それぞれの戦い2
相変わらず更新が遅くて申し訳ありません。
前回
シンに触発されたマーリンが魔法をぶっ放した。
マーリンが英雄の名に恥じぬ凄まじい魔法を炸裂させたことで、連合軍の士気はさらに高まった。
「さすがはマーリン殿とメリダ殿だ。その腕、少しも落ちていない」
マーリンの放ったド派手な魔法に驚愕し、熱狂している兵士たちとは違い、付き合いの長いミッシェルは冷静だった。
そして、腰に差している剣を抜くとドミニク軍務局長に向かって言った。
「さて、ご高齢のお二人が頑張っているのだ、我々も負けてはいられんな」
「え? ミッシェル様も十分……」
「何か言ったか?」
「い、いえ!? なんでもありません!」
「そうか? まあいい、行くぞ」
「は? はあっ!? わ、私もですか!?」
「ん? なんだ、行かんのか?」
「私は総司令官ですので……全体の戦局を見極める必要がありますから……」
「フム、そうだったな。どうにもひよっ子だった頃の印象が強くてな」
「私を騎士団総長に任命したのはミッシェル様ですよ!」
「そうだったな。どうも年を取ると昔の事ばかり思い出してしまうな」
「近い記憶が薄い時点でやっぱり高れ……」
「何か言ったか?」
「いえなにも! どうぞミッシェル様、存分に暴れてきてください!」
「そうだな。今の私は煩わしい指揮系統から独立した身。存分に……」
ドミニクから魔物たちへと視線を移したミッシェルは……。
「暴れるとするか!」
猛然とダッシュして行く。
魔物のただ中に飛び込んだミッシェルは、次々と魔物を斬り伏せていった。
その様子を見ていたドミニクは、呆れた声を出した。
「……ミッシェル様の剣はバイブレーションソードではないのだがなぁ……」
「はっ、『斬り狂い』は健在ってか」
「おいルーパー! そういうこと言うな! 聞こえたらどうする!」
『斬り狂い』
ミッシェルの騎士団時代の二つ名である。
騎士団に入団して間もなくで駆り出された魔人討伐戦で全く歯が立たず、悔しい思いをしたミッシェルはその後徹底的に自分を鍛え、魔物を斬りまくりその二つ名を得た。
その後騎士団を引退し落ち着いたかと思っていたが、どうやらマーリンに感化されたらしい。
他の騎士たちとは違い、普通の剣で災害級の魔物とやり合っているミッシェルはまさに『斬り狂い』の名に相応しかった。
「バイブレーションソードだと斬った感触が無いからだろうが……凄まじいな」
「ああ。見た感じ、引退する前より強くなっている気がする」
「……俺も負けてらんねえな」
「は? おいルーパー、まさかお前も参加するつもりか?」
「へっ、俺ぁお前と違って司令官じゃねえからな。ちょっくら暴れてくらあ!」
「あっ! おい! お前は『副司令官』だろうが!」
ミッシェルに負けじと飛び出していったルーパーに向かってドミニクが叫ぶが、すでに聞こえないところまで行ってしまった。
そして今まで鍛えに鍛えた魔法を連発しているルーパーを見てドミニクは、
「くそっ! ズルいぞルーパー!!」
魔物相手に暴れまわっているルーパーを見て、思わず声を荒げてしまった。
アールスハイドのおじさんたちは、今日も元気であった。
所変わって別の戦場では、シンの手によってバイブレーションソード化した武器を振り回している一団がいた。
「どぉらあっ!!」
「はっ! スゲエな! 俺らが災害級の魔物を討伐してるぜ!」
筋骨隆々な体にローブを纏ったカーナン最強の戦士『羊飼い』たちである。
「おらっ! いくらでも来い! 全部斬り倒してやる!」
『超音波振動』を付与されたハルバードを振るい、次々に魔物を切り伏せていく羊飼いたち。
その表情は、その切れ味に酔いしれているのが見て取れる。
そして、自分は強いと思い込んでしまった。
「おい! 後ろ!」
「え?」
その声に振り向いた羊飼いが見たのは、類人猿の魔物がその大きな腕を振りかぶり、今まさに振り下ろさんとしている光景だった。
「あ……」
もうハルバードを振り回す余裕はない。
死を覚悟した羊飼いだったが、その類人猿は腕を振りかぶったまま動きを止めゆっくりと二つに分かれた。
「へ? へ?」
「調子に乗りやがって、このバカ野郎がっ!!」
羊飼いの窮地を救ったのは、同じ羊飼いで国家養羊家のリーダー的存在であるガランであった。
「魔物を倒せているのはシンの魔道具のお陰だ! お前自身は何にも強くなってねえんだ! それを忘れるな!!」
「は、はい!」
「分かったら行け! もう油断すんじゃねえぞ!」
「わ、分かりました!」
一度殺されかけてへたり込んでいた羊飼いは、ガランの一喝で飛び起き再度魔物の群れに向かっていった。
殺されかけた魔物に向かうことよりも、ガランに怒鳴られることの方が恐ろしかったのだ。
そんな羊飼いを見送りながら、ガランは溜め息を吐いた。
「はあ……確かにこりゃあスゲエ武器だぜシン。だけど、コイツを手にしたことで変な欲望を抱く奴がいなきゃいいけどな……」
ガランは、シンに魔道具化してもらった自分のハルバードを見ながら呟いた。
また別の戦場。
そこはダーム王国が担当しているエリアである。
そこでは、ダーム王国軍の司令長官であるヒイロ=カートゥーンが、そのエリアの指揮を執っていた。
「どうだ? その剣の使い心地は?」
「凄まじいですな。ダーム周辺の魔物でも試していましたが、相手は中型から大きくても大型の魔物。まさか災害級にまでこうも威力を発揮するとは……」
部下の報告を聞いたヒイロは頷いた。
「流石は異世界チート勇者ってとこか……」
「は?」
「いや、なんでもない。それより、もしその剣が軍の制式装備になったとしたらどうなると思う?」
「この剣を持っていない軍などひとたまりもないでしょう。蹂躙されますよ」
「そうか。この剣はアールスハイドの英雄からもたらされたものだったな」
「そうですな」
ダーム王国軍の最高司令官とその部下は、ダームの兵士たちによって次々と討伐されていく魔物の群れを見ていた。
その顔には、薄ら笑いが浮かんでいた。
先日お知らせした抱き枕カバーの絵柄が決まりました。
活動報告に菊池先生のラフを載せてますので見てみて下さい。




