試してみました
説明がうまくできず、何回も何回も書き直してしまい、更新に時間が掛かってしまいました。
それでもうまく説明できているかどうか……。
ご容赦ください。
ちなみに、前話ではオーグとシシリーとじいちゃんばあちゃんに詠唱について説明しました。
「ほえぇ、詠唱にそんな効果があったんだ!?」
「知らなかった」
オーグとシシリー、そしてなぜかエリーに詠唱と魔力についての説明をした翌日の学院にて、Sクラスの皆に同じ話をした際のアリスとリンの反応だ。
このクラスの中で、話を聞いていたのはオーグとシシリーだけだし、一応有用な話ではあるので皆に知らせておこうということにしたのだ。
ちなみにオーグの発案です。
この、詠唱により少ない魔力でも高度な魔法が使えるという事実は、使い道が限定的で、なにより戦闘時にあまり活用されないということから、一般にも公開されることになった。
実はあの後、この話をアールスハイド魔法学術院に持ち込んだのだが、その時の研究員さん達の顔が面白かった。
驚いて、呆けて、その後興奮しだしたのだ。
そして、魔法学術院からの発表の前に、チームの皆に発表したという訳だ。
「魔力は心に反応する……魔法に一番大事なのはイメージだと昔から言われているのに、気が付かなかったなんて……」
トールは気が付きそうで気が付かなかった内容に、ちょっと悔しそうな顔を浮かべていた。
「それにしても、シンの頭の中はどうなっているんだい?」
「そうで御座るな。攻撃魔法はまさに規格外で御座るし……」
「魔道具は意味不明だしぃ」
「世界の謎だった魔石の生成も解明したッスね」
トニーが呆れながら言った言葉に、ユリウス、ユーリ、マークが賛同した。
皆、同じような呆れ顔だ。
な、なんだよう。
皆からの褒めてるんだか貶してるんだか分からない言葉に微妙な気持ちになっていると、昨日に説明を聞いていたオーグから別角度の質問が飛んできた。
「そもそも、今回のこの話は、当たり前すぎて皆が疑問にすら思っていなかったことだ。シン、お前いつから疑問に思っていた?」
いつから?
いつからって言われると最初からなんだけど……それを言ったら、また変な顔されそうだ。
ここは少し誤魔化すか。
「えーっと……じいちゃんに魔法を教えてもらった時かな?」
「なっ、なんだと!? お前、確か初めて魔法を使ったのは三歳の時だと言っていなかったか!?」
あ、しまった。
最初って、前世の記憶が蘇った一歳くらいの時を想定してたんだけど、初めて魔法を使ったのって三歳の時だった!
こうなったら、このまま誤魔化すしかない。
「え、あー……そ、そう。凄く不思議だったんだよ。なんで薪も無いのに火が出るんだろうとか、井戸も無いのに水が出るんだろうとか……」
「……天才の発想は我々には理解できんな。三歳の頃の記憶などほとんど無いが、魔法や魔道具に関して疑問を持ったことなど一度もない」
「私、三歳だったら記憶すらありませんよ? 一番古い記憶が四歳くらいです。五歳のお披露目会あたりからよく覚えてますけど……」
お? なんか、うまい具合に勝手に勘違いしてくれてるのか?
オーグとマリアが、呆れ気味ながらも自分の中で折り合いをつけてくれたようだ。
「シン君にとって、この世界は不思議に満ち溢れてるんですね。私、そんなこと考えたこともなかったです」
「そうですね。この疑問を感じる能力こそ、ウォルフォード君の凄さの本質じゃないかと思い始めました」
最近、妙に仲がいいシシリーとオリビアは素直に感心してくれているようだ。
そんなシシリーとオリビアに癒されていると、最初に感心した後、何かを考える素振りを見せていたアリスから質問があった。
「ねえねえシン君! 魔力が自分の心に反応してるってことは、自分の思い通りになるってことだよね!?」
「まあ、そう言われればそうかな?」
「なるほど! 分かったよ!」
何かを理解した様子のアリスが、また考える素振りを見せた後、魔力を集め始めた。
おい! ここ教室だぞ!?
結構な量の魔力を集めてるけど大丈夫か!?
そう思った次の瞬間、アリスが何やら詠唱を始めた。
『我は求める! 我の心とお腹を満たすべく、甘美にして甘味なるケーキをここに創り出せ!』
……おい。
『スイーツ!!』
アリスのその意思ある言葉と共に、霧散していく魔力。
っていうか、詠唱している段階から霧散し始めてたよな?
魔力が完全に霧散し、辺りには重苦しい沈黙がおりる。
呆れているのか、笑いを堪えているのか。
誰一人言葉を発しようとしない。
そんな中、一人真っ赤になったアリスがキッと俺のことを睨んだ。
恥を掻いたことの八つ当たりか?
「シン君の嘘つき!! こんなに心から欲してるのに、ケーキが出てこないじゃない!!」
「アホか!! そんなもん出てくる訳ないだろ!!」
八つ当たりかと思ったら、まさかのマジギレだった。
心に反応するって、そういうことじゃないんだよ!
「アリス……」
「なに? リン」
「……バーカ」
「ムキャー!」
リンとアリスの追いかけっこが始まった。
確かにアリスの行動はアホ以外のなにものでもないけど、お蔭で一つ確証したことがある。
それは、魔法では物体を作り出すことはできないということだ。
いや、正確には『物体のような複雑な物は簡単に具現化できない』って言った方がいいかな?
恐らく魔力とは、この世界に充満する精神感応生の高い物質。
その物質が俺達の心に反応し、イメージした結果に合わせてその『質』を変容させるものだと推測している。
ここで注目なのが、変容するのが『質』だけだということ。
物体は、色んな要素が絡まり合って構成されているので、質だけ変えても物体は具現化されない。
そして、その『質』を変容させずに結晶化したものが『魔石』なのだろう。
透明な石のような見た目から『魔石』と呼ばれているけど、本来なら『魔力結晶』と言った方が自然なんだろうな。
とまあ、そんな仮説は立てていたんだけど、魔石生成以外の実証はしていなかった。
だってねえ……。
いくら実験とはいえ、魔法でケーキを創るとか、そんなアホみたいなことを実行するのには結構な勇気がいるものなので……。
それが、先ほどのアリスの失敗により、ほぼ確証を得る結果になった。
アリスは残念な子だけど……今の実験結果は大いに褒めていいところだろう。
何をそんなに褒めているのかと、皆の追及が怖いのでやりませんけどね!
そして、今の失敗したアリスの魔法だが、その中で一つ気になるところがあった。
「アリス」
「はぁはぁ、な、なに?」
リンを追いかけまわして息切れしているアリスを呼び止め、さっきの魔法について聞いてみることにした。
「さっきの詠唱なんだけど、あれって自分で考えたのか? それとも、なにか参考にした?」
「自分で考えたよ?」
「あの一瞬でか?」
「そう。でも、おかしいんだよね。今まで適当に作った詠唱でも失敗したことなかったのに、なんで今回は失敗したんだろ?」
適当って……そんなんで発動すんのか?
今回失敗した理由は分かっているので、それはスルーして詠唱について考える。
詠唱は適当でもいい。
そうか、元はイメージの補完として考えられていたって話だっけ。
そんな曖昧な認識でも発動はするんだ。
魔力って、本当に俺達の心に直接反応しているんだな。
そして、言葉とは自分のイメージをより明確にする効果が確かにあるみたいだ。
そういうことなら……ちょっと試してみようかな。
「放課後、荒野に行ってみるか……」
実験したいことがあるので、荒野に行こうかと考えていると、つい口に出してしまったようだ。
皆がギョッとした顔をして一斉に俺を見た。
「なんだ? 今度は何をやらかすつもりだ?」
「ウ、ウ、ウォルフォード君! 本当に、マジで! 世界を破滅させることだけは勘弁して下さい!」
俺が何かやらかす前提のオーグも非道いけど、それ以上にオリビアが非道い。
世界を救うための戦いに挑もうっていうのに、その前に壊してどうするよ!
「別に何もやらかさないし、世界を破滅させたりもしないよ! ただちょっと実験したいことができたんだよ!」
「実験? ならメリダ様にも報告しなくちゃ」
「あ、そうだったねマリア。シン君、実験はお婆様立ち合いでないと怒られちゃいますよ?」
シシリーの言う通り、実験にはばあちゃんの立ち合いもいるか。
なら、放課後は直接荒野に行くんではなくて、一旦家に帰ってからになるな。
放課後の予定が決まり、どういう感じの実験にしようかと考えていると、アリスに思考中断させられた。
「ねえ、なんでケーキが出てこなかったの? ねえシン君、なんで!?」
まだ諦めてなかったのかよ!?
とりあず、物体は複雑だから無理とか、適当な理由を説明しておいた。
信じたのでそれ以上説明するのは止めた。
もっと細かく説明してもいいけど、何でそんなことを知っているのか、そっちが説明できないからね。
そして迎えた放課後。
既に一度家に戻り、お目付け役のばあちゃんだけでなく、俺のやることに興味津々の爺さんも連れて荒野にやってきた。
ばあちゃんは、すでにこめかみと胃のあたりを押さえている。
「アンタの魔法実験に付き合ってこの場所を訪れる度に、胃が痛くなるよ……」
「小心者の婆さんじゃな。ワシなんぞ、今度はシンが何を見せてくれるのか楽しみでならんわい」
「アンタがそんなんだからシンがこんなことになったんだよ!」
あ、初めて魔法を披露した時のデジャヴだな。
爺さんがばあちゃんに締め上げられてる。
「ねえ、二人とも。じゃれあってないで、そろそろ始めていい?」
「「じゃれ合ってない!!」」
「息ぴったりじゃん」
こんなに息が合っているのに何を言ってんだか。
「……相変わらず、あのお二人の喧嘩は止められる自信がないのだが……」
「さすがは身内ですね。ああもアッサリとお二人の喧嘩を止めてしまうとは」
オーグとトールから、予想しない賛辞が寄せられた。
そこを褒められても嬉しくないから。
それはともかく実験だ。
「えーっと、まずは……」
魔法を起動するために魔力を集める。
その量は……極小。
魔法使いとして、魔法を発動させることができるギリギリだ。
「これはまた……今までと真逆の展開だね」
「フム。何をするつもりなんじゃ?」
ほら、やっぱりただのじゃれあいだった。
爺さんと婆ちゃんの会話を聞きながらもツッコミは入れない。
これから行うことに対しての、緊張と集中が半端じゃなかったからだ。
これから行うのは詠唱の実験。
ただし、今まで一度も詠んだことがない詠唱を、今更作るというのも無理な話。
そこでヒントになったのが、先日のアリスの詠唱だ。
魔法そのもは失敗したけれど、詠唱についての考え方を聞けた。
詠唱の定義がそこまで厳密でないのなら、あまり恥ずかしくない方法でも発動するのではないかと考えたのだ。
「じゃあ、いくよ」
試してみるのは火の魔法。
以前、魔法学院の入試で見たような詠唱は、恥ずかしくてやりたくない。
だけど、これなら……。
『着火』
その一言で、僅かに集めた魔力が反応し火種ができた。
『燃焼促進』
火種に可燃性の物質を加えるように言葉を発すると、火種は劇的に大きくなった。
『範囲指定』
そして忘れちゃいけない、魔法効果範囲の指定。
『発射』
最後に発動の言葉を発すると、大きくなった火の玉が発射された。
着弾した火の玉は、後ろと左右には効果を及ぼさず、前方にのみその威力を解放した。
その着弾した場所を見てみると……。
「おお……スゲエな……」
ごく少量の魔力だけで魔法を放ったというのに、初めてディスおじさん達に魔法をお披露目した時と同じくらいのクレーターができている。
「詠唱ってすごいな」
そう言いなが皆の方を振り返ると……呆れるでも怖がるでもなく、微妙な顔をしていた。
何で?
「シン、お前、詠唱って……」
「なんか違う! なんか違うよシン君!!」
「そうですよ! 詠唱っていうのは、もっとこう……詩的というかなんというか……」
オーグは困惑している様子で、アリスはちょっと怒っているし、オリビアは詠唱とはもっと詩的なものだと訴えかけてくる。
えー、だからその詩的な詠唱をしたくなかったんだって。
詩的な詠唱をしたくなかった俺は、一つ一つの現象を口に出してみることにした。
その結果が、さっきのオリジナル詠唱だ。
……いや、正直あれを詠唱と言っていいとは思ってないよ?
でも、詩的に言っても、業務的に言っても効果は変わらないんだったら、俺は業務的に言う方を選ぶ。
「まあいいじゃん。結果は同じなんだからさ。それに実戦では詠唱は使えないしね」
実験した結果、やっぱり詠唱は戦闘では使えないと思った。
前から指摘がある通りに、起動する魔法がすごく限定されてしまい応用が利かない。
それに、今の実験で新たに分かったけど、起動までに時間がかかる。
もし詠唱を使うとしたら、長距離からの攻撃に使うしかない。
そんなことを説明すると、リンからある提案があった。
「なら、魔都を囲っている壁の上から、魔都に向かって魔法を放てばいい」
リンの提案に、俺以外の皆は複雑な表情を浮かべている。
この世界の戦争は、まず始めに互いに魔法を撃ち合い、その後に軍隊同士が衝突するのが主で、そこに色々な搦め手は存在するけれども、長距離から魔法によってに一方的な攻撃することは、卑怯というかなんというか、そんな感じで取られてしまう。
なので、皆はそれが有効な手段だとは思いつつも、どうしても卑怯な手段という思いがよぎり、結果複雑な表情に表れてしまったのだが、俺は違う。
安全な位置からの超長距離遠隔爆撃とか前世では普通だったし、地上戦は泥沼化するという認識がある。
なので、心情的にはリンの意見に賛成なのだが、とある理由でそれは却下せざるを得ない。
「確かに良い手なんだけど……それはできない」
「なんで? やっぱり卑怯?」
リンもこれが卑怯な手段だという自覚はあるんだろう。却下された理由を、卑怯だからだと思っている。
「良い手だって言ったろ? その攻撃手段自体は間違ってないと思う。でも……」
「でも、なんだ?」
言い淀んだ俺に、オーグが先を話せとせっついてくる。
「生半可な魔法じゃ、シュトロームに勘付かれて防御されると思う。となると、それを超える魔法を放たなきゃいけないんだけど……」
そう言って皆の顔を見ると、皆緊張した面持ちで俺を見ていた。
「……そんな超強力な魔法を遠距離から放つと……あの辺り一帯のかなり広い範囲が、人の住めない土地になっちゃうぞ?」
「やっぱりこの話はなし。忘れてほしい」
言い出しっぺのリンが、即座に自分の案を却下した。
俺がリンの提案を実行した場合の被害を想像したのだろう、皆が青い顔をしている。
「先に話を聞いておいてよかったな。そうでなければシンにその作戦を依頼していた可能性もあった」
「そうですね。やはり魔都に侵攻し、直接魔人達を討伐するしかないですね」
オーグが、やれやれと溜息を零しながら、事前に聞いておいて良かったと言い、トールは今回の戦闘の方針を確認した。
「じゃあ、もうちょっと練習しとこうかな」
「今度は何の魔法を試すつもりだ?」
「爆発魔法」
俺がそう言った瞬間、皆が俺の周りから蜘蛛の子を散らすように、ジェットブーツまで起動して離れていき、自身と魔道具の両方の魔力障壁を展開した。
「いつでもいいぞ!」
「ドンと来い!」
「でもお手柔らかにいっ!!」
オーグ、アリス、オリビアが、準備万端というべき状態で声をかけてきた。
おい。
さっき指向性の実験もしただろうがよ。
どんだけ信用ないんだ? 俺。
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シンが火の魔法に続いて、爆発魔法を試そうとしワイワイ言い合っている光景を見ながら、メリダはポツリとあることを呟いた。
「あの子は良い友達を持ったねえ」
「本当にそうじゃな」
メリダとマーリンは、感慨深そうな顔をしながらアウグスト達とじゃれあっているシンを見た。
「さっきの話を聞いても、変わらずにあの子と接してくれておる」
シンは、リンの提案に対して、遠距離からシュトロームを倒せるほどの魔法を『使えない』のではなく『使わない』と答えた。
それは即ち、シンが周囲数キロを壊滅させてしまう魔法を使うことができると告白したことになる。
それでも、アウグスト達はそんな魔法が使えるシンを怖がることはせず、むしろ使わせなくて良かったと言った。
そして、シンもアウグスト達に説明する際に、自分が広範囲殲滅魔法を使えることを話すことを躊躇しなかった。
シンも、皆のことを信頼し、怖がったりしないと確信していたからだ。
「あの子を魔法学院に入学させることは、期待もあったけど不安な部分も多かったからねえ。あの隔絶した力を怖がって寄ってくる子がいないんじゃないかってね」
「ホッホ、ワシは確信しておったよ。シンは良い子じゃ。あんな良い子を邪険にする者などおりはせんとな」
「フン、後からならなんとでも言えるさね」
「なんじゃと?」
そう言い合った後、しばらく睨み合っていたマーリンとメリダだったが、やがてお互いにフッと笑みをこぼした。
「まあ、そんな心配も過去の話じゃ。見てみい、あの楽しそうな様子を」
「可愛い婚約者まで見つけてきてねえ。アタシは曾孫の顔が早く見たいよ」
「それもこれも……」
「ああ、この戦いに勝ってからの話さね」
「ウム、そうなれば」
「ああ、そうするかい?」
先ほどまでの、楽しそうな様子の孫を見ている祖父母の笑顔から、歴戦の戦士の顔になる二人。
そうして、お互いの顔を見合っていると……。
「「っ!!」」
思わずお互いに首を竦めてしまうほどの大音量が響き渡った。
「な、なんじゃ!?」
「一体、何事だい!?」
二人が視線を向けた先には『ヤベッ』という顔をしてこちらを向いているシンがいた。
恐らく、続けて行った爆発魔法の詠唱実験で、魔力の加減を間違えたのだろう。
周囲の空気を震わせるほどの大爆発を起こしてしまったのだ。
せっかくのシリアスなシーンを台無しにされたことと、また無茶苦茶なことをしでかしたシンに対して、メリダの怒りが爆発した。
「シン!! 本当にこの子は!!」
「わあっ! ゴメン、ばあちゃん!!」
「これっ! お待ちぃっ!!」
逃げるシンと追いかけていくメリダ。
その二人を見ながら、マーリンはやれやれといった風に肩を竦めた。
そして、先程メリダと確認し合ったことを考えた。
「さて、ディセウムになんと言おうかの」
そう呟きながら、メリダに説教をされているシンを見つめていた。
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