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賢者の孫  作者: 吉岡剛
124/311

問答しました

相変わらず、遅くて申し訳ありません。


活動報告にお知らせもありますので、そちらもご確認下さい。

「っ! この声、シュトロームか!?」


 前に何度か聞いた事のある声が辺りに響く。


 その愉悦を含んだような声と喋り方は間違いなくシュトロームだ。


『ふふ、そうです。ようやくこの時が来ましたね。待ちかねましたよ』


 あれ? 俺は今拡声の魔法は使っていなかった。


 なのに、俺の声に反応してシュトロームが言葉を返してきたぞ。


「お前、俺の声が聞こえて……」

『ええ、聞こえていますよ』


 やっぱりか。


『先日は私の声を届けるだけで、貴方達の声を聞くのをすっかり忘れてしまって……どんな面白い反応をしていたのか、聞き逃してしまったことを後悔しましてね』

「コイツ……ふざけやがって……」


 前もこっちの声を聞いていれば、俺が独り言を言って恥かくこともなかったのに!


 ほら! オーグの奴が笑いを堪えるために奥歯噛みしめて変な顔になってんじゃん!


「本当にふざけた奴だね。コレが今回の魔人なのかい?」

「自分の意思を持って話しておる……信じがたいのう……」

「ばあちゃん、じいちゃん……」


 俺の言葉をシュトロームに対する敵対の言葉だと思ったばあちゃんと爺さんが俺に話しかけてくる。


『これはこれは、賢者マーリンと導師メリダですか。すごい大物が出てきたものですね』

「な!? なんで知って……」

『私の元にいる者達は、元は帝国の諜報部隊の人間です。魔人としての力を手に入れた今、そちらの情勢を調べる事など容易いことなのですよ』

「なんだと!?」


 シュトロームの声に一番に反応したのはドミニクさんだ。


 こちらの情勢を把握しているということは、俺達の家族のことも調べているかもしれない。


 となると……。


『ああ、安心して下さい。あなた方の家族構成まで全て把握していますが、人質を取るなどの措置はしていませんから』

「……そこまで調べておいて……どういうつもりだ?」


 これは本当に汚い手だけども、確実に戦闘に勝利しようとするならば相手の家族を人質に取ってしまえば容易く勝利を掴むことができる。


 しかも相手は魔人。


 以前にシュトローム自身も言っていたように、魔人たちは人間を虫けらのように思っている節がある。


 そんな魔人が相手の家族構成まで調べておいて何もしない?


 どうしても考えにくい。


『私の部下達は優秀でしてねえ。頼んでいない事まで調べてくるんですよ』


 俺の脳裏に、先日戦った魔人の記憶が蘇る。


 今までの平民が魔人化した奴らと違い、オーグたちを追い詰めていた。


 危うくシシリーに危害を加えられる所でもあった。


 思い出したらまた腹が立ってきたな。


『しかしですねえ……』


 そんな怒りが込み上げてきた俺とは対照的に、シュトロームは実に楽しそうにこう言った。


『そんな事をしてしまったら、面白くないじゃないですか』


 その瞬間、先程までの熱気が嘘のように辺りが静まり返った。


「お……面白くない……だと?」


 絞り出すようにドミニクさんが言う。


『そうですよ? そんな事をしてしまったら興醒めもいいところです』

「興醒め!? 貴様!! この戦いは、人間と魔人の存亡を賭けた戦いではないのか!?」


 もう我慢ならないという風に、ドミニクさんが声を張り上げる。


 ドミニクさんだけではない、ここにいる全ての人間が同じ気持ちだった。


 だが……。


『ふ、ふふふ……はは、あはははははは!!』


 突如、気でも狂ったようにシュトロームが笑い出した。


「な、何がおかしい!?」

『ええ、とってもおかしいですよ。あなたは私が言ったことを忘れたのですか?」


 シュトロームが言ったこと。


 それは……。


「……ゲーム……」

『さすがはウォルフォード君ですねえ。きちんと覚えていてくれるとは』

「うるせえよ」

『おや、つれない。ですが、私にとってこれはただのゲームなんですよ。それを、そんな悲壮な覚悟で来られては……笑ってしまうのも無理はないでしょう?』


 狂ってる。


 シュトロームはゲームと言っているが、これはまさしく人類と魔人の存亡を賭けた、いわば大戦だ。


 それを、シュトロームはゲームと言って楽しもうとしている。


 まっとうな人間である俺達の目から見れば、シュトロームは狂ってるようにしか見えない。


『ゲームはズルをして勝っても楽しくないですからね。そういう訳で、プレイヤーの家族を人質に取る事はしませんのでご安心ください』


 コイツ、とうとう俺達のことをプレイヤーとか言い出しやがった。


『さて、おしゃべりはここまでにしましょう。それでは、お待ちしていますよ、ウォルフォード君』


 シュトロームは最後にそう言うと、魔法を解除したのかそれ以降声はしなくなった。


「狂ってるねえ……」

「ふむ……真面目の代名詞だったカイルが魔人化した時は見境なしに暴れたのじゃ……今回の奴も相当人格に影響が出ておるようじゃの」

「そうさね……カイルは破壊衝動が強かったけど、今回のは……」

「愉悦……じゃな。他人が苦しんでいるのを見て楽しんでおる」


 ばあちゃんと爺さんの会話を聞いていたドミニクさんが、怒りにワナワナと震えながら再度拡声器を手にした。


『聞いたかお前達! あんなふざけた奴をこのまま放置していていいのか!? この戦い、必ず勝て!! いいな!!』


 怒りに任せたドミニクさんの煽りに、その場にいた者たちは……。


『おおおおおおお!!!!!!』


 大きな怒号で応えた。


 決死の思いで臨んでいるこの戦いの姿勢を、シュトロームに馬鹿にされ皆憤っているのだ。


「ウォルフォード君! 土壁を開いてくれ!!」

「はい。壁の前に魔物はいませんか!?」


 いよいよドミニクさんから、旧帝都周辺を囲っている土壁の除去を頼まれた。


 ただ、壁の前に魔物がいたらすぐに戦闘になってしまい、軍勢が中に入ることが出来なくなるので、壁の上で見張りをしている人に尋ねた。


「大丈夫です! というか、見た限り魔物はいません!!」


 よし、それなら。


「それじゃあ土壁を開きます! 皆さん進軍の用意を!!」


 周りにそう伝えた俺は、土壁に対して魔法を行使。


 すると、上の方から土壁が崩れていき、幅数十メートルにわたって土壁が開いたのだった。




活動報告にて外伝の表紙を公開しております。

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別作品、始めました


魔法少女と呼ばないで
― 新着の感想 ―
[一言] >「愉悦……じゃな。他人が苦しんでいるのを見て楽しんでおる」 『愉悦』は愉悦でも方向性が違うんだよね、じいちゃん。 シュトロームにあるのは、単に『興味』の有無。 ただそれだけなんだろうと思う…
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