怒るとメッチャ怖かった
オリビアがヘルプに入る前、ユーリは一人で魔人と相対していた。
元々、周りの皆ほど攻撃魔法が得意ではない彼女が一人で戦っている理由。
それは……。
「えーい!」
「うおっ!?」
「そりゃあ」
「ちょっ! 待て待て!!」
「待たなぁい」
「ぬはっ! て、テメエ! 何個魔道具持ってやがんだ!?」
「えぇ? 内緒ぉ」
「ふざけんじゃ……うおおっ!」
ユーリは、自分の火力不足を理解していた。
そこでユーリが見出だした解決策が『一回で足りないなら、たくさん撃てば良いじゃない』という物量作戦だった。
その考えに至ったユーリは、ビーン工房の職人たちの協力を得て、携帯しやすい短い杖を大量に作成してもらい、それに攻撃魔法を付与した。
その攻撃魔法が付与された杖を、これまたビーン工房の職人に作ってもらったホルスターに収め腰に巻き付けている。
ユーリはそのホルスターから次々と杖を抜き出し、魔人に息もつかせぬほど連続で攻撃していたのだ。
杖に付与した攻撃魔法はユーリのイメージなので、一発の攻撃で致命傷になることはないが、それなりのダメージを負うことは間違いない。
そんな攻撃を連続で受ける魔人はたまったものではない。
しかし、ユーリの連続攻撃を避けたり防いだりしつつも、文句を言うことができている。
つまり、魔人にはまだ喋る余裕があるということだ。
「むぅ、これでも駄目かぁ」
ユーリは不満そうに口を尖らせるだけだったが、魔人の方は憎々しげに睨み付けていた。
「俺たちが魔人になってようやくたどり着いた領域に……こんなガキが、人の身のままで……」
そう口にした魔人は、その怒りをユーリに向かってぶつけた。
「ふざけんなあっ!!」
ずっと攻撃を受けるだけだった魔人が急に攻撃に出てきた。
「わわ」
ユーリは咄嗟に防御魔道具を展開し、魔人の魔法を防ぐ。
だが、魔人の攻撃は終わらなかった。
「俺たちが! どんな思いで! 魔人になったと思ってるんだ!!」
魔人はそう叫びながら魔法を連発してくる。
「そんなこと知らないわよぉ!」
明らかな八つ当たりに、さすがのユーリも声を荒げた。
だが魔人の攻撃は止まらない。
「うるさい! 俺たち帝国平民がどんな扱いを受けていたか知っているか!?」
「だから、知らないってば!」
「俺たち帝国の平民は! ただ搾取されるだけの存在だ! そうやって虐げられてきた俺たちの気持ちが分かるか!?」
「そんなの帝国に言ってよぉ!」
「言ってもしょうがねえから滅ぼしたんだろうが!」
「だったらそれで終わりでしょぉ!? 何で周りにまで迷惑かけるのよぉ!」
「許せねえからだよ!」
「何が!?」
「お前らみたいな! 恵まれた環境でヌクヌクと惰眠を貪っている連中がだよ!」
「……」
魔人の言葉に、ユーリは思わず閉口した。
あまりに非道い言いがかりに、ユーリは思わず言葉を失ったのだが、魔人は違う判断をした。
自分の言葉に、返す言葉が無いのだと思った。
だから魔人は、ユーリに向かってさらに自分の怒りをぶつけた。
「俺たちが虐げられながら必死で生きてきて、シュトローム様のおかげで魔人になれて、ようやく帝国と渡り合えるようになったのに! お前みたいなガキが俺らと対等だと!? ふざけんじゃねえよ!!」
ユーリはこの言葉を聞いて、今まで感じたことがないほどの怒りが湧いてくるのを実感した。
怒り心頭のユーリは、腰のホルスターから複数の杖を追加で取り出した。
「ふざけてるのはそっちでしょぉ?」
「あぁ?」
「あなたたちの境遇には同情するわ。でもねぇ!」
ユーリはそう言うと、複数の杖を一斉に魔人に向けた。
「私はぁ! 一生懸命努力したわよぉっ! 魔人になって無条件に力を手に入れたアンタたちとは違うんだからぁ!!」
ユーリはそう言うと、今まで一個ずつ起動させていた杖を一斉に起動。
火や風、水に土と、ありとあらゆる魔法が一斉に魔人に放たれた。
「なあっ!?」
複数の魔法がまとめて放たれると、さすがの魔人も身の危険を感じ、慌てて回避する。
「うおっ!?」
さっきまで自分がいた場所に魔法が着弾し、大爆発が起こる。
その様子に冷や汗をかいた魔人がユーリを見ると、まだその怒りは治まっていなかった。
「ウォルフォード君に訓練してもらってぇ! メリダ様に指導を受けてぇ! ようやくここまでになったんだからぁ!!」
ユーリはそう叫ぶと、ホルスターに残っていたほとんどの杖を取り出し魔人に向けた。
「お、おい……ちょっと待……っがあ!」
ユーリの様子に怯んだ魔人が制止の言葉を放とうとした時、突如として死角からの攻撃を受けた。
「がはっ……」
「オリビアァ、ナイスゥ!」
短距離をゲートによって移動してきたオリビアの援護射撃により、ユーリの前に無防備を晒す魔人。
そして。
「くらええぇ!!」
ユーリは、手に持った大量の魔道具を一斉に起動し、魔人に向けて放った。
「ぐっ……くそっ……たれがあ……」
ユーリの放った魔法の直撃を受けた魔人は、そんな言葉を残し、跡形もなく消滅した。
その様子を確認したユーリは。
「……へえ、まとめて放つとこんな威力になるのねぇ」
と、すっかり怒りも治まったのか戦場に似つかわしくないテンションでそう言った。
そんなユーリのもとに、オリビアが駆け寄ってきた。
その顔は、若干引きつっている。
「ユ、ユーリさん、凄いですね……」
「ねえ? 凄いよねぇ。これって新発見かなぁ?」
「さ、さあ? どうでしょう?」
「でもぉ、これで私も魔人と対等に戦えるよぉ!」
「そ、そうですね……」
「あ、オリビア、さっきすごく助かったぁ。また援護よろしくねぇ」
「あ、はい」
ユーリはそう言うと、また次の魔人へと向かっていった。
その背中を見送ったオリビアは、ポソッと呟いた。
「……ユーリさんは怒らせないようにしよう……」
オリビアの中で、ユーリが大人っぽいお姉さんから、怒らせたら怖い人に変わった瞬間だった。