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賢者の孫  作者: 吉岡剛
108/311

上げて落とされました

熱中症と腸炎を併発して死ぬほど苦しんでました。


……ホントに死ぬかと思った……


これから更に暑くなるので、皆様もご注意を。

 アールスハイド王城内にある会議室に、魔人領周辺国の国家元首、そして、イース神聖国のエカテリーナ教皇と、エルス自由商業連合のアーロン大統領が集まっていた。


 その会議室の空気は重く、誰一人口を開こうとする者はいない。


 ただ一人を除いて……。


「で? ディセウム。今日アタシをここに呼んだのは、その話をする為なのかい?」


 国家元首が集まる会議に参加したばあちゃんの圧力に、ディスおじさん、エカテリーナ教皇、アーロン大統領の元弟子トリオが完全に圧倒された。


 三大大国の国家元首がばあちゃんの圧力に負けているさまを見て、周辺国の国家元首達もその空気に呑まれたという図式だ。


 今回行われた世界首脳会議には、俺とばあちゃんも呼ばれていた。


 先日の、騎士団の剣をバイブレーションソード化させるという件の為だ。


 実際に魔法の付与を行うのは俺だけど、ばあちゃんの意向を無視して事を起こすと、後々どんな恐ろしいことが起こるか分からない。


 なのでばあちゃんの承諾を得る為にこの場に呼んだのだが……。


「は、はい! 世界が滅亡の危機に晒されている今、この状況を打開できるのは、シン君のバイブレーションソードをおいて他にはないと考えます!」

「……」

「ど、どうか……お許しを頂けないでしょうか……」

「……」


 ディスおじさんの必死の説得を聞いても、ばあちゃんは睨むだけで何も言わない。


 その無言の圧力に、ディスおじさんは負けそうになるが、ここで引いてはこの世界の危機を打開できない。


 その想いで臨んでいるのだろう、普段全く頭の上がらないばあちゃんに対して、脂汗を流しながら対峙していた。


 しばらくそうしていたが、やがてばあちゃんの方から口を開いた。


「どうやら軽い気持ちで言っているんじゃ無さそうだね……シン」

「なに?」

「皆の剣に付与をしてやりな」

「良いの!? ばあちゃん!」

「ああ。構わないよ」

「……はあぁぁ……ありがとうございますメリダ師」


 ようやく出たばあちゃんの許しに、ディスおじさんは長い溜め息を吐いた後、感謝の言葉を述べた。


 そのディスおじさんの感謝の言葉を聞いて、各国国家元首達からもホッとしたような声が聞こえてきたのだが……。


「浮かれるんじゃないよ!」


 国家元首達をばあちゃんが一喝し、その剣幕に皆ビクリとし、再び緊張の表情になってしまった。。


 いや……ここにいるの、国家元首……。


 ばあちゃんは、何一喝してんの? そして王様達は、何を気圧されてんの?


 ある意味異常な光景だが、まだばあちゃんのターンは続く。


「話を聞く限り、確かに今回の事態を打開するには、このバイブレーションソードを各国騎士団に使わせるのが一番有効だし手っ取り早いだろう。だけどね……」


 そこで言葉を切ったばあちゃんは、皆をゆっくり見渡したあと言葉を続けた。


「アンタ達は、この武器がいかに強力でどれだけ危険な物か、ちゃんと理解しているのかい?」


 黙ってしまった国家元首達に、ばあちゃんはバイブレーションソードの危険性を話し始めた。


「この剣の効果はさっき見ただろう? この剣で物を切るときに力なんざ要らない。技術だって必要ない。これを持ったら……誰でも鉄が切れるんだよ」


 見本としてばあちゃんの前の机の上に置かれたバイブレーションソードを触りながら、ばあちゃんは言葉を続ける。


「この剣はね、手にした者なら誰でも……そう誰でも使えるんだよ。魔道具だからね」


 この会議に参加している国家元首達はバイブレーションソードの効果を知らないので、会議の初めにデモンストレーションをした。


 なのでバイブレーションソードの切れ味は皆が知っている。


 その扱いやすさも。


「しかも、特別な金属で作られた伝説の剣じゃない。そこらにある普通の剣が、この強力無比な剣に生まれ変わっちまうんだよ」


 しかも安価で大量生産が可能である。


「そんな武器が世に出回ってごらん。一体どういうことになるのか……想像出来るだろう?」


 ばあちゃんは、その危険性をずっと危惧していたんだろう。


 バイブレーションソードに関しては、本当に信頼できる人間以外に渡しちゃいけないと、散々釘を刺されていた。


 なので、今のところ同じアルティメット・マジシャンズのトニーと、マリアの親友で実際に面識もあるミランダにしかバイブレーションソードは渡していない。


 ディスおじさんとジークにーちゃんとクリスねーちゃんは身内だしな。


 安価で大量生産が出来、かつ簡単に使える強力な魔道具であるというばあちゃんの指摘に、安易に喜んだ国家元首達が項垂れ、言葉を無くす。


 いや、だから……国家元首……。


「気軽な考えでいると、必ず痛いしっぺ返しを食らうよ。そのこと、くれぐれも忘れるんじゃない」

『はい!』


 とうとう、全員で返事しちゃったよ、国家元首達……。


 まあ、ばあちゃんとしては、そんな危険性があったとしても、バイブレーションソードが魔人達との決戦の切り札になることは分かっているだろうから、最終的に反対するつもりはなかったんだと思う。


 ただ、安易な気持ちで取り扱うと後々問題になる可能性があるので、初めに釘を刺したかったんだろう。


 俺も、まさかこんなに大量に作って他人に使わせることになるとは夢にも思ってなかったから、そんな危険性については全く考えてこなかった。


 前々から危惧していたばあちゃんの指摘に皆が頷き、ようやく話しが進むと思われたその時……。

 

「しかし導師殿。そんな危険な物なら、なぜウォルフォード君が利用していることは咎められないのですか?」


 ばあちゃんに苦言を呈する者が現れた。


 誰だ、折角ばあちゃんが納得したというのに、水を差す奴は?


 あれは……。


「ああ、確か新しいダーム王だね」

「……ええ、そうですよ導師殿」


 先日、ダームからの使者がエカテリーナさんを刺してしまうという事件が起こった。


 幸いエカテリーナさんは一命を取り止め、魔法の実力は大したことなかった筈のダームの使者が魔人化しかけたことから、その使者の行動は魔人に操られたものと判断された。


 しかし、先日の魔人領攻略作戦以降の度重なる不祥事に、先代ダーム王は責任を取って王位を辞し、息子にその座を譲り渡した。


 新しいダーム王にとっては、国王になって初めての外交。


 それも、今まで行われていなかった世界首脳会議がデビューだ。


 立て続けに起こった不祥事で世界からの信用が失墜したダーム。


 前回までダームで行われていた首脳会議が、今回はアールスハイドで行われていることからも、世界での立ち位置が悪くなっているのが分かる。


 そんな状況もあり、なんとか自分達の立場を取り戻したい気持ちで一杯なんだろうけど……噛みつく相手を間違えてるよ。


「我々が所持し続けることは駄目で、孫であるウォルフォード君はいい。やはり英雄殿も孫が可愛いですか?」


 なんというチャレンジャー。


 ばあちゃんにそんな口を聞く奴がいるとは……。


 国家元首ですけども!


「はあ? 何を言ってるんだい、アンタは?」

「ア、アンタ……」

「シンには幼い頃から事の善悪については厳しく躾けてある。孫贔屓と言われるかもしれないけど、シンが悪さをしようだなんて考えるはずもないよ」

「ばあちゃん……」


 いつも厳しいばあちゃんだけど、そんなに俺のことを信頼してくれてたのか……。


「た、確かに、孫贔屓ですな」


 折角感動しているのに、ダーム王はまだ食い下がってくる。


「そもそも」

「なんですか?」

「バイブレーションソードはシンが独自に開発した物だよ? 自分が開発した物を持っていて何が悪いんさね?」

「ググッ……」

「それに……」


 自分が開発した物を自分で持っていて何が悪いというばあちゃんに、言い返せなくなったダーム王。


 そしてばあちゃんは、俺を見ながらさらに続けた。


「この子の本質からすれば、ただのよく切れる剣なんて、あっても無くても一緒だよ」


 ……あれ? さっきは感動していたのに、一気に落とされたような気が……。


 感動して浮かんでいた涙が急激に引っ込み、やっぱりそんな評価なのかいと思っていると、ディスおじさんが声をあげて笑いだした。


「ハッハッハ! 確かに、シン君がバイブレーションソードを持っていようがいまいが何も変わらんか!」


 ばあちゃんの失礼な言い分はディスおじさんのツボに入ったらしい。


 笑いが収まらない。


「な、何を呑気に笑っているのですか!? この剣を持っていようがいまいが同じ!? ということは、そこのシン=ウォルフォードは危険極まりない力を持っているということではないですか!」


 うん。ダーム王の言うことはもっともだ。


 だけど、それは言わない方が良かったかな?


 俺を危険視する発言をしたことで、この場にいる三人の雰囲気が変わってしまった。


「アンタ……救世の英雄に向かって、ようそんなこと言うたな?」

「成る程。ダームはシン君を危険視していると、そういうことか? 今まで、散々私達を救ってくれたシン君を」


 アーロン大統領もディスおじさんも、ばあちゃんの元弟子だ。


 その師匠の孫を危険視しているというのが気に入らないのだろう。


 睨むようにダーム王に話しかけた。


 二つの大国の国家元首に睨まれ、一瞬たじろいだダーム王だが、すぐに持ち直し言葉を返した。


「こ……これはこれは、大国と呼ばれるアールスハイド王とエルス大統領ともあろうお方が、この少年の危険性を感じていないとは驚きですな」


 まるで挑発するようにディスおじさんとアーロン大統領に食ってかかる。


 いや、アーロン大統領はともかく、ディスおじさんは十分知ってると思うよ?


 それでも俺を危険視していないのは、付き合いが長いから俺がそんなことしないと信じてるっていう、身内贔屓で間違いないだろう。


 けど、この二人にそんな口の聞き方をするのは、大国に喧嘩売ってると思われかねないよ?


 ああ、ホラ。ディスおじさんとアーロン大統領の雰囲気が剣呑な感じになってるよ。


「これはちょっと、ダームとの付き合い方を考え直した方がエエかもしれへんなあ」

「そのようだな」

「な!? 何を!?」


 いや、何を? じゃないよ。


 俺的には、ばあちゃんに頭の上がらない情けないおじさん達だけど、世間的に見たら三大大国の国家元首だよ?


 そんな人にそんな口を聞いたら、気分を害するに決まってるじゃん。


「あなた達は分かっていない! この強力な剣が霞むほどの力を持っているのですよ!? そんな力が我々に向いたらどうするのです!?」


 いっつも思うけど、権力者ってのは、なんで自分の味方の力を恐れるのかね?


 もしもの話で悪者にされたら、たまったもんじゃないよ。


 正直、ダーム王の言い分に腹が立ってきた頃、ある意味ダーム王にとって一番頭の上がらない人物が口を開いた。


「いい加減にしなさい」

「き、教皇倪下……」


 エカテリーナさんが発言したことで、ダーム王は一気に縮こまった。


「シン君は、私達イースが認定した神の御使いです。その御使い様が世界に災いをもたらすと、本気でそう思っているのですか?」

「そ、それは……」


 ダームもイースも創神教を篤く信仰する宗教国家で、イースの国家元首が創神教の教皇だ。


 ダームとイースには明確な上下関係が出来ている。


 その上位国の国家元首であり創神教の教皇に苦言を呈されれば、ダームとしてはもう何も言えなくなるんだろう。


 さっきまでの勢いはどこに行ってしまったのか、ダーム王は黙り込んでしまった。


「しかも、シン君は私の命を救ってくれた大恩人です。その恩人を、あなたは自分の思い込みで悪者にしようというのですか?」

「い、いえ! 決して思い込みなどでは……」

「それに」


 必死に言い訳しようとしているダーム王の言葉を遮ったエカテリーナさんは、とどめの一言を放った。


「私を刺したのは、貴方の国の人ですよ?」

「あ……そ、それは……」

「魔人に操られていたとはいえ、あなた方の国の人間がしでかしたことです。それを棚に上げてシン君を悪者にするとは……一体どういうつもりですか?」

「……そ、それは……あの者は魔人に操られていたのであって、我々の責任では……」

「本気でそんなことを言っているのですか? 貴方の国の内部が乱れ、魔人に付け入る隙を与えたと、そういうことでしょう?」

「くっ……」


 まさに、ぐうの音も出ないんだろう。


 俯き、顔を真っ赤にして歯を食いしばっている。


 ……ちょっと追い込み過ぎじゃない?


 一国の国家元首がこんな恥を掻かされて黙っていられるんだろうか?


 そんな危惧を抱きかけた時、仲裁の声がかかった。


「アンタ達、その辺にしな」


 この言い争いを見かねたのだろう。ばあちゃんがこのダーム王フルボッコの現場に割って入った。


「一対一の討論ならともかく、よってたかって一人を攻撃するのは感心しないねえ。まるでイジメじゃないかい」

「「「い、いえ! そんなことは!」」」


 三人の声がハモったよ。


 そんなにばあちゃんのことが怖いか?


 ……怖いな……。


「イ、イジメ……私がイジメられただと……」


 ダーム王の方も、自分がイジメられてると見られたことがショックなのだろう。


 さっきからブツブツ呟いてる。


 一国の王子として育てられてきて、今までイジメなんて遭ったこともないんだろう。


 そんな今までありえなかったことが自分の身に起きた。


 そのことが許せないのでは? だとすると、ダーム王の状態はちょっと危険なことに……。


「正直に言えば、シンの力は異常だよ。シンがちょっと野心を持てば、世界征服なんてあっという間にできちまう程にね」

「うおい! ばあちゃんはどっちの味方なの!?」


 ちょっと危険な感じがするダーム王のことを心配していると、ばあちゃんからまさかの裏切りにあった。


「話は最後までお聞き。だけどそれは、シンが力の使い方を間違えた場合だよ。さっきも言ったけど、アタシはシンを厳しく躾けた。今、その結果が出ているんじゃないのかい?」

 

 ばあちゃんは、ダーム王に向かって語りかけ、顔を上げたダーム王を真っ直ぐに見てこう言った。


「人類の危機に、自らの知識を提供することで。そして、自らが最前線に立つことでね」

「そ……それは……」

「ここにいる者の中にも、シンの力を危惧している者がいるかもしれない。けど、ここはアタシを信頼しちゃくれないかねえ。もし、シンが道を誤ったら、アタシとマーリンが命を懸けてシンを止めるよ」

「お、俺、そんなことしないよ!」

「分かってるさね。アタシ達はアンタのことを信用してる。だから命を懸けるなんて簡単に言えるのさ」

「ばあちゃん……」


 やべ……泣きそう……。


「どうだろう、アタシを信じてくれないかい?」


 泣きそうな俺を放っておいて、ダーム王に再度語りかけるばあちゃん。


 ダーム王はしばらくばあちゃんを睨み付けると。


「……フン」


 と言ってそっぽを向いた。


 正直、なんだよその態度と思ったが、ばあちゃんはそれでダーム王が矛を収めたと判断したらしい。


「ホレ、アンタ達もこれまでだ。さっさと話を進めるよ」

「「「は、はい!」」」


 相変わらず、ばあちゃんに従順な三人。


 この三人がばあちゃんに従順だったことで、その後の会議はスムーズに運んだ。


 バイブレーションソードを使うのに特別な技術はいらない。


 ただ、注意点等はある。


 それを、実際の利用者である、俺、トニー、ミランダの三人で教えることになった。


 トニーは、今回の決戦にバイブレーションソードを使うことが決まった時にその場にいたので大丈夫だけど、ミランダにはまだ言ってないんだよな。


 後で言っとかないと。


 スムーズに運んだ会議だったが、そんな中で気になることがあった。


 矛を収めたと思われたダーム王だったが、会議の途中『ああ』とか『了解した』とかの短い言葉しか発しなくなったのだ。


 これは……やっぱり心の底から納得はしてないんだろうなあ……。



 そんな若干の不安を残しつつ、一ヶ月後の魔人との決戦に向けた首脳会議は終了した。


 ちなみに……。


 爺さんは、魔導具のことに関しては戦力外なので家で留守番してた。








ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー










 シンがゲートを利用し、会議が終わった国家元首達を各国へと送り返した。


 その中にはダームの新しい王も含まれている。


 ダーム王国まで戻ってきたダーム王は、自室に戻ると近くにあったクズカゴを蹴り飛ばした。


「おのれ! 余がイジメられているだと!? 平民風情が導師などと呼ばれて調子に乗りおって!!」


 英雄と崇められ、導師として慕われているメリダだが、身分は平民。


 その平民に言い負かされ、庇われ、諭された。


 王族としてこれまでチヤホヤされてきたダーム王にとって、これ以上ない屈辱であった。


 それでも会議の場で抑えることができたのは、創神教の教皇であるエカテリーナが、メリダに恭順していたからである。


 エカテリーナが神子としての修行時代、当時から英雄であったメリダの師事を受けていたのは有名な話である。


 その旅に、後のエルス大統領となるアーロンや、当時すでにアールスハイドの王太子であったディセウムが含まれていることも。


「三つの大国のトップを手懐けて、世界を掌握したつもりか!? あの女狐め!!」


 ダーム王は、七ヶ国もの国家元首がいる中で、まるで自分が一番偉いかのように振舞っていたメリダがとにかく気に入らなかった。


 自室で鬱憤を晴らすように暴れ、荒い息を吐いていると、不意に扉がノックされた。


「誰だ!?」

「私です。カートゥーンです」

「……入れ」


 一瞬顔をしかめるが、すぐに取り繕い入室の許可を出し訪問者を招き入れる。


「失礼しま……わっ! なんですか!? これ」

「うるさい……で? なんの用だ?」

「え? ああ、はい。軍部を預かる責任者としては、会談の結果を一早く知る必要があると思いまして」


 ヘラヘラと薄い笑みを浮かべながら、入室してきた男はダーム王にそう答えた。


 その国王にするとは思えない態度に眉を顰めるダーム王。


 しかし、ダーム王はその態度については言及しなかった。


 この入室してきた男、名をヒイロ=カートゥーンといい、元々ダーム騎士団に所属する剣士だったのだが、ここ半年の間に急に魔法の才能に目覚めたのだ。


 剣の腕前は大したことはなかったカートゥーンだったが、そこに魔法の力が加わったため、瞬く間にダーム軍の戦力トップに躍り出た。


 先の魔人領攻略作戦の際に、軍のトップが精鋭を巻き込んで暴走し、著しい戦力低下を招いていたダームにとって、これは嬉しい出来事のはずであった。


 だが、このヒイロ=カートゥーンという男には、あまりいい評判が立っていなかった。


 その評判とは。


 曰く、自分のことを特別な存在だと思い込んでいる。


 曰く、時々突拍子も無いことを言いだしたりやりだしたりする。


 曰く、シンを異常なまでに敵視している。


 などである。


 国の中で最強の武力集団である軍を束ねる人物を選出する際には、それ相応の実力も当然必要だが、それ以上に人間性を重要視する必要がある。


 だが、今このダームにおいてカートゥーン以上の実力者はいない。


 カートゥーンと他にはかなり実力に開きが出来てしまっていることから、人間性に多少の問題はあっても、ダーム王は仕方なくこの男を軍部の司令長官に任命したのである。


「それで陛下。結局、どういう結果になったのです?」

「ああ、それがな……」


 個人の好き嫌いはともかく、軍部の責任者に任命したのは自分で、この会議の結果を伝えない訳にはいかない。


 ダーム王は、会議で決まったことをカートゥーンに伝えた。


「へえ……そんなに凄い武器があるんですか……」

「ああ。だが、我々には認めないその後の所持を孫には認めるという。おまけに教皇猊下まで味方に付けて……」


 会議での様子を思い出したのか、また不機嫌な顔になるダーム王。


「まあまあ、そのことは後でゆっくり話し合いましょう。それより……」


 カートゥーンは、さっきまでのヘラヘラした笑みを引っ込めて呟いた。


「ジェットブーツに続いて今度は凄い武器……」


 そう呟いたカートゥーンは。チッと舌打ちをした。


「その凄いチート武器……早く見たいもんですな……」


 会議の様子を思い出してイライラしていたダーム王は、カートゥーンがまた意味の分からない単語を呟いているなと、特に気にも止めなかった。



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