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賢者の孫  作者: 吉岡剛
120/311

それぞれの対策 2

大変お待たせいたしました……


い、色々と忙しくて……(言い訳)



「ねえマーク、今凄い音がしなかった?」

「ああ、実験場だろ? あそこ、時々凄い音がするんだよ」

「そ、そうなんだ」


 ユーリが、ビーン工房の実験場で新しい攻撃用魔道具の試射を行なっていたころ、マークとオリビアはマークの自室にいた。


 と言っても、別にイチャイチャしていた訳ではない。


 二人も、対魔人戦に向けての対策のため、話し合いをしていたのである。


「魔人と戦うための対策なぁ……」

「私たちの特徴ってなんだろ?」


 アウグストから与えられた指示に戸惑う二人。


 この二人は、元々はAクラスの人間である。


 もちろん、アールスハイド最高峰の高等魔法学院の試験に合格し、Aクラスに所属していた人間が無能なはずはない。


 だが、元々Sクラスにいた人間は、シンを筆頭に誰も彼もが飛び抜けた実力の持ち主ばかり。


 そのお陰で、マークとオリビアは自分達の特徴が見出せないでいた。


「俺は剣との併用にしたいんだけど……」

「それ、フレイド君が防がれてたじゃない」

「そうなんだよなぁ。俺よりずっと剣技が上のトニーさんでさえ駄目だったんだよな……」


 アールスハイド王都でも指折りの名門工房、ビーン工房。


 その御曹司としては、やはり自分の工房で作ったもので勝負したい。


 だが、工房で最強の攻撃力を誇るバイブレーションソードも、相手に当たらなければ意味がない。


 アルティメットマジシャンズでは、シンに次いで剣技に長けたトニーでさえ魔人まで攻撃は届かなかった。


「こうなりゃ、新しい魔道具でも作るっきゃないか。でもなぁ……ウォルフォード君でもあるまいし、そんなポンポンアイデアなんて出てこねえよ」


 世間のシンの評価は、魔法の派手さと攻撃力に目が行きがちだが、マークは少し違った。


 マークがシンのことを凄いと思っているのは、何よりもあのアイデアの豊富さだ。


 魔道具のアイデアだけでなく、魔法を行使する際のイメージの仕方。


 あんなの聞いた事も考えた事もない。


 そして、そのアイデアは未だに溢れてきているのだ。


「俺にウォルフォード君の頭脳があればなぁ」


「マークはまだ良いよ。私なんか糸口さえ見えないよ……」


 マークは魔道具という方向でなんとかなりそうだが、オリビアには自分の特徴が皆目見当もつかなかった。


「マークは工房の息子でしょ? 私……食堂の娘だよ?」


 人気食堂の娘であること以外、取り立てて特徴のないオリビアはとにかく悩んでいた。


 食堂の娘が、その特徴を活かして戦場で何をするのか?


 料理でも振る舞うか?


 そんなことを考え、頭を振ってそのバカな考えを振り払った。


「そもそも料理作ってるのお父さんだしなぁ……私はウエイトレスでホールを動き回るしか……」

「は? 料理って、何言って……」

「ああっ! 思い付いた!」


 戦闘の話をしていたのに、急に料理がどうのこうのと言い出したオリビアに、マークが疑問の声を投げ掛けた時、オリビアの頭にあるアイデアが浮かんだ。


「これなら皆の役に立つかも!」

「えっ!? 何か思い付いたのか!?」

「うん! こんなのどうかな?」


 オリビアは自分のアイデアをマークに聞かせた。


「確かに……オリビアの特徴でもあるし、皆の役に立ちそうだな」

「でしょ? 良かったぁ、私にも特徴があった……」

「……」


 あまりに悲しい言葉に、マークは言葉が出ない。


「後はマークだね。魔道具ってどんなやつにするの?」

「それが問題なんだよ。放出系の魔道具は、多分ユーリさんが作ってると思うし、かといってバイブレーションソード以上のものなんて作れないし……」


 オリビアに比べ、方向性が決まっている分早めに解決すると思っていたマークだが、その作る魔道具で躓いた。


 放出系の魔道具なら『導師様の後継者』とまで言われているユーリ以上の物など作れない。


 かといって近接の魔道具ならバイブレーションソード以上のものなど考えもつかない。


 正に八方塞がり。


 どうしよう、どうしようと頭を抱えていると、オリビアがふと呟いた。


「両方とかできたらいいのにね」

「両方って、なんだそ……」


 そこまで言ってマークの頭にあるアイデアが浮かんだ。


「そうか……これなら、これならイケるかも!」

「本当に!? 良かったねマーク!」

「ああ! オリビアのお陰だ!」


 そう言ってオリビアを抱きしめるマーク。


 これがただの幼馴染であったなら、オリビアは真っ赤になってアワアワしているだろう。


 だが、オリビアは違う。


「うん、よかったね」


 そう言って、抱き付いているマークの背中をポンポンと叩いた。


「こうしちゃいられない。早速工房に行ってくる!」

「うん。私も練習しに家に帰るね」


 こうして、最後に抱き合った以外、特にイチャイチャすることもなく別れたマークとオリビア。


 その日、石窯亭で舞うようにホールを動き回るオリビアの姿が目撃された。






「うーん」

「なによマリア、便秘?」

「すこぶる快調です!」


 森の中にあった切り株に座って悩んでいるのはマリア。


 彼女に声をかけたのは騎士学院生のミランダである。


 ここ最近は、ほぼ行動を共にしている二人は今日も魔物狩りのため森に来ていた。


 今までの常識から言えば、まだ十六、七歳の、しかも女子がハンター協会の仕事をすることはありえないことだった。


 だが、ミランダは先の魔人領攻略作戦時に名を馳せ、その後ミッシェルに稽古をつけてもらっていることから、最近では『剣聖の弟子』とまで言われている。


 マリアに至っては言うに及ばずである。


 ところが、そんなマリアが悩んでいる。


 ミランダが気になるのも無理はない。


「じゃあ、何を悩んでるのよ。正直鬱陶しいんだけど」

「アンタ、友達に鬱陶しいって……」

「事実だからしょうがない。で? なに?」

「殿下にね、魔人と戦うために対策を練って来いって言われててね……」

「……マリアの話って、何気なく出てくる単語が非道いよね」


 女子学院生の口から出てきた言葉が、大国の王太子に世界の脅威である魔人だ。


 ある程度慣れたとはいえ、改めて考えてみると色々とありえない。


「対策を考えてこいって言ってもなぁ、何をすればいいのか見当もつかないのよ」


 ここにも、自分の個性を見失っている人間がいた。


「なによ『戦乙女』ともあろう者が、戦い方が分からないって?」

「その名前で呼ぶな!」

「でも、マリアが戦闘で悩むって、今度の魔人はそんなにヤバイの?」


 もう間も無く、魔人と人類の存亡を賭けた戦いが始まる。


 世間的に知られているのはそのことだけである。


 シュトロームからそのゲームの発案をされた時に、シュトローム配下の魔人と交戦したことや、アウグスト達が苦戦したことまでは伝えられていない。


「なんて言うかね、負けはしないけど勝てない……みたいな?」

「なにそれ?」

「お互い決め手に欠けてさ、膠着状態になっちゃったんだよね」

「そうなんだ」

「あの時、シンが間に合ってなかったら、私達あそこで全滅してたかもしれない」

「全滅……」


 ずっと間近でマリアの魔法を見ているミランダとしてはその言葉が信じられない。


 マリアは、アルティメットマジシャンズの第三席なのである。


 そのマリア達が全滅していたかもしれない。


 最終決戦の相手は、そんなにヤバイ相手なのかと、ミランダは少し震えた。


「もう時間がないし、どうしようか……」


 そこまで言って、マリアは森に目を向けた。


「ミランダ、デカイの来てる」

「デカイの?」

「うん、熊……かな」

「熊かあ」


 それなら問題ないだろう。


 ジェットブーツにバイブレーションソード。


 この二つを手に入れてから、ミランダは熊の魔物くらいならマリアの支援無しでもなんとか狩れるようになっていた。


 今回も、マリアの索敵魔法により事前に察知できている。


 準備万端で、熊の魔物を待ち構えられれば、問題なく討伐できるだろう。


 だが問題は、いつもなら大型に分類される熊の魔物くらいなら手を出さないマリアが隣で戦闘態勢に入っていることである。


「……ちょっとマリア」

「なに?」

「なんで隣にいるのよ?」

「ん? 戦闘態勢だから」

「だから……なんで戦闘態勢なのよ」


 マリアに疑問を呈するミランダだったが、内心では想像がついていた。


「魔物がデカいから、かな?」

「……ちなみにデカいってどれくらい?」


 分かってはいたけど聞かずにはいられなかった。


「そうねえ……」


 マリアがそう言った直後、目の前の茂みから熊の魔物が現れた。


「災害級くらい?」


 大型の熊の魔物で三メートルくらいである。


 それが災害級に至ると五メートルを超える巨体になる。


 その立派過ぎる体格を持った熊の魔物が二人の目の前に現れたのだ。


『グルゥオオオオオオオッッ!!』

「やっぱりぃっ!!」


 半ば予想していたとはいえ、不意打ちで災害級の魔物に出会うと、ミランダとしては驚きを隠すことができない。


「マリア! 援護して!」

「ああ、うん。オッケー」


 ミランダの必死の要求に、軽く答えるマリア。


 そのマリアから魔法が放たれる気配を察知して、着弾と共に飛び出そうと身構えるミランダ。


 そして放たれた炎の魔法が熊の魔物に着弾し、ミランダはジェットブーツで熊の魔物に突っ込んだのだが……。


「ちょっ、ちょっとお! 威力小さくない!?」


 マリアの魔法が、ミランダの想定していた威力を発揮しなかったのだ。


「あー、全力でやると一発で仕留めちゃうから。ミランダの分も残しといたげようと思って」

「なんてありがた迷惑!?」


 戦闘の訓練に来ているのだから、強い魔物と戦闘になるのは練習になっていい。


 ただし、それは大型までに限るのだ。


 決して災害級を想定しての話ではない。


 とはいえ、すでにジェットブーツで飛び出してしまっている。


 こうなりゃこのまま突っ込んでやると、構わずに突っ込んだ。


 こんな無謀な策に出たのも、ミランダの内心で危なかったらマリアが援護してくれるという全幅の信頼を寄せているというからという一面もある。


 思った以上の威力を発揮しなかったとはいえ、マリアの放った魔法である。


 そこそこのダメージを受けていた熊の魔物だが、突っ込んでくるミランダに気が付くとその巨大な前脚をミランダめがけて振り下ろした。


「ヒュッ!」


 その前脚が振り下ろされる直前、ミランダはジェットブーツをさらに起動させ熊の懐深くに潜り込んだ。


 そして。


「オ! オオ……リャアアアア!!」


 目の前に迫った熊の腹部にバイブレーションソードを突き刺し、その刃を上に向けて今度はジェットブーツを前ではなく上に向かって起動。


 その結果、熊の魔物は腹部から頭部にかけて、真っ二つに切り裂かれることになった。


 バイブレーションソードを振り切ったまま上空高く飛び上がったミランダは、小さくジェットブーツを起動させながら、地面に着地した。


「うわお。えげつないことするわね」

「ふう……やっぱりこの剣は凄いな。熊が真っ二つになった」

「いやいや。お腹から下はついてるんだから真っ二つではないでしょ」

「そういえばそうか。じゃあ……半二つ?」

「意味が分からないわね」


 そこには、災害級の魔物を女子二人で討伐したとは思えない空気が流れていた。


「今度の戦闘も、これくらい楽ならいいのに……な……」


 そこまで言ったマリアは、ミランダの方を向き。


 ガッ!


 とミランダの肩を掴んだ。


「な、なに?」

「ふふ、いいこと思いついたわ」

「え? いや、アタシは嫌な予感しかしな……あ、ちょっと、は、離し……」

「うふふふふ」


 その日、森の奥では「いやああああっ!」という少女の叫び声が聞こえたという。





 アールスハイド王都にある創神教の教会。


 アールスハイド王都で有名なのはアールスハイド大聖堂だが、王都ほど大きい都市で教会がそれ一つなわけはない。


 各地区に一つ教会はあり、その地区の礼拝や冠婚葬祭、そして併設されている治療院の運営を行っている。


 そんな数ある治療院の中で、一際人が集まる場所があった。


「はい。もう大丈夫ですよ」

「お……おお! 腕が折れてたのに……信じられねえ!」

「現場の足場から落ちてその程度の怪我で済んだのは幸運なのですから、次は気を付けて下さいね」

「はい! ありがとうございます聖女様!」


 腕の骨折を治してもらった男性は、驚愕と感激で聖女と呼んだシシリーに手を取ろうとした。


「はい。お帰りはあちらです」

「お大事に」

「ちょ、ちょっ!」


 その男性の腕を、シシリーの両脇に控えていた女性神子の二人が掴み、外へと連れて行った。


 彼女たちは、シシリーの治療のサポートをすると共に、先程の男性のように接触してこようとする者からシシリーを守る役割も兼ねていた。


「まったく、ああいう輩は一向に減りませんね」

「大丈夫ですか? 聖女様」

「あ、はい。いつもありがとうございます、コレットさんバーディさん」


 コレットと呼ばれたのは金髪の癖ッ毛を短くしている女性神子で、バーディと呼ばれたのが茶髪でセミロングの髪の女性神子である。


 二人は、シシリーが治療院に来た際の助手兼護衛として、常に側についていた。


「聖女様には御使い様がいらっしゃるというのに、何を考えているのでしょうか?」

「まあ、聖女様の奇跡の御業を目の当たりにすれば、あのように感動するのは分かりますが……」

「あ、あはは……」


 奇跡の御業。


 そう言われたシシリーは思わず愛想笑いを浮かべてしまった。


 シシリーが使った治療魔法は、シンによって狩りに連れていかれ、動物を解体することで生物の体の仕組みを知り、更に肉や骨の構造を教えて貰った結果使えるようになった、いわば知識の結果である。


 奇跡でもなんでもないのだが、それを言っても彼女たちには聞いて貰えないのはもう分かっているので、愛想笑いを浮かべてしまったのだ。


 ちなみに、市民レベルでは魔法使いの王という意味で『魔王』と呼ばれることが多いシンだが、創神教内部では教皇が認めたことで『御使い様』と呼ばれることが多い。


 先程の男性は、近くの建築現場の足場から落下し、腕を骨折したと運び込まれたのだった。


 腕が折れてしまっては仕事に行くことができない。


 仕事に行けなければ稼ぎが出ない。


 なんとかしてくれと泣きつかれ、それを簡単に治療してしまったので、男性は感極まってシシリーに手を伸ばしたのだった。


 シシリーのもとに担ぎ込まれるのは、こういった重症患者が多い。


 教会が経営している治療院だが、無料ではない。


 そんなに高額ではないが、少しの治療代は徴収している。


 その治療代は教会の運営費にまわり、神子や治癒術士の給与、教会が運営する孤児院の運営費や管理維持費に利用される。


 治癒術士の給与にも使われるということは、治療院にいる他の治癒術士を遊ばせるはずもない。


 その治癒術士たちの手に負えない患者がシシリーのもとに運ばれてくるのだ。


 そして、そんな患者はそうそういないので、男性を送り出した後、少し時間ができた。


「聖女様、お茶にしませんか?」

「そうですね。今は患者さんも……」

「聖女様! 急患です!」

「……いるので終わってからにしましょう」

「そうですね……」


 コレットが少し休憩しようと提案した途端に急患が入った。


 残念そうにする彼女だが、運ばれてきた患者を見て、息を呑んだ。


 運ばれてきたのは、七~八歳の女の子。


 頭から血を流し、腕と足は変な方向に曲がり、腹部からも出血が見られる。


「ひ、酷い……」

「馬車の荷物が荷崩れを起こして! その下敷きになったんです! この子は私を突き飛ばして! 自分が……」


 少女の母親と思われる女性が、号泣しながら状況を説明する。


 どうやら、この少女は母親を荷崩れから守ろうと突き飛ばし、自分が下敷きになってしまったようだ。


 泣き叫びながら少女にすがりつく女性。


 その女性を見ながら、シシリーは母親に言った。


「お母さん。娘さんは必ず助けます。ですから離れて見守っていてください」

「せ、聖女様……」


 微笑みを浮かべるシシリーの顔を見て、少し落ち着きを取り戻した母親は、娘から離れシシリーの治療の様子を見る。


 早速治療を開始たシシリーは、まず始めに頭部をシンから教わった超音波の魔法で調べ始める。


 少女の心臓はまだ動いている、なので体の傷よりまずは頭部に損傷がないかどうかを調べたのだ。


 頭部をスキャンしたシシリーは、頭蓋内の出血を感知し、その血を慎重に抜き取る。


 破れた脳血管を修復したシシリーは、脳全体に治癒魔法をかける。


 脳の構造を理解しているわけではないが、シシリーは元々慈愛の気持ちが強く『癒したい』と強く願えば治癒魔法は発動する。


 頭部の治療を終えたシシリーは、続けて体の状態を見る。


 内臓がいくつか損傷しており、それを漏れのないように治療していく。


 内臓の出血や損傷がなくなると、次に折れた腕と足の骨折の治療に移る。


 その頃には、少女の呼吸は落ち着いてきており、シシリーも言葉違わず少女を救えたことにホッとする。


 最後に体全体を調べて、治癒魔法をかけると、少女がうっすらと目を開けた。


「……おかあ……さん?」

「あ、ああああ」

「ふぅ……もう大丈夫ですよ、おかあさあああっ」

「ありがどうございばず、せいじょざまああっ!!」


 もうダメだと思っていた娘が、目を開け自分を呼んだ。


 そのことに感極まった母親が、シシリーを熱烈に抱きしめた。


 いつかスイードで、自分の代わりに男性を治療したシンが、男性の奥さんからされたのと同じようなことをされていたが、まさか自分が同じような目に遭うとは思いもしなかった。


 そのことに苦笑しつつ、母親の背中をポンポンと叩く。


「お母さん。今は娘さんについてあげてください」

「はい! はい! ありがとうございます!」


 涙で顔をぐちゃぐちゃにしながら、母親は娘のもとに行き、その手を握った。

 

 すると娘が、おもむろに口を開いた。


「おかあさん……だるい……」

「当たり前だよ! アンタ、今死にかけてたんだからね!」

「え? なんで……あ、馬車……」

「本当にもう! 無茶なことして!」

「おかあさんは? けがしてない?」

「してないよ、アンタのお陰でね」

「よかった……」

「本当にもう……ありがとう……ごめんね」


 母親はそう言うと、寝ている娘をギュッと抱きしめた。


 その光景を見ていたシシリーは、親娘の様子を見て助けられて良かったとホッと息を吐いた。


 そして、その治療の様子を見ていたコレットとバーディは。


「「き、奇跡の御業!!」」


 シシリーが瀕死の少女を救ったことに驚愕し、感動していた。


 しばらく体を休めた娘は、すぐに動けるようになり、治療院を出ようとしていた。


 寝かされていたベッドから降りた娘は、シシリーの方へ歩み寄ると。


「ありがとうせいじょさま!」


 満面の笑みを浮かべてお礼をしてくれた。


 運ばれてきた時は瀕死だった少女が元気に挨拶をしてくれたことに、フッと微笑んだシシリー。


「いえ、どうしたしまして。もう無茶しちゃダメですよ?」

「えー? でもからだがかってにうごいちゃったんだもん」

「そうですか。お母さんのこと大好きなんですね」

「うん! おかあさんだいすき!」


 大好きな母親の危機に勝手に体が動いたと言う娘。


 その娘の笑顔を眩しそうに見つめるシシリー。


 やがて母親に連れられて娘は治療院を後にした。


「それでは聖女様。この度は、本当にありがとうございました」

「ばいばい、せいじょさま!」

「さようなら。お大事に」

「うん! おかあさん、いこ!」

「はいはい。それでは失礼します」


 仲良く手を繋いで帰路につく二人をしばらく見ていたシシリーだったが、その姿を見てポツリと呟いた。


「可愛い子だったな……いいなあ」


 その言葉を聞いたコレットとバーディは、途端に色めきだった。


「え!? 聖女様、お子さんが欲しいんですか!?」

「御使い様と聖女様のお子様……予定日はいつですか!?」

「え、ええ!? そ、そんな予定はありません!」

「またまた〜、あの子を見ていいなあって言ってたじゃありませんか!」

「生まれてくる子は、あんな親を大事にする子がいいなって意味ですよね? それってもう……」

「違いますから! あんな子が欲しいって言うのは間違ってませんけど、今は予定ありませんから!」


 真っ赤になって否定するシシリーだが、コレットとバーディはシシリーの発言を見逃さなかった。


「「やっぱり子供が欲しいんじゃないですか〜」」


 ニヤニヤしながらそう言う二人に、シシリーは真っ赤になる。


「も、もう! 知りません!」


 ぷうっと頰を膨らませ、そっぽを向いたシシリーを、コレットとバーディはずっとニヤニヤしながら見ていた。






 ダーム王国にある王城。


 王城は王族の住まいであるが、政治の拠点でもある。


 その中には軍の施設もあり、その一室に数人の人間が集まっていた。

 

「首尾はどうですか? カートゥーン長官」


 軍人と思われる男性が、軍の長官であるヒイロ=カートゥーンに尋ねる。


「上々だな。今回の作戦が無事に終わった後、ダームは新しい時代に入るぞ」

「今までの失態続きで、ダームの社会的地位は地に落ちましたからな……どうにか逆転の一手を打たねば」

「そうだな。そのために……」


 カートゥーンは天井を見上げながら呟く。


「人柱になって頂かないとな」


 そのカートゥーンの呟きに、集まった人間は沈痛な面持ちになる。


 ダームの一室で、秘密の話し合いは続いていた。


 






「リン」

「なに? アリス」


 アールスハイドにあるリンの自宅。


 そのリンの部屋でアリスとリンが二人で向かい合っていた。


 真剣な面持ちのアリスは、正面に座っているリンに向かって言う。


「いよいよ……これの出番だよ」

「こ、これは……!」


 アリスの差し出したものを見て、言葉を失うリン。


 アールスハイドの一室でも、秘密の話し合いは行われていた。

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別作品、始めました


魔法少女と呼ばないで
― 新着の感想 ―
[一言] 以前のバイブレーションソードの話でこの世界には超音波という概念が無いと書いてあったはずだけど、シシリーはシンの説明で超音波の概念を理解したみたいですね。 さすがは聖女の称号を与えられるだけ…
[気になる点] かなり先の話で小さな子供の頃に瀕死の重症を負い、生還したら前世の記憶が甦るって話になってたはずだけど、シシリーに助けられた子供は前世の記憶戻らないのかな?
[気になる点] 77 それぞれの戦いそれぞれの称号、ではマークは本人にトニーと呼び捨てにしているのに、この話では本人居ないのに「さん」付けしている。
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