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相変わらず、投稿が遅くて申し訳ございません。
シュトロームに指定された決戦の日。
遂にその日がやって来た。
災害級の魔物を封じ込める為に作った塀の前には、この決戦に挑む沢山の人達が集まっていた。
この日に備えて各々鍛練してきたであろう各国の騎士や魔法使いたち。
前回、シュトローム派閥の魔人に対し有効打を打てなかった為、独自に鍛練してきたというオーグたち。
しばらく振りの戦場に高揚している感じの爺さん、ばあちゃんとミッシェルさん。
そして、居心地悪そうにしているミランダと……。
「……おい、そこの魔法少女」
「な、何かな!?」
「何?」
「お前らは、またなんでそんな格好してんだよ」
以前、メイちゃんの魔法服が羨ましいというアリスとリンに色違いの魔法服を作ってあげた事があったけど、二人はその魔法服を着てきたのだ。
「こんな時まで、ふざけてんの?」
「ふざけてなんかないよ!」
「これが私達の作戦。二人で勝つ」
「二人でって……ああ、ヘルメットの通信機能か」
そういえば、メイちゃんがいるから連絡が密に取れるようにって、ヘルメットにインカムみたいなの付けたわ。
「そう! リンと二人で連絡を取りながら魔人を討伐するんだよ!」
「これならバッチリ。魔人を倒せる」
まあ……確かに、インカムで通信すればこれ以上ない連携が取れるんだろうけど……。
「いいのかキューティーレッド。その派手な服だと魔人に狙い撃ちされるんじゃないか?」
「レッド言うな! 大丈夫だよ、後ろはリンが見てくれるし、それこそ通信機で教えてくれるよ」
「むふ。完璧な作戦」
そこは想定済みか。
でもなあ、もう一つ問題があるんだよ。
「その服さあ、戦闘服と違ってショートパンツじゃないから、パンツ丸見えだぞ?」
そう、戦闘服は戦闘中に気が散らないようにショートパンツにしたんだけど、メイちゃんは戦闘をするわけじゃないからフリフリのミニスカートにしたんだよな。
アリスとリンは、今やジェットブーツを駆使して飛び回りながら戦闘が出来る。
ということは、フリフリのミニスカートだったら、その中は丸見えということになる。
戦闘中にそんなことを気にしていると魔人にやられかねない。
だから注意したんだけど……。
「ふっふっふ……その点も大丈夫! ちゃんと下にスパッツ履いてきたからね!」
アリスはそう言うと、ミニスカートの裾を掴んで捲りあげた。
確かにスパッツを履いていたんだけど……。
「アリス大胆。こんなに大勢の前でスカートを捲りあげるなんて」
「……え?」
最初に言った通り、ここには各国の兵士さん達が集結している。
自惚れでなく、この決戦の中心になる俺たちには当然注目が集まる訳で……。
「ぎ、ぎ……」
リンの指摘で皆の視線が自分に集まっていることを自覚したアリスは。
「ぎにゃあああ!!」
奇妙な悲鳴をあげてリンの後ろに隠れてしまった。
「はあ……戦う前に何やってんだか……」
自業自得の自爆をかましたアリスのことは放っておいて、もう一つ気になることを確認する。
「それより、なんでミランダもここにいるの?」
俺の言葉にミランダはビクっとした。
「や、やっぱり場違いだよね!?」
「いや、そんなことはないけど……なんで?」
「そ、それは……」
確かにミランダは、各国の騎士たちにバイブレーションソードの使い方を指南できるくらいだし、最近ではミッシェルさんの指導により騎士学院の今年度学年首席になったと聞いている。
けど、ミランダはまだ学生だ。
特殊な事情の俺達とは違い、この決戦に参加する必要はない。
なのに、なぜか俺達アルティメット・マジシャンズと一緒に並んでいる。
疑問に思うのも無理はないよね。
「私が連れてきたのよ」
「マリアが?」
そんな疑問を感じていると、マリアが俺達の会話に入ってきた。
「私の対策よ。シンみたいに魔法を複数起動するなんてできないし、かといって一撃で倒せるほどの攻撃力なんて一ヶ月じゃ無理。だから私が魔法を使って、その隙にミランダに倒してもらおうと思ってね」
なるほど、そういうことか。
マリアも、アリスとリン同様に二人一組で戦うと。
それはいい作戦だとは思うけど……。
「ミランダはいいの?」
「よくないよ……だってこれ、人類の存亡を賭けた戦いなんだよ? プレッシャーが強すぎてここ数日ちゃんと寝れてない……」
「そうだよな……」
各国の騎士たちにバイブレーションソードの使い方を指南するだけでも胃が痛いって言っていたのに、よりにもよって人類存亡を賭けた戦いだ。
しかも、マリアと行動を共にするってことは常に最前線に立つことを意味している。
寝れなくなって当然か。
「大丈夫ミランダ?」
あまりよく寝れてないというミランダにシシリーが声をかけ、そっと治癒魔法をかける。
「うう……ありがとシシリー」
「マリアが無茶言ってゴメンね?」
「ちょっとお、それだと私が悪者みたいじゃない」
「アタシがこんなになったのはアンタが原因でしょうが!」
「大丈夫よお。ミランダの実力ならそうそう死にゃしないから」
「そういう問題じゃないでしょ!」
「もうマリア、そんなこと言っちゃダメだよ」
「やっぱりシシリーは優しいなあ……マリアとは大違いだよ」
「なによお」
「フフ、どう? 楽になった?」
「うん、ありがと」
「これで思う存分戦えるね」
「……え?」
「あ、怪我しても治癒してあげるから心配しないでね」
「恐い! シシリーも恐いよ!」
「ええ?」
……三人とも楽しそうだな。
女の子三人の会話を聞いていたらトールとユリウスが近付いてきた。
「やはり、考えることはみんな一緒ですね」
「ということは、トールとユリウスも?」
「二人で組むで御座る」
「そうなのか」
先日の魔人との戦いの詳細を聞いたら、魔人の魔法を防ぎながら攻撃が出来なかったって言ってたからな。
一人が魔人の魔法を防いで、もう一人が攻撃する方法は有効だと思う。
「そういえば、皆がどんな対策をしてきたのか確認してなかったな」
「おい」
もうこれから決戦だぞ!?
なのにオーグは皆がどんな対策を練ってきたのか知らないと言う。
そんなんでいいのか?
「この件に関しては皆を信用していたからな。確認するのを忘れていた」
「信用してくれてるのは嬉しいけどな。確認はちゃんとしろよ」
「私達はチームとはいえ、戦闘は個々に行うからな。始まる前に簡単に確認しておけば大丈夫だろう」
確かに、俺達アルティメット・マジシャンズは連携して戦闘をする訳じゃない。
でも、各々がどんな戦闘をするのか知っておく必要はある。
そこでオーグは、始まる前に皆がどんな対策を練ってきたのか確認することにした。
「トールとユリウス、コーナーとヒューズ、それにメッシーナとウォーレスは二人組だな。それ以外に誰かと組む者はいるか?」
「組む訳じゃないけど、シシリーは皆の治癒にまわってもらうから、基本俺の近くにいるよ」
「はい。戦闘では役に立たないかもしれませんけど、頑張って皆さんを治癒します!」
最前線での治癒要員。
それにはある程度の戦闘力も問われるので、シシリーは最適な人員だ。
ずっと治療院で治癒魔法の修業もしているから、その治癒魔法はアールスハイドのみならず、世界的に見てもトップに入る。
シシリーがいるだけで、皆は戦闘に集中することができる。
それを守りつつ魔人を討伐していくのが俺の役目だ。
「なら、他は全てソロでやるのか。フレイド、お前は?」
「僕はこれです」
そう言ってトニーが取り出したのは……。
「二刀流!?」
「一本じゃあどうしても手数が足りないと実感してねえ。父さんに頼んで稽古をつけてもらったのさ。それにこの剣、薄くて軽いしねえ」
なるほど、剣一本だと防がれた後の攻撃が続かない。
かと言って、剣を振るいながら魔法を使うのも難しい。
その結果が二刀流か。
確か、二刀流って本当はあまり実用的じゃないみたいなことを聞いた事があるけど、トニーが使っているのはバイブレーションソード。
薄くて軽い剣なので、片手でも使える。
それを活かしての二刀流なのだ。
「なるほど、考えたな。これなら魔人にも十分対応できるだろう」
オーグのお墨付きも出た所で、次の確認だ。
「私はぁ、これですぅ」
そう言ってユーリが示したのは、腰から下げられた大量の杖。
「まさかコレ、全部魔道具か?」
「はい、ビーン工房の職人さんにお願いして、ホルスターを作ってもらったんですぅ」
そう言って腰から下げているホルスターを見せてくれた。
ベルトにいくつかの小さい輪があり、そこに短めの杖が何本も刺さっている。
いいなあコレ、格好いい。
「私はウォルフォード君みたいに複数の魔法なんて使えませんからぁ、この杖で代用ですぅ」
「ふむ、これだけあれば十分だろう。よくやったな」
「はぁい」
オーグに褒められて、ユーリも嬉しそうだ。
「あの、私は、皆さんほど強くありませんから、支援にまわろうと思います」
「支援とは何をするのだ? ストーン」
続いてはオリビア。
正直、マークとコンビを組むと思っていたので意外だった。
「戦場を走り回りながら、皆さんの戦闘の手助けをしたいと思います。私ではあの魔人たちを討伐できるとは思えませんけど、援護射撃くらいなら……」
それは謙遜だと思うけど、遊撃の援護射撃があるならそれは心強い。
けど……。
「しかしな、戦場は混戦になるぞ? フォローに動けるのか?」
それが心配なんだよな。
ところがオリビアは自信満々に言った。
「私、混雑した店内を動き回るのは得意ですから! それに、助けが必要な人を見つけるのも!」
ああ、そういうことね。
オリビアの家は人気のレストランだ。
そこでウエイトレスをしているオリビアは、混雑した店内を動き回ることに自信を持ってる。
それに、お客さんが何かして欲しそうな時に、率先して声を掛けたりしてるんだろう。
ある意味、オリビアに最適なのかもしれない。
「ではビーンはどうするのだ?」
「自分は、コレで戦います」
そう言って取り出したのは一振りの剣。
「これは?」
「魔道具です。これを起動すると……」
お、おお!
剣に魔法が纏わりついた!
「魔法剣です。自分も二つ同時は無理なので道具に頼りました」
スゲエ! 魔法剣カッコいい!
「なるほど、よく考えたものだが……」
「どうしました?」
俺はマークが持っている魔法剣に目を奪われていたのだが、オーグは別の事を心配してやがった。
「見ろ、シンが目を輝かせている。ビーン、お前とんでもないことをしたのかもしれんぞ?」
「あ、そ、そうですね……」
うおい!
オーグはともかく、マークまで「しまった!」みたいな顔してんだよ!
というか、オーグとは相変わらず普通の敬語なのが気になるわ!
「ともかく、これはシンが興味を示す程有用だ。素晴らしいぞビーン」
「あ、ありがとうございます!」
相変わらず、皆を乗せるのが上手いな。
で、最後はそのオーグなのだが、その対策に皆が度肝を抜かれた。
「私は、これだな」
そう言って魔法を起動させた。
『右手』に炎の魔法。
『左手』に雷の魔法。
魔法の並列起動をしてみせた。
「で、殿下! それは!?」
俺達は「おお」くらいの反応だったのだが、一番反応したのが魔法師団長のオルグランさんだった。
「魔法の並列起動だな」
「そ、そんなアッサリと……」
「ん? ……そうか。私はシンが三つほど並列起動しているのを見たことがあるから、これでも足りないと思っていたが。そうか、お前たちには驚愕の技術か」
そう、度肝を抜かれたのは俺達じゃなくて魔法師団員などの他の人達。
あちこちでどよめきが起こっている。
「殿下スゲエ……」
「殿下もスゲエけど、他も……」
「これなら勝てる……勝てるぞ!」
周囲の誰かが、勝てると叫んだ。
するとそれに呼応して口々に雄叫びを上げだす兵士さん達。
「ほっほ。上手く士気を上げられたのお」
「戦力の確認をしていないと聞いた時は、殿下とはいえ説教しなきゃいけないかと思ったけど、こういう狙いがあったんだね」
魔人との最終決戦を前に、人類側の士気は最高潮に高まった。
それを見た爺さんとばあちゃんが、オーグの手腕を褒めている。
けど、俺は見逃さなかった。
ばあちゃんが、説教しなきゃいけないかと思ったと言った時、オーグの頬を汗が流れたのを。
……やっぱり偶然じゃないか!
活動報告にお知らせがあります。




