッ!!」
「ガァ……」
一瞬の出来事に、魔人は為す術もなく切り捨てられた。
「ふぅ」
魔人を斬り伏せたトニーは、周りを見て一息吐いた。
「さて、あっちはどうなってるのかな?」
トニーはそう言うと、とある二人組の方を見た。
「あんな派手な格好だとねえ、格好の的になってると思うんだよねえ」
トニーが気にした二人組。
それは、
「にょわっ!」
「やあ!」
派手な衣装に身を包んだアリスとリンの二人であった。
その衣装は、露出過多なうえに色も派手で、一見して戦場には似つかわしくない。
そもそも、この服は戦場に出ないメイのためにとシンが可愛い服としてデザインしたものだ。
戦場で着る服ではない。
そんな服を着て戦場にいると当然……。
「ふざけた格好しやがってえっ!!」
「ナメてんじゃねえぞ! ガキが!」
「んな派手な服着て、狙ってくださいって言ってるようなもんだろうが!!」
命を懸けた戦場に、一見するとふざけているとしか見えない格好で現れた二人の少女。
命を捨てる覚悟でこの戦場にやって来た魔人たちは、当然のように激昂した。
派手で目立つので、どうしてもアリスとリンの周りには多くの魔人が集まってしまうのだが……。
「にゃあっ! なんだよ! 別にふざけてる訳じゃないよ!」
アリスはそう叫びながら、攻撃を避けつつ魔人たちに反論した。
その反論が、ますます魔人たちを苛立たせた。
「あぁっ!? それでふざけてねえってんなら何だってんだ!!」
「そんなこと、言うわけない」
魔人の激昂に対して、冷静に当たり前のことを言うリン。
普通に考えれば、戦っている相手に戦法を教えることなどあるはずもないのだが、そんな当たり前のことを自分たちより大分年下であろうリンに言われたことで魔人たちは更に冷静さをなくしていく。
そして、アリスとリンはその隙を見逃さなかった。
「リン、前方にダッシュ」
「了解」
魔人たちには聞こえないほど小さな声で喋りかけるアリス。
周りでも起こっている戦闘音で、魔人たちはアリスの言葉を聞き取れなかった。
だが、近くにいたとはいえ、リンは正確にアリスの言葉を聞き取り、タイミングを合わせて前方へダッシュ。
取り囲もうとしていた魔人たちの横をすり抜け、その背後を取った。
「は!?」
「な!? なん……」
二人の突然の行動に戸惑う魔人たちをよそに、アリスとリンは更に声を掛け合った。
「「せーの……」」
普通の声で。
魔人たちを挟む立ち位置にいるため、本来ならそんな音量で声は届かない。
だが……。
「「はあっ!!」」
アリスとリンは、ピッタリ同時に炎の魔法を放った。
「はあっ!?」
「うそ……だろ……」
全く同じタイミングで放たれた魔法は、同時に着弾。
別の方向から同時に放たれた大魔法に、魔人たちはどちらを防御していいのか一瞬で判断することができなかった。
『ぐぅおああああぁっっ!!』
さらに、相乗効果により威力を増した炎は、瞬く間に魔人たち数人を焼き付くした。
間違いなく魔人たちを倒したことを確認したアリスは、ホッと息を吐いた。
「ふう……やっぱり、これいいね! 戦闘中に内緒話できるの!」
「うん。このアドバンテージは大きい」
アリスとリンが、爆音轟く戦場にいるにも関わらず小声でやり取りができたのは、彼女たちの頭を覆っている防具に仕込まれている小型の通信機にある。
無線通信機と同じ仕組みのものを仕込んであり、耳に直接スピーカーが当たるように設計されているため、音量をかなり絞ってある。
なので、二人の会話が周りに聞かれる心配もない。
アリスとリンは、その機能を駆使して魔人を討伐したのだ。
ただ、今回使用したのは無線通信機を利用した頭の装備のみ。
服は必要ないのだが……。
「やっぱり、この装備を使うなら服装も合わせなきゃね!」
「それは当然」
やはり、ふざけているのかもしれない。