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賢者の孫  作者: 吉岡剛
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フラグを回避しました

なんとか年内に間に合いました。


皆さん、良い御年をお迎え下さい。

「ほ、本当ですか?」


 アールスハイド王国王城にて、国王であるディセウムが、王城を訪れてきたマーリンとメリダに対して驚きの声をあげる。


「うむ。この戦に万が一敗れるようなことがあれば、世界は終わりを迎えるじゃろう」

「だったら、若い者に任せるとか言ってないで、出せる戦力は全部出してやろうと思ってね」


 マーリンとメリダは、もう間もなく開戦される、魔人オリバー=シュトロームとの最終決戦に向け、ある提案をしにきていた。


 その提案とは……。


「マーリン殿とメリダ師が此度の決戦に参加してくださるとなれば、戦力の増強の意味でも、兵士達の士気向上の意味でも、非常に大きな意味があります」


 マーリンとメリダの二人も、シュトロームとの最終決戦に参加するというものだった。


「ホッホ。まあワシ等の動機は不純なんじゃがの」

「そうだねえ、絶対に負けられない。負けたくない理由が……」


 そう言ったメリダはフッと微笑み。


「曾孫の顔が見たい、だからねえ」

「ひ、曾孫ですか……」


 マーリンとメリダの孫であるシンと、その婚約者であるシシリー。


 二人は非常に仲睦まじく、この人類存亡の危機が無ければ、既に妊娠していてもおかしくない程イチャイチャしている。


 だが、人類史上最強の魔法使いであるシンはともかく、その婚約者であるシシリーの実力ですら、人類の中で上から数えた方が早い位置にいる。


 そんな実力を持つ魔法使いが戦場に出られないのは大きな戦力ダウンであり、メリダだけでなく、世間的に納得ができない。


 なので、この戦いが終わるまでは、シンとシシリーの子供……すなわちマーリンとメリダの曾孫の顔を見ることは叶わない。


 なにより、この戦いに敗れれば、人類自体の存亡に関わる。


 曾孫の顔が見たいがために、この戦いに絶対に負けたくないマーリンとメリダは、この期に及んで出し惜しみなどしている場合ではないと、自身の参戦を決めたのだ。


「こうなると、ミッシェルにも声を掛けておくかの」

「そうだね。最近は弟子の稽古ばっかりで実戦から遠のいてるだろうしね」


 人類の存亡を賭けた戦いに挑もうというのに、マーリンとメリダには気負いが感じられない。


 ちょっとピクニックにでも誘おうかという気軽さで、元騎士団総長であるミッシェルにも声をかけようかと相談している。


 そんな二人を、ディセウムは懐かしそうな顔で見ていた。


「すっかり、好々爺になったかと思っていたのですが、戦闘となると相変わらずですな。マーリン殿」

「ム? どういう意味じゃ?」

「なんだい、気付いてないのかい?」

「だから何が?」


 ディセウムとメリダに指摘されたマーリンは、二人が何を言っているのか全く分からない。


 そんなマーリンを見て、メリダとディセウムは苦笑した。


「アンタ、笑ってるよ」

「その顔、昔はよく見ましたな。獰猛で、戦いを楽しみにしている狩人の顔です」

「ムム、そうじゃったか」


 二人の指摘に思わず顔をさするマーリン。


 全盛期に比べれば、肉体的な衰えはあろうが、シンに刺激を受け、魔法的にはさらなる進歩を遂げているマーリン。


 この二人の参戦を発表したら、兵士達がどのような反応をするのか。


 年甲斐もなく、ワクワクしているディセウムであった。





--------------------------






「ええ!? じいちゃんとばあちゃんも参戦するの!?」

「ほ、本当ですか!?」


 王城に行っていた爺さんとばあちゃんが帰ってくるなり、衝撃の告白を受けた。


 なんと、今度のシュトロームとの最終決戦に、爺さんとばあちゃんも参戦するというのだ。


「なんだい、アタシらが戦っちゃいけないってのかい?」

「い、いや、そんなことは思ってないけど……急にどうしたのさ?」


 これまで、爺さんとばあちゃんは若い者の戦いに年寄りが首を突っ込むべきではないと、俺達が魔人を相手に戦っている時でも参戦することはなかった。


 まあ……一度討伐し損ねた魔人がアールスハイドに迫った時は尻拭いをしてもらったけど……。


 こうして積極的に参加することはなかった。


「ウム、今度の戦い、魔人の全勢力との全面戦争じゃろう?」

「そうだね」

「つまり、この戦いが最後の戦いな訳だろ?」

「まあ、そうだね」

「もし、もしもだよ、万が一アンタ達が敗れるようなことがあれば……」

「その時は、人類の終わりじゃろうな」


 そう。今度の戦いに、各国はそれぞれの最大戦力を投入する。


 絶対に敗けられない戦い。


 そのために、バイブレーションソードまで貸し出した。


 その人類の最大戦力が敗れるようなことがあれば、もう人類に魔人を止める手立てはもうない。


 俺達が敗ける。それはイコール人類の終焉を指す。


 それは分かっているんだけど……。


「けど、お爺様もお婆様も、これまでは『今の世界の問題は今の世代が解決すべきだ』と不干渉を貫いてこられましたよね? どうして急に?」


 そう、シシリーが指摘する通りそれが分からない。


 昨年の魔人領攻略作戦の時も、爺さんとばあちゃんは積極的には参加しなかった。


 最後の最後で、俺達が詰めを誤り、アールスハイドに被害が及びそうになって初めて動いたくらいだ。


 それがどうして?


「なに、今の世界問題を今の世代が解決すべきだという考えに変わりわないのじゃがの」

「今ままでは、シンの力があればそうそう敗けることなんかありゃしないと思っていたんだけどね。今度の相手はそうはいかないだろう?」


 確かに、今度の戦いの最大の敵、シュトロームに関しては、絶対に勝てるとは言い切れない。


 昔、アールスハイドの警備隊練兵場でやり合ってから一年以上経っているし、その間にシュトロームは大量の魔人と災害級の魔物という戦力を整えてしまった。


 シュトローム自体の力も増大していると考えていいのかもしれない。


 ……魔人に鍛錬の必要があるなら……だけど。


 それに今度の魔人達は、今まで相手にしてきた魔人と様子が違う。


 俺がいない時に相対したオーグ達が敗けかけたほどだ。


「もし、アンタが敗けてごらん。アタシ達は、とんでもない後悔に苛まれることになる」

「ならば、傍観して後悔するより、いっそのこと参戦してしまおうと考えての」


 後悔先に立たずって言うしな。


 その可能性があるなら、後悔する道は選ばないということか。


「それにのう……」

「まだあんの?」


 今の説明でもある程度納得したんだけど、爺さんにはまだ理由があるらしい。


「今までは、若い者が問題を解決すべきと手を引いておったが、正直体が疼いてのう」

「我慢してた分、暴れたいのさ」

「とんでもない理由だ!?」


 え? なに? 二人とも実は戦いたいの我慢してたの?


 うわ……爺さんの顔が、今まで見たことない不敵な笑みを浮かべてる。


 いつもの好々爺はどこいった!?


「お爺様もお婆様も、やはり戦士なのですね。昔、本で読んだ通りです。さすがです!」

「え?」


 俺は、好戦的な爺さんとばあちゃんに心底驚いたのだが、シシリーはそうでなかったらしい。


 二人を見て、瞳をキラキラとさせている。


 そしてそれは、シシリーだけではなかった。


「おお、大旦那様、大奥様……英雄が……英雄が御戻りになられた!」

「ああ、なんと素敵なことなのでしょう!」


 執事長のスティーブさんも、メイド長のマリーカさんも、尊敬と憧れの籠った眼を向けている。


 ほかの使用人さん達も同様だ。


 ……ゴメン、身内はこのテンションに着いていけません。


 しかしまあ、皆のこのテンションの上がり具合を見ると、兵士さん達も同じ反応をするだろう。


 むしろ、過去の英雄と一緒に戦えるとなると、さらに盛り上がるかも。


 そういう、士気を高めるという意味では、爺さんとばあちゃんが参加するだけでも意味はあるのかな。


 それはともかく、これだけは注意しとかないと。


「じいちゃん、ばあちゃん」

「ん? なんじゃ?」

「どうしたんだい?」

「……張り切り過ぎて、他の人の功績を横取りしちゃダメだよ?」


 そう釘を刺すと……。


「「……」」


 フイッと、二人揃って視線を外しやがった。


「ちょっと! 本気で大暴れするつもり!?」

「まあ、それぐらいで丁度エエじゃろ」

「そうだね。アタシらは魔物の方をヤッとくから、アンタは魔人の方をしっかり頼んだよ。そんで……」


 大暴れすることを肯定した爺さんとばあちゃん。


 ばあちゃんの方は、まだ何か言いたいことがあるみたいで、俺とシシリーを交互に見て、ニヤッと笑った。


「勝って帰ってきたら、アタシらに曾孫の顔を見せるんだよ? 分かったね?」

「ちょっ! な、なに言って!?」


 なんだよ、その死亡フラグっぽいの! 本気でやめてよ!


 俺は、ばあちゃんの言った言葉が死亡フラグに聞こえたので焦っていたが、シシリーの方はそれどころではなかったらしい。


「ひ、曾孫……シン君のこども……男の子がいい? それとも最初は女の子? やだ『最初は』だなんて……」


 シシリーは、俺の隣で何か妄想をしているのだろう、顔を赤く上気させながらクネクネしていた。


 ……なんだろう……死亡フラグが回避されたような気がする……。


「と、とにかく、怪我とかしないでよ!?」

「ホッホ、ここ一年ほど王都におるから魔物は狩っとらんが、まあ大丈夫じゃろ」

「そうさね。魔物ごときに、アタシの防御魔法が抜かれるとは思えないね」


 またフラグっぽいこと言った!


 もういい加減にして!


 そう思って、隣のシシリーを見る。


「名前はどうしよう? 二人で考えるべき? それともお爺様とお婆様の意見も聞いたほうが……でも、やっぱり……」


 今度は、何かを真剣に考えながら妄想に耽っているシシリーがいた。


 うん。


 なんとなく、フラグを回避した気分になった。


 まあ、この二人ならよっぽどのことが起きても大丈夫だろう。


 災害級の魔物の群れの方は、爺さんとばあちゃんがいるなら殲滅も時間の問題だろうし。


 となると問題はやっぱり俺……ということになる。


 もう決戦まで日がない。


 そろそろ、アレ、試してみるか……。

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